水着
機嫌をなおした団長に一から説明してもらい、生誕祭当日の全員の動きが決定した。
ユナイシアムルの王子については、団長に見張りを任せることに。ネズミになってまでストーカー行為に及ぶとんでもない男だ。
他国の王女の生誕祭でもなにかやらかすんじゃないかと、全員警戒はするが……チャトラで圧力をかけると言っていたし、多分なにもできないだろう。
「サシャ達はこのあたりだな。雑貨屋が多い場所だが、子どもがくることは少ないだろう。モモ、苦手だもんな?」
「そうなんです、すみません……ありがとうございます」
(脳筋にしては気がきくな)
聞こえてはいないが、たしなめておく。団長にそんなこと言っちゃいけません。
「ボスも優秀だし、大丈夫だとは思うが……なにかあればすぐに誰か寄越してくれ」
「わかりました」
飲食店がほぼない場所なので、みんなが集中できないこともないだろう。なぜだか食いしん坊ばかりだからなぁ。
生誕祭の飾り付けもはじまっているし、邪魔にならないようそそくさと宿へ戻る。
当日はウールデリヒの警備服を着なければならないのが、少しだけ楽しみだった。コスプレ気分なのは内緒だ。
「さて、各自確認もしたが……ぶっちゃけると、当日までやることが…ないっ!」
「だろうな」
「どうするんスか?別に、食べ歩きでもいいんスけど」
「やめてよ、太るじゃない」
それだ!と、ミアさんの言葉に反応する団長に首を傾げる。
「当日までは客人だからと、警備や祭りに関わることには参加できん。食べ歩きは魅力的だが…動かないと、すぐに脂肪になるだろう」
「………で?」
「明日から、午前は訓練!午後は食べ歩き!を、しよう!」
私もブーイングに参加したのは言うまでもない。
訓練は大事だとわかっているが、せっかく同盟国に来ているのだ。どうせやることがないなら観光したい。食べ歩きだけ、したい。汗は流したくない。
しかし団長はもう決定している、なんて聞く耳を持ってくれず。
「海があるからなぁ!初日はやっぱり泳ぐか!」
「げっ……」
「金は俺が出すから、今日はみんな水着を買ってこい。あ、遊び道具はダメだからな!」
またしてもブーイングだが、今度は参加できなかった。それどころじゃない。
なにを隠そう、私は……泳げないのだ。
いくら丁寧に、付きっきりで教えられようが、水に入ると体が思うように動かなくなる。浮かびもしない。
水泳教室に通ったこともあったが……二日でやめたっけなぁ…。
「もうっ……こうなったら、とびきり可愛い水着で気分だけでも上げるしかないわね…!行くわよサシャ!」
「ま、待ってくださいミアさん!」
可愛い水着でも、泳げないなら意味がないんだけれど。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「なんだ、そんなこと。私も最初は泳げなかったわよ?」
「絶対嘘だぁ…!」
「嘘ついてどーすんのよ」
喋りながらも水着を物色する彼女の手は、止まらない。
海に囲まれた国というだけあり、専門のショップがあって一安心したのは一瞬だった。
訓練というからには泳げなければ話にならない。一人だけそのへんでバチャバチャして、怒られないか…とても不安だった。
「大丈夫よぅ。きっと団長が泳げるようにしてくれるわ」
「……やっぱりみんな、泳げますよね」
「まぁねー。騎士団の訓練でもあったし」
これなんてどう?と、真っ赤なビキニを出してきたミアさんに首を振る。素敵だけど。絶対に似合うと思うけど、ジルコットさんに叱られそうだ。
「泳げない奴はたくさんいたわ。だからあんたも気にしなくていいのよ」
「その、泳げなかった人達って……?」
「みっちりしごかれて泳げるようになったわ。誰に、とは…言わないけど」
団長か。それとも、ジルコットさんか。どちらにせよかなり恐怖なんだが。
「ほらぁ、明日のことを今気にしても仕方ないじゃない!サシャも水着選びなさいよ!」
「……まぁ、そうなんですけど。あ、これどうですか?」
確かにミアさんの言う通りだと、パンツスタイルの水着を手に取った。デザインの幅広さは元の世界と変わらず、ちょっとだけウキウキする。
「ダメ、地味すぎる」
「だって訓練ですよ」
「訓練だろうと、プライベートだろうと!水着は、女の武装でしょうが!」
思わず数歩引いた私は、悪くないだろう。
「いーい、サシャ。どこに出会いが転がってるかわからないのよ」
「そ、それはそうですけど…!」
「私までとは言わないけど、それなりの水着にしときなさい。…あ、ほら。これなんて似合うんじゃない?」
「ミアさん、ビキニはやめましょう。ビキニは」
なんでよぅ、と頬を膨らますミアさんは可愛い。が、ビキニだけは阻止しなければ。団長は泳ぐと言っていたのだ、こんなの絶対怒られる。
しかしミアさんは買う気満々で、いくらダメ出ししてもビキニばかり持ってくるので諦めた。この人はいつでも本気だ。
「サシャもお揃いにしましょうよ!私、憧れてたのよねー。友達とお揃いの水着」
「いや…私には難易度が、」
「じゃあ、ほら。さっきのパンツタイプを上から着ていいから。ツルツルしたやつ」
倍のお金がかかると言えば、私が出すとまで詰め寄ってくる彼女に……
最終的に、折れてしまった。
だってミアさんの勢いすごいんだもん。買い物で豹変すると自己申告はされていたが、本当に別人だった。
まぁ、自分がいいと思ったものは買えたし。二重に着ることになるが、ミアさんがとても喜んでいたのでたまにはいいかと笑っておこう。
ボスには絶対に、見せてはいけないけれど。




