毛がなくても
卵を温めなきゃいけないが、両手は自由でいたい。かといってポケットに入れるわけにもいかず、私は困っていた。
「どうしましょ…」
「服にでも縫い付けたら?お腹のあたりとかあったかいんじゃない?」
「団服ですよ?しかもそれ、転んだらアウトですよね」
「……そうね」
一旦この話は保留にし、滞在中に泊まる宿を見上げた。
従魔連れでも泊まれるのだが、彼らは外の厩舎になる。モモの突撃の恐れがあるので、私は部屋には入らないことにした。
柔らかい布団はとても魅力的だが……布団が大好きだったモモの気持ちを考えると、私だけというわけにはいかない。
「許可はもらってきたが……一日くらい、中で寝たらどうだ?」
「モモと一緒がいいのでっ!」
「……そうだな。そういう奴だったよなぁ、サシャは」
呆れられたが、仕方がない。モモと一緒に寝ることだけは譲れないのだ。
しかしさすがに食事は中でとることになり、モモに理解を得てから久々にまともなご飯をいただく。予想通り魚が美味しくて、お腹が幸せだ。
「食べながらでいいから聞いてくれ。国王と会ってきたんだが……不審な人物の入国は、なくてな。この国は警備も厳しいし、不法入国も難しいだろう」
「来ていないってことっスか?」
「絶対に、とは言えないがな。魔法を使用した可能性もあるが……」
実は、厄介な時期に来てしまったようでな。
「五日後に、王女の生誕祭が開かれるそうだ」
「それは……おめでたいけど、確かに厄介ね…」
「?警備は強化されないんですか?」
されるが、それ以上に盛り上がる人々が問題なのだという。
「お祭り騒ぎ、ってな。特にこの国の王女は人気があるから、すごいだろうな」
「うむ…しかも、最悪なことに………ユナイシアムルの王子が、祝いで駆けつけるんだそうだ」
全員の動きが止まった。それは最悪すぎる。なんせ、あのストーカー王子だ。
国を出られて良かったねと言ってあげたいが、いろいろ考えると面倒で仕方がない。
「求婚話も継続中のようで、王も困っていたよ」
「………で?お人好しのお前が、聞くだけ聞いて終わりってことはないんだろ?……なにを引き受けた?」
ジルコットさんの冷ややかな視線に、私までドキッとしてしまう。なんで団長の隣に座ってしまったんだろう。
チラリと見上げれば、案の定冷や汗ダラダラだった。
「………王女の、警護を……」
「はぁっ?!おま……馬鹿か?!」
「ま、待て!それは俺だけだ!みんなは街の警備でっ」
「……しっかりしてくれよ、団長」
フォローできない内容に、ただご飯を食べることしかできない。うぅっ……美味しいはずなのに、味がしないよ…!
「っ……だって!引き受けないと、俺を王女の婚約者にするとか言うんだぞ?!」
「……なにが不満なんだよ」
「そーよ。良かったじゃない、相手が見つかって」
馬鹿野郎っ…!と、急に泣き出した団長に困惑する。え、私も良かったじゃんとか思っちゃったんだけど…。
「どれだけ年が離れてると思ってるんだ?!俺はカイルのようにはなりたくないっ!」
「あー……カイル、ね…」
「それに!俺は、恋愛結婚がしたいんだ!」
「いいんじゃないスか、後からでも恋はできるっスよ」
「っ………!お前らは!俺が団長じゃなくなっても、いいのか?!」
「あ、もっと泣いた」
言い過ぎですよ、とたしなめつつ団長の背をさする。うーん…実際脅しのようなものだし、今回は団長…悪くないんじゃないだろうか…?
「まぁ、引き受けちまったもんは仕方ねぇ。詳しく聞かせろ」
「あの…ジルコットさん、今はまだ無理かと…」
私に舌打ちしないでくださいよ。だって団長、下向いて撃沈しちゃってるし……どう見たって無理だろう。
「しゃあねーな。んじゃ、サシャの卵どうするか考えるか」
「首から籠とかぶら下げるのはどうですか?僕、トトが小さい時はそうやって一緒にいましたよ」
「それ、簡単に作れる?」
「うん!紐を頑丈にするか、ベルトがいいと思うよ」
オッドの案をいただくしか、良い方法はなさそうだ。いや…考えたら他にもあると思うんだけど、あまり悠長にもしてられないし。
それより早く警備の話を聞きたいんだが。
「にしても、なにが生まれるんスかね」
「楽しみな反面、怖いわよね」
「………サシャ。俺は前々から、お前に聞きたいことがあったんだが」
「はい?」
ジルコットさんにしては珍しく、机に身を乗り出し両肩を掴まれる。あまりの真剣さに、いったい何を聞かれるのかと身構えた。が。
「…お前さ。毛が、なくても………愛せるのか?」
一瞬、なんて言われたのか理解できなかった。
「……えーと?」
「いや、すまん。直球すぎたな」
彼曰く、体毛のない魔獣でも従魔にする気はあるのかということだった。なんだ、そういう意味か。すごく変な想像しちゃったよ。
「勿論、愛せますよ。みんな等しく可愛いので」
「うわぁ……サシャが輝いてみえるんスけど…!」
「…そうだよな。お前はブレない奴だったな」
変なこと聞いて悪かったと解放された直後、服をツンツン引っ張られる。
「もう少し……気にしてくれないか…」
数人の、めんどくさっ!…という声は、聞こえなかったことにした。思っても言わない方がいいこともある。




