びっくりたまご
「な、涙はずるいよっ…!」
(どうしても、なにかしたいんだそうだよ。女性の好意を無下にするのは私も心苦しいし…)
ダメだろうか、と悲しげな表情のボスに怯む。だって、お礼されるほどのことはしていないのだ。
「どうしたんだよ、姉ちゃん」
「いや……サイちゃんがね、お礼をって言うんだけど…私達なにもしてないし……」
「えっ!してくれただろ!無理矢理俺に付き合って来てくれたじゃんか!」
俺もお礼したい!と詰め寄ってこられ、ふいに涙が出そうになる。なんていい子なんだっ…!
口に手をあて堪えていれば、少年がサイちゃんからなにかを受け取った。そしてそれを笑顔で渡してくる。いや、ちょっと待って……
「卵は受け取れないよっ?!」
「サイちゃんがいいって言うから、いーんだよ!」
「うわっ?!ちょ……まだホカホカしてる…!」
強引に持たされ、どう扱えばいいのかわからない。ちょっと柔らかくて弾力がある気がする。
「サイミュリアは、相手がいれば年に数回産卵するんだ。それに全部赤ちゃんになるわけじゃないから…姉ちゃんに持っててほしいんじゃないかな」
(どの魔獣にとっても、卵というのは栄養豊富で魅力的だからね。狙われるのさ。だから、彼女がいいと言うなら、いいんじゃないかい?)
「うっ……そんな、簡単に言われても…だいたい卵を孵化させたこともないし……」
ゴニョゴニョ言っていればボスがサイちゃんから話を聞いたらしく、笑顔でグッと親指をたててきた。
(柔らかい布で包んで、人肌で温めれば良いそうだよ。はやければ数週間で孵るらしい)
「なんでボスはそんな乗り気なの?」
今は卵だが、間違いなく命が詰まってる。それにどんな魔獣かわからないというし…
私が知っている本来のウミガメの産卵といろいろ違ったことから、余計魔獣部分が強調され、こわい。鮫とか出てきたらどうするんだ、育てられないよ。
(レディ……生命の誕生は、神秘だと…そう思わないかい?)
「………思うけど」
(しかも、卵からだなんて。長く生きているけれど、卵から誕生する瞬間は見たことがないんだ)
「つまり、見てみたいってこと?」
(それもあるけれど……やはり一番は、一度女性から受け取ったプレゼントを返すのは失礼にあたるだろう?傷つけてしまうかも)
生き物をプレゼントとは言えないだろう。
「そこまで言われたら、私も返しづらいし……サイちゃん、本当にいいの?」
片手をあげた彼女を撫でれば、モモのように目を細めたのでキュンとし……あ、モモはもう元気になっただろうか。団長も戻ってきているかもしれない。
なんだか離れがたいが、サイちゃんと少年に別れを告げさっきまでいた場所へと戻る。
予想通り戻っていた団長に焦ったが、私の手にある卵を見てよくやった!と満面の笑みで肩を叩かれた。ちょ、卵落ちる!
「偉いぞサシャ!人助けした上、サイミュリアの卵まで貰ってくるなんてな!」
「見ただけでわかるんですか?」
「ん?そりゃ、ここらじゃ有名だからなぁ。タイミングが良ければ売ってたりもするぞ。高額だが」
思わず卵を見つめてしまった。高いんだね、お前……
「私は初めて見たわぁ。小さいのね」
「持ってみます?」
「それはいいわ。ほら、サシャ。温めてあげなきゃいけないんじゃないの?」
指摘され、慌てて綺麗なタオルで卵を包む。そして気づいた。
「私…ずっと卵持ってなきゃダメなんでしょうか…?!」
「そうだなぁ……まっ、それはあとで考えよう。手が塞がるのはまずいしな。みんな体調は大丈夫か?」
従魔達は歩けるまでに回復したようで、宿へと移動をはじめる。モモはまだ尻尾に元気がなく、耳も垂れていた。三羽はそんなモモの背で転がっている。
「頑張ってね、モモ。お部屋ついたらずっと寝てていいからね」
(……楓もいるなら、寝る)
「モモっ……!」
私をキュンキュンさせる天才の体に抱きつけば、歩きづらいと怒られた。そうですよね、調子に乗ってすみません。
肩を落とし、なんとなく寂しくなって卵を撫でればジルコットさんが寄ってきた。
「こいつの父親はどいつか聞いたのか?」
「それが、聞き忘れちゃいました。…やっぱり、サイミュリアの話は有名なんですか?」
「そりゃな。なんせ、発情期がきても相手が見つからない魔獣が、こぞって海を渡るんだ。サイミュリアに会いに、な」
「え……」
「ウールデリヒ周辺にしかいない魔獣だし、わざわざそれを見にくる観光客もいるくらいだ」
まず、ウミガメすごい…と思った。
そして、この卵こわい………と、思った。
本当に、なにが生まれてくるかわからないじゃないか。鶏かもしれないし、猫かもしれない。私に面倒みきれるのか。
「……でも、ほら。この子の親はまだ決まってませんし、みんなで…」
「いや、お前だろ」
「そっスね。いやー、また仲間が増えるなんて!調子いいんじゃないスか、俺達!」
「そうだなぁ!報告できたら陛下も喜ぶだろうなぁ!」
「…えっ?」
みんなの様子が、おかしい。なぜ誰も……目を合わせて、くれない…?!
「ちょっとミアさん」
「っ…やーよ!ハルマンガングが出てきたことあんのよ?!チョロスケ以外は無理!」
あ、チョロスケが照れてクネクネしてる…じゃなくて!
「なんでですか?!みんなひどくないですか?!」
「いやぁ……貰った奴の責任、だろ?」
「その卵も、サシャが親の方が嬉しいはずだ!…うん!」
「何が生まれるかわからないのはちょっと…こわいよね…」
オッドにまで拒否され、私は自分が育てるしかないのだと悟った。そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。
(仕方ないのさ。過去に、生まれたばかりのベイビーに襲われたという話もあって…)
「嘘でしょ」
(本当だよ。なんの魔獣だったか…)
そんな話を聞いたら、私も遠慮したくなってくる。しかし卵はこの手にあるし……返しに行くわけにもいかない。
こうなったら、精一杯の愛情をこめて温めてみよう。心配も杞憂で終わるかもしれないしね。
「…元気に生まれてくれたら、いっか」
不安は伝わるというし、私も明るく過ごさなきゃいけないなぁ。




