ウールデリヒ
やっと全員、地獄から解放された。
外観を見る余裕もなく上陸し、少々残念な気もするが仕方がない。帰りにでもまた見られるだろう。
「俺は国王に挨拶しに行ってくる。ジルコット、みんなを頼むな」
「できれば急いでくれ」
おう!と、すっ飛んでいった団長に、まわりの人々が驚いていた。とっても申し訳ないです。私達は慣れちゃったから…。
まだ具合が悪そうな従魔達を道の端に寄せ、街を観察してみる。
住民はやはり大人から子どもまで色黒で、活気が良い。漁師のような格好の人もいて、露店にも海産物がたくさん並んでいた。
白い壁は、貝殻だろうか。太陽が反射するとキラキラ輝いている。
「海の匂いって、いいですよね」
「だな。お、見ろよサシャ。アレ美味そうじゃないか」
「どれですか……あっ、ほんとだ!」
(おい…食い物の話はやめてくれ……)
ごめんと謝れば、辛そうに目を閉じ伏せるモモ。可哀想に……どうやったら治るかな。従魔用の薬とか、あるのだろうか。
探しにいく許可をとろうとジルコットさんを振り返ったところで、誰かに袖を引っ張られる。
……現地の、子ども?
「どうしたのかな?」
私達が怪しかったのか、それとも困りごとか。わからないので優しく話しかけてみれば、男の子は泣きそうになった。
「えぇっ?!急にどうし、」
「姉ちゃん、魔獣と話せるんだよな?!今喋ってたよな?!」
やばい、と思うも男の子の口は止まらなかった。
「頼む…!サイちゃんを……助けてくれっ!」
「さ、サイちゃん…?」
「さっき急に具合悪そうになって……目も閉じちゃったし、動かないんだ…」
魔獣と喋れるなら、サイちゃんとも喋れるよな?!と、グイグイ腕を引かれる。そんな無茶苦茶な。大体サイちゃんって、魔獣なのか。
「坊主。場所は遠いのか?」
「ううん!すぐそこの浜辺だよ!」
「…そうか。ならサシャ、ちょっと行ってこい」
「えぇ?!私お医者さんじゃ、」
「それでも、だ。見ちまった以上こいつはきっとお前のことを諦めないし、付き纏われても困る。それに団長がいたら必ず首をつっこむ」
それに関しては、なにも言えない。
「喋れれば解決もはやいだろ。どんな魔獣かは知らんが…」
「……うーん…ジルコットさんがそう言うなら、わかりました。ボス連れてきますね。モモと雛達は、」
「安心して!僕がララとそばにいるよ!」
(さっさと行ってあげなさいよ)
話を聞いていたらしいオッドとララにみんなを任せ、こうなったら仕方がないと男の子に案内を頼む。変な病気とかじゃないといいんだけど……
彼が言った通り現場は近く、砂に足をとられながらもなんとかサイちゃんのもとへ辿り着く。こ、この子は……!
(サイミュリアじゃないか。珍しいね)
「サイミュリア……」
そうか、だからサイちゃん。
見た目はただのウミガメだが、確かになにかに耐えるようにぎゅっと目を閉じ、動かない。どこか痛いのかな。
「君の従魔なの?」
「違うけど……でもっ、サイちゃんは友達なんだ!」
助かるかな、と不安そうにボスと私を見てくる。
「まだ何も聞けてないから、なんとも……ボス、どう?」
(……大変だよ、レディ)
ボスが大変と言うからには本当にそうなのだろうと、身構えた。なにか病気にかかっているか、見えない場所でも怪我しているのか。
……しかし…
予想は、外れた。
(彼女……妊娠、しているんだ…!)
「にっ……………え?」
それは、間違いなく大変だ。
(どうやらもうすぐ産まれるようだ。苦しいと、)
「……あ!お、お姉ちゃん…!サイちゃんが泣いてるよ!」
「ちょっ…!み、みんなあんまり凝視しないであげて!」
泣いているように見えるが、涙ではないことは有名な話だ。けれど胸が切なくなるのは事実で。
男の子と手を繋ぎ、頑張るサイちゃんから視線を外す。
絶賛、出産中のサイちゃん。見られていると集中できないだろうからと、心の中で応援する。
「サイちゃん、どうしちゃったんだ…?」
「大丈夫だよ。あのね、サイちゃんはお母さんになるんだって」
「えぇっ?!そうだったのか?!どの魔獣が父親なんだろう…!」
「…?同じサイミュリアでしょ?」
違うよ、と首を振られる。
「サイミュリアはすごいんだ。違う種族とでも結婚できるんだよ!」
(そのボーイの言う通り、特殊なのさ。誰と結ばれたのか、ベイビーが誕生するまでわからなくてね)
「そうなんだ……!」
なかなかすごい話を聞いてしまった。特殊にも程があると思うのだが、こんな小さな男の子も知っているくらいだ。きっと有名なんだろうな。
また一つ、知識を増やせたのは嬉しいが……サイちゃんは大丈夫だろうか。
(…よし。レディ、終わったと言っているよ)
「!もういいの?!」
「さっ、サイちゃーん!!」
抱きつく男の子を優しく見た後、バッチリと目が合い会釈されたのでこちらも返す。まさかカメとペコペコし合う日がくるとは……
(友達が迷惑をかけたから、お礼がしたいと言っているけれど…)
「そんなのいらないよ。なにかもらったら私が怒られちゃう」
そう言ってもカメは私から目を逸らさず、それどころかまた……ポロリと、涙をこぼした。
な、なんだか罪悪感が……!




