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愛犬がいればなんでもできる!…気がする!  作者: にゃんころもち
第三章
81/100

正体


「騒がせてすまなかったな」



少し薄汚れたアイーダさんが戻ったので、すぐに怪我を確認する。どうやら小さな傷一つないようでホッと一安心………したのも束の間。


彼女の手にある小さな袋が突如ボコボコと激しく動き出し、咄嗟に団長を盾にしてしまった。いや、なんか…何がきても平気そうだなって…。



「なんだそれ?」


「これか?ゴミだ」



余計動く袋にミアさんやオッドも引いていた。いったいなにを捕まえてきたの、アイーダさん…!



「ゴミは言いすぎたか。なに、不法侵入者を捕らえたにすぎん」


「不法侵入……者?人なのか?」



あぁ、とうんざりした表情のアイーダさんだが、私達はギョッとし目をひん剥く。そんな小さな袋に、人って……魔法を使ったって無理だろう。まさか詰め込んだわけじゃあるまいし。


……え、…違う…よね…?!


団長の背にしがみつきガタガタ震えていれば、袋がひっくり返される。


中からポロリと出てきた塊を素早くつまみ、彼女はニヤリと笑って……あり得ないことを、言い出した。



「さて、なにか言い残すことはあるかな………オウジサマ」


「………なに?」



団長の絞り出すような声を、初めて聞いた。


勿論私も声なんて出ない。絶句である。


アイーダさんがつまんでいるのは、一匹のネズミだ。それが…王子だって?なにかの冗談だろう。



「くっ……このような屈辱…!許さんぞ、アイーダ!!」


「うーわっ……」



ネズミが、喋った。


モモやボスのような喋り方ではなく、普通に人の声だ。違和感を感じるしなんだか気持ち悪くて、ついドン引きしてしまった。ていうか冗談だと思ってたよ…。



「それはこちらの台詞だ。変体までするとは…私はどこで育て方を間違ってしまったのか……」


「…育て方?」


「あぁ、王宮で剣の指南役をしていてな。他にも常識など、こまめに教えてきたはずだったんだが」



彼女の言葉にモモが納得したと頷いた。



(人がネズミに変体していたのか。どうりでどっちの気配もすると…)


(私は最初からわかっていたよ。なんせ一度この身に受けた魔法だからね)



ネズミに興味津々な雛達を慌てて止めれば、ネズミ…いや、王子が怯えだした。心なしか声も震えている気がする。



「アイーダよ……まさか、俺様をこいつらに食わせようなどと、」


「それも良いな」


「ひぃっ?!」


「……が。その前に、人の屋敷にネズミになってまで侵入し…何をしようとしていたのか。白状してもらおうじゃないか」



アイーダさんが雛達の前で王子をプラプラさせるので、やめてくださいと止めにかかる。間違って突っついてしまったらどうするんだ。



「おいサシャ。ミアもだが…あまり近付くなよ。ネズミの姿とはいえ目が合うと、」


「それは安心していいぞ。人の姿じゃない限りは大丈夫だと実証済みだ」


「…そんなことってあるんですか?」



あったのだから仕方あるまいと言う彼女に、それもそうかと納得する。まぁ、悪いことではない。人の姿じゃなければというところが、少し可哀想だが。


相変わらず揺らされている王子はどうにもならないと判断したのか、観念したようだ。ボソボソと小さな声で喋りだしたので、聞き逃さないように集中する。



「……だって、ずるいじゃないか」


「なにがだ?」


「俺様だって………旅に、出てみたい」



ちょっと切ない気持ちになった。王族だもんなぁ…そう気軽には、自国を出られないだろう。ましてや旅なんて許されるはずもない。



「まさか、こっそり着いて行こうと…?」


「バレなかったらな。こうして失敗に終わったわけだが」


「バレるに決まっているだろう、優秀な従魔がこれだけいるんだ」



王子がフン、と鼻を鳴らす。



「ルルガドルルさえなんとかできたらと思っていたが、予想外だったのだ」


(こいつバカなのか?)


「あ、こらモモ。思っても言っちゃだめだよ」



ジロリと睨まれ、再び団長を盾にしてしまう。いや…目付きが悪いネズミって意外と怖いんだよ。噛みつかれそう。



「あと貴様だ。俺様の誘いを断った無礼な女の顔を、じっくりと見てやろうと思ってな」


(じっくり見る必要なんてないじゃないか。レディ、やはり頭を握り潰していいかい?今ならささっと)


「だっ、だめだめ!ボスは握力自覚して!」


(なら俺が噛みちぎるか。今ならさくっと)


「それもだめだよ!なんか変な菌持ってそうだし!」


「おい貴様ァ!従魔の言葉はわからんが、あきらかに俺様を馬鹿にしているな?!」



暴れる王子だが雛達がずっと狙っているので、すぐに大人しくなる。どうせ届かないので止めるのはやめたのだ。アイーダさんも何も言わないし。



「馬鹿にされるようなことをしたんだ、仕方がないだろう」


「ぐぅっ…!」


「お前達も、悪かったな。そして助かった。危うくまた兵士総出で探すはめに…」


「まぁ…なんだ。事前に捕獲できて良かったじゃないか」



本当にな、とアイーダさんは再びネズミ…王子を、袋に入れた。疲れたのか、諦めたのか…わからないけれど、今度は大人しくしている。


そのまま王宮へ持って行くという彼女が屋敷から出るのをみんなで見送り、すぐに誰かが盛大に溜め息をつく。あ、つられて私もしちゃった…!



「とんでもない……王子様だったな」


「いろいろとな。ありゃこの国の奴等も苦労する」


「でもでもっ、先に見つけられて良かったですよね!王子だってわからなかったら、きっとトトがオモチャに…」


「その前にカトリーヌが狩ってるわよ」


「サシャも大変だったっスね。まぁ、モモと…特にボスの威嚇が半端なかったっスから、平気だったかもっスけど」


「あはは……ボスが何度も頭を握り潰すって言ってて、止めるのが大変でしたよ」



私の何気ない一言に、全員が青ざめた。


いや本当…実行されなくて、良かったよ。骨も残らなかったかもしれない。


ゴリラの握力を、ナメてはいけないのだ。


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