妙な気配
「で、書かれている内容についてはわかったわけだが……どういう意味なんだ?」
「いや、まんまだろ。バカでアホで……泥棒、か?」
「……誰がだ?」
みんなの視線が突き刺さり、いたたまれない。そうですね、私ですね。
女と指定されており、尚且つ私だけがわかる文字で書かれている。ミアさんなわけがなかった。
「相手のことは知ってるんスか?」
「いいえ、全く。この件で存在を知ったくらいなので…」
「じゃあ、サシャは何もしていないのに…こんなひどいことを言われてるってこと?」
頷けば、全員が首を傾げた。
「泥棒…も、意味がわからないんですよね。身に覚えがなくって」
「そうよねぇ。そもそもこいつ、うちの国の奴じゃないでしょ?何をどう盗めばいいのよ」
「なんか、アレだな。幼稚な嫌がらせって感じだな」
確かに、そんな感じがしないでもない。なぜ私にしてくるのか、わからないけれど。
「だがやってることは面倒くせぇぞ。ユナイシアムルで何もできなかった分、ウールデリヒでやらかすかもしれん」
「早めに向かった方が良さそうだな。…もしかして、伝達魔法が使えないのも…?」
可能性はある、とジルコットさんが私を見る。
「まぁ、本当にサシャに向けたメッセージなのかわからねぇし…鉱石を悪用するのも、嫌がらせとは別件な気がする」
「そうだな。国が気になるが、こうなったらさっさと捕まえて戻ればいいだけだ!明日にはユナイシアムルを出るぞ!」
全員が頷き、広げていた荷物をまとめだす。仕事で来ているから仕方がないけれど、観光できなかったのはやっぱりちょっと残念だ。いつかゆっくり来れたらいいな。
そのへんでコロコロ転がって遊んでいた雛達に、危ないからやめなさいと注意していれば屋敷の主人であるアイーダさんが帰宅する。
すぐに団長が事情を説明すれば、彼女にしては珍しく悲しげな表情をした。
「そうか…もう行ってしまうのか。仕方がないが、寂しいな」
「世話になったな。それにしても、お前一人じゃこの家は広すぎないか?」
もっと小さな家で良いだろうと言う団長に、何を言っているんだと肩を小突く。
「お前……まさか、屋敷の一つも持っていないのか?」
「いらないからなぁ。宿舎暮らしだし」
「いや、普段は私もそうだ。こうして客人が来た時に使用したり、部下を招いて慰労会を催したり……いろいろできるだろう?便利だぞ?」
「確かにそうかもしれんが、すごく高いじゃないか」
「お前の給料で買えんわけがあるまい。男ならケチケチするな」
「別にケチってるわけじゃないんだがなぁ」
なんだかんだいってこの二人は仲が良く、会話も楽しそうだ。つい緩んでしまう頬をグニグニ揉んでいれば、急にモモが唸り出しついビクッとしてしまった。
「え、どうしたのモモ?」
(なにか………いる)
その一言に鳥肌がたつ。だって、モモが見ているのは天井の隅。私の目には……なにも、見えない。
「ちょ……怖いこと言わないでよっ…!」
「どうしたんだ?サシャ」
「アイーダさん!モモがっ……なにもないのに、なにかいるって言うんですぅぅう!」
近寄ってきてくれた彼女の背に隠れれば、なぜかボスもピッタリと寄り添ってくる。雛達も私の足をよじ登り、しがみついてきたので支えてあげた。
「ふむ……なんの気配を感じる?」
(わからん。妙な気配だ。人のような、動物のような…)
モモの言葉を告げれば、みんなも天井を見上げだす。だから気配なんてわからないんだってば。
そうして数分たった頃、ちょっと待ってろ、とアイーダさんが広間を出て行ってしまった。そしてすぐにドタバタと物音が響く。え、もしや戦ってる…?!
「こ、こわぁ…!」
(怯えるレディも愛らしいね。さぁ、もっと私に抱きついても)
(やめろ。楓が汚れる)
唸るのをやめたモモが鼻でボスを押し退け、綺麗なおすわりで誘惑してきた。それに勝てず抱きつけば雛達ごとふわふわに埋もれ、一瞬で癒される。
後ろから聞こえた舌打ちは、聞かなかったことにしよう。
(こわいね)
(こわいね…!)
(なにがいるの…?)
(ベイビーちゃん達、大丈夫だよ。そんなに怖がらなくても、アレは…)
「アレとか言わないで…!」
「ちょ、ちょっとサシャ…!私も混ぜて!」
「ぼ、僕もっ!」
ミアさんとオッドまで加わり、モモが嫌がるかなと思ったのだが…意外にも満更ではない様子で、ボスにドヤ顔していた。
やめなさい性格悪そうに見えるから。そしてボスも舌打ちしないで、雛達が怖がるから。
上ではまだ物音がしており、アイーダさんが何をしているのかとても気になる。協力はできないけど…応援ならっ…!
「なんだお前ら、情けないな」
「なによジルコット…余裕ぶっちゃって!ムカつくわね!」
「まぁまぁ、落ち着けミア。喧嘩になるぞー」
「そっスよ。大体、ほら…雛は別として、従魔は落ち着いてるじゃないっスか」
言われてみれば、確かに。モモだって唸りはしたが、今はスンとしておりいつも通りだ。
余計に気配の正体がわからなくなったところで、ついに物音がやむ。
え……アイーダさん、どうなっちゃったの…?!




