目隠し
人の来なさそうな路地で三人と合流したのだが、やはりというべきかすぐにストーカー王子に気付いた。わからなかったのは私だけで、なんだか情けなくなってくる。
(成長する見込みがあるってことさ)
「ポジティブに言えばそうだけど…」
ミアさん曰く、気配を隠す気がないのかと聞きたいくらいバレバレらしい。ただ、ボス程正確に場所はわからないとのこと。
私もいつか、気配くらいは感じ取れるようになりたいものだ。どうやって鍛えたら良いのか全くわからないけれど。
「それで、収穫はあったか?」
「あぁ、メモを見つけたぞ。そっちはどうだった?」
「同じくメモっス。内容照らし合わせないとっスね」
みんな王子は無視する方向らしく、私もボスに任せもう一枚の紙を覗き込む。
今度は………泥棒?え、なんのこと?
「メモに残すってことは、やっぱりこれは文字なのか?読めんが」
「記号に見えなくもないがな。だが、何か意味があるはずだ」
「王宮と連絡取った方がいいんじゃない?私達じゃわからないままよ」
わからないままでいた方が良い内容だが、放っておくとどんどん大変なことになっていく気がする。みんなが振り回される様子をただ眺めているのも……申し訳なさすぎて。
こうなったら、嫌われるのを覚悟で全て言うしか…
そう考えた時だった。
「いっ…痛っ?!痛い痛い!こ、これ以上の無礼は許さんぞ!離せぇっ!」
(レディ…もう、地の果てまで投げてしまってもいいかい?それか、この空っぽの頭を握り潰す許可を)
「わーっ?!ちょ、ちょっと待ってボス!」
見えないが、どうなっているのか大体想像できてしまった。絶対ボスは頭を掴んでる。…他国の、王子の。
さすがにそれはやりすぎだとボスにタックルすれば、ふわっと優しく抱きしめられた。違うんだけど……いいや、もう。王子に手出ししないなら。
そしてついに隠蔽魔法が解かれたらしく、その姿があらわになる。尻もちをついてはいるが…
キラキラと輝く銀色の髪に、程よく鍛えられた体。ラフな服装だが安っぽいわけではなく、つけているアクセサリーは高そうだ。
こうなると顔が気になるところなのだが…
素早く動いた団長が、手ぬぐいで王子に目隠しをして満足気に頷いた。よし!とか言ってるけど…王子にそれは、いいの…?散々ボスがやらかしているし、今更だろうか?
「おっ、誰だ?気がきくな。目隠しがないと落ち着かないのだ」
……ツッコミたいのを、必死で堪える。目が合うと異性を魅了するというし、もしや普段から目隠し生活をしているのだろうか。
なんか、つくづく変わった国だなぁ……ユナイシアムル。
「誰かは聞かんが、いい加減ついてくる理由を教えてもらえないか?」
「ふん、俺様の身分を明かせばそんな口…すぐにきけなく、」
「身分には興味がない。というか、言わないでくれ。頼むから」
「しっ…知りたくないのか?!気になるだろう?!」
「いいや全く」
言いたい王子と聞きたくない団長の攻防がしばらく続き、先に折れたのは王子だった。
しかし私達もそう時間があるわけではない。王宮に連絡しなければいけないし、私も自分のことを話すか決断しなければ。
と、いうわけで。
「団長、構っている暇もないですし、あとはアイーダさんに任せませんか?」
「そうだなぁ…」
「なっ?!失礼な奴らめ…!俺様をなんだとっ、」
まだ喋っている王子を横目に、団長が人差し指を口にあて手招きしている。これは…見えていないのをいいことに、この場から離脱しようとしているのだろうか?
(レディ、舌を噛まないように気をつけるんだよ)
ささっとボスに抱えられ、静かに移動する団長達に続く。そのままアイーダさんの屋敷まで来てしまったが…目隠ししたまま放置しちゃって大丈夫かな…?
「ふぅ、やっといなくなったな。最初からこうしていれば良かった」
「一国の王子だ、仕方ねーよ。んで?伝達魔法は使えんのか?」
「あっ!やってみます!」
王子のことは考えていても仕方がないので、一旦置いておく。なんなら自分でどうにかできるだろう、両手両足は自由なんだし。
対象となるフラン団長を思い浮かべ、少しずつ魔力を放出していく。
「フラン団長、聞こえますか?」
「………失敗、かしら?」
(いや、正しく発動できているよ。向こうの調子が悪いんじゃないかい?)
ボスの言葉を代弁すると、夜にもう一度試すことになり。
どうせ私達じゃメモの解読はできないからと、早めにアイーダさんにクレームを入れることになった。しつこかったし、また来そうだもんなぁ…ストーカー王子。
「緊急だというから仕事を放り投げてきたのだが…いや、なに。感謝と謝罪をせねばならんな」
「謝罪はわかるっスけど、なにに感謝してるんスか?」
彼女が言うには、今朝早くから王子が城を脱走し行方不明だったそうだ。隠蔽魔法を使えることは誰も知らず、こっそり大捜索が行われていたらしい。
「まさか自ら、サシャに会いに行くとは……」
「ルルガドルルの機嫌を損ねてな、何発か入れてるんだが……勿論、お咎めナシだよな?立派なストーカーだろ?」
「うむ。咎めはしないが、他言しないことが条件だ。それならば上も納得するだろう」
頷いた団長を見て、ホッと息を吐く。大事にならなくて本当に良かった。なにか言われたら、悪いのはうちのボスになってしまう。
彼は私を守ってくれていただけなので、全力で庇うつもりだった。戦闘で役に立てない分、それくらいはと思っていたのだ。
「良かったね、ボス。なにも言われなかったよ」
(そうだね。もしこちらが不利になるようだったら、群れを呼ばなければと思っていたから…この国は命拾いしたね)
思わず自分で自分を抱きしめた。あの、過剰に強化され強くなった群れを……呼ぼうとしていた?ここに?
アイーダさんのおかげでどれくらいの人が命拾いしたのか。考えただけで、恐ろしかった。




