ストーカー?
何件鍛冶屋を訪問しただろうか。
ふいに団長が、深刻な表情で呟いた。
「……参った。ついてきてるなぁ」
「え?なにがです?」
気付いていなかったのかい?とボスに言われるも、さっぱり話がみえないのだが…。
「アイーダの屋敷を出て、街へ入る少し前くらいからだな。誰かがずっと後をついてきてるんだ」
「………知らなかったです」
(無理もないさ。隠蔽魔法を使っているからね。ただし、私にはバレバレだけれど)
ほら、あそこの木箱の後ろにいるよ。
そう教えてもらっても、気配なんて感じ取れないので全くわからない。ボスはともかく、団長はよく気付いたなぁ…。
「誰でしょうか?」
「うーむ……わからんが、探している男ではないだろうな。大胆すぎる」
(レディのストーカーかな)
「いやぁ、団長のストーカーかも…」
「なに?ちょっと行って、」
「軽率な発言を許してください」
嬉しそうな団長には悪いが、そういう目的ではないだろう。肉食系が多い竜人族だ、わざわざそんな回りくどい真似はしない…と、思いたい。
「用があるのか聞きたいところだが……実害はないしな。放っておくか」
「いいんですか?」
「なにかあれば、俺より先にボスが動くだろ。なっ?」
(勿論さ。レディに近づこうものなら、すぐにその足………へし折るまで)
(しゅらもおみずぴゅーってする!)
グッと親指を立てたボスに満足した団長が、聞き込みを再開していく。気にはなるが…変に刺激するのもよくないだろうし、私もこっちに集中しよう。後ろはボスに任せた。
しかしその数分後。
背後で鈍い音がし慌てて振り返れば、ボスが優雅にクルクルと回っていた。ど、どんな状況…?!
「ボス?今の音って…」
(レディは気にしないでおくれ。なに、ちょっと虫がいただけさ)
(あのね、はんさむがすとーかーをけったの!)
シュラにシーっ!なんてやっているボスを見る。蹴ったということは……接近、してた?
(野蛮なことをしてすまない…)
「いや、いいんだよ。ありがとうボス」
(お詫びといってはなんだが、誰かはわかったよ。竜人族だね)
ボス曰く、魔力はとても多かったとのこと。加えてボスに蹴られてもまだストーカー行為をしているので、体も頑丈だろう、と。それは……竜人族だろう。
すぐに団長に伝えはしたが、結局放っておくことに変わりはなかった。面倒くさそうだもんね。
その後も懲りずに近付いてくるストーカーを、ボスが何度も撃退していく。ここまでしつこいと……結構、気持ち悪い。痛い目にもあっているのに。
「サシャ、次で最後だ。聞き終わったら一度みんなと合流するぞ」
「わかりました」
鍛冶屋のおじさんに話しかける団長を見守る。するとようやく、手がかりを掴むことができた。
団長の手には折り畳まれた一枚の紙がある。
「自分を探す奴が来たら渡してくれと、預かっていたそうだ」
「私達が来るの、わかってたってことですか?」
「俺達じゃなくても…追われる自覚があるんだろうな。他にも何かやらかしているのかもしれん」
また後ろでボスが見えない何かにパンチを入れたが無視し、団長が開いた紙を覗き込む。
そこにはまた日本語が書いてあったのだが、その内容にこっそり拳を握りしめた。
「なんだ、またこれか。うーん……わからん!」
「そうですね。困りましたね」
アホ女…と、書かれているなんて………言えない。
しかしこれでハッキリした。こいつの狙いは、私である。なんの用があるのか知らないが、バカに続きアホときた。女と断定もされているし…
随分と低俗な嫌がらせをしてくるじゃないか。喧嘩は売られても買いたくないが、一発くらいは殴っても許されるだろう。
根気強く鍛冶屋をまわったのが無駄になったわけだが、それを知るのは私のみ。とりあえず紙を持ち三人と合流することにしたのだが…
「このままというわけにもいかんな。ボス、連れてこれるか?」
(あまり触りたくないが……仕方ないね)
とても嫌そうなボスが素早く移動し、なにかを掴んで戻ってくる。相変わらず姿は見えないが、引きずった跡はバッチリ残っていた。
「隠蔽魔法を解いてくれないか?」
「……」
「あまり手荒な真似はしたくないんだ。……解かなくていいから、何が目的か教えてくれ」
「……」
何を言ってもだんまりなそいつに痺れをきらしたボスが、掴んでいた何かをぎゅっと握る。痛そうな声が聞こえた。
「や、やめろ…!俺様を誰だと思っている?!」
「いや、全くわからないんだが」
「姿くらい見せたらいいのに」
「そんなこと、できるわけがないだろう!俺様は高貴な王っ………………一般人だ!」
思わず団長と顔を見合わせ、小声で会話する。これ…
「サシャ。この国の王子な気がするんだが」
「私もです。どうします?」
「まさか向こうから来るとはなぁ。身分を明かされたわけじゃないし…なんなら数発入れてしまったし」
知らないふりをするぞと真剣な表情の団長に、頷く。関わりたくなかったのに。
ボスにも手を離すよう言えば、ドスン!と尻もちをつく音が聞こえた。申し訳ないとは思うが、一般人だと自分で言ったし。問題ないはずだ。
「俺達は忙しい。後をついてこられても困るし、迷惑だ。やめてくれないか」
「ふ、ふん…!貴様らの言うことなど、俺様が聞くわけがっ…!」
「そうか。言ってもやめてくれないなら、こちらもそれなりの対処をする。文句は言わせないぞ」
凄む団長に私がビビっていれば、行くぞと手を引かれる。え、置いてくんですか?
「何を言っても無駄そうだったからな。またついてきたらボスに牽制してもらうとして、今夜アイーダに報告するしかないだろう。一応王子らしいからな」
「そうですね……私達の方が立場弱いですし…」
それにしても、まさか王子本人が来るとは思わなかった。しかも隠蔽魔法を使いストーカーまでするとは…暇なのだろうか。
まだついてきているというボスの報告を受け、全員が呆れる。しつこいにも程があるだろう。




