エルイット商会
「これはサシャさん…!お元気そうでなにより!」
「ご無沙汰してます、エルイットさん。その節はお世話になりまして…」
「いいや、こちらこそだよ!サシャさんの活躍は耳にしてたんだけれど…カイルが迷惑をかけたとも…」
「二人とも、積もる話があるのはわかるんだが…今度にしないか?」
エルイットさんは変わらず、ふくよかで人の良さそうなおじさんだった。久々の再会すぎてちょっと他人行儀になってしまったが、感謝の気持ちはずっとある。なんせこの人がいなかったら、今私はここにいないから。
団長に謝り、目的の品を見せてもらう。
「…見た目は普通の鞄ですよね」
「見た目はね。けれどこれなんかは、大きい倉庫一つ分は物を入れられるんだよ」
とてもそうは見えないし、お値段がもの凄いことになっている。私のお給料何年分だろうか…。
「長期遠征に出ることになってな。団員全員分ほしいんだが」
「それはそれは…では、容量の大きいものより入り口が広いタイプの方がよろしいでしょうか?」
「それはわからんな…サシャ、どう思う?」
「うーん…大きな物を入れられるのは、助かりますけど…」
服なんかは畳めば小さくなるので、あまり気にしなくても良いのだが。布じゃないものは、小さくできない。モモのブラシなんかは完全にアウトだ。
これなんかどうでしょうとエルイットさんが出してきた鞄は、背中に斜めにかけるタイプのものだった。入り口が広くて邪魔にもならなさそうだし、使い勝手は良さそうだ。
「サシャさんに命を救われた礼もしないうちに、カイルも迷惑をかけてしまったので…お値段は、これくらいでいかがですか?」
「…助かるが、安すぎないか?利益がほとんどないだろう」
「マイナスではないので良いのですよ。それに、命あっての物種…全てはサシャさんのおかげですから」
ただの大きい兎をモモが追い払っただけなのに、ここまでしてもらうのはさすがに申し訳なさすぎる。
しかし団長がそうか、と頷いてしまったので、開きかけた口を閉じた。
「エルイットがそう言うなら、甘えよう。色違いはあるか?」
「えぇ勿論」
カラフルな鞄が目の前に並び、ノルンちゃんが丁寧に包んでくれる。ちゃんと仕事手伝うなんて偉いなぁ。
「あと…従魔と主人の装飾品がほしいんだが。何かいいものはあるか?」
「あぁ、入国の時にあれば楽ですからね。えーと…確かこっちに…」
一緒に見るぞと手招きされ、近寄る。いや…高そうな物もたくさん飾られているから、できるだけ動かないようにしていたのだ。物の価値がまだよくわかっていないから、ぶつかりでもしたら大変だ。
「どなたが必要とされているのですか?」
「サシャとモモ…あと、ルルガドルルだな。確か、ボスは赤いネクタイをつけてたよな?」
「はい、気に入ってつけてます……けど、ネクタイに合わせるんですか?」
「女性にネクタイはいけませんよ、ガイリス団長」
そうなのか?と首を傾げる団長に、エルイットさんとノルンちゃんがやれやれと溜め息を吐く。別にネクタイでも良いのだが…高価すぎるか。
「布を体のどこかに巻き付けるのはどうかしら?色を合わせれば、ネクタイはそのままでも良いのではなくて?」
「しかしサシャさんには地味じゃないかい?ただの布だなんて…」
「では、耳飾りはどうかしら。チョーカーも指輪もルビーがついたものはたくさんあるでしょう、お父様」
「ちょ、ちょっと待ってください!宝石は……ほら、戦いの最中になくしちゃうかもですし…!」
確かに、と引き下がってくれたノルンちゃんに安堵する。ネクタイ以上に高価なものとか、身につけるのも恐ろしい。しかも団長に買ってもらうことになっているので、いいですね!なんて言えるわけもない。
「布で良いです。しっかり結べば簡単にはほどけないでしょうし、モモは体が大きいので…」
「そうだな、布ならモモも邪魔にならないだろう。替えもすぐに手に入るしな」
「団長はチャトラと何を揃えてるんですか?」
「俺とチャトラは腕輪だ。これも邪魔にならなくていいぞ」
団服のポケットから出てきたのは、軽そうでとてもシンプルなシルバーの腕輪だった。
「そういうセンスはあるんですね…」
「よくわからんが、褒められてるのか?」
「褒めてますよ、すごく」
そうか、と嬉しそうな団長を見て心配になる。少しは疑うことを覚えてほしい。
「ガイリス団長が以前買われた腕輪もありますよ」
そう言ってエルイットさんが出してきた腕輪はそっくりそのまま同じもので、さすがにそれはつけませんよと笑ったのだが…
すごく真面目な顔でなぜだい?と返された。
「なぜって…従魔とじゃなく、団長とお揃いみたくなっちゃうじゃないですか」
「だがチャトラは喜ぶと思うんだがなぁ」
「うっ…………いや、それでもですね、」
「いっそ皆さんでお揃いにしたらどうですの?そうすればサシャお姉様の憂いも晴れるのではなくて?」
全員でならば、何も文句はない。ないが…さすがに団長の懐が心配になってくる。これから国を出なければいけないのに、そんなにお金を使う必要もないだろうし。
「わざわざそこまでしないでください、団長。ないのは私だけなんですから」
……なぜそんな悲しい顔をするんですか。
「サシャが来てから、みんなの団結力が深まったから…こういうのもいいと思ったんだが。嫌か?」
「嫌ではないですよ。ただ、団長…お金使いすぎじゃないですか?」
「金は使うためにあるもんだろ?それにちゃんと働いていれば後からついてくるしな。そこは気にするな!」
「そうですわよ、お姉様。男性が買ってくれると言うのです。そこは素直にお礼を言うべきですわ」
これが恋人とかならば、私もそうしたかもしれない。けれど相手は団長で、上司である。今この場で止められるのは私しかいないのだ。
…と、思ったのだが。
結局三人はノリノリで人数分の腕輪を揃えてしまい、私は眺めていることしかできなかった。
これ…みんなに怒られ、ないよね…?




