長期遠征
「やっと白状してくれたよ」
穏やかな日々は数日しか続かず、鉱石を持ち込んだ犯人がわかったと陛下が突撃訪問してきた。
いや…こんな簡単に王宮出ていいのかな。しかも今日は見たことのない女性もいるし。
陛下より一歩下がり控えているが、どことなく気品が漂うというか…ただの護衛とかではなさそうだ。
「商人から買ったというのは早々に聞き出せたんだけどね。居場所もほのめかしていたから、ちょっとしつこく尋問してみたんだ」
「それで、わかったのか?」
にっこり笑った陛下は、机に地図を広げた。
「うちの次はユナイシアムルに向かうと言っていたそうだよ」
「ユナイシアムル…一番鉱石に敏感な国じゃないか」
「そうだね。だから、鉱石は出さず…別の目的があるのかもしれない。あくまで可能性だけれど」
地図上にバツ印がつけられる。
「そして次に、ウールデリヒ」
陛下がそう言ったところで、気になっていた女性がついに言葉を発する。
「わたくしの故郷ですわぁ」
「そうか…王妃の国にまで行こうとしてるのか」
思わず団長を二度見した。今、なんて言った…?
王妃様?この人が?
いやいやみんな普通にしすぎでしょ。挨拶も何もなかったし王妃って呼び捨ては………まずくは、ないのか。陛下がこういう人だもんな。
多分、私も気にしなくて良いんだろうけど…一応会釈だけはしておこう。
「商人を自称する男は、ムルスタブルグに住んでいると言っていたそうなんだ。本当かはわからないけど…また鉱石をバラ撒かれても困るからね。捕まえたいと思って」
「思って……?」
「君達にお願いしに、来たんだ」
とっても良い笑顔だが、私達は文字通り頭を抱えた。陛下が直接来た時点で嫌な予感はしていたのだ。これは、お願いという名の命令である。
絶対に断れない、王命。
「それでわざわざ王妃まで連れてきたのか…」
「わたくしの故郷も危ないかもしれないのです。直接頼みにくるのが筋ではなくて?」
「断れない頼みに筋もなにもないだろう」
「まぁガイリス…貴方って本当に正直ねぇ」
お二人と会話しているのは団長だけなのだが、ハラハラしているのは私だけだろうか。陛下だけならともかく王妃様まで緩いなんて有り得るのか。
「魔法師も騎士も、臨機応変には行動しづらいからさ。君達が適任だと…まぁ、僕の独断なんだけど」
「この前も俺達が動いたばかりな気がするが?」
「勿論危険手当は出すよ。商人を名乗る男の確保…それだけでいいんだ。従魔がいれば追いつける可能性がある」
参ったなぁ、と団長が頭を掻く。
「国のためだし受けるが……生死は?」
「生きてることが望ましい」
「相手の力量にもよるが、承知した」
「武器以外にも加工している可能性があるからね。それらは見つけ次第破壊していいよ。何度も言うけど、大事なのは身柄の確保」
どんどん進んでいく話に私は混乱している。え、また遠征行くの?従魔騎士団だけめちゃくちゃ忙しくない?
嫌だなぁと思っていれば、私だけではなかったようで。隣に寄ってきたオッドがボソリと呟いた。
「なんだか、大変なことになっちゃったね…」
「ね。でもあの鉱石が出回れば、もっと大変なことになっちゃうよね」
鉱石を悪用している奴も許せないし、他の国が危険な目にあうかもしれない。だから行くしかないのはわかっているが…
もうちょっと、のんびりしたかったなぁ。
「森の警備はルルガドルル部隊に任せるよ。騎士の言うことなら聞いてくれるようになったからね」
「わかった。だが、ユナイシアムル…ウールデリヒ…それに、最悪ムルスタブルグまで行かなきゃならん。かなりの長期遠征になるぞ?」
「わかってるよ。物資はこちらで用意するし、各国に知らせも出しておく。…これ以上被害が大きくなる前に、なんとかしないと」
君達ばかり頼ってすまない、と申し訳なさそうな陛下に、団長は気にするなと笑った。
「頼られるのは嬉しいさ。みんなの平和を守るのは騎士として当然のことだしな。ただ…」
帰ってきたら、部下に休みを与えてくれないか。
「だ、団長っ…!」
「ちゃんとしているのねぇ、ガイリス。安心したわぁ」
「安心したついでに、ウールデリヒの問題もどうなっているか…見てきてくれると嬉しいな」
せっかく団長の素敵な発言でテンションが上がったのに、落とされた。陛下…これ以上仕事増やさないでくださいよ…!
「問題って…それ、大変な内容じゃ…?」
「あれ、サシャは聞いていないのかい?まぁ…別に大したことないんだけれどね」
「ありますわ。わたくしの妹が、あのユナイシアムルの王子に狙われていますの」
ユナイシアムルの王子って………あっ!アイーダさんが言ってた、女性を魅了するスキル持ちの!
「妹はまだ幼いのに、婚約の誘いがしつこいんですの。何度断っても本当に…」
「話がなくなったのか、まだ続いているのか…その確認だけしてきてくれるかな?聞いても最近は誤魔化されちゃってね」
「それだけなら、まぁいいが。他にはないよな…?」
「ふふ、ないない。ごめんね、ついでの用事まで」
くれぐれも命を大事に、無理はしちゃいけないよ。
「あとサシャ、面白報告待ってるからね」
「そんなのありませんから…!」
「あら、わたくしも楽しみにしていますわ。帰ってきたら…そうね、お茶会でも開きましょう」
帰ってきたくなくなったのは、言うまでもない。王妃様とお茶会なんて、一般庶民の私には無理な話だ。緊張してお茶の味もわからなくなるに違いない。
しかしお二人の笑顔の裏に断れない圧力を感じ、頷くしかなかった。こうなったら誰か一人は犠牲にしよう。絶対。




