打ち上げ④
「え、ちょっと…天国じゃないですか…!」
「あらー………ごめんなさいね、サシャ。貴女の歓迎会だっていうのに」
しょっぱなから飲み過ぎちゃったわ、と困り顔のミアさんは、現在カトリーヌに背を預け座っている。
その周りでは従魔達が好きにくつろぎ、アニマルパラダイスと化していた。こんな最高な場所があっていいのか…!
「お水持ってきましたけど、いります?あと隣座ってもいいですか?」
「勿論よ」
水ありがと、と笑ってはいるが具合は悪そうだ。いったい何を飲んだの、ミアさん。
隣に座ればモモがゴロンと仰向けになったので、優しくお腹を掻けば手足が動き出す。随分くつろいでるなぁ。
(おなかいっぱい。もうたべれない)
(うごけない)
「わぁ、丸くなってる…!」
ほんの小一時間目を離しただけで、こんなに体は丸くなるものなのか。コロコロになった雛達をツンと小突けば簡単にひっくり返ってしまったので、慌てて謝り起こしてあげる。
「あ、そうだボス。約束のネクタイだって」
(おぉっ…これは、なんと素晴らしい…!どうやって結べば良いんだい?!)
「待って私ネクタイ結べない」
ベルさんがくれたネクタイは真っ赤でとても派手なものだった。ボスにはすごく似合いそうなのだが、残念なことに正しい結び方を知らない。
「私がやってあげましょうか?」
「ミアさんわかるんですか?」
「えぇ。昔はよく恋人のネクタイを結んでたのよ」
何年前かしらね、と遠い目をする彼女に、なんて声をかけたら良いのだろうか。
話題はアレだが綺麗に結んでもらい、ボスは大層ご満悦である。群れに自慢しに行くと言った彼を見送り、じゃれあうリンリンとチャトラを眺めた。
…遊んでるだけとは思えない迫力だけど、大丈夫かな。
「今聞くのもおかしな話だけど…うちには慣れた?不便なこととかないかしら?」
「え、そんなの全くないですよ!大変だけど…それ以上に、楽しいですから」
「それなら良かったわ。…あんたって、意外と巻き込まれ体質みたいだし。心配してるのよ、これでも」
ずっと平和に暮らしていけたらいいのにね、と呟くミアさんに首を傾げる。いつもと様子が違うように思えるが、なにか悩み事だろうか。
「女としては、ほら。家庭で夫を待つって、憧れるじゃない」
「…なんか今日、みんなそんな話題なんですけど…?」
「そりゃあんなの見せられてたら、思うところもあるでしょ」
あんなの、と指差す方を見る。
寝ているオッドの真横でピッタリとくっつき、イチャイチャする母アヒルとトトがいた。う、うーん…!あれを見て思うところがある、かなぁ……?!
「相手がいるっていいわよね。人間じゃなくても、羨ましくなるわ」
「そうですかね…?」
「…あぁ、サシャはそうよね…喋る相手がいるものね」
あ、と気付く。そうか…私はいつだってモモとボスがいて、喋れるから…寂しさを感じないだけなのかも、しれない。
そう考えるとみんなが寂しがっているのは普通なのだろうか?…だめだ、よくわからなくなってきた。
「あーあ、どっかにいい男転がってないかしら!」
「転がってはいないと思いますけど…ちなみにどんな人がいいんですか?」
「私より背が高くて、度胸があって、高収入で…散財を許してくれる人」
即答にもビビったが、内容もひどい。背が高い、高収入とかは理想としてよくあるけれど、散財を許してくれる人って…よっぽどお金持ちじゃないと無理だろう。
「顔とかは、」
「顔なんてどうでもいいのよ、ほんと。イケメンでもケチだったりナルシストだったり気弱だったりしたら…あんた、ずっと一緒にいれる?」
「無理ですね」
「でしょう。…昔、顔に釣られて付き合った男がさ。私の父親見て逃げたわけ」
ミアさん曰く、お父さんは国一番の強面と言われる程顔が厳ついらしい。
「でも父さん、花とか好きなのよ。動物も子どもも好きで、ピンクとかレースとか…とにかく可愛いものが好き」
「へ、へぇ……!」
「恵まれすぎた体格と顔のせいで損することが多い人でね。…私はそんな父さんが好きだから、悲しい思いをさせたくないの」
だから早く相手を見つけたいけれど、適当な男では逃げ出してしまう。
「逃げたらまた父さんが悲しむからね。しっかりした相手を見つけたいのよ」
「私…ミアさんのこと、勘違いしてました。まさかそんなちゃんとした理由があったなんて…」
「みんな言わないだけで絶対あるわよ。オッドだってこんなあどけない顔しといて、かなりの巨乳好きよ」
「うわぁ…………」
やめてミアさん!そういう、見る目が変わる情報を与えないで…!
「てかそれって秘密とかじゃないんですか?!」
「全く。聞いたら普通に教えてくれるわよ」
バインでボインがいいんですって、と呆れ顔のミアさんだが、私の目は死んでいると思う。オッド…正直すぎるだろう。
「ベルなんて妹ばかりいるからか、年上好きだし。前の彼女なんてびっくりよ、なんと年の差が」
「ストップストップ!お願いですから、これ以上個人情報はっ…!」
「なんでよぅ。結構有名な話なのよ?」
気になるけれど、聞きたくない。顔を見たら思い出してしまう自信がある。
「団長とジルコットだって、………あ、これは言ったら怒られるわね。忘れてちょうだい」
「そこまで言われたら逆に気になる…!」
オッドとベルさんはともかく、団長とジルコットさんはなんなんだ。どんな人が好みなんだ。言ったら怒られるって、なに。
その後どんなに聞いてもミアさんが口を割ることはなく、気になるなら本人に聞けばいいじゃないと言われ、諦めた。
直接聞いて教えてもらえるかわからないし、もし教えてもらえたとしても特殊な好みだったら…
本人を目の前にして、私はどんな反応をしてしまうのか。考えただけで恐ろしい。
世の中には知らない方が良いこともあるのはわかっていたが、あの二人の好みのタイプも当てはまるとは。
今後機会があっても気をつけようと、精神的に疲れた私はモモの腹に顔を埋めた。すごく草の匂いがする…。




