打ち上げ③
「そうだ、サシャ。ブラシは後で渡すとして…肉はいつがいい?」
「あ、いつでも良いです。団長の都合のつく時で」
「うーん…なら、明日にでも買いに行ってくるかぁ。あまり遅いとモモに怒られそうだしな」
それは一理あるが、モモはブラシの方が楽しみにしてるんじゃないだろうか。こちらに来てから小さなブラシでちまちまやるしかなかったから、不満は溜まっているはずだ。
「ありがとうございます、ちゃんと覚えててくれて」
「約束したからな。ちゃんと守らないと、」
「モテない…だろ?」
そうだ!とドヤ顔の団長だが、改めて考えると不思議である。
「団長って…どうしてそんなに、モテたいんですか?」
黙っていれば、本当にかっこいいのだ。団長は。
たまにデリカシーのない発言があるくらいで、それさえ気にしなければかなりの玉の輿だと思う。女性が寄ってきそうなものだが…
「俺がモテたい理由か?モテないからだ」
「なんでモテないんです?」
「お前それ本人に聞くか?」
確かにと思うが、私だってわからないのだ。何故団長がモテないのか。
「なんで、かぁ………まぁ原因はなんとなくわかってるんだよなぁ」
「こいつ、団長になったばかりの頃はすごい人気だったんだよ。毎日誰かしらとデートしててな」
「え……めちゃくちゃモテてるじゃないですか」
それがな、と団長が困った顔をする。
「誘われたら、断るのも悪いからと応じてたんだが…良くも悪くも、注目されててな。女性達の間で、何人とデートしただの内容はどうだっただの…」
「ガイリスが女の、それも個人の好みなんてわかるわけないだろ?デートコースを使い回してたら、」
「いつの間にか、つまらない男と言われていてな。急にモテなくなったんだ」
「うわぁ…それは…」
ちょっとだけ同情した。女のネットワークは恐ろしいもので、発言にも気をつけなきゃいけない。団長には厳しい気遣いだろう。
だがデートコースを使い回すのはいかがなものかと思う。お店もいっぱいあるし、自然も豊かだ。同じところを回らなくたって良かっただろうに。
…さては団長、面倒くさがったな。
「でも、大勢にモテなくてもいいんじゃないですか?結婚できるのは一人だけなんですよ?」
「勿論俺も、一人だけを愛したいし愛されたいさ。だがそのためにはまた、モテる必要があるだろ?じゃないと話しかけてもくれないし…」
結構切実な問題だった。軽々しく聞いてごめんなさいと謝れば、逆にサシャはどうなんだと言われる。
「私ですか?別に…結婚願望とか、今はないですよ。自分の生活で手一杯ですし」
「そりゃそうか。……しっかし、お前と付き合う相手は大変だろうなぁ…」
ジルコットさん、なんでそんなしみじみ言うんですか。
「何があってもモモ優先だろ?」
「当たり前じゃないですか」
「すっげー強いボディガードもついてくる」
…ボスのことか。それは、まぁ………ううん、
「あと、お前と従魔にしかわからない会話をされたら、寂しいよな」
「…いいですもん。恋人とかいりませんし」
「待て待て。冷静に考えてみろ、いつか自分が年老いた時…一人なんだぞ?周りは子どもとか孫とかいるんだぞ?それでもいらないって言えるか?」
食い気味な団長に気圧されるも、ぶっちゃけそんな未来のこと…今は考えられないのだ。まだまだモモと生きていくのに精一杯。ボスも家族の一員だし、養わなきゃいけないから。
「そういうのはまだいいんです…ってか、なんでお二人とこんな女子トークを…」
「何言ってんだ、うちの真面目代表だぞ」
「なんていうか…サシャは、放っておけないんだよなぁ…」
妹がいたらこんな感じなんだろうと思うよ。
「妹、ですか?私一人っ子なんですけど…」
「いや、合ってるな。しっくりくる。そうだ、お前は妹タイプだ」
妹タイプと言われても、どう反応したらいいのかわからないのだが。
「ミアなんかは特にそう思ってるんじゃないか?今日だって、サシャの歓迎会だと喜んでなぁ。先に潰れたが」
「あ、ミアさんはお姉さんって感じしますよね。わかります」
「実際弟いるしな。兄弟といえば、ベルは多いぞ」
これまた意外である。ベルさんこそ一人っ子な気がしていたのに。
「噂をすれば、だな。おいベル、お前兄弟何人いた?」
宿舎から走ってきたらしいベルさんの手には、ネクタイが。もしやボスのために取りに行ってくれてたのだろうか。
「兄弟っスか?妹が五人いるっスよ」
「ごっ………多い、ですね。しかも妹さんばっかり」
「そうなんスよねー。口うるさいのなんのって…」
約束の品っス、と手渡されたネクタイは新品だった。本当に良いのか問えば、使わないからと返される。それなら有り難くいただこう。ボスが喜ぶはずだ。
「なんの話だったんスか?」
「サシャが妹っぽいよなって」
「あぁ、わかるっス」
ベルさんまでそう言うなんて、普段の私はどういう行いをしているのか。嫌なわけではないが…こうも揃って言われると、とても気恥ずかしい。
「なんスかね…つい、可愛がりたくなるというか…頭撫でたくなるんスよね」
「撫でやすい高さだしな」
「それ関係あります?」
可愛がられるのも、嫌ではない。嫌ではないが…もうそういう年頃でもないので、やっぱり恥ずかしさは変わらなかった。
こういう時にミアさんがいれば助けてくれるのにと考え、そういえば彼女は大丈夫だろうかと心配になる。
「私ちょっと、ミアさんの様子見てきますね!」
「お、サシャ照れてるんスね?」
「ベルさんうるさいですよっ!」
笑う三人は、絶対楽しんでいると思う。
いじるのは良いがいじられるのは慣れていないので、勘弁してもらいたい。




