打ち上げ
私達が揉めている間に、表彰は終わってしまった。
気付いた時には全てが決定しており、あり得ないことに魔拳武闘会で通ってしまったという。
本当に…ひどい名前だと、思うんだけど。団長の頭の中はどうなってるんだ。
私達の気持ちも知らずご機嫌で戻ってきた団長にみんなでブーイングをしたのだが、無駄に良い笑顔で押し切られた。
「良い名だろう!」
彼曰く。
魔拳武闘会の魔は、魔法だと。拳は、自らの拳と剣をかけているらしい。武闘会は文句なしにピッタリだろうと胸を張っている。
う、うん…もう、いいんじゃないか、それで。恥ずかしいのは団長だけだから。
(楓、肉とブラシはまだか?)
(ネクタイも忘れないでおくれよ)
勿論わかっているが、私以外はまだ団長に詰め寄っているので落ち着くまでは無理だろう。
雛達を抱っこしつつ片付けに追われる王宮の人々を眺めていれば、ルルガドルルを貸してくれと声をかけられる。
「ボス、頼めるかな?」
(良いとも。レディは休んでいておくれ)
「いやー…私は、買い出しに行ってくるよ。あの様子じゃ、ジルコットさん忘れてそうだし」
前々から今日は打ち上げをしようと決めていたのだが、彼はまだ団長の胸ぐらを掴み揺さぶっている。どうやら日頃の文句にまで発展しているようだ。
「モモ、荷物運ぶの手伝ってくれる?」
(仕方ないな。暇だしそれくらい手伝ってやるよ)
(いくー!)
(ついてくー!)
(おいてかないでー!)
トトといる母アヒルの横に置こうとしたのに、小さな羽で雛とは思えない程ガッチリ掴まってくる。うぅ、無下にはできないっ…!
(あら、連れてっていいのよ。ここにいても暇でしょうし)
「いやいや我が子でしょ。目離しちゃダメだよ」
(大丈夫よ。見てても気に入らなかったら攻撃するもの)
それに対し、何も言えなかった。
だって本当なのだ。雛達はちょっとでも気に食わないことがあると、容赦なくつっついてくる。何度も触ろうとしているベルさんの手は傷だらけだ。…嫌い、なのだろうか。
モモも連れてってやれと言うので、私は仕方がなく雛達を抱えなおす。手乗りサイズだし、ちょうど良い籠があったらそれに入れれば楽そうだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ごっ……ご馳走だ…!」
「おう、遠慮なく食えよ」
次々と運ばれてくる料理に、私とモモは涎が止まらない。いつの間にこんなに…大変だったんじゃないだろうか、ジルコットさん。手のかかるものばかりが並んでいる。
「じゃ、堅苦しいことは抜きにして……みんなお疲れさん!問題はまだ片付いていないが、今日は気にせず飲んで食おう!乾杯!」
グラスがぶつかり、懐かしい音がする。思えばこちらに来てお酒を飲むのは初めてだ。どんな味がするのだろう。
「従魔達の分はこっちだ。それぞれの好みに合わせてあるが、何かあったら言ってくれ」
(楓!楓っ!食ってきていいか?!)
「食べすぎないようにね。あと喧嘩しちゃダメだよ!」
(私も失礼するよ、レディ。ベイビーちゃん達は責任を持って面倒見るから、今日は君もゆっくりするといい)
あぁ、ボスが人間だったら良い旦那さんになったのかもしれない。
雛達はとても可愛いのだが、三つ子ともなると喋るだけでこちらの体力がガンガン削られていくのだ。世の母親は本当にすごいと思う。
雛三羽を肩に乗せ食事をしに行ったボスに甘え、オッドに貰ったグラスに口をつける。
「…甘い。何これ、美味しいね…!」
「でしょ?僕も好きなお酒なんだ。ウールデリヒ特産の果実を使ってるんだよ」
王妃様のおかげで手に入るお酒らしく、これが好きな国民は多いそうだ。うん、私も好き。お酒はあまり飲まないけれど、これは渡されたらつい飲んでしまいそうだ。
「サシャの歓迎会、してなかったからね。みんな気にしてたんだ。まとめたようで悪いけど、歓迎会だと思ってね」
「…ありがとう、嬉しいよ」
なんだか照れくさくて、気にしなくても良かったのにと言えばオッドは笑った。
「理由をつけて飲みたいだけなんだよ。みんなお酒は大好きだからね」
「あ、なるほど。じゃあオッドも?」
「僕はそんなに…かなぁ。酔っ払ったりすることはないから、安心してね」
そうなんだ、と、私はオッドの言葉に本当に安心していた。見た目からしてお酒をたくさん飲むようには見えなかったし。
しかしその数十分後…
「サシャ…従魔騎士団に来てくれて、ほんとにありがとぉ…!年の近い人がいなくて…僕、さみしかったんだぁ」
「あぁ、うん……わかったよ。わかったから、オッド……暑い」
「あー!ひどいこと言ったらいけないんだよー!」
「私今ひどいこと言ったかな…?!」
見事に酔っ払ったオッドに、絡まれまくりである。左腕をギチギチにホールドされ抜け出すことは困難だ。弓を扱っているからか力が強い。
打ち上げというだけあって、従魔含め全員が騒いでいる。これは…連れていかないと、気付いてもらえなさそうだ。
「ほんとに嬉しいんだぁ。サシャはみんなに優しいし、団長にもついていけるし…今までは僕が団長と組んでたから、つらくて…」
「そ、そうなんだね」
「トトの気持ちも、たまにわからなくて。でもサシャが来てからは、頼れるし…お嫁さんまで見つけてきてくれて」
嬉しいんだぁ、と人の腕を涙で濡らすオッドに適当な返事をし、引きずる。酔っ払いの喋ることはどこまで本気かわからないから、気にしたらいけないのだ。
一番近くにいたジルコットさんに助けを求めようと、服の裾を引っ張る。
しかしそこには衝撃的すぎる光景が広がっており、私は一瞬呼吸を忘れた。
見ちゃいけないものを、見てしまった。




