禁断の扉
団体決勝戦が、はじまろうとしていた。
対峙する相手は魔法師二人、騎士一人の組み合わせなのだが…どうも様子がおかしい気がする。
魔法師二人はすごくそわそわしていて、落ち着きがない。チラ見されるのはなんなのだろうか。騎士のやる気も全くないように見えるし…どうなってるんだろう…?
「ノルンに会ったのよね?可愛かったでしょう?」
「あ、はい。とっても。お人形みたいでした」
「カイルが絡むとすごいけどな。…で、あいつらが何か企んでるって?」
二人にも教えた方がいいだろうと、控え室での出来事は全て報告済みだ。絶対に私だけとは言い切れないから、全員で警戒したほうがいい。
「やぁね…またあの鉱石でも使ってるのかしら…?」
「どうでしょうね…ノルンちゃん、教えてくれなくて。言えないって言ってましたけど」
「言えない?口止めでもされてんのか…?」
三人揃って首を傾げる。良からぬことを企ててると言っていたけど…予想がつかなさすぎるのだ。なんで教えてくれなかったの、ノルンちゃん。
じーっと相手を見つめていれば、もう少し中央へ来るように言われる。今回も審判は陛下のようで、目が合うとにっこり笑われなんだかホッとした。癒しオーラでも出てるんじゃないだろうか。
「皆待ちかねているから、始めたいと思うんだけど。双方準備はいいかな?」
「えぇ」
「あぁ、いつでも」
ジルコットさんが槍を構えれば、陛下の合図で狼煙が上がる。
直後突撃してきた三人に、こちらは即座に迎撃の構えだ。魔法師まで来るとは思わなかったが…接近戦をしてくれるのは好都合。彼らに近付けないのが一番厄介だから。
「!サシャ、気をつけろ…!来るぞ!」
「はいっ!」
「私の後ろにいなさい!」
魔法師二人が、私狙いなのは明らかだった。
ミアさんとジルコットさんが前に出て庇ってくれるが、彼らの勢いは止まらない。随分真っ直ぐ向かってきているが、いったい何をするつもりなのか。
直接魔法を叩き込まれてはたまらないと私も短剣を構え、ゴクリと生唾を飲み込んだその時ー…
ズザァァアアッ!
「………あぁ?」
ジルコットさんの低音ボイスが、やけに冷たく感じた。
「……ちょっと。なんのつもりよ」
目の前では、魔法師が揃って綺麗な土下座をキメている。その横では騎士が両手を顔にあて………え、ほんとになんのつもり?
「サシャさんっ………いえ!サシャ様!」
「お願いがあります!」
「はいっ?!」
「我々のっ…」
「ローブを…!」
「どうか!裂いてください!!」
この場から消えていなくなりたいと思ったのは、初めてだった。
「容赦なくローブを引き裂き、拘束するだけに飽き足らず…目隠で止めを刺し!更には足蹴にした、あの時の貴女様の表情が…!」
「忘れられないのです!」
思わず頭を抱えた。これ…ボスのせいじゃん…。
どうやら禁断の扉が開いてしまったらしい。にしたって今…それも本人に言うなんて、どうかしている。
「おい、どういうことだ」
私に聞かれても困るんですよ、ジルコットさん!
魔法師二人は土下座したままだし、騎士は顔を覆ったままだし。え、良からぬことって……まさかこのこと…?!
「サシャ、あんた…変なファンがついたんじゃないの?」
「えぇ…!いらないですよそんなの…!ミアさん助けて!」
「……裂いてやればいいじゃない、ローブくらい」
「無理ですって!」
簡単に言うけれど、ローブなんて裂けるものじゃないだろう。私にそんな腕力はない。
大体、ローブを裂いたのはボスなのだ。したがって、頼むのならボスに…ファンもそちらにつくべきじゃないか?
そう思うも外見は私だったわけだし、今更そんな言い訳は通じなさそうである。どうしようこの人達。
「あのですね…私はそんなことできなくて、」
「で、できない…?!おいどうするんだ、できないって…!」
「なんだと?!じゃあ結婚してください!」
「じゃあの意味がわからない…!人の話聞いてます?!」
ドン引きしだしたミアさんに、見守るだけのジルコットさん。騎士は使い物にならないし、変態二人は立ち上がりジリジリとこちらへ近づいてきている。
ルール違反にはなっていないので陛下は止めてくれないし、私がローブを引き裂いた方が話は早いんじゃないだろうか。
覚悟を決め一歩足を踏み出した、その時だった。
会場がとてもざわつきはじめる。さっきまでシーンとしていたのにいったい何が…?
「過保護なのも考えモンだな」
「え?」
ジルコットさんの呟きとともに、私の目の前に何かが降ってきた。それを見た瞬間頬がピクピク痙攣しだす。
ちょっと待って……この、見慣れた後ろ姿はっ…?!
「俺の部下に無理強いはしないでくれないか!」
…言ってることはかっこいいんですが、団長。
「なんで来ちゃったんですか…!私ら反則負けですよ!」
陛下の合図で相手の勝利が伝えられ、私は団長の肩を思いきり揺さぶる。なぜなの団長!まだ戦ってすらいなかったのに…!
「いやぁ、だってお前……俺が来なかったら、大変なことになってたぞ?」
ほれ、と団長が指をさしたのは、従魔騎士団がいる観客席で。
見上げれば…硬質化したボスが物凄い形相で。今すぐにでもこちらへ降りてきそうな体勢のまま、全員に止められていた。何あれこっわぁ…!
「ぼ、ボスーっ?!どうしちゃったの?!」
「求婚されたからじゃないのか?お前確か前もそんな騒ぎあっただろ」
「あっ……!」
「多分、そうだろうなぁ。あのままボスを行かせてたら、死人が出ていたかもしれないし…だったら俺が乱入した方が、良かっただろ?」
それはそうかもしれないが…せっかくの決勝戦がこんなにグダグダになってしまい、なんだか悲しいのは私だけじゃないはずだ。
たくさんの頑張りがあってここに立っているのに、こんな終わり方なんて…あんまりである。
一瞬私が悪いのかと責めかけたが、よくよく考えてみれば…勝手に特殊な性癖に目覚めた彼らのせいじゃないだろうか?しかもこんな場で暴露するなんて…お馬鹿にも程があるだろう。変な発言をしなければボスも暴走しなかったはずだし。
けれど…全ての元を辿れば、初戦に遅刻した私が悪いんだろうな、やっぱり。
ガックリと肩を落とせばミアさんが抱きしめてくれた。わかってくれますか、この気持ち。
「さ、これで全て終わったね。午後から表彰を行うから、昼食をとっておいで」
最後に陛下がそれぞれ肩を叩いてくれたのだが、私の時だけプルプル震えていたのは…突っ込まない方が、良いのだろうか。
絶対笑い堪えていたと思うんだけれど。




