婚約者はツインテール
どうしようかなと考えていれば、タイミングよく誰かが扉をノックした。
助かった。この際陛下でもフラン団長でも、従魔騎士団の誰でもいい。この空気を変えてほしい。
謝罪するのは慣れているけどされるのは慣れておらず、変に緊張していた体をほぐしていれば団長が扉を開けに行く。
しかしそこから現れた人物に、私の体は再び固まった。
「お邪魔いたしますわっ!」
「…へっ?」
「おぉ、ノルンじゃないか!」
ノルンと呼ばれた少女は真っ直ぐカイルへと向かっていき、直後室内にパァアン!と小気味良い音が響く。ビ、ビンタしたっ…?!
フリルが可愛い、淡いピンク色のドレスを着こなす金髪ツインテールに私の視線は釘付けだった。とてもじゃないがビンタなんかするように見えない、貴族のお嬢様だ。
そんな彼女が何故、カイルにビンタを。
状況が理解できなさすぎて混乱していれば、団長がまぁまぁと宥めにいってくれた。さっきも名前を呼んでいたし…知り合いなのだろうか。
「…はっ!ガ、ガイリス様!申し訳ございません、お見苦しい姿をっ…!」
「はは…とりあえず落ち着いてくれ。カイルもほら、戦い終わったばかりだし…サシャもいるしな」
ぐりんっ、とこちらを向く少女に反射でビクついてしまった。すごい勢いだったんだよ。あ、でも…すごく可愛い顔してる…
「お会いしたかったですわっ、サシャお姉様…!」
「んん?」
聞き間違いかなと首を傾げたが、少女はお姉様が目の前に…!なんて頬を赤らめてしまった。誰かと間違えてないだろうか。
「だ、団長……?!」
「あぁ、サシャは知らなかったよな。ノルンはカイルの婚約者だ」
「婚約者?!」
「そうだ。そしてエルイットの娘だ!」
「えぇっ?!エルイットさんの?!」
そう言われてみれば、確かに…エルイットさんも金髪だったし、まん丸な目はそっくりだ。まさかこんなところで娘さんに会うとは。そしてカイルの婚約者だとは。
こんなこともあるんだなぁとしみじみしたが、気付く。ちょっと年齢差ありすぎじゃないか…?!
カイルは二十代半ばだろうが、少女…ノルンちゃんは明らかに十代前半。犯罪臭がする。
今すぐ結婚するわけじゃないとわかってはいるが、カイルのロリコン説は頭の中にインプットされてしまった。ノルンちゃん可愛いから余計に。
「サシャお姉様、はじめまして。エルイットの娘のノルンと申します。遅れましたが、父の命を救ってくれたこと…心より感謝申し上げますわ」
「う、わ………いえいえそんな、ご丁寧に…!」
情け無い受け答えしかできなくてごめんなさい!
「それと…婚約者であるカイルが、とんでもないご迷惑をおかけしたと聞いております。お詫びのしようもございませんわ…」
「えーっと…ノルンちゃんが気にしなくても、」
「まぁノルンちゃんだなんて…!」
何故か喜びだした少女にどう接したら良いかわからなくなる。なんだ。私の何がこうさせてしまったんだ。
するとずっと動かなかったカイルがようやくノルン!と嬉しそうに声を…………ん?さっきビンタされてたよね…?
「俺に会いに来てくれたんだな!あぁ、今日も愛らしいな君は!愛しているよ…!」
「何を仰っているのかよくわかりませんわ、この下衆が」
「や、やっぱり俺が団長じゃないから…従魔も持っていないし………ガイリス!もう一度俺とっ」
「また繰り返す気ですの?!貴方脳味噌空っぽなんじゃありませんこと?!」
目の前で繰り広げられる舌戦に、私は放心状態だった。しかもなんだ、この…すれ違い具合は。
「大体っ!ノルンの為だとか言ってサシャお姉様に暴言を吐き!従魔様を見下し!あまつさえ剣を突きつけるような男となんてっ……婚約破棄したいくらいですわ!」
「な、なんだって?!」
「ガイリス様にもしつこく迷惑をおかけしてるでしょう?!」
怒るノルンちゃん、慌てるカイル。
私は団長に促され一緒に椅子に座ることにした。長くなりそうですもんね。
「それは君が!従魔騎士団の団長と結婚したいって言ったからじゃないか!」
おぉっと…?!
団長言われてますよと肘で小突けば、静かに首を横に振る。その反応はどういう意味だ。
「違いますわ!貴方はいつもノルンの話を聞かないのね…!」
「いいや、いつも真剣に聞いているぞ!」
「その耳は飾りなのかしら?!ノルンは、こう言ったはずです…」
従魔騎士団の団長に選ばれるなんて、心身ともに素晴らしい方なのね。将来結ばれる女性も幸せね…と。
「じゅ、従魔が欲しいと言ったじゃないか!」
「強くて愛らしい従魔を持つのは憧れますわ、と言いました」
「が…ガイリスが…いいと…」
「ガイリス様は国民にも部下にも慕われて非の打ち所がないのねと」
カイルは人の話を聞かず勝手に思い込むタイプのようだ。
会話を聞き全てを察した私は、団長とノルンちゃんが不憫に思えて仕方がなかった。これは…普通に話すのも苦労するだろうなぁ…。
「全く…どう責任を取るつもりですの?貴方のせいでこの大会が開催されたとも聞きましたのよ?」
「ぐっ…!」
「ぐっ、じゃありません。大体、」
相当不満があったようだ。ノルンちゃんの口は止まらずカイルはどんどん背を丸め、ついには床に這いつくばってしまった。
見かねた団長が仲裁するまで、ノルンちゃんは喋りっぱなしだった。私…なんでここにいるんだろう…。
「カイルも反省してるって。それよりノルン、他に用はないのか?サシャも試合があるから、」
「そうでしたわ!サシャお姉様!」
「ひっ?!」
再びぐりんっとこちらを向いた顔にびっくりする。こ、この子のコレは癖か何かなのかな…?!目力と勢いが凄まじい…!
「お姉様に、お伝えしなきゃいけないことがありましたの」
「な、なにかな…?」
「次の対戦相手には、どうかお気をつけて…良からぬことを企んでいましたわ」
なんだと、と団長が反応する。鉱石の件があるからだろう、私も背筋をピンと伸ばした。
「どういうことだ、ノルン。どこでそれを?」
「たまたま話しているのを聞きましたの。内容はちょっと…ノルンの口からは言えませんわ。ただ、サシャお姉様に気をつけていてほしいのです」
「…狙いはサシャだけなのか?」
「恐らく」
次から次へと、問題ばかり起きるのは何故なのか。
自分だけが狙われていると聞き、体が震える。どうして私なのか。どんな目的があるのか。
深刻な表情をしていたからか、団長がまた頭を撫でてくる。
「大丈夫だ、サシャ。危ないと思ったら、すぐに俺が割って入る。絶対に守ってやる」
「団長…」
思わずキュンとしかけたが、視界の隅でカイルが泣いているのに気付き、現実に戻れた。今とても危なかった気がする。
「…とりあえず、気をつけるね。ありがとうノルンちゃん」
「は、はいぃ…!」
彼女の私に対する言動と態度については、後で問い詰めようと思う。そろそろ戻らないと時間がないからね。




