団長の決勝
目が覚めたらやはりというべきか、ゴリラ達が密集していた。
びっくりしすぎて冗談抜きで心臓が止まるかと思った。私を恨めしそうに覗き込む、無数の目…
雛達が泣かなかったら私が泣いていたと思う。大人のプライドの勝利だった。
「試合も勝てたらいいんだけどなぁ」
「うーん…今日はちょっと厳しいかもっスねぇ。あいつら幼馴染だったはずっス」
「俺ら連携できないからな。そういう奴らにゃ、バラけて戦うのが一番いいんだが……ま、まずはガイリスを応援するぞ」
観客席から下を見れば、ちょうどガイリス団長が中央で歩みを止めたところだった。
最終日の今日は、決勝戦が行われる。私達の出番は団長の試合後で、時間もあるためこうしてきちんと応援できるのだ。
相手は団長にとって因縁…は、ないかもしれないが、問題児のカイルである。初めて会った時とは違い真剣な表情だが、皆口を揃えて強くないと言うし…余裕なんじゃないだろうか。
「せっかくなら、完膚なきまでに叩きのめしてほしいわね」
「うーん…僕は直接被害はないけど、サシャが嫌な目にあってるし…」
「何言ってるんスかオッド。従魔寄越せとか言う奴は、従魔騎士団の敵っス」
「あ、思い出したらちょっとイラっときました」
「なぁ、昨日も思ったんだが、お前らガイリスのこと嫌いなのか?」
真面目に応援してやれよ、と呆れた表情のジルコットさんにベルさんが笑った。
「何言ってるんスか。愛故にっスよ」
「そうそう。それにうちの団長が負ける姿なんて…どうしたって想像できないのよねー」
それには私も同意である。団長に勝てるのは誰かと問われても、いないと答えるだろう。ボスでも無理なんじゃないだろうか。
それもそうか、と前を向いたジルコットさんの横に立つ。
決勝だからか、審判はフラン団長ではなく陛下だった。それだけで今まで以上に緊張するのだが、観客は盛り上がっている。応援の声は……団長の方が大きいな、よしよし。
「始まるぞ」
狼煙があがり、すぐにカイルが突進していく。団長は今回も魔法を使わないのだろうか。
カイルの長剣を真正面から受け、弾く。
どうやらカイルは軽いようで簡単に吹っ飛んでしまったが、勇敢にもすぐにまた立ち向かっていった。それを片手で軽々といなす団長は、どこか困っているように見える。
「困ってるっスねー、団長」
「あ、やっぱり…?でもどうしてですかね?」
疑問を口に出せば、後ろから肩を叩かれた。
(レディ…彼の相手は私でも、困ってしまうよ)
「ボスまで?」
(あぁ。だって彼とは………力の差が、ありすぎるんだ)
(?じゃあなんで困るんだよ)
さっさと倒せばいいだろと言うモモに、ボスは静かに首を振った。
(できないだろう?今は…決勝戦だからね)
決勝という大舞台。観客の盛り上がり。
(今までの試合ならば何も気にせず戦えていたけれど、この状況だと…すぐに倒してはいけない気がしてくるよね)
「あ、そういう…?」
(勿論倒しちゃいけないなんてことはないんだけれどね。きっと、いいのだろうか…という気持ちでいるんだと思うよ)
彼と私は似ているからね、と言うボスに納得した。団長もそう考えていそうだ。きっと思った以上に手応えがなかったのだろう。
じゃないと、あんなに眉を下げたまま棒立ちでいるはずがない。
何度吹っ飛ばされようが団長に向かっていくカイルを見ていて、根性はあるんだなと感心すると同時に不思議に思う。
なんであんなにガイリス団長を目の敵にするのだろう。
団長の座がほしいのなら、ドリュー団長もフラン団長もいるのに。それに騎士団に所属しているなら、まずは自団の団長を目指すべきなんじゃないだろうか。
…もしかして、うちの団長のことだから…気付かないうちに何か言っちゃったか、しちゃったか。
あり得るなぁと一人ハラハラしていれば、突如大きな歓声が聞こえ体がビクついた。
「な、なに?」
「あらサシャ、見てなかったの?勝負はついたわよ」
嘘だろうと慌てて身を乗り出せば、首に剣を突きつけられたカイルの姿が。あぁ、一番いいところを見れなかったなんて…。
こちらに手を振る団長とバッチリ目が合ったので、ごめんなさいという意味を込め頭を下げる。すると何故か手招きされた。んん?
「わ、私ですかね?」
「間違いなくお前だな。控え室行ってやれ」
なんの用があるというのか。もしや、ちゃんと見てなかったことを怒られる…?!
嫌だなぁ、行きたくないなぁと思うも、団長には逆らえない。ジルコットさんも早く行けと言うし、仕方なく覚悟を決め団長の控え室へ向かった。
だがそこには何故かカイルもいて、私は余計呼ばれた理由がわからなくなったのだった。
「な、なにごとでしょうかっ…?!」
「すまんな、急に。サシャに用があってな」
用…?お叱りでは、なく?
「俺は今日じゃなくてもと言ったんだが、カイルがな」
「おい、そんな前置きはいいだろ」
ズイッと目の前に立ったカイルと向かい合う。団長もいるので恐怖心はないが、今更なんのつもりだろうか。性格を考えると謝るなんてことは、
「…………………すまな、かった」
…なくはなかった。
まさかそうくるとは思わず、つい動きを止めれば団長に頭をポンポンされる。子どもじゃないんですよ。
「ずっと気にしていたらしくてな。ひどいことをしたし、言ったと」
「…許されるとは思っていないが、だからといって謝らないままではいれなかったんだ」
まるで別人のようなカイルの態度に、私はどうすれば良いのかわからなくなった。
すんなり許しますと言えるような出来事では…なかったんだよなぁ…。




