団長仕込み
「俺からアドバイスだっ!」
そろそろ行こうかと扉を開けたら、うちの団長が仁王立ちしていた。アドバイスはありがたいけど、あまり時間がないって時にこの人は…。
「まぁ、ジルコットとミアはいらんだろうから、サシャだけにだがな」
「…?私にだけ、ですか?」
「団長ったらサシャばっかり可愛がってー。私だっていじけるのよ?」
「別にいじけてもいいが…サシャにしかできんしなぁ。ミアがやれば腕もげるぞ?」
一体何をさせるつもりなんだ。
ドン引きした表情で腕を隠したミアさんに笑い、団長は私に向き直った。
「長く時間をかけずに済む、いい方法だ。圧縮した魔力をぶつけろ」
「圧縮って……瞬発ブーストのように、ですか?」
そうだ!と頷く団長の後ろで、ジルコットさんがすっごく嫌そうな表情をしているのだけれど。私はどうしたら。
「そりゃ確かにサシャにしかできねぇが…あれ、人に当たったら死ぬだろ。地面抉れてるの知ってんだぞ」
「なぁに、死にはしないさ…多分。それに真正面から投げれば、剣で受けるしかないだろう?」
「待て。投げるのか?」
投げる以外にどう攻撃するんだ?と首を傾げる団長に、ジルコットさんはもう好きにしてくれと私の背を押した。やるしかないのだろうか。
「いいか、まずいつも足にやっている事を手でやる」
「は、はい」
「圧縮された魔力の塊が完成したら、相手に向かって投げる」
あれ自体に威力があるからな、ただの剣ならば一撃で砕けるだろう。あの鉱石が使われていれば、いくら圧縮されていようと無効化されるはずだ。
「なっ、早く済むだろ?」
「確かにそうかもしれないですが…それ、放ったらダメなんですか?」
「放つと体が逆方向にとんでくぞ」
あ、そうか…瞬発ブーストの手バージョンになってしまうのか。
「じゃあ投げるしかないですね。でも私、団長のように豪速球投げれないので…避けられるかもしれません」
「それならジルコットに頼めばいい。風の扱いは一番だから、コントロールも速度も…」
「おい、何を当たり前のように。俺ができると思うのか?」
「え、できただろ?前やってくれたじゃないか」
あのなぁ、とお説教モードのジルコットさんに、つい団長の後ろに隠れる。私は対象に含まれていないはずだ…多分。
「平然と圧縮だの投げるだの。聞いてるこっちは冷や汗モンなんだが?」
「あぁ、そうだよな…すまん」
「素直に謝るなよやりづれぇ。…風で操ることはできるが、そう多くは無理だ。かなり力を使うんでな」
「うまくいけば三球で済むさ。武器が壊れたら適当に倒せばいいし、壊れなかったら魔法は使わず直接やり合えばいい」
簡単に言うけれど、私が一番苦戦するだろう。技術も力もないのだ。もしそうなったら…なんとか耐えて、二人が来てくれるのを待つしかない。
「…まぁ、わかった。サシャ、できるんだな?」
「はい。圧縮して投げるだけなら…」
「それが普通できないんだけどね。うちの新人はほんと規格外だわ」
呆れながらも抱きしめてくれたミアさんに戸惑う。これは…何の抱擁なんだろうか。抱きしめ返しても良いのだろうか。
行き場のない手を変に動かしていれば、時間だと騎士が呼びにくる。
「上がダメだと下がしっかりするというじゃないか。お前達なら大丈夫だ!頑張れ!」
そう自分で言ってきた団長に、もっとしっかりしなきゃとやる気が出たのは私だけじゃないはずだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
騎士三人と、対峙する。
余裕そうな笑みを浮かべているのが気になるが、やるべきことをやるだけだ。
あの鉱石のせいで、みんなひどい目にあった。もし使用されていたとしたら…なんとしてでも入手経路を聞き出さなければならない。黒幕だと噂されている商人からかもしれないし。
「ただの剣だといいですね」
「そうだな。その場合は魔法で攻めつつ倒す。違った場合は…」
「直接ね。大丈夫、準備はできてるわ」
棍棒を構えるミアさんの真横に並ぶ。私も瞬発ブースト使って奇襲をかけようかな。前回のようにネチネチやられたらまた何もできないから。
狼煙があがり、ジルコットさんの風で髪の毛が舞う。
「サシャ、やれ!」
「はいっ!」
左右の手に一つずつ球を作り出し、素早く投げる。そして更にもう一球。風に乗りビュンッ!と飛んでいった球を、騎士達は驚きもせず剣で受け止めた。
直後、一本だけ折れた剣。
…ん?一本、だけ?
「ジルコットさん、どうします…?!」
「…あの二人は確定だな。だが、どうにも気になる…」
「私もよ。なんであんなに平然としてられんのかしら」
確かに、剣が折れた男は気にもせずそのへんに投げ捨てているし…他の二人も笑みを崩していない。観客はざわついているっていうのに。
「…考えたって仕方ないか。いいモン持ってようが、技術がなけりゃ宝の持ち腐れ。行くぞ」
走り出したジルコットさんに慌てて続く。短剣を取り出し、自分の正面。素手の男に斬りかかった…のだが。
「あっ……!」
「握りが甘いな、嬢ちゃん」
素早い手刀で、短剣が手から離れる。しかも蹴られてしまい再び手にすることは難しそうだ。
距離をあけようと後退するも男の方が早く、手首を握られる。ば、馬鹿力…!
「サシャ!…待ってろ、すぐに終わらす!」
気付いたジルコットさんがそう言ってくれるも、なかなかに激しい斬り合いをしているのですぐには無理だろう。ミアさんも単純に力の差で苦労している。
「が、頑張ります…!」
「…あまり痛めつけたくない。降参する気はないか?」
「ないです!」
私が降参したら、ニ対三。そのうち二人は魔法が効かないし、勝つことは難しい。
それにまだまともに戦っていないのだ。やる前から降参なんてできるか。
男を睨みつけ、なんとか手首の拘束から逃れようと暴れる。しかし…
突然の痛みに驚き、動けなくなった。
「降参してくれ」
言葉では表現できないような、鈍い音が聞こえた。視界が揺れ、頬が熱くなる。
あれ、今…私、殴られた…?
観客席から悲鳴が聞こえたが、それもすごく遠く感じる。
「もう一発はさすがに…俺も結婚したいし…」
何やらブツブツと呟く男をハッキリとしない思考でボーっと眺めていれば、ふと気付く。…痛いけど、それだけかもしれない、と。
自由な片手で頬を触れば、熱も持っていなかった。
「お返しします」
「あ?」
殴られてムカついた。
一応騎士なので、女を殴るなんてと文句を言うつもりはない。ただ、ムカついたのだ。
いけるかもと思った瞬間体が勝手に動いて、気が付いたら男の顔面ど真ん中に私の拳がめり込んでいた。
だって、団長が殴るなら目か鼻狙えって言ってたんだもん。




