依頼
ガキンィッ!
金属音がその場に響く。
ミアさんとジルコットさん、それに相手の男二人は何が起こったのかわかっていない表情だ。だが、私にはわかる。
つい…咄嗟に。
「……硬質化、しちゃった」
背後から攻撃されると理解した瞬間、回避は間に合わないと思った。振り向く余裕もなく、当たると。
気付いたら発動してしまっていたのだ。ボスが私も自由に使えるようにしてくれていたのは教えられてわかっていたが、これだけは……これだけは、出さないと決めていたのにっ…!
「硬質化……あ!アレか!」
「ナイスよサシャ!」
えぐいと言っていたジルコットさんは親指を立て、騎士に足払いを仕掛けた。ミアさんはその横を駆け、唖然としている魔法師に殴りかかっていく。
「な、なんだ今の音は?!完璧に背後をっ…!」
「秘密よ」
胴体に棍棒をフルスイングされた男は吹っ飛び、騎士は首に槍を添えられ。
従魔騎士団の勝利が告げられたのだが、私だけ観客に手を振る事もなくその場を後にする。
控え室に滑り込みバクバクする心臓に手をあてていれば、二人と一緒に入室してきたフラン団長がとても良い笑顔でさすがです、なんて言ってきた。
「僕も見えたのは一瞬でしたよ。随分と早く解除できるんですね。ルルガドルルの硬質化…珍しいものを見せてもらいました」
「すみません…」
「おや、なんで謝るんです?」
「そうよー。あいつら度肝抜かれてたじゃない。そのおかげで隙ができたんだから!」
そうは言われても、あれは反則だと自分では思っている。硬質化なんていきなりされたら、普通はどうしたら良いかわからないだろう。なんとかできるのはうちの団長くらいじゃないだろうか。
「相手に悪い気が、」
「気にする事はないんですよ。確かに硬質化は特殊ですが、実力のうちです」
「そうだな。それにお前は無闇矢鱈に使うわけじゃないだろ」
みんなに気にするなと言われてしまうと、だんだんいいのかな…と思うようになってきた。うん…今後気をつけて出さないようにすれば大丈夫だろうか。
今度相手に会えたら謝ろうと決め、服についた汚れを叩く。と。
「勝利を祝いに来たのは勿論なんですが…実は皆さんに、依頼したい事がありまして」
「…なに?」
まさか負けろなんて言わねぇよな、と言うジルコットさんにフラン団長は首を振る。
「次の対戦相手ですが、不正疑惑があるんです」
不正疑惑?
こんなに人の目があるのに、どうやって不正をするというのだろう。しかも戦いで不正なんて意味がわからない。
ミアさんも気のせいじゃないのと言うが、残念ながら…とフラン団長は暗い様子で喋り出した。
「魔力を通さない鉱石を、覚えていますか?」
全員揃って頷く。あれだけは忘れろと言われても忘れられないんじゃないだろうか。
「あの鉱石が使われた武器を所持している可能性があるんです」
「……確証はないんだな?」
「えぇ、ありません。けれど陛下も、僕も…恐らくそうではないかと思っています」
知っていて使っているのか、知らずにいるのか…どうやって手に入れたのか。何もわからないという。陛下としては確実にそうだとわかってから取り上げたいらしい。
「なので…皆さんには、彼らにたくさん魔法を放って確かめてきてほしいんです」
あからさまに嫌な顔をしてしまった。そんな確かめ方って…。私はそこまで魔力が多い方ではないから、不安でしかないんだけれど。
「勿論依頼なので特別お給料は発生しますよ。変体しても良いですし」
「それは大丈夫です」
再びボスを出すのは避けたい。そりゃ彼が出た方がみんなも頼りになって良いのだろうが、従魔騎士団にきた依頼ならば…私も一員として、しっかり働きたいのだ。逃げてばかりもいられない。
「怪しいのは全員なのか?」
「そうですね。大変嘆かわしいのですが」
「ガイリスには?」
「勿論、真っ先に伝えてあります。自分が変体して出ても良いと言っていましたよ」
ボスではなくそっちだったかと頭を抱えた。一度断ったのに、まだ諦めてなかったのかあの人。
すると今度はミアさんから信じられない言葉が聞こえ、思わず二度見した。
「私、代わってもらおうかしら…」
「えっ?!な、なんでですか?!」
「知らなかった?私あんたより魔力少ないのよ。たくさんなんて無理無理」
途中で倒れるわ、と言う彼女に何も言えなくなる。魔力量はどうする事もできないからだ。
でも…さすがに、団長がミアさんに変体するなんて…
「…やめましょう?私、ミアさんの分も頑張りますから。団長はやばいですって」
ジルコットさんも、恋人がほしいならやめておけと説得している。どうかそれだけは考えなおしてほしい。
「うーん…そんなに言うなら…頑張ろうかしら?」
「僕もそれはやめた方がいいと思いますよ」
全員が真剣な顔をしていたからか、ミアさんは若干引きながらもわかったわと頷いてくれた。私以上に大事件になりそうだったので、考えなおしてくれて本当に良かった。
ホッと一息ついたところで、ある事に気付く。
「あれ…でも、まだ対戦相手わからないんじゃ…?」
「あぁ、言ってなかったですね」
棄権したんですよ。
「あまりにも武器で魔法を無効化されるので。魔法師三人でしたしね」
「…そりゃ棄権するな」
「でしょう?ちなみにですが、皆さんの次の相手も棄権しています」
「えっ?」
フラン団長が、ニッコリと笑った。
「一回戦で、サシャさんにローブを裂かれた魔法師の弟がいるんですよ。どうやら兄に物凄く止められたみたいで」
それは…私ではないけれど、ごめんなさいと言いたい。何か変なトラウマを与えてしまってないといいんだけれど。




