いざ、
上で見ているのと、自分がそこに立つのとでは…こんなにも気持ちが変わるものなのか。
緊張する。めちゃくちゃ緊張する。
たくさんの視線と、歓声。向かい合う三人の男達の強そうな雰囲気。
冷や汗まで出てきて、拳をぎゅっと握ればジルコットさんに肩を叩かれた。
「負けたって死ぬわけじゃない。気楽にやれ」
「は、はい…!」
「そうよー。適当にぶっ飛ばしとけばいいのよ、ボスみたいに」
それは…ちょっと、できかねます…。
相手はジルコットさんの予想通り魔法師二人、騎士一人の組み合わせだ。なんか…すっごく見られているけど、私狙ってるとかじゃないよね?
「では………開始っ!」
審判のフラン団長が、魔法で狼煙を上げる。ついに始まってしまった。
「下がれ!」
ジルコットさんの指示に慌てて後ろへ跳べば、さっきまで私が立っていた場所には焼け焦げた跡が。…え?
「チッ……」
「ちょ…これ!私の事殺す気だったんじゃないですかぁ?!」
文句を言うも、次々とレーザーのように炎が飛んでくる為足がタップダンス状態だ。よく避けれてるな私!
「随分と露骨な新人いびりだな?」
「そいつが新人ならうちの新人はなんだって話なんだが」
「私達は眼中にないってわけ?ナメた真似してくれるじゃないの」
「ふん、昨日は何も出来なかったくせに大口だけは叩きやがる」
私と、攻撃してきている魔法師を除いてバチバチと火花が散っている。どうしよう、抜け出せないんだけれど。
「サシャ、頑張れ。なんとか倒して加勢する」
「無理に反撃しなくていいからね!現状維持よ!」
「一番厳しくないですか?!」
叫んでも二人は走って行ってしまい、自力で脱出するしかないのだと悟る。けれど、こうも動かされては…狙いが定まらないから魔法は当たらないだろうし、剣を投げたって…
「……あ!」
そういえば、こういう時に使える魔法を団長に教わっていたんだったと急いで右手を魔法師へ向ける。
「ふははっ!お前の魔法は当たらんぞぉ!」
高笑いしていられるのも今のうちだと、魔力を放出した。
「えいっ!」
放った雷の球は、ヘロヘロと男に向かっていく。それを見て更に高笑いが激しくなるも、奴は気付いていない。
私の手と球は、まだ繋がっているのだ。
たとえヘロヘロで遅くとも問題はない。男に球が近付いた時を見計らい、左手を右手に添える。次に使うのは土だ。
雷の紐を辿り、球まで土に変化したその時。私はそれを思い切り横へ振った。
ブォンッ!
「おわぁっ?!」
狙い通り攻撃の手が止んだのを確認し、まずは肩で息を整える。地味に辛い攻撃だったな…!
「おまっ…な、なんだ今のはっ?!」
「え…なんだって言われても…?」
相手の攻撃をやめさせたい時。油断しているのが前提だが、こうしろと団長に教わった方法である。
攻撃目的ではないので大振りでよく、ぴったり狙えてなくても構わないので私でも使えたのだ。
まずヘロヘロ球で注目を集め、タイミングを見て一気に土へと変える。最初から土だと警戒させてしまうからだ。
即席ハンマーが出来たら振り回し、すぐに解除。残したままだと、相手に力があれば逆にこちらが振り回される。解除は早ければ早い程良いと言っていた。
使ったのは初めてだったが上手くいって良かったと内心安堵していれば、また魔法師が攻撃してくる。休ませる気はないらしい。
…当たりたくは、ない。体は頑丈だとしても当たれば痛いのだ。だったら避ければいい話なのだが、私に完璧に避ける技術はない。
相手に合わせこちらも魔法を放つが、防壁に遮られる。えぇっ、ずるい…!
「私防壁出せないのに!」
「ははは!距離を取ればなんてことないのだ!」
偉そうなのがなんかムカつくのだが、近付けないし魔法は魔力の無駄遣いになるし…もうどうにも……
……あ。
ふと、思い付く。防壁は無理だが、それに代わるものを出せば良いんじゃないか?それこそ土の壁なんてどうだろう。
構築しようと手をかざしたその時、ジルコットさんに名を叫ばれ振り返る。と。
「うわっ、危なっ?!」
「っつー…!」
今度は、騎士がとんできた。どうやらジルコットさんに投げ飛ばされたようだ。やたらと私にいろいろ飛んでくるけれど、不運になる呪いとかかかってないよね?
わざわざ駆け寄ってきた彼に、気をつけてくださいよと注意しておく。しかし魔法師の攻撃も止まったし、タイミングは良かったのかもしれない…複雑だけど。
「まとまった方が良さそうだな。ミアはどうしてる?」
前方を見てくれているジルコットさんの代わりにミアさんを探すと、彼女はちょうど魔法師を棍棒で殴りつけたところだった。なんてタイミング…!
「た、倒したかもしれないです…!」
目が合ったので呼んでみれば、軽く息切れしながらもこちらへ来てくれたので無事合流できホッとする。そうだよね、個人でバラけちゃダメだよ団体戦なのに。
…まぁ、最初にあぁされたら仕方なかったのかもしれないけれど。挑発っぽかったもんなぁ。
「いけると思ったんだが、案外しつこくてな。一人にさせて悪かったな、サシャ」
「私は多分やったわよ!…すっごい、うざかったけど!」
ミアさんも私と同じような事をやられていたらしい。当たるのを覚悟で突っ込んだという彼女の服は、ところどころ焼け焦げていた。
私が出来なかった事を平気でやった先輩に、尊敬すると同時に申し訳なく思う。こっちも構わず突っ込んでいれば、もしかしたらもっと状況が良かったかもしれない。
勇気を、出さなければ。
「サシャは少し下がって魔法師を牽制してくれ。俺とミアで叩こう」
「わかりました」
「了解。まずは…こいつね」
こいつと言われた騎士は起き上がり、剣を構えたところだった。彼らは合流しないのか。
「その新人、今日は随分と調子が悪そうだな?」
「何言ってんだ、絶好調だろ」
「本当、口だけは減らない…」
まだ対抗策はあるんだぜ!
そう騎士が叫んだ瞬間私の背後から土の動く音が聞こえて。
咄嗟に……やって、しまった。




