ベイビーちゃん
団長に教えてもらった従魔騎士団の控え室。私の顔を見た瞬間腹を抱えて笑い出したミアさんとジルコットさん、そしてフラン団長に、無性に腹が立った。他人事だと思って…!
「…あ!ちょっとボス…!どうすんの、あんな事してっ…!」
(やぁレディ!普段見ている君を真似て動いたんだ。完璧だっただろう?)
「………普段、私の何を見てるの?」
しかもそれは本当に私なのか。実は幻を見てるんじゃないか。
そこまで言えばボスはショックを受けたように固まり、三人はまた笑う。原因はわかってる。ボスがまだ、私の姿だからだろう。みんなにはウホウホ聞こえているはずだ。
「すみませんね、サシャさん。僕の提案のせいで…まさか、こんな面白い事になってしまうとは」
「ハッキリ面白いって言いましたね?」
悪びれた様子もなくフラン団長は笑う。
「だって面白いでしょう。新人の動きじゃなかったですよ、あれは。すごく話題になってますし」
そりゃなるだろうと反論すれば、じゃあどうします、と聞かれる。
このままボスでいくか、本物の私が出るか。
「…ボスのままの方が、勝率は上がりますよね」
「そうですねぇ。僕の魔力も持ちますし、喋らなければバレる事もありませんから続行は可能ですよ。ただ…」
「怪力新人、現る…か」
ジルコットさんの呟きに、私の覚悟は決まった。
「出ます。何がなんでも出ます。ボスありがとうね」
(む…レディがそう言うのなら…)
これ以上ボスに活躍させてはいけない…絶対に。ただでさえ普段の私が出来ない動きを見せたのだ。ここで止めなきゃ身の丈に合わない過大評価をされてしまう。…もう遅いかもしれないけど。
「では変体は解きますね。サシャさん、お礼は今度でいいですよ」
「あ、そういえば…お願いがあるって…?」
「えぇ、けれど大した事じゃありませんから。では僕はこれで」
頑張ってくださいね、とあっさり去っていったフラン団長に違和感を覚える。大した事じゃない…はずは、ない。あの人は頭のキレる人だ。簡単な頼み事なんてしないだろう。
だが今考えてもわからないものはわからないし、それよりも私達の第二試合。相手は誰なのか。
元の姿に戻ったボスを観客席へ向かわせ、三人で今行われている試合をチラ見する。窓が小さいけど仕方がない。
「あれは…魔法師二人と騎士一人か。後方特化だな」
「騎士三人にはキツイわねぇ…」
恐らく奴等が相手になるな、とジルコットさんが言う。魔法師二人の方か。
「事前欠場も多かったらしくてな。俺達の次戦は明日だが、このまま試合見てくぞ。情報は多い方がいい」
「そうね。じゃあ、観客席行く?」
カトリーヌが心配なのよね、と言うミアさんに同意し、三人揃って観客席へと向かっ………たのは良いのだが。
すれ違う人々が私を指差しているのは、気のせいかな?そんなに注目しないでほしいんだけど。私自身は何もしていないのに。
しかしざわめきの中、騎士を一撃で…と聞こえた瞬間。再び、視界が潤んだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ちょっとなんなの…!反則級の可愛さじゃないっ!」
アヒル達を、忘れていた。
雛を見るなり掬い上げ、スリスリと頬擦りするミアさんの気持ちはよくわかる。私もそうしたい。一羽でいいからこちらへ来ないだろうか。
「ロンメリックか、珍しいな」
「トトのお嫁さん候補なんですよ。可愛いでしょう?」
「…子持ちじゃねぇか」
「なによ、いいじゃない。あんたそういう偏見持ってたわけ?」
そこまで言ってないだろ!と慌てるジルコットさんを見上げる、つぶらな瞳。うーん…やりづらいなぁ。
あざと可愛いアヒルを眺めていれば、モモとボスが寄ってくる。おや、ヤキモチだろうか?
ニヤニヤしながら、二匹が一番可愛いよと撫でようとした手は…途中で、止まった。
(契約してやれ)
「……ん?」
(レディ、私からもお願いだ。彼女と…仮で良いから契約してあげてくれないだろうか?)
「待って、言ってる意味がわからない」
何故私がアヒルと契約しなければならないのか。仮だとしても、理由がない。どうしてそうなったのか、きちんと説明してくれないと。
(いや、なに…我々魔獣は、自然から魔力をいただき、生きているだろう?勿論普段の食事も必要だが…第二の酸素のようなものさ)
「うん、知ってる。契約したら、自然からじゃなくて契約者から貰うんだよね?」
(その通り。彼女も今までそうしてきてたんだが…トト君といるとなると、それができないんだ)
「?なんで?」
ボスが言うには、従魔騎士団が問題らしい。
(トト君は既にプロポーズした。彼女も承諾し、オッド君も喜んだ)
「へぇ、いつの間に…」
(しかし契約しなければ、いられないだろう?私の仲間達は特例のようだし)
(だからオッドが契約すると言ったんだ。なのにあの鳥…首を振りやがって)
鳥とか言わないの、とモモを叱る。だが…オッドじゃ嫌だという事か?トトといたいんじゃないの?
(あの筋肉が、契約したいと思えるまでいてもいいと許可をくれたんだが…それも出来ないって気付いてな)
(自然界の魔力は、より強い方に流れるんだ。私の仲間達と彼女のベイビーちゃん達…)
あ、と気付く。
「雛に、魔力がいかないって事?」
(そうなのさ。親が与える事も可能だけれど、うちに来れば当然私の仲間達にばかり魔力は流れるだろう。すなわち…ベイビーちゃん達の、栄養が足りなくなる)
(オッドの野郎とはまだ契約したくない。だがトトとは一緒にいたい…だと。ワガママ鳥め)
(モモ君、お口が悪いよ。…けれど、レディ。君となら、仮で契約したいと言っているんだ)
君の魔力なら、雛達が元気に育ちそうだと言っていてね。
そう誇らしげに話すボスだが、これは…私一人じゃ決められない事だ。なんせトトの未来のお嫁さん。本来、これはオッドの役目だろう。
以前私の魔力が魔獣にとって魅力的だというのは聞いていたから、あまり動揺はない。なんの支障もないし。
ただ今回はオッドに申し訳なく、それでも、雛達の命がかかっているからと勇気を出し状況説明をした。
ら。
「なんだ、そんな事?僕は何も気にしてないから、サシャが良かったら契約してあげてよ」
「え……ほ、本当に気にしてない?気使ってない?」
なんでさ、と笑うオッドは、嘘をついてるようには見えなかった。
「それであの子がトトといてくれるなら、僕からもお願いするよ。…それに、仮だしね。いつか僕と契約したいと思ってくれるように、頑張るから」
だから、今回は頼むね。
そう言われては私は断れず、雛達の為に受け入れる覚悟を決めた。




