白いの黄色いの
(楓、見つけたぞ)
「良かった…やっとだね…!」
モモは鼻が利くので余裕かと思われたトト捜索だが、思った以上に苦戦してしまった。
会場内の屋台の匂いが強かったのだ。
そのせいで匂いの痕跡が途切れ何度もウロウロする羽目になったが、モモの執念でなんとか見つける事が出来た。王宮の外まで来たのは予想外だったけれど。
トトの後ろ姿に安堵し、足早に近付いた…のだが…
「…?モモ?白い頭が見えるのは、気のせいかな?」
問いかけても返事がない。という事は、きっとモモにも同じ光景が見えているのだろう。
距離が縮まるにつれどんどん鮮明に見える姿に、私は思わず口を覆った。
真っ白い体毛に、つぶらな瞳。嘴は黄色く、水掻きのついた足は黄色よりややオレンジ色だ。
まさか…まさか、トトが……
「しゅ、種族を超えた……愛っ…!」
(何言ってんだ)
鼻で小突かれたが仕方がないだろう、それ程の衝撃なんだから。
恐らく私以外のみんなも、トトが恋した相手は同じ猿だと思っていたはずだ。だけど実際は違った。
アヒル、だった。
私達に気付きもせずに、ウキキッ!グァグァ!と何やら会話をしている二匹は、とても可愛い。可愛いのだが……え、ちょっと驚き過ぎて思考が定まらないんだけど。
(早く戻るんだろ、さっさと連れてくぞ)
「あぁ、うん………いや……アヒル、かぁ……」
(…もういい、俺が連れてくる。待ってろ)
混乱している私の代わりにモモが接近し、二匹と交渉をはじめてくれる。ありがたいけど…何やら苦戦しているような…?
しかしそれは杞憂だったようで、モモの背中にトトが乗り、そしてアヒルも乗った。良かった…これでひとまず戻れる、
(乗れ楓。寄るところが出来た)
「…えっ?そんな時間は、」
(喋ってる時間が勿体ないだろうが………チッ)
「うぉわぁっ?!もっ……モモーっ?!」
舌打ちされたと理解した瞬間、私の襟首はモモの牙にガッチリ挟まれ宙ぶらりんに。更にそのまま物凄い速度で走り出すもんだから、どうにも出来ずー…
私は、森まで運ばれたのだった。
やっと地面に足をつけれたものの、両足はプルプルして使い物にならなさそうだ。だってめちゃくちゃ怖かった。首は持ってかれそうだったし、いつ体が地面に擦られるかとヒヤヒヤした。
しかも王宮とは正反対の森にまで来てしまい、時間を考えるとなかなかに厳しい。もしも間に合わなかったら…従魔騎士団は、棄権…?!
なんて事をしてくれたんだとモモに文句を言おうとした私の目の前に、黄色い毛玉がいくつも飛び込んでくる。……ん?
「ピヨッ!」
「っ………!」
アヒルの……雛、だとっ…?!
ヒヨコより大きいが鳴き声は変わらないようで、よちよちと歩き何故か私によじ登ってくる。なんだコレ。どうしたらいいんだ。
というか…
「き、既婚者さん……?!」
(いや、違う)
ここに来てやっと説明してくれたモモだが、私は余計どうしたら良いかわからなくなったのだった。
彼女の言い分曰く。デートの約束をしたは良いが待ちきれず、衝動的に会いに来てしまったそうだ。だがあまりの人間の多さに驚き、最初は森へ帰ろうとしたらしい。
そこをトトが発見し、追いかけた。
トトも会場の熱気にあてられ興奮していたのか、ついデート前に交際を申し込んでしまったそうだ。
アヒルは喜んだが、実は最近夫と別れたばかりであり、幼い子どもが三羽いる事を告げ…トトはそれを、受け入れた。
その直後に私達が到着したらしい。タイミングは良かったのだろうが…内容が、もう…一人では抱えられないくらい衝撃的だ。
まさか子どももいたなんて。そもそもアヒルだなんて。トトの懐の大きさには感動したが、オッドはどうするのだろうか。
(会場戻る前に、森に残して来た子どもが心配だって言うから…何かあっても嫌だったしな)
「…うん。私も知ってたらそうしてたと思う。モモの判断は間違ってないよ」
相変わらず私の膝の上でピヨピヨ鳴く雛達が可愛すぎて、ずっとここにいたい気持ちが強くなるもハッとする。そうだ、団体戦…!
「とりあえず全員モモに乗って…急いで戻ろう!時間やばい!」
「グァッ?!」
「んー…!何言ってるかわかんないけど、みんな一緒でいいから行くよ!」
(合ってたぞ。自分達もいいのかと聞いてた)
それは嬉しいけど、とにかく急がなきゃいけない。ギリギリでも間に合えばなんとかなる…!
モモに乗り、私の肩にはトト。腕にアヒルと雛三羽を抱え、再び猛ダッシュして王宮へと戻る。
しかし無情にも…団体戦は、始まっていたのだった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
会場に着き、さっきまでいた席にミアさんとジルコットさんが居らず焦る。真下を見れば戦っている場にはいないので、間に合ったのかもしれない…!
オッドに駆け寄りトトとアヒルを手渡そうとしたのだが、私を見るなり彼は慌ててタオルを頭に被せてきた。ちょっと前見えないんですけど?!
「何すんのオッド、」
「しーっ!出来れば喋らないで!」
意味がわからなさすぎる。
けれど団体戦が、と小声で言えば、オッドも小声で大丈夫だからと返してきた。
「何が大丈夫?私メンバーなんだけど…」
「とりあえず大丈夫だから、座って。あぁ、トトお帰り…!心配したんだよ!」
ありがとう、と満面の笑みを向けられても釈然としない。しかしオッドが再び座って、と…真顔で言ってきた為、大人しく座る。何故か逆らっちゃいけない気がした。
「ねぇ、もしかして…この子達って、」
「あ、そうそう。トトの好きな子。子どももいるけど…」
「本当にっ?!うわぁ、なんて可愛いんだろう…!僕はオッド!どうか今後もよろしくね!」
どうやら、別種族なのが気になるのは私だけのようだ。
アヒルを抱き上げ喜ぶオッドに、雛達もピヨピヨ鳴いて擦り寄っていく。羨まし……じゃなくて。
大丈夫とはどういう事だと問い詰めたかったのに、今度は団長とベルさんが戻ってきた。手には紙袋…あぁ、昼食を買いに行っていたのか。
「おっ、戻ったんだな!全員無事で何より!」
「なんか増えてるっスけど……まさかまた契約、」
「違います、トトの彼女……と、子ども達です」
へぇ、なんて雛を突っついたベルさんの指は、すぐにトトに噛まれていた。何をやっているんだこの人は。
「…そうだ、団長!私っ!下に行かなくちゃ、」
「あー……とりあえず、いいんだ。まぁ座って…ほら!飯奢るって言っただろ?たくさん食え!」
「むぐっ?!」
あり得ない事にサンドイッチを無理矢理詰め込まれ、一瞬呼吸が出来なかった。かといって一度口に入れたものを出すなんて出来ず、頑張って咀嚼していく。
膝に落ちたパン屑を雛達が一生懸命拾っていくのがくすぐったく、そして可愛くもあり…いろいろ悶えながらもなんとか全て飲み込む。
そうこうしている間に従魔騎士団、と陛下の声が聞こえて。
身を乗り出して見えた光景に、私は、絶句した。
「なんで……私がいるのっ…?!」




