開催
早くも国内強者決定戦(仮)の日が来てしまった。
この日は朝からみんなのテンションが高く、それに影響された従魔達もはしゃいでいた。うちの子達は…ちょっと、理由が違ったけれど。
(いいか、楓。なんとしてもブラシと肉を勝ち取れ)
(私のネクタイも期待しているよ。あれがあれば、私の魅力もより一層輝くというものさ!)
「あ、はい…」
心配は、してくれないのね…。
それもそうかと納得はしてしまうけれど。
褒美に負けつい出場を決めてしまったが、騙されたと言っても過言ではなかったのだ。
従魔騎士団の代表として出るからには、よっぽどの事がない限り棄権は許さないと笑顔の団長に釘を刺されている。更にオッドはみんなの従魔と親睦を深めており、引率は完璧。
猿系ならなんでも来いの彼がルルガドルル達に好かれるのも早く、そんなに言う事を聞くならと陛下から特別観客席もいただいて来ていた。その優秀さに脱帽する。
そんなわけで負けるまで出続けなければならない私は、最後まで出場する事が条件のようなものだと後で気付いたのだった。知っていたらもっとよく考えたのに…!
「三日間の開催とは、陛下もまた思い切ったっスねぇ」
「だよなぁ。警備の強化が大変だとドリュー達がボヤいてて…俺は目を合わせられなかった」
「まぁ、全く協力しないわけじゃないですから…ルルガドルル部隊が会場担当ですし」
陛下からいただいたという特別観客席は一定の間隔で配置されており、何かあった場合はそこからルルガドルルが出場する事になっていた。本当に抜け目のない王様だと思う。
会場のある王宮へ到着すると、門を潜ってからすぐにいくつかの屋台が出ていた。なんだかお祭りのようでワクワクする。
「あっ、あのお肉美味しそう!買う時間…は、ないですよねぇ…」
「そうだな。対戦表も見にいかなきゃならんし……あぁ、昼飯の時に買ったらどうだ?」
奢ってやるぞ!と気前の良い団長に早めに礼を言っておく。うちの子達の分も是非お願いします!
「それにしてもすごいわねぇ。こんなに賑わうと思ってなかったわ」
「そっスねー。まぁ今までこんな機会もなかったし…家族がいる人はいいんじゃないスか?」
確かに、身内の勇姿を危険なく見られるのは良い機会だと思う。カイルの暴挙で陛下が思い付いたという事実がなければ、私ももっと楽しめたかもしれない。
従魔連れの集団が歩いていれば目立つもので、いろんな人から手を振られるのは気恥ずかしかった。あ、肉屋のおじさんとおばさんだ!
「ようサシャ!対戦表見たぞ!頑張れよ!」
「モモちゃんとボスちゃんもいっぱい応援するのよ!」
ヒラヒラと手を振り返していれば、モモにあいつを呼び戻せなんて言われて。見れば、ボスが…子ども達の前で、ポーズを決めていた。
「うっわぁー!かっけぇ!本物のルルガドルル初めて見た!」
「知ってるか?主人になると乗れるんだぜ!こないだ乗ってんの見た!」
「ええっ、いいなぁ…!俺も乗りたい…!」
「すげぇムキムキ…!なぁ父ちゃん!なんでルルガドルルは出たらダメなんだ?!優勝間違いなしだろ!」
だからだよ、なんて困り顔で子どもに説明する父親を見て申し訳なく思う。ごめんなさいねうちのボスが。
なんでかボディビルダーがやるようなポーズを次々と決めているボスを呼び戻し、気を取り直して会場へ向かう。
陛下による挨拶は全てが終わった後にしかないようで、今日は昼まで個人戦。昼食を挟み団体戦が行われるそうだ。
対戦表を見に行った団長とジルコットさんを見送り、私も控え室に行かなければならない為モモとボスに向き直った。
「じゃあ…行ってくるね。全部終わったらご褒美だから、待っててね」
(全員一撃で決めて来い。そうすれば肉は目の前だ)
(ふふっ…モモ君、無理を言ってはいけないよ。いいかいレディ、私との特訓で身につけた秘技…危ないと思ったら、すぐに使うんだ)
わかったね?と念を押されるも、先日急遽行われたボスによる魔法の特訓を思い出すと…素直に頷けはしなかった。結局上手くいかなかったしなぁ…。
「とりあえず、わかった。…オッド、ごめんね。二匹をよろしく」
「うん、任せて!いっぱいジャーキーと果物持って来たし大丈夫!」
ちょっと心配だけれど、今日まで言い聞かせてきたし信じるしかないだろう。従魔の乱入で失格は、さすがに応援を受けた手前避けたい。
少しは寂しがってくれるかなと思っていたのに、嬉々としてジャーキー…もといオッドに着いて行ったモモを見て、こちらが寂しくなった。
ちなみにルルガドルル達は後で、試合が始まってから騎士団の誰かが連れてくる事になっている。何度か一緒に訓練すれば仲間とは認めてくれるので、騎士団でも平気なのだ。
雌達は相変わらず私だけに厳しいけれど…。
「団体戦は昼発表だった。だが…面白い事になったぞ」
「いや…あれは面白いのか…?」
戻って来た二人はメモをとってきてくれたようで、全員でそれを覗き見る。名前くらいは私だって読めるさ!……多分、だけど。
「あら…団長、いきなりドリュー団長となの?」
「そうなんだ。しかも初戦だし…運の悪いことに、俺の方に腕利きが集中してるし…」
見れば、団長とベルさんはお互い順調に勝ち上がれば準決勝で当たる事になっていた。問題のカイルはといえば、団長曰く大したことない人達の中。だが決勝まで上がれば戦う可能性はある。
「…これって、決めたの誰なんです?」
「陛下だと思うぞ」
その一言で察した。陛下の事だ、この方が面白いとかいって決めたに違いない。きっとそうだ。
しかし、これだけは物申したい。
「団長とベルさんが、当たるかもなんですね…」
「そうねぇ…しかもドリュー団長、結構強いのよ」
いきなり危ないわね、なんて言うミアさんに団長は苦笑いだ。
「まぁ、なんとかなるさ。この日の為にたくさん訓練してきたからな!筋肉の調子もいいんだ!」
通常運転の団長に、どこか安心する。この人が負ける姿はどうにも想像出来ないのだ。
けれどベルさんにも負けてほしくないという気持ちもあって、いざそうなったらどちらを応援しようかすごく悩んだ。なんで出たんだろう、ベルさん。
「俺と当たるまで負けは許されないっスよ、団長」
「うむ!ベルもな!」
握手を交わす二人だが、どうにも力が入りすぎてるように見えるのは、私だけだろうか。




