やっぱそうなる
缶詰の作成は、順調に進んでいるらしい。
真空状態にするのに手間取ったそうだが恐らく上手くいっただろうとの事で、現在は日持ちの検証中。わかってはいたが、なかなか先は長そうである。
お利口に待っていてくれるモモにちょっと高級なジャーキーをあげてご機嫌を取りつつ、今日はオッドに例の話をする。
こういうのは早い方が良いものさ…なんてボスが言ったもんだから、トトに急かされたのだ。慌てる小猿は可愛かった。
「オッドー。ちょっと話したい事あるんだけど、いい?」
「うん?何かな………はっ!まさか、トトが何かやった…?!ついにサシャの毛まで、」
「ううん大丈夫。私の毛はむしられてないから大丈夫だよ」
私の髪の毛を凝視するオッドの視線が何か嫌だったので、たまたま通りがかったベルさんの背を捕まえ隠れた。
「うおっ、いきなりなんスかぁ?!」
「ごめんなさい、ちょっと…」
「?トトじゃないなら、何の話?」
「いやトトの話なんだけど。…たとえば、トトに恋人が出来たとしたら…どう思う?」
まずはやんわり聞いてくれと言われていたのでそうしたのだが、一瞬間が空いたもののすぐに満面の笑みになったオッドに安堵する。何故かベルさんもだけど。
「トトに恋人だなんて……考えただけで幸せだよ。僕興奮して眠れないかも」
「恋バナっスね?!なになに、そんな事聞くって事は、恋人出来たんスか?!」
「あっ、ベルさんの馬鹿…!そんな大きい声出したらっ!」
二階からバタバタと聞こえる足音に、溜め息を吐く。ほら来た。
「恋人ぉ?!誰によっ?!私より先に幸せになろうったってそうはいかないんだからね!」
「俺より先にモテた奴は誰だ?詳しく話を聞かせてくれ!」
どうしよう、面倒くさい事になった。
恋人、の部分だけ拾って飛んで来ただろう二人を、勘違いさせた元凶であるベルさんに任せ自分はオッドに向かい合う。あの状態の二人の相手はしたくない。
「あのね、最近トトが森で可愛い子と知り合いになったんだって。それでデートに誘いたいらしいんだけど、最近オッド忙しいから誘ってもいいか迷ってるみたいで…」
「えぇっ!そうなの?!僕なんて気にせず誘っていいのに…!むしろ絶対!結ばれてほしい…!」
そうすれば、いつか幸せな家庭が…!なんてキラキラした目で天井を見上げるオッドに引きつつ、この反応ならやはり心配はいらなかったと安堵する。
早速大丈夫だったと教えてあげようと一歩踏み出したのだが、足が、動かない。……………え?
「…オッド?なんで私の足踏んで、」
「ねぇサシャ。やっぱり代わってよ」
足を踏まれた上に肩を組まれ、手首まで握られた。ちょっと待って…この容赦のなさは、何…?!こんなオッド見た事ないんだけど!
「む、無理でしょ。出場者はもう決まって、」
「団長!確か、理由があれば出場者変更出来ましたよね?」
「ん?あぁ、理由があればな」
そんなのないでしょと言えば、ないなら作ればいいと返される。
「僕、今から骨でも折るよ」
「わーーっ?!ちょ、ちょっと待って!ほんとに待って!何?!なんで骨折るの?!」
「だって、理由が必要だから。僕…どうしても、トトの恋を応援したいんだ………付きっきりで」
ぐっ、そうきたか…!
気持ちがわかるだけに何も言えなくなってしまう。私だって、もしモモがそうなったら…付きっきりは怒られるだろうから、隠れながら見守るだろう。毎日。
骨を折る発言を聞いていた他のみんなも、気持ちはわかるがそれだけはやめろと止めている。そんな中団長は、あっさりと爆弾を投下した。
「トトの一大事が理由になるから、骨は折らんでいいぞ!てなわけで団体戦はオッドの代わりにサシャとする!」
「?!いっ、異議あり!」
「認めんっ!」
そんなっ?!
あまりにも酷いとミアさんに泣きつくも、こうなったら無理よ、と見捨てられた。こんな急展開……上手く逃れたと思ってたのに。出なくていいって言ってたくせに、男に二言があっていいのか。
「心の準備が…!大体私、オッドのように戦えないですよ!弓も剣も魔法も未熟だし、」
「なんとかなるわよ。じゃあ私、ジルコットに伝えてくるわね」
「え?!ちょっ、ジルコットさんにまで言ったら後戻り出来なく…!」
ミアさんを引き止めようと伸ばした手は、団長に掴まれた。
「認めんとは言ったが…やりたくないのをやらせるのも、何か違うとは思う。なんでサシャにはやる気になる褒美をやろう!」
また褒美…?!なんなの、お国柄なの?それともご褒美流行ってるの?
いりませんと言いたかったが、オッドに口を塞がれ喋れなくされる。必死か…!
「お前にはモモ関連だな。うーむ………何がいいか」
「団長ー。この間チャトラ用に、でっかいブラシ特注してなかったっスか?」
ピクリと反応する。
「ん?あぁ、アレか。確かにしたが…」
「そのブラシと高級肉。あと…数日の休暇……なんかはどうっスかねぇ?」
これで釣れるっしょ、と言いたげにニヤニヤしているベルさんに、反論は出来なかった。
欲しい。全部、欲しい…!
この間やっと前借りしていたお給料を完済出来たばかりだし、モモのオヤツの高級ジャーキーは手作りだ。みんなと別にあげてる分なので勿論自費。
正直…懐が、痛い。
なのでジャーキーの原料である高級お肉は喉から手が出る程欲しいし、特注の巨大ブラシは高すぎてまだ買えなかったのだ。それに数日の休暇…
そんなんあったら、しばらくモモとイチャイチャ出来るではないか。
そっとオッドの手を外す。
「…出れば……いいんですね?」
「そうだな、出てくれるならやろう。人数不足で欠場はちょっと…従魔騎士団のプライドがなぁ…」
「オマケでボスにネクタイもあげるっスよ。欲しがってたはずっス」
よく見てるなと感心する。確かにボスは、ネクタイを欲しがっていた。
しかしネクタイは本来正装時につけるものである為高かったのだ。もうちょっと我慢してねと言っていたのだが…それもくれるって?
「出ましょう。ただ、勝てなくても文句は言わないでくださいね」
「おっ、良かった!やる気が出たな!」
「チョロ……」
ベルさんの呆れた視線には気付かないふりをした。
まんまと物に釣られてしまったが、悔しさなんて微塵もない。だって出るだけでいいって言うし、勝ったらとも言われていないのだから。
仲間である人達と戦うのに多少抵抗があったのと、ミアさんとジルコットさんの足を引っ張るのは確実だったので…それが嫌で渋っていたのだ。
まぁ、出ると決まったからには今出せる全力ではいくけれど。どこまでまともに戦えるかは…不安でしかない。
肉、ブラシ、休暇……あとネクタイ。
くれるって言うなら出ますとも!モモとボスの喜ぶ顔が見たいからね!
だがもしくれなかった場合は、全力でゴリラ達をけしかけるだけだ……ベルさんに。団長は、ほら…返り討ちにされそうだから。




