やる気は大事
王宮での事件から数日後、各団に通達書が送られてきた。
「30日後か…まぁ、準備期間となると妥当だな」
「それはいいけど、王宮の訓練場ですって?」
広すぎない?と言うミアさんは、壁に貼られた通達書をジッと眺めている。私も見てみるが、当然ながら思いっきり英語で読めない。これは正直に聞いた方が良さそうだ。
「他にはなんて書いてあるんですか?」
「あぁ、あんた文字読めなかったものね」
いいわ、読んであげると快く手招きしてくれたので近寄る。ジルコットさんはもう良いのか、ムムスケを連れ野菜の皮剥きに向かった。一度でいいから見てみたいんだけど、絶対ダメだと見せてくれないんだよなぁ…どうやっているのか気になりすぎるんだけど。
「参加の期限はあと五日で、トーナメント方式にするみたいよ。対戦表の発表は当日ね」
「なるほど…直前まで、誰と戦うかわからないって事ですね」
「そうなるわね。あと…開催するにあたって、国民に限り観戦を許可するそうよ。賛同する声が多ければ行事化すると書いてあるわ。…だから訓練場なのね」
随分思い切ったなと驚くも、陛下の性格を想像し、納得した。面白そうだね!なんて簡単に決めてそうだ。
「合わせて警備の強化…これはいいわね、とばすわ。えーと、あとは…あぁあった。武器、魔法の使用は可。従魔連れでの参加は不可………ま、当たり前よねー。カトリーヌ、ちょっとやる気だったんだけれど」
「従魔がダメなのはわかりますけど、武器って…木製とかじゃなく…?」
「そんな事は書いてないわね。意思表示、または審判の判断により勝敗を決定する……生死に関わる過度な攻撃は厳禁だって。まぁ大丈夫じゃない?」
軽すぎて不安になるのは、私だけだろうか。でもきっと止める人も、治療する人もいるのだろう。これが決定事項として回って来たのなら問題はないはずだ。
ちなみに団体戦の一位には、賞金と…組んだチームへ陛下より直々に称号が与えられるそうだ。個人戦一位には、同じく賞金と大会の命名権…
あぁ、なるほど。それでさっきジルコットさんが、国内強者決定戦(仮)か…だっせぇ。と言っていたのか。……これ…もしかして、名前考えるのが面倒くさかっただけなのでは…?
他にもいろいろ書かれているらしいが、ミアさんはどっちに出ようかしら…と悩んでいる。個人戦も選択肢に入れられるのがすごい。
「僕、辞退したいな…」
通りがかったオッドがそう言うが、頭に乗るトトは怒っておりめちゃくちゃに彼の髪を引っ張っていた。しかし当の本人は全く気にしておらず、ちょっと…いや、かなり心配になる。いつかオッドの髪の毛なくなるんじゃないだろうか。
「そんなつまらない事しないでよ。賞金ほしくないの?」
「この間陛下からいただいたし…」
「…忘れてた。そういやあんた、現金頼んでたわね」
それでも!とビシッと指を突きつけるミアさんだが、何故か私にまで……えっ、なんで?!
「従魔騎士団員として、少しはやる気出しなさいよ!それにカイルを合法的にぶちのめすチャンスなのよ?!」
「ちょっとミアさん?!物騒すぎませんか?!」
「なんでよ。生死に関わる過度な攻撃は禁止…という事は、そこに至らなきゃいいだけじゃない」
大体あいつ、ネチネチした性格だし昔から気に食わなかったのよ。
そう喋り出したミアさんの口は止まらず、カイルの悪口がどんどん出てきてどう止めたら良いのかわからなくなった。これは相当合わないんだな…。
オッドと顔を見合わせるも、無言で首を横に振られる。無理か、そうか。
この催しがなければ、ミアさんはもう手を出していたかもしれない。そう思う程の勢いに、企画してくれた陛下に少しだけ感謝した。身内から犯罪者が出ずに済んで何よりである。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
団長が、悩んでいる。
ほぼなんでも即決してしまう彼がそうなるのは珍しく、ついジロジロ見てしまった。
(あいつ、帰ってきてからずっとあぁしてるぞ)
「えぇー…じゃあご飯も食べてないって事?」
いつも通り森の見回りをし、宿舎に帰ってきたのは夕方だ。食事を済ませ今日もゴリラ達の訓練に参加しようと庭へ出れば、直立し頭を抱える団長を見つけたわけで。最初は二度見してしまった。
「グルゥ……」
「ん?どしたのチャトラ」
(…団体戦のメンバーを、決められないんだと)
あぁ、と納得した。嫌がる私とオッドを除いても四人いる。団体戦は、三人。団長の性格だと自分も出たいだろうし、誰を外すか…そりゃ悩みもするだろう。
最近彼に懐いているゴリラ数頭が心配そうに群がる中、私に出来る事は何もないとその場を後にしようとした。
けれど捕まった。くっ、素早すぎて反応出来なかったよ…!
「助けてくれないか、サシャ」
「無理です……と、言いたいところですけど…」
団長がこんなんでは、ゴリラ達もチャトラも落ち着かない。そうなるとうちのボスもそわそわし出すので、無視するわけにはいかなかった。
「私に助けられるんですか?」
「わからん。だが俺は、悩んでいる」
「…それは見ればわかりましたけど」
芝に座った団長に合わせてしゃがめば従魔達も真似するのがとても可愛くて、ニヤけそうになるのを必死に堪える。危ない危ない…空気は読まなければ。
「サシャは、誰が個人戦に出るのか聞いているか?」
「いいえ全く。うちは、団長が出るんですよね?」
出場者の発表は明後日だったはずだ。そして、期限は明日に迫っている。団長が焦るのも無理はないのかもしれない。
「俺は個人戦に出る。カイルも個人戦と聞いたからな、まぁ組み合わせ次第だが…。あとベルもだ。どちらも出る事は出来ないから、俺とベルは除外。ミアとジルコットは出たがってて決定でいいんだが…そうなると、あと一人がオッドかサシャになる」
「え…?!どっちもはダメなんですか?!」
「あぁ。見せ場は平等に、と陛下が」
「そんな平等いらないのに…!」
嘆いても陛下の発言は覆せないので、諦めるしかないのだが。こうなったらオッドに頼もうそうしよう。モモとボスなしで戦うなんて、私には出来ない。
それにしても…ジルコットさんならともかく、ベルさんが個人戦とは意外すぎる。どちらかと言えば戦闘は苦手そうに見えるのに。
「団長、オッドでいきましょう。私はほら…訓練して日が浅いですし。出たら負けちゃいますよ」
「そんな事はないぞ?サシャは努力家だしな。毎日かかさず訓練してるのは知ってる。その結果がついて来ないはずはないし、いざという時の思い切りの良さは俺も見習いたいくらいだ」
いきなりのベタ褒めについ言葉が詰まる。そ、そんな事言われたって…!じゃあ出ますとは、言わない…!絶対後悔する!
「だがオッドもなぁ…弓の腕は一流だし、力はないが魔法で補える。俺としてはどちらも出したいんだ」
経験にはなるだろ?と言う団長に、確かにと思いつつ反論する。
「でも、やる気って大事じゃないですか」
「大事だな」
「私はすごくやる気ないですよ。むしろ応援の方がやる気出ます」
そうなのか?と首を傾げる団長に頷く。するとややあって、オッドにするか、と呟いたので小さくガッツポーズをした。
「あいつも男だ。口では嫌と言っていても、いざとなれば本気で戦うだろう。よく考えたら魔法支援も出来るし、ちょうどいいな!」
どうやら解決したようで、ホッと息を吐く。私にそういう事は、まだ早いと思うんだ………うん。
後ろを振り返ればモモはそれでいいと頷いていたが、ボスは何故参加しないんだい?と騒いでいた。…従魔は出られないの、忘れてないかな?




