陛下の提案
「総当たり戦、やらない?」
「はじまった…」
ドリュー団長は溜め息を吐き、フラン団長はやれやれと首を横に振る。ガイリス団長は、困った笑みを浮かべていた。
「陛下、またそういう…ノリで何かを企画するの、やめましょう。戦争も終わったばかりなんですよ?」
「何も今すぐとは言ってないだろう?それにノリなんかじゃないよ、きちんと理由はある」
いいかい、と真剣な表情になった陛下にこちらも姿勢を正す。モモはステーキを平らげ、いつの間にか背後に来ていた。嬉しい事に顔が近いのだが、結構肉肉しい香りが…。
「カイルって、僕から見てもそこまで腕が立つ方ではない…のに、本人はガイリスより強いつもりでいる。……訓練以外で剣を交えるのは、禁止していたね?」
「おう、全員きちんと守ってるぜ」
「そう!それがいけなかったんだ」
全員が首を傾げた。良い事なんじゃないの…?
「お互いの本気の実力を知らないだろう?」
「…言われてみれば、そうですね。大体このくらいの強さでは…と予想するくらいで…」
「だよね。だからカイルも、ガイリスより強いと勘違いしているんだよ。もしかしたら言っていないだけで他にもそう思っている者がいるかもしれない…勿論、対象はガイリスに限らないよ?」
ピクリ、とフラン団長とドリュー団長が反応する。
「だからここらで一度、力の上下関係をハッキリさせた方がいいと思ったんだ。仲が良いのは何よりだけど…それだけじゃ、困る事もあるだろう?」
陛下の言葉には同意せざるを得なかった。まさに今困っていると言っても過言ではないだろう。
確かに、強くもない上司に指示されたって嫌々従うだけだし…強さと中身、両方合わさってこそだろう。甘く見られたままではいざという時支障が出る可能性があるのもわかる。
強さを目の当たりにすれば、弱さを自覚している者にとって目標にもなるかもしれない。うん…良い案だと思います!
「反対意見はなさそうだね。じゃあ、いつにしようか?準備期間があった方がいいよね?」
やる気が出た団長達と陛下の口は止まらず、次から次へと出る案を聞いてる分には楽しいのだが…これ、いつまで続くのだろう?
ボスは楽しそうだが、モモなんか飽きて寝ちゃってる。私も決定事項を知れればそれで良いし…何よりジュードさんとの約束が気がかりで。
でも退席するには、口を挟まなきゃいけない。団長達はともかく、陛下の話はさすがに遮れない。
どうしようかな、と視線を彷徨わせていれば、いきなり背後から肩を叩かれビクッとする。
「え、………ジュードさん?!」
「お待たせしてしまったね。何やら大変な目に合ったと聞いたけど…怪我はないかい?」
大丈夫ですと返しつつ、陛下達の様子を伺う。この場にジュードさんがいても大丈夫なのだろうか。というかどうやって入ってきたんだろう…全然気付かなかった。
「やぁジュード。サシャなら、連れてっていいよ。なんならそっちの机空いてるし」
「ありがとうございます、陛下。ところで、一体なんの悪巧みですか?皆さん随分と楽しそうですが」
「ふふっ…内緒だよ。まぁそのうち発表するから」
どうやら陛下はご機嫌なようだ。
ジュードさんもそれ以上聞くのは諦めたらしく、空いていると言われた机にガチャガチャと缶を出していた。私もここで良いならと立ち上がり、見に行く。
最初に見た物とはだいぶ変わり、私が知る缶詰に近い形にはなっていた。大きすぎず小さすぎず、ちょうど良いのではないだろうか。
「どうかな…と言ってもこれ以上は、設備の関係で小さく出来ないんだけれど…」
「とても良いです!」
「そうかい?なら、この型で作っていくよ。また行き詰まったら呼び出してしまうかもしれないけど、いいかな?」
「勿論です。よろしくお願いします」
嬉しそうに笑ったジュードさんは、ふんふん匂いを嗅ぎにきたモモを撫でてくれた。可愛いねぇ、なんて…もしや犬好きなのだろうか?
さて、あちらの話はまだかかりそうだが、私はどうしたら良いのかな。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「対抗戦が行われるっ!」
夜ご飯を食べている最中に言うとは思わず、むせかけた。この人…タイミングという言葉を知らないのだろうか。
「対抗戦?そりゃまた、なんで」
ジルコットさんの問いに、それはだな!と喋り出す団長。みんな構わず食べ続けているので、私も手は止めない。今日は特製ローストビーフなのだ。
従魔達にも同じ物をあげているはずなのに、もう食べ終わったらしい。物欲しそうに窓から室内へ顔を突っ込んできている。あぁ、後でモモの涎拭かなきゃなぁ…すんごい床に垂れてる…。
「実は今日な、サシャが王宮でカイルに…」
私以外はみんな元々騎士団にいたのでカイルの事は知っており、団長から事件の内容を聞き食事の手を止め怒り出す。
私は…従魔をくれと言われ、正直かなりムカついたが時間がたってだいぶ気持ちが落ち着いた。それよりもあんな人にずっと恨まれているガイリス団長に同情する。
「へぇ…あいつ、随分調子乗ってんじゃない…」
「っスね。一回シメた方が良くないっスか?」
「まぁまぁ…落ち着いてくれ。俺だってイラついたさ。だがな、そこで対抗戦に繋がるわけだ」
どういう事よ、とミアさんが立ち上がる。最近思うけど、わりと短気だよね…ミアさん。
「自分の実力を知らない事が今回のカイルの暴走に繋がったんじゃないかと、陛下がな。そしてカイルのような奴が他にもいるかもしれない。だから一度公の場で戦って、実力をハッキリさせた方がいいだろうと…」
「それ、全員参加なんスか?」
「個人部門と、団体対抗戦がある。どちらも参加は自由だ!団体は各団は絶対で、それとは別に知り合いで組んで参加してもいいぞ」
ちなみに、と団長は全員を見渡す。
「必ず三人で組まなきゃならない。対戦方法はまだ議論中だが、うちも出なきゃならんからな。どう決めるか考え中だ!」
「え……だ、だって…従魔はダメなんですよね…?!僕、トトがいないと…!」
不安がるオッドに団長は、なんとかなる!なんて笑っていて。私もとても不安になると同時に、絡まれた事によりこんなに大事になると思わず、申し訳なくなった。
ミアさんとベルさん、ジルコットさんが何やらやる気を出す中、きっと私は応援だろうと従魔達を眺める。
戦えない分一生懸命サポートしよう。
そして不謹慎だけれど…みんなの戦う姿が楽しみだったりも、する。勉強になるだろうし、しっかり見なくちゃ!
(楓、それ食わないならくれ)
「ソースかけちゃったからこれはダメだよ」
唸られてもダメなもんはダメなのっ!




