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愛犬がいればなんでもできる!…気がする!  作者: にゃんころもち
第二章
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お騒がせ


止める間もなく抜かれた剣が、太陽の光を反射させる。なんなのこの人…めちゃくちゃだ…!



「どうすればいいか、わかるな?」


「っ…どちらも、私の大切な家族です!くれとか寄越せとか…冗談じゃない!」


「そうか、俺に逆らうんだな」



遠くでこちらに気付いた人達の騒ぐ声と、女性の悲鳴。何人かが駆け寄ってくるのはチラ見でわかってはいるが…どうして、こんな事に。


絡まれた時点で早く逃げるべきだったのか。


けれどこうなると誰が予想出来ただろう?モモは今にも飛び出しそうだし、ボスは格闘の構えだ。私服なのが悔やまれる…武器が、ない。


わざとそうしているのか、ゆっくりと近寄って来る男に恐怖心が増す。



「お前を殺せば、どちらも俺の物だ。そうすればガイリスより優秀だと証明出来る。団長の座も、」


「私を殺して…自分が捕まるとは、考えられないんですか…?!」


「それこそ有り得ないだろう?強力な従魔を従え、ガイリスに匹敵する力を持つこの俺を…誰が捕まえるというんだ。国の利益にならん事は、陛下はしない」



根本的にいろいろ間違っていると叫びたいが、これ以上刺激は出来ない。それに時間稼ぎも限界だ。


広い庭園で端にいたのが仇となり、向かって来てくれている人達はまだ距離がある。


こうなったら抵抗するしかないと、手に魔力を集中させようとして…気付く。


なんか、地響き…する?



(楓、乗れ。ボスもだ)


(わかったよ。おいでレディ)


「うわっ?!」



いきなりボスに抱えられ、モモの背へ。素早くその場を離れれば、当然男も追いかけて来ようと走った……のだが。


突如男の真下の芝が盛り上がり、パァン!と弾けた。


そして露出した土がモコモコと動き出し、吹っ飛んで腹這いになっていた男の四肢を固めだす。え………なんだ、これ。


誰かの魔法なのはわかるが、一瞬地雷かと思う程良い音がした。それに使用者が近くにいない…魔法の遠隔操作は、とても難しいと聞く。団長ですら五メートルが限界だと言い、私は教えてすらもらっていない。


そんな高度な事を、一体誰が。



「た、助けてもらった…のかな…?!」


(みたいだな。あいつの匂いがする)


「あいつ?誰の事、」



聞くまでもなかった。


遠くからものすごい勢いで飛んでくる黒いローブに、一人だけ思い当たる。あぁ…出来るだろうな、彼なら。


風を纏いながら優雅に着地したフラン団長は、ほぼ同着だった騎士達に指示を出し男を更に頑丈に拘束する。


安全だと確信したモモが近付けば、フラン団長の唯一見える口元が弧を描いた。



「間に合って良かったです、サシャさん…怪我はありませんか?」


「はい、おかげさまで…でもどうしてフラン団長が?」



来てくれたのは本当に助かったし嬉しかったが、到着が早すぎる気がする。さっきの今だし。


私の疑問に彼はニッコリ笑い、探してたんですよ、と。



「立派な従魔を二匹連れた女性が来ていると話題になってまして。サシャさんだとすぐにわかったので、この間話足りませんでしたし…お会いしたかったんです」


「また探されてたんですね、私」


「えぇ。そうしたら、偶然庭園を通りかかりまして。カイルが従魔を襲おうとしてると周りが騒いでいたので、急いだのです」



言ってる事は普通のようだが、やってる事はスゴ技の連発である。


空を飛んで来たのは重力魔法だろうし、土魔法の遠隔操作。更に今は視線もくれずにカイルと呼ばれた男の口に何やら布を突っ込んでいる。…多分、風魔法で…無理矢理。


さすがは魔法師団団長としか、言いようがない。



「さっさと連れてっちゃってくださいね」


「はっ!…君、すまなかったな。カイルは最近情緒不安定で…待機を命じられていたはずなんだが…」



口々に謝る騎士達に怪我はなかったからと返し、連行されていく男…カイルを見送る。今さん付けする心の余裕はないので呼び捨てで充分だ。



「さて、人も集まって来ましたし、場所を移しましょうか。最初からカイルが絡んでいたと目撃証言はありますが、サシャさんからも話を聞きたいので」


「それは構いませんが…あの、私ここでジュードさんを待っていて…」


「そうだったんですね。それなら伝言を頼みましょうか」



いつの間にか周りには野次馬がいっぱいだった。皆心配してくれるのは嬉しいけれど…あ、ちょっと!モモの尻尾は触らない方がいいですよ、嫌がるから!


どさくさに紛れモモに触れる輩が多く、行くなら早く行きましょうとフラン団長を急かす。彼はまた、笑った。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



特別に借りたという応接室にて、私は高そうなソファーに座りとても良い香りのする紅茶をいただいている。


ボスも隣に座って美しくカットされたフルーツに手をつけているし、モモもかつて慰労会で出されたような肉厚のステーキを何枚もいただき、夢中だ。


そして机を挟み、真向かいには何故か陛下の姿が。


両サイドにフラン団長と騎士団のドリュー団長がいて、何やらコソコソと喋っている。内容は聞こえないし陛下はにこやかだけど喋らないしで、紅茶を飲まないとこの空気に耐えられそうにない。


なくなるたびに注いでくれる親切なメイドさんのおかげで、もう六杯目である。お腹がたぷたぷしてきた。


何故誰も口を開かないのか。一番下っ端の私から喋り出すわけにもいかず、待つしかないのが辛い。


また紅茶を飲み干しメイドさんがティーポットに手をかけたその時、タイミング良く扉が開く。現れたのは、我らがガイリス団長だった。



「待たせて悪い!」


「やぁガイリス。こちらこそ悪いね、急に呼び出して」



やっと喋った陛下を見て、団長を待っていたんだと気付くも…ちょっと意地が悪いんじゃないだろうか。一言そう言ってくれればこんなに紅茶飲まなかったのに。


団長にソファーを譲ろうと立ち上がるも、グッと肩を押され戻される。そして無理矢理隣に座ってきたものだから、私はボスと団長に挟まれギチギチに詰まってしまった。動けないんですけど…


それを見て三人が笑った気がするのは、気のせいだと思いたい。



「既に聞いたと思うけど、サシャがカイルに襲われかけてね」


「改めて…うちのカイルが悪かった。言い訳はしねぇ」



ドリュー団長に頭を下げられ、どうしたら良いのかわからず慌てる。ちょっとボス、頷いてないで助けて…!



「それでね。見ていたっていう数人と、カイル本人に話は聞いたんだ。サシャからも聞いて照らし合わせたいんだけど、いいかな?」



勿論ですと頷く。そうして順を追って話していけば、陛下は満足そうに合ってるねと笑った。



「カイルは、従魔さえいればまだ団長になれると思っていてね。全く、それだけじゃないっていうのに」


「何故かガイリスにライバル意識持ってんだよなぁ…あいつ自身そんなに強いわけじゃねぇんだけど…」


「そうですよね。まずドリューに勝ってからものを言って欲しいです」



ガイリス団長が、カイルか…と呟く。



「あいつ、候補に入ってたか?」


「いいや。ほぼお前一択だっただろうが」


「サシャさんは知らないですよね。ガイリスは元々、騎士団団長だったんですよ。そしてドリューが副団長」


「えっ!そうだったんですか?!」



団長すごい!とはしゃぐも、ここにいるのは陛下に三団長だったと思い直し浮きかけた腰を戻す。でもすごいな、やっぱりなるべくしてなったんだ。


私が言った事は間違ってなかったと嬉しくなるも、みんなは微妙な表情だった。



「今は閉じ込めているけれど、一年以上も前の事をこんなに引きずっているんだ。きっとまだ諦めないだろうね」


「えー、それは面倒くさいなぁ。俺達だって忙しいんだぞ?」


「わかってるよ」



だから一つ、提案があるんだけど。


そう切り出した陛下は、申し訳なさそうな…それでいて、どこか楽しそうに笑った。



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