王宮
初めて王宮に行くという事もあり、とても緊張していた私。見かねて着いて来てくれたオッドには感謝するしかない。あと、せっかく非番でのんびり出来る日に、ごめんね。
「何も用事がなかったからいいんだよ。トトも出かけたがっていたし」
「キキッ!」
オッドの頭に乗りグッと親指を立てるトトに癒され、肩の力が抜け楽になる。
王宮へ行くには街中を歩いて行くしかなく、モモとボスは私の両サイドを歩いているのだが…視線が突き刺さるとは、まさにこの事だろう。
モモはたまに一緒に買い物へ来ていたので住民は知っているのだが、見慣れぬゴリ……ルルガドルルに二度見までする人がいた。わかる。きっと私も二度見する。
「あはは…すごいね、ボス。人気者だね」
(そうだろう?レディの魔力をいただいてから、毎日肌艶の調子が良いのさ。さながら良質の美容液だね!)
へぇ、私の魔力、美容液なんだ…
ボスの言う事はたまによくわからないので、上手くスルーしなきゃいけない。でないと考え疲れてしまう。
いつも通り聞かなかった事にし、ボスを通り越して私にまで突き刺さる視線になんとなく居た堪れない気持ちになる。いつもだったらみんな話しかけてくれるのに…そんなに怖いだろうか、ルルガドルル。
ちょっと性格に難ありだが、仲間思いだしとっても強い頼れる仲間なのにな、と気落ちしていれば、トトが何やらボスに話しかけていた。
(良い案だな、さすがトト君!すぐに試してみるとしよう!)
(やめとけって…)
何を話しているのか聞こうとしたその瞬間、脇を持ち上げられ目線が高くなる。あれ…この、懐かしいような浮遊感は…?
「わぁ、いいなぁサシャ!僕もルルガドルルの肩に乗ってみたいよ」
「…ねぇ、どういう会話したらこうなるの?」
久々にボスの肩に乗せられた事により、辺りにどよめきが広がった。
(ボスもサシャを乗せれば、俺達みたいに人気者になれるぞ!…だとよ。言っておくが、俺はやめとけって言ったからな)
(何故だいモモ君?見てくれたまえ、ほら!こんなにキラキラと輝く眼差しで見られたのは初めてだよ!)
確かに、何故かわからないが…子ども達。特に男の子からは羨ましそうな視線を感じるけれど。大人はどう反応したら良いのかわからない表情である。
うん、私もどうしたら良いかわかりません!
けれどボスがご機嫌なのがちょっと可愛く、仕方がないのでそのまま歩いていく。
大通りを歩き、広場を抜ければすぐに王宮だ。見張りの人に団長から預かった手紙を見せれば、笑顔で通して貰えた。
トトには手を振るのに、モモとボスには振らないのが悔しい。
今回は謁見する必要はないとの事で、オッドに先導され長い廊下を歩く。すれ違う人達がギョッと身を引く中、オッドは気にせず進んで行くので私も気にしない事にした。でも会釈だけはしておこう。
扉に文字は書いてあるが、何の部屋なのか読めないな…私は王宮内では働けなさそうだ。
「手紙には魔法道具研究室へと書いてあったから、もう少し歩くよ」
「魔法道具研究室…夢のある響きだね。オッドは行った事あるの?」
「勿論!サシャ以外は、元々騎士団にいたからね」
廊下が広く天井が高いのも、元々団長がチャトラ連れでいたからだそうだ。無理矢理壁を破壊されてから作り直したらしい。
今更だけど、ほんとうちの国お金あるなぁ…。おかげでモモは余裕で歩けるし、ボスに乗っていても頭をぶつけないで済むから助かる。
「はい、着いた。中にいる人に名前言えばいいよ。僕は今回用事がないから、入れないんだ」
「ううん、ここまでありがとう!すごく頼もしかったよ!」
「そう?…だったら、良かった」
照れたように笑い去って行ったオッドを見送り、さすがに失礼なのでボスに下ろしてもらう。いざノックをしようと深呼吸したのだが…扉が開いた為、心の準備は無駄に終わった。
「おや……もしや、従魔騎士団の…?」
「あっ、はい…!サシャと申します!」
柔らかな笑顔を浮かべメガネをかけた初老の男性が、顎に手をあて左から右へ視線をずらしていく。珍しい事にボスに驚かず、更に楽しそうに笑みを深めた。
「陛下から聞いているよ。わざわざ呼び出してしまってすまないね」
「いえ、私の方こそ…変な物を頼んでしまってすみません」
「変な物だなんてとんでもない!完成すれば、どれだけ多くの人が喜ぶか…陛下も楽しみにしていたよ」
立ち話もなんだし、中へどうぞと招き入れられる。
室内は広く、数人が机に向かい何やら作業をしていた。生憎手元は見えないが、全員こちらを見もしないので真剣さが伺える。魔法道具研究室というくらいだし、どんな事をしているか気になるが…今度にしよう。
モモとボスが物に当たらないよう、慎重に歩いているのが可愛くて微笑ましかった。
「申し遅れたが、僕はジュード。王宮の専属鍛治師をしているよ。といっても滅多に武器は作らなくて…ここの責任者でもあるから、研究ばかりでね」
「そうなんですね」
てっきりヤグネスさんみたいな人を想像していたので、少し驚いた。王宮だし…これくらい物腰が柔らかくないと、周りとやっていけないのだろうか?
「さぁ、これが試作品だよ。陛下から聞いた話だけで作っていたんだけれど…どうにも、違う気がしてね…」
そう言ってジュードさんが出してきたものに、思わず苦笑い。
料理で使うボウルのような物に、小物入れかと間違いそうな四角い箱…他にもいろいろな形があるが、どれも缶詰には使えなさそうだ。
「えーと…これくらい、小さい物なんです」
私の手をジッと凝視し何度か頷いた後、試作品だと言ったもの達をポイポイ箱に入れていく。そんな乱雑に…いや、試作品だと言っていたし、もう使わないのかな?
「…直接聞けて良かったよ。絵は得意かな?」
「絵ですか?!あ、……あんまり…?」
私の煮え切らない返事にもジュードさんは朗らかに笑い、紙を取り出した。
「大雑把で良いから描いてみてくれるかな」
「……下手でも、笑わないでくださいね?」
(おい楓大丈夫か?お前昔、美術の先生泣かせたって
家で…)
急いでモモの口にジャーキーを突っ込む。なんでそんなどうでもいい事覚えてるの…!




