新たな目標
慰労会から数日後。捕らえた人々をガッチリ拘束し、ユナイシアムルからの援軍は帰って行った。
最初は苦手意識を持っていたアイーダさんとは慰労会でやっと話せるようになったので、ちょっと寂しかったりする。もっといろいろ話聞きたかったな。
…なんて。感傷に浸ってばかりもいられない。従魔騎士団員としての職務もこなさなきゃいけないし、やる事はたくさんあるのだ。忙しいと言っても過言ではない。
王都や周辺の修繕は終わったが、黒幕がいる疑惑がある為パトロールがかかせず、以前よりも入念に森を見なきゃいけない。
新しく敷地内に出来た修練場でも、毎日ルルガドルル達が騎士団員やガイリス団長に武器の指導を受けているのだが…当然そこにはボスがいなきゃいけないわけで。
そして私もいなきゃボスが逃げ出しちゃうわけで。
自分の力不足を感じていた事もあり、どうせいなきゃいけないならと先日から混ざっていたりする。
剣はまだ重く感じてまともに持てないので短剣を使っているが、刃物だと思うとやはり怖い。けれど首筋にあてられた恐怖を思い出すと、嫌でもやらなきゃいけないと強く思う。
私が死ねば、モモは一人になってしまう。かといってモモが死ぬのも御免だ。自分もモモも、この世界で生き抜くには、戦わなきゃいけない。強くならなきゃいけない。
…なんてかっこいい事を言っても実際はボコボコにされているけど、主に雌達に。彼女らは、私に何の恨みがあるのだろうか…求婚疑惑は解いたはずなんだけど…。
しかも使い慣れない武器ではなく素手の攻撃なので、本気度が伺える。敵意ある攻撃を弾く団服が発動しているのが…余計に悲しかった。仲間に敵意持たれるってどういう事?
そうやってパトロールでヘトヘトになり、怪我はしないが泣く程痛い思いをし、心も傷つきながら雑用もこなしていれば、毎日夜が来るのがとても早い。
モモはいつも私の側にいてくれるけれど、あまり構ってあげられないのが辛く、申し訳なかった。
毎晩ふわふわのお尻……寄りの背中に顔を埋め、どこの変態だと言わんばかりにスーハーするのが癒しである。これがなかったら頑張れないよほんと。
(あまり無理すんなよ。楓は俺が面倒見てやるからな)
「今日もキュンをありがとう…!でも大丈夫、モモの為に私…頑張るからね!」
実は、ある目標が出来たのだ。きっかけはモモが呟いた独り言だったけど。
(家に入りてぇな…)
その言葉を聞いた瞬間、隠れて泣いた。そうだよね…!ずっと家の中で暮らしてたんだもん、入りたいよね…!
走馬灯ではないけれど、今までの思い出が蘇る。
ソファー好きだったし、台所で落とし物探したりストーブの前陣取ったり、出かける準備してたら私の後ろをずっとストーカーしたり…
抱っこと言ったらジャンプして乗ってきたし、帰宅すれば吠えて出迎えてくれて、たまにお父さんの新聞踏みつけて怒られて。
もしかしてずっと、家に入りたいと思っていたのだろうか。言えなかったのだろうか。
モモの気持ちを考えると悲しみと共に自分に対する怒りが湧いてきた。身の回りの環境を整える事は確かに大事だったけれど、もっとモモの気持ちに配慮すべきだった。なんで気付かなかったのだろう。
そして私は、決意した。
しっかりたくさん働いてお金を貯めて、モモが入れる大きさの家を建てよう、と。
一瞬これを褒美にすれば良かったかと思ったが、家はぶっちゃけお金があればどうにか出来る。缶はそうもいかなかったから、仕方がない。
こうして新たな目標が出来たので、私は頑張るのだ。ミニチュアハウスなら私は無理だけど、大きいだけならなんとかなる気がする…!
期待に胸が膨らみ、更にふわふわに顔を押し付ければ逆にグイッと押された。居心地悪かったのね…。
ちなみにボスはルルガドルルハウスで寝なきゃいけない為、就寝時は完璧にモモとの時間。
いや…ボスまでこっち来ると、群れも着いて来るのだ。彼は泣く泣くあちらで寝ており、さすがにちょっと可哀想なので何か方法はないか考えてはいたりする。
他愛のない話をし、いつの間にか眠りにつき、朝を迎える。
大変な毎日だけれどそれなりに楽しく、そして幸せ…だった。今朝までは。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「サシャ、ちょっと王宮へ行ってくれないか?」
「王宮…ですか?」
行ってくれないか、と団長は言ったが…手には手紙のような物を持っている。嫌な予感がした。
そしてそれは近くで窓を拭いていたオッドもだったようで、サシャ異動しちゃうんですか…?!なんて大声を出すもんだから、離れていたはずのみんなも駆け寄ってきた。
日課の朝の掃除中に、なんて事を…。ほら、耳が良い従魔達も外から窓に引っ付いてるじゃないか。拭き直さなきゃいけない事実に溜め息を吐いた。
全員が集まるという事態に驚いた団長は、待て待て!と慌て出す。
「違う!異動じゃないんだ!」
「ならなんでサシャが王宮に…?!」
「私、何かしちゃいました…?」
ジルコットさんが手紙を奪い取り、さっと目を通した後ー…ニヤリと笑い行って来い、なんて言うので私は持っていた雑巾を落とした。やっぱり異動なの…?!
「缶詰の件だ。制作にあたり詳しい情報が必要なんで、お前の話が聞きたいらしい」
「…あ、なーんだ。そういう事なら、行きますよ」
「……ちょっと誰よ、サシャが異動だなんて早とちりした奴」
「いったぁ?!ベルさん、箒で殴らないでくださいよ…!」
誰が悪いんスかねぇ?なんて笑いながら去っていくベルさんに、みんなも持ち場に戻っていく。お騒がせして申し訳ない。
「そういうわけだから、明日早速行ってこい。従魔連れで良いとの事だし、見回りはルルガドルルを連れてくから気にせんでいいぞ」
「えぇー…大丈夫ですか?ボスいないと言う事聞かないんじゃ、」
「それがだな。この間取っ組み合いをしたら俺が勝ってな、数頭なら言う事聞いてくれるようになったんだ!」
ドン引きである。ゴリラと取っ組み合いして勝つ団長とか…最早ゴリラの上をいってるんじゃないだろうか。いくら竜人族のハーフだといってもやりすぎだろう。
なんとなく後退りながらわかりました、と返事をする。
王宮かぁ…この間の慰労会で行ったのが初めてだったが、いろんな建物があって何が何やらわからなかったからな。私みたいな下っ端が入れる事なんて滅多にないし、じっくり観察して来よう。
モモとボスにも告げれば楽しみだと言ってくれて、自然と笑みが溢れた。
よしっ!缶詰について、また語ってくるとしますか!




