スキルって、
「まだあるのかっ?!二つもスキルを持つなんて…うちの王太子じゃあるまいしっ…!」
「え、二つ持ちいるんですね…じゃなくって!私、まだ何かあるんですか?!」
「おっと…二人とも、落ち着いてください」
あまりの勢いに身の危険を感じたのか、目に見えるよう魔法で防壁を張ったフラン団長にアイーダさんが舌打ちをした。掴み掛かろうとしてたもんね。私でも防壁張れたら張ったわ。
「姉上は知っても問題ないでしょうから、言っちゃいますね。サシャさん、従魔と会話出来るんですよ」
「…なに?」
ギクリとする。一応隠していた事だったのだが…あ、絶対言ったのうちの団長、
「ガイリスが嬉々として教えてくれたんです。僕にだけだと言っていたので、安心してください」
やっぱりと思うと同時に、何故だか安心出来なかった。みんなに同じ事言ってそうなんだよな…直属の上司なのに、どうにも信用がないのが、悲しい。
それにフラン団長、いくら姉だといっても口が軽いのではないだろうか。
「自分の従魔の言葉はわかるけれど、他人の従魔…または野生の魔獣の言葉はわからないんですよね?」
「は、はい…」
「ならそれもスキルですね。500年前の伝承として残っていますし、間違いないでしょう」
自らが従魔契約した魔獣と意思疎通が出来るスキル。一度契約してしまえば、契約解除した後もその力は残ったそうだ。
ちらっと存在したのは聞いていたが、詳しい内容までは知らなかった…
「それと…魔獣に好かれる、でしょうか…こちらはよくわかっていないのですが、」
「待て待て待て………三つ、だと…?さすがにそれは…」
「でも姉上、そうじゃないと…人間と契約した記録のないルルガドルルが、何故サシャさんと契約したのか。説明がつかないんですよ」
え、そうなの?とずっと黙っていた二匹を振り返る。会話に集中していて気付かなかったのだが、モモは私にお尻を向けまた寝ていた。余程満腹なのだろう。
ボスは勝手に摘んだらしい一輪の薔薇をクルクルと指先で回しており、目が合うとウインクしてきた。あれ、なんか安心するな…って待て危ない。今ウインクはいらないんだよ、ボス。
「ねぇ、話…聞いてた…?」
(勿論さレディ!君の事ならなんでも知りたいからね。確かに、我々ルルガドルルは人間なんかと契約しない。何故なら弱いからね、従う理由もないのさ)
「じゃあ、私と契約した理由は…?」
(残念ながら誤解だったが、求婚されたから…というのは冗談。君の魔力が、美しく輝いていてね。それでいてとても落ち着くというか…良い香りもする。だから契約したいと思ったのさ)
…んん?
「意味が、よく…?」
(つまり、我々だけじゃない…魔獣にはレディ、君の魔力がとっても魅力的なんだ。騎士団の他の従魔も言っていたから間違いないはずさ。実際体に流れてくると心地よいしね)
もう、なんなのだろう。情報が多すぎて追いつかない。
しかしフラン団長に誤解させたままではマズいので、ボスから聞いた話をありのまま伝えれば、
「それは、スキルではないですね。魔力は人それぞれだから、サシャさんの魔力は生まれつきそうなんでしょう」
「…なら、竜人族の固有スキルを持つのも…その特殊な魔力のせいか?」
ありえますね、なんて頷くフラン団長だが、私だけついていけない。
魔力が特殊だから、魔獣に好かれる?
従魔契約すれば、魔獣と喋れる?
竜人族のように体が頑丈で、治癒力も高い?
好かれる云々はわからないが、体は…ちょっと思い当たりは、する。今日まで怪我らしい怪我をした事がないのだ。
けれどそんなに大袈裟には考えていなかった。どちらかといえば、きちんと仕事をしないと食べていけない…そればかりが頭にあったから。怪我しなくてラッキーとしか思っていなかった。
話せる事は、便利なのと寂しくないのとで…なんでだろう、くらいにしか考えていなかったけれど。
いきなりスキルとか言われても、どう反応したら良いのか。
「サシャさん、困る事はないんですよ。多くに知られると大変ですが…貴女の場合は、強力な従魔が二体もいますし。危害を加える方が難しいでしょう」
「はぁ…そうかもしれないですけど…」
「竜人族の固有スキルについても、難しく考えないでください。ちょっと体が丈夫で、ちょっと傷の治りが早いくらいに」
「…まぁ、なんだ。お前が何者かの謎は解けたから、私からも助言しよう」
両肩を掴まれ、真っ直ぐ見つめ合う。
「フランも言った通り、スキル二つについては気にするな。暴き出してしまったようなものだし、それについては申し訳ないと思うが…」
この世には、スキルという言葉を知らない者の方が多い。
「そう先程も言ったが、これは本当だからな。一般人はそういう体質か、で終わるし…お前が人間だと断言しなければ、竜人族と思うだろう」
「確かに、そうかもしれないですね…」
「従魔と話せる事も普通ならば、信じない。だからお前は今まで通り生きて良いからな」
「……はい…」
私自身謎に思っていたので、知れて良かったとは思う。そういうスキルだからなんだと納得も出来た。
私が気にしているのは、スキルを持っている事ではなく……何故、持っているのか…だ。
しかもそれについて一つ、思い浮かんでしまった。
特殊な魔力も、固有スキルも会話スキルも…別世界から来てしまったから、身についたのではないか、と。
さすがに誰にでも言える事ではないが、そう考えた方が全て納得出来るのだ。スキルをくれてありがとうという気持ちも勿論あるが、それ以上に…
何故私とモモをこの世界に落としたのか…そっちの疑問の方が、大きくなる。
誰が、何の目的で。
環境も整ってきたし、多少無理の出来る体だとわかったし。ちょっとずつでも調べていった方が良さそうだ。
しかしあまりにも先が見えずに気落ちしていれば、気を使わせてしまったようで。
フラン団長とアイーダさんがしきりに気にするなと言ってくるので、もう大丈夫ですと返す。あるものは仕方ない、受け入れて上手くやっていくしかないのだ。
この事は内密にと三人で約束を交わしていれば、思い出したかのようにそういえば、とフラン団長が口を開く。
「これも知る人は知っているんですけど。従魔騎士団の、ジルコット副団長…彼もスキル保有者なんですよ」
「ちょっと待ってください、誰が副団長…?!」
「ジルコットですよ。本人は副団長、嫌みたいなので…サシャさんには言ってなかったんですね」
いや、いくら嫌でもそんな重大な情報…言ってくれないと、何かあった時に対処出来ないじゃないか。
「…あれ……確かに、ジルコットさんが仕切る事もあった気が…?」
「でしょう?ちなみに彼のスキルは、一度口にした料理なら味も見た目もそっくりそのまま作れるという…」
「え、それよく気付きましたね…?!」
しかも地味に羨ましい…!なんてはしゃいでいれば、アイーダさんがサシャならば良いか、と。
「うちの王太子のスキルも一つ、教えてやろう」
「…それ、アイーダさんが斬首されたりしませんか?」
「心配いらん。他国の重鎮も知っているし、それにうちは絞首刑だ」
そんな事知りたくなかった、と思わずモモにしがみつけば、ようやく起きて腹減った……いやいや、今日はもうダメだよモモ。お腹まだぽんぽこりんじゃん。
「王太子のスキルその一。女性を、魅了する」
「…え?」
「目が合うと終わりだな。全てを捧げたくなるし、なんでも言う事を聞いてしまう。いわば言いなりだ」
「女性にしかかからないから、まだ良かったですよねぇ」
「何を言う、そのスキルのせいでお相手が見つからないのだぞ!もう27なのもあって、最近では養子を取るなどと…」
「た、大変なんですね…」
「あぁ、それはもう。ちなみに解除するには、王太子を気絶させるしかない」
アイーダさんを二度見した。なんだそれ、物騒すぎないか…?!
「………解除、それしか方法ないんですか?」
「残念ながらな。眠っても視界を塞いでも、解除出来んのだ。気絶さえしなければ、半永久的に支配下に置ける…強力なスキルだ」
万が一会う事があれば、気をつけろ。
そう真剣な顔で告げるアイーダさんだが、他国の王子なんて私が会う事はないだろう。だがそういう危険なスキルもあるのだと、勉強にはなった。
「そちらの国の事情は良いんですよ、姉上。そういうわけでサシャさん…国のトップには、意外といたりするんですよ。スキル保有者」
周りに知られないようにしている人もいるでしょうねぇ、なんて笑うフラン団長は、なんだか楽しそうである。
魔法師団は魔法の研究、開発もしていると言っていたから、この手の話は盛り上がれるのだろう。私も聞いている分には面白いと思うが…
するとふいにボスが呟いた。
(人間が硬質化と呼ぶ我々の魔法も、固有スキルさ。もっと言えばレディに付与出来たのもそうなのだけれど)
「え、ボスなんて?」
(ルルガドルルの群れのリーダーが代々受け継ぐスキルが、付与というものでね。リーダーになれば魔力量が格段に上がり、普通のルルガドルルが使えない魔法を使えるようになる。そしてそれを仲間と認めた者に同時発動、またはコピーして渡せるのさ)
なかなか強いだろう?なんて、まだ薔薇をクルクル回すボスをどう扱ったら良いのか…また、わからなくなった。
とりあえずこの薔薇は没収して庭師さんに謝らなければ。結構ポッキリやっちゃってた。




