竜人族
「じゃあ、僕はいろいろ手配しなきゃいけないから…これで失礼するよ。二人共、今回はご苦労だったね」
そう言うなりさっさと行ってしまった陛下の後ろ姿に、慌てて騎士団の礼をする。腕を胸に持っていけば良いだけなのだが、たまに勢い余って叩いてしまい、みんなに笑われるので早く慣れたい。
共に礼をしながらも視線はこちらを向いていたジルコットさんを睨めば、モモがのそりと体を起こす。それと同時にボスも戻ってきて、一応緊張していたらしい体から一気に力が抜けた。
(どうしたんだい、レディ。疲れたのなら、もう帰っても…)
(まだデザート食ってないから却下だ)
(あれだけ食べておいて、まだ足りないなんて…モモ君。膨張して死んでしまうよ?)
(食いたいモン食って死ねるなら本望だ)
「不穏な会話やめてくれる…?!」
モモの食いしん坊は今に始まった事ではないけれど、もしかして昔からそう思いながらいろいろ食べていたのだろうか…。
そんな死なせ方はごめんなので、今まで以上に食事管理を徹底しなければと決意すれば、黙って生ハムを食べていたジルコットさんが私の背後を見…何かに気付く。
振り向く前に誰かに肩を組まれた。あ、いい匂い…じゃなくて!
「やぁ、探したぞサシャ。モモの頭が見えなくてな」
「アイーダさん…!」
香水のような良い香りと共に、仄かにお酒の匂いもする。なんとなく酒好きっぽいなぁと思っていたから納得はするが、何故肩を組まれているのだろう?同性だけれど背中にあたるボインにドキドキしてしまう。
「酔っ払いがうちの団員に構うなよ」
「うるさいなぁお前は。いいじゃないか、私はもう会えないんだぞ?」
「なら尚更、いい印象のままの方が良かったんじゃないか」
「…相変わらずの、ブリザードめ。サシャ、こんな男は放っておいて、あちらで少し…話をしないか?」
「は、話…ですか?えーっと…」
話がしたいと言われていたのを思い出すも、アイーダさんと二人きりに耐えられる自信がなく、返事が出来ない。ここじゃダメなのか。ジルコットさんにもいてほしいんだけど、…
「そう怯えるな。従魔もいていいから」
「それなら良いですよ」
モモとボスがいていいなら断る理由はない。ジルコットさんも二匹がいるならと見送ってくれ、私達は先程よりも中心から離れた場所に移動する。
庭園というだけあって、様々な花が綺麗に管理され植えられている。アイーダさんが止まった場所には薔薇が咲き誇っており、ボスが美しいな…と近付いていった。見るのは良いけど触っちゃダメだよ。
「すまないな、あまり人に聞かれたくない内容だったのだ。時間もかけていられないから、率直に言う」
サシャ。お前は、何者だ?
「………………、え?」
一瞬何を聞かれたかわからず、固まる。何者だ、って…どういう意味?
何故私に対しそう思ったのかわからず戸惑っていれば、小声で話し始めた。
「お前は、ガイリスが竜人族のハーフだと知っているか?」
「え、初耳です…!」
「そうか。まぁ本人は隠してないから、構わんだろう」
ハーフだと言っても、こちらの血の方が濃いみたいでな。頑丈だし魔力量は多いし、正直純粋な竜人族とそう変わらん。
「我々が気持ち悪いと言ったあの魔法の使い方…実は、普通の人間には…出来んのだ」
アレは魔力自体は多く必要としない。だがあれだけ圧縮するのは難しく、それこそ我々のように生まれつき魔力の扱いに長けている者でないと無理だろう。修練したとしても何十年かかるか…。
次に、圧縮した魔法を足に纏う事…アレも人間には、無理だ。以前言ったと思うが、冗談でも比喩でもなく本当に…足が壊れる。いや、爆散すると言った方が正しいか。
「ば、爆散…?!なんて事教えてくれてんですか、あの人…!」
「圧縮出来たからイケるとか思ったのだろう」
…そうかも、しれない。深くは考えていなさそうだもんな。
「人間には無理だが、全て竜人族には可能なのだ。これは一族の者しか知らない事だが…我々は、頑丈な体を持つ。と同時に化け物と言われてもおかしくない程の治癒力も、持つ」
いくら竜人族と言っても幼児は弱いからな、実験対象にもなり得るし、そういう趣向の奴等に狙われないよう、一族で秘匿している。
「軽々しく他言しないと見込んで話したんだ、言うなよ」
「言いませんよそんな大事な事…!でも勝手に見込まれて話されて困ってます!」
なんで言ったんですか?!と詰め寄れば、重要だったからだ、と。
「あの、気持ち悪い…圧縮した風属性の魔力を爆発させ、一気に距離を詰める……気持ち悪い魔法だがな、」
二回言わなくても良いのに。
「普通の人間は圧縮すら出来ず、出来ても足が爆散する。しかし我々竜人族なら圧縮出来るし、足が傷付いた瞬間すぐに修復していくので、無傷」
そんなに治癒力があるのかと驚く。治癒というか…再生というか。なるほど、そりゃ化け物と言ってしまうかもしれない。
「無敵じゃないですか」
「そうでもないさ。意識しているところしか働かない力だからな、不意打ちなんかで結構簡単に死ぬぞ?」
さらっと恐ろしい暴露をしたアイーダさんは改めて佇まいを直し、真っ直ぐに目を見つめてきた。
「お前は、竜人族でもハーフでもない…普通の人間だと聞いた」
最初の彼女の問いの意味が、やっとわかった。何故そう思ったのかも。
「もう一度聞こう、サシャ。……お前は一体、何者なんだ?」
理由はわかっても、私自身答えを持ち合わせていない。何故普通の人には出来ない事が、私には出来たのか…説明ができない。むしろ私が知りたいくらいだ。
珍しく黙って聞いているモモと、何かを考え込むボス。助言は期待できなさそうだった。
何か言わなきゃいけない、そんな雰囲気に口を開きかけたその時。
「ちょっと、待ってもらえますか?」




