改めて、
ひどく怯えた表情をしたミアさんが小走りで逃げてきて、モモの胴に顔を埋める。基本モモは女性には優しいので、唸る事なく受け入れた。ミアさんジャーキーくれるから好きだしね。
「ルルガドルル…あんなにたくさんいると、さすがに怖いわ…。それにしてもあんた、よく群れのリーダーと契約したわね」
「したというか…されたというか。ボス側からなので、」
「えっ、そうなの?」
現場にいなかったミアさんにあの時の状況を説明すれば、珍しいとはしゃいだもののすぐに首を傾げる。
「ちゃんと従魔契約しないの?」
「…だって。ボス…大きくなりません…?」
昔その手の映画を見て、幼かった事もありトラウマになった記憶がある。それにボスは周りのゴリラに比べ一回り以上は大きいのだ。あれ以上の巨大化を想像すると…
一人昔を思い出しブルリと震えていれば、こちらに戻ってきたボスがまた何かを喋っている。なになに、
(レディ、君が望まないなら巨大にはならないと誓おう。………こいつ一回踏んでいいか?)
「ダメだよモモ?!それとボス、お願いだからレディはやめて…」
「ぶはっ!さ、サシャ…あんた、レディなんて呼ばれてんの…?!やば、腹筋が…!」
お腹を抱えひぃひぃ笑うミアさんを睨むも、この様子じゃ止まらないだろう。多少イラッとするが放っておくしかない。
それよりも、大きくならないなんて…出来るのだろうか?
(可能だそうだ。楓から受け取る魔力を体に回さず、どっかに凝縮して詰め込んでおけばいいだけらしい)
「へぇ…そんな事できるんだ…ならトトももしかしたらそうなのかもね。魔力量は多いって言ってたし」
ボス曰く、相性云々は人間が勝手に決めつけた事であり、実際巨大化するかどうかは従魔の意思次第だそうだ。一度変化すれば戻る事は難しいので、本来は慎重に決めなければならないらしい。
モモの場合は最初から大きくなってしまっていたけれど…モモの、意思だったのだろうか?
まぁ大きくなった分たくさん食べられると常々言っているから私も気にしない事にする。ちょっと硬めだった毛も、巨大化した事により今やふわふわになり愛しさ倍増なのだ。たまに窒息しそうになるけど。
(楓の希望通りにするから、きちんと契約したいと言ってるぞ)
「そうだね…うん、それなら……お願いします」
すぐに額を合わせてきたボスに、魔力を送るイメージをする。初めてなんだけど上手く出来ているのだろうか?
不安になりながらもイメージを続けていれば、突如額から爪先にかけピリッと何かが駆け抜け、すぐに消える。なんだ今の。
「ボス、なんか…電気みたいなのが、」
(成功だよレディ!これで私達は結ばれた!ふふっ、モモ君…いつか一番の座を奪ってみせるからね)
(うぜぇ)
「…………あれー?」
おかしいな、なんか…ハンサムボイスが聞こえた気が…?
(どうしたんだい、レディ。心配しなくとも、ほら。赤い糸で結ばれているよっ!)
気のせいじゃなかった。ボスの声が、聞こえる。
一体どういう事なんだ。今まではモモの声しかわからなかったのに……もしや、私が従魔契約をした相手はみんな声が聞こえるのだろうか…?!
でもモモとはもう契約をしていないのだ。なのに、聞こえる。………意味がわからない。
「…わからない事は、今考えても仕方がない…か」
「あー、お腹痛い…。どうしたのよ、サシャ。ボスと契約したんなら、モモともし直しときなさいよ」
じゃないとここにいれないわよと言われ、慌ててモモとも額を合わせ契約する。そうだった、決まりは決まりだもんね。
連続で二つ契約を交わしたが、体に異変はなく安心する。ちょいちょいボスが喋っているのが気になるが…うーん、どっかに詳しい人とかいないかな。
モモの肉厚な耳に頬擦りしていれば、ずっと話し込んでいたガイリス団長とドリュー団長から招集がかかる。どうやら私がすったもんだしている間にいろいろ決まったらしい。
まず、街の修繕をするついでに庭の隅に修練場とルルガドルル専用のハウスを増設する事になったそうだ。
彼等は従魔騎士団所属なのでここで寝食を共にし、修練場では毎日誰かが指導をする。騎士団からも派遣してくれるそうだ。
またルルガドルル部隊の隊長はボスとする。しかしボスは私の従魔である事から、私もいないと動かない場合は全ての権利を私に……え、いらないんですけど。
心からそう思うも上司二人を前にして言えず、黙るしかなかった。下っ端って辛い。
「あとな、ブロッグモーリアの奴等の身柄を、ユナイシアムルに送る事が決定している。うちじゃ荷が重いし、あちらさんからも言われてるんだ。一応奴等には世話になったってんで…明後日。城の庭園で慰労会が開かれる事になったから、お前らも従魔連れでいいから来いよ」
特にサシャ、とドリュー団長に名指しされ、つい体をビクつかせる。なんで私?!
「アイーダと…あと、フランがお前と話したがってる。理由は知らないがな」
「大丈夫だぞ、サシャ!アイーダはもう見知った仲だろうし、フランもいい奴だからな!」
そう言われても、魔法師団…しかも団長だなんて、なんの接点もない。話したがってると言われても検討がつかなくて余計に怖いのだが。
隣に立っていたジルコットさんの後ろにそっと隠れれば、無言で押し出された。うっ、厳しい…!
(パーティーか。ならば当然、相応しい装いをしなければ!目立つのも良いな…レディ、私と共に竜人族のやたらと光る魔法を身につけて行かないか?)
「全力で遠慮します。………あっ」
(ややっ…!なんと!私の声も聞こえるというのかい?!なんて事だ!モモ君、これでまた君の座に一歩近付いたようだぞ!)
(濃ゆいんだよ…!ええい、近付くな、このっ…!)
返事をしないと決めていたのに、嫌すぎてつい。
私と喋れる事が嬉しいのか、それからずっとモモと私に引っ付くボスにみんなは何故か微笑ましい顔で。
そしてやっぱり群れの雌達には、睨まれた。どうしたらいいの…!




