褒美
私が泣いてはいけない。
こちらから一方的に条件を突きつけておいて泣くなんて、間違っている。今一番苦悩しているのはボスのはずなんだから。
あぁ、でも…お別れなんだろうなぁ…
そう思うとまた俯いてしまい、モモに小突かれる。
(仕方ないだろ、そうなんでもかんでも思い通りにはいかないんだぞ)
「……わかってるよ」
それでも溜め息くらいは許してほしいと、深く息を吐いた瞬間、
すごい勢いで両足を掴まれ思わずコケた。
「え、なん………ボス?!」
私の足に縋り付き、イヤイヤと首を振るボスについキュンとする。可愛い…けど、これは一体どういう感情なの?ボス…。
モモが私の襟を噛み起こしてくれるも、両足はガッチリとボスの腕の中である。上手くバランスが取れずモモにしがみつけば、ウホウホと何かを訴えるボス。
「モモ、通訳してあげないんスか?その方が話早いと思うんスけど」
ベルさんの提案に何故か物凄く嫌な顔をしたモモだが、私とボスを見下ろし、諦めたように溜め息を吐いた。やってくれるのだろうか。すごく助か、
(貴女に捨てられたら、今後どうやって生きていけば良いのか…!離れたくないんだ!頼む、我々と共に生きると言ってくれ!)
耳を疑った。
(あぁ、驚愕に満ちた貴女の表情も愛おしい…ずっと、近くで見ていたいんだ。貴女の為なら私は盾にも矛にもなろう、たとえ…一番には、なれなくても)
「…モモ、ふざけて…ないよね?」
(誰がこの状況でふざけるってんだ。…そいつのうざい言葉を代弁したまでだからな)
ちょっと鳥肌がたった。
だって、まさかそんな性格だとは…てっきり俺様系かと勝手にイメージしていたから、ギャップがすごい。
世の中知らない方が良い事もあるのだと学んだところで、改めて困る。我々と共にと言っているという事は、群れを解散する気はないのだろう。それは予想していた。
しかし、ボスも離れる気はない。という事は、だ。
「……団長。私が群れごと騎士団を離れた方が、早い気がしてきました…」
「それはダメだ!サシャは大事な団員だからな!」
みんなも頷いてくれて、とても嬉しい。けれど…じゃあ、この状況をどうしたら良いのか。解決策がないではないか。
困っている私に何を思ったのか、ボスが群れに声をかけた。すると全頭勢いよくこちらに走ってきたので、思わず悲鳴を上げてしまう。
だがビビったのは一瞬で、直後、間抜け面を晒す事となった。
「うわぁ、いいなぁサシャ…!ルルガドルルの王様みたい…!」
「お願いだからフラグたてないでオッド!」
フラグ?なんて首を傾げるオッドは、可愛い。けれどそれどころじゃない。
私の足に縋り付くボス。モモにしがみつく私。それを取り囲むルルガドルル達…ただし、土下座を、している。
(暖かい寝床に、豊富な食料…優しい人間達に、私の女神。こんな楽園のような場所、他には絶対にないと断言出来る。仲間も置いてくれるならなんだってするさ!プライドだってほら、ご覧の通り!)
ご覧の通り、じゃない!
なんでか喜ぶオッドの横で、四人がドン引いているのが見える。私もそちらに行きたいのは山々だが、少しでも足を動かした瞬間ボスが更に力を込めてくるし、イヤイヤするのだ。抜けられない。
何かあるたびに睨んできていた雌達までもが地に額をつけているので、本気度がわかる。そんなにか。けど私にはこれ以上どうする事も…。
そんな困り果てた状況の中、まさかの人物が救世主として現れた。
「おーい!いやぁ、ちょうど良かった!全員集まって、……………新しい宗教か?それとも何かの儀式中だったか?」
珍しい事に従魔騎士団を訪ねてきたのは、騎士団のドリュー団長だった。器用にもこちらと距離を置きつつガイリス団長に近付いた彼は、事情を聞くなり大笑いする。
「なんだそんな事か!すぐに解決するぞ。まぁ、ルルガドルル達が承諾すればだけどな」
ドリュー団長曰く。
従魔騎士団による働きが大きかった事もあり、戦争を早く終えることが出来た。なので一人一人に褒美を与えるのは勿論の事、手を貸してくれたルルガドルル達にもなんらかの礼をしたい…
そう陛下が仰ってくれ、彼は希望を聞く為に来てくれたんだそうだ。
「あと、勧誘しに来た!」
「勧誘?うちの団員はやらんぞ?」
「いや人間はいいよ。欲しいのは、ルルガドルル達だからな」
ここで初めて土下座をしていたゴリラ達が顔をあげる。
「聞けば、武器を使えるそうじゃないか。しかもそのへんの奴より扱いが上手いんだって?」
それはきっとボスの事だろう。彼は以前渡した短剣を気に入ったのか、紐で背中に括り付けたままだった。
あの時の戦いを誰かが見ていて、報告したのだろうか。見ていたのなら加勢してほしかった。それに、確かにボスは私より上手に使っていたけれど…
「ドリュー団長、ボス以外も扱えるかはわかりませんよ?」
「大丈夫だ、訓練すればすぐに使えるようになるさ!」
…訓練?
「陛下がな、数もいるしルルガドルル部隊を作れたらと仰っていてな。国に対する忠誠心がなくとも、ムルスタブルグへの牽制になればと考えたのだろう。それに上の奴等全員が賛同したわけだ」
「…サシャありきの群れだってわかってるのか?ボスがいないと言う事聞かんぞ」
「勿論。だから一応所属は従魔騎士団って事にして、団員も異動はなし。群れのリーダーが従魔なら言う事を聞かない事もないだろうと、特別に契約なしでも良いそうだ」
至れり尽くせりで言葉が出てこない。こんな事があっても良いのだろうか。
まさか陛下が、それほど本気でゴリラ達を手元に置きたがるとは。
確かに武器も使えれば更に強くなるだろう。今回の戦争は例の鉱石が関係していたのでユナイシアムルの加勢があったが、次はない。まだまだうちは戦力が足りないから、ゴリラの手も借りたいのはわかる。
それにボスの言う事はみんな聞くし、ここにいたがっている。お互い希望は一致しているわけだ。
しかし仮にも元野生が、人間の…それも国の部隊になんか所属するだろうか。
そう心配したのだが、杞憂だった。
いつの間に移動したのか、ボスを筆頭にゴリラ達が順番にドリュー団長と握手を交わしている。近くにいたミアさんがあまりの勢いに押され、泣きそうになっているが…大丈夫だろうか。
(喜んで仕えると言ってるぞ。いいのか、これで)
「いいも何も…丸く収まりはしたから、まぁ…」
大体上の決定に私如きが何かを言えるはずもない。流れに身を任せるしかなかった。




