帰国
国へ戻る道中は、多少…いや、かなりモモとボスの睨み合いはあったものの、行きと違い危険な目に合う事もなく。
あっさりと帰国出来た私達は、捕らえたブロッグモーリア国王や重鎮を自国のトップに引き渡した。
するとそれからそう時間を置かず戦争は呆気なく終わりを迎えたので、みんなが当たり前な顔をする中私だけ首を傾げる。
だってすごく早い引き上げだったんだもん。一切の抵抗も反論もなく、いたのが嘘かのようにいなくなった。
まぁ、蓋を開けてみれば、納得のいく理由だったんだけれど。
何故そんなにも簡単に引き下がるのかというと、リングラングリンに攻めていた兵のほとんどがムルスタブルグの者だったからだそうだ。
仮定ではあるが、今回ブロッグモーリアとムルスタブルグはなんらかの取引をしている。ブロッグモーリアの国王が捕らえられた時点で取引は破綻し、加勢する意味もなくなった。
なのですんなりと撤退したのではないかー…
そう話すジルコットさんだが、今彼は従魔騎士団の中で一番忙しい。
私達が敵国へ攻めている間こちらもかなりの人数差で攻められており、城壁はところどころ崩れているし食い止めていたという草原も焼け焦げた跡が目立つ。
魔法師団は後方支援だったので無傷だが、前線に立ち直接対峙していた騎士団の被害は甚大だ。
治療が出来る者はそちらに駆り出されており、それ以外の者はひたすら後片付け。私達は勿論、ユナイシアムル勢も手伝ってくれているのが非常に有難い…のだが。
「また無駄にキラキラしてる…」
みんなが汗や土で汚れながら一生懸命働く中、彼等だけキラキラしていた。あれは魔法だと知っているのでなんだか微妙な気持ちになる。
しかも片付けはリングラングリンの国民も手伝ってくれているのだが、若い娘さん達がキャアキャアと黄色い声をあげているのだ。美男美女が多いから仕方がないが、キラキラが増すと余計に喜ぶのが解せない。
そしてそんな中、私もいろんな場所に駆り出されている。何故かというと、
「いやぁ、助かるよ!ルルガドルルがいるなんて、従魔騎士団は頼もしいなぁ!」
「あはは、…」
私が動けばボスが動く。ボスが動けば、着いてきた群れも動く。
なので自然と私がいる場所は作業が進み、次から次へとお呼ばれしまくっているというわけだ。そのせいで一緒にいるモモまで着いてくる事になり、早く休ませてあげたいのにまだまだ出来そうにない。
モモの為を思って騎士団に入団したのに、危険な目にも合わせてしまったし…これでは本末転倒である。
けれど意外とかかるモモの食費、一緒にいられる広い部屋…まぁ小屋だけれども。あと、とても良いお給料。
それらを考えると、辞める気にはなれない。
出会った縁もあるしね。みんな超がつく程良い人達だし、離れるのは寂しすぎる。
もっともっとモモに贅沢と、平和を…!
その為には私が頑張れば良いだけなのだ。だから、
「問題を先送りには……出来ないよねぇ…」
(早く決めた方がいいぞ)
「わかってるんだけど…やっぱり言いづらいよね…」
問題とは、ゴリラ達の事である。
ボス一頭ならともかく群れまでいるとなると、さすがに従魔騎士団の費用が持たないし、そもそも従魔契約していない魔獣の面倒は見られない。
厳しいようだが群れにはお帰りいただくか、ボスごとお帰りいただくか、決めろとガイリス団長に言われている。
今回ゴリラ達にはかなり助けられている。彼等がいなければ私もみんなも大怪我していたかもしれないし、死者が出ていたかもしれない。国王や重鎮達を捕まえられなかったかも、しれない。
なのでなんのお返しも出来ずにその話をするのはどうにも気が引けるのだ。
結局結論が出せないまま数日がたち、とうとう片付けもほとんどなくなってしまった。どうしよう何も決められていない。
「サシャ、言いづらいなら俺が言ってやろうか?」
「いやー…私が伝えても団長が伝えても、辛いというか…申し訳ないというか…」
気持ちはわかるがなぁ、と団長が腕を組む。
街の方はこれから修復に入るので、従魔騎士団が出来る事はなくなってしまったわけだ。だからといってダラダラするわけにもいかず、何もやる事がないならとみんな庭に来て、ゴリラ達と対峙する私の見学をしている。
余計変なプレッシャーで喋りにくいんだけれど。
ボスはそわそわと私の近くに寄りたそうだが、モモが隣で威嚇しているので出来ないでいた。それを離れた場所で寛ぎ眺める群れのゴリラ達。
…うん。このままじゃモモも落ち着かないし、勇気を出して言わなければ。ボス達の為にもならないしね…!
「ボス…大事な話があるんだけど、」
「ウ……ウホッ?!」
しまった、切り出し方が悪かった。
薄っすらと頬がピンク色に染まり、更にそわそわしはじめたボスに慌てる。そうだったそっちの問題もあったんだった…!違う、違うんだよボス!紛らわしい言い方してごめん!
「あのね…ボス達と出会ってから今日まで、たくさん助けてもらったよね。感謝してもし足りないくらいだし、お礼も出来ていないのが申し訳ないんだけど…」
「ウッホ!」
「…………ごめんね。うちでは、群れの面倒まで見れる資金が…ないんだ」
ボスは頭が良いから、私が何を伝えたいのか勘づいたのだろう。ハッとし群れを見て、困った表情をする。
「群れを解散させるか…解散が出来ないならボスとお別れしなくちゃいけないんだ」
つい俯き、まともにボスの顔が見れなくなる。全頭を面倒見きれる財力がないのが悔やまれる。
「それに、資金があってもうちは従魔騎士団だから、契約していない魔獣はずっといる事が出来ないっていう決まりがあるんだ。だからもし、みんなが誰かと契約してくれるなら…一応全部解決は、するんだけど…」
ルルガドルルはプライドが高いというし、厳しいだろう。それに私は何故か雌達には嫌われているから、余計に。
全頭契約してしまえば資金も国から貰えるのだが、群れである以上上下関係もあるだろうし簡単な話ではない。
だからこそ団長は解散を勧めてくるのだ。
着いてきてずっと助けてくれてはいるが、群れはボスのもの。人間が一方的に決める事は出来ず、ボスに判断を委ねるしかない。
「本当にごめんね、ボス、みんな…」
「ウホ…」
「…決めてほしいんだ、」
ボスだけここに残るか、群れを解散するか…群れごとボスとお別れするか、はたまた群れのみんなが、誰かと契約するか。
こんな選択肢しかなくてひどいとは思っている。彼はこの群れと長年やってきたのだろうし、いきなり解散は酷だろう。私と離れるのが一番簡単な話だ。
一緒に過ごした日数は短いけれど、濃く…楽しい時間だったのは確かだ。危うく嫁にされかけたけど。
ボスやみんなと離れるのは寂しいし、悲しい。
だけど私には、これ以上どうする事も出来ないのだ。
ボスの悲しげな表情に、涙が出そうになった。




