再会と和解
魂なんて売ってない。勝手にこうなったんだ…と言いたかったが、喉がキュッとなり上手く声が出てこない。
この黒光りする体をどうしたらいいのかわからず、顔から手を外せないままでいれば男達の悲鳴が聞こえた。
大体予想はついたが指の隙間からチラ見してみる。
ゴリラ達が、突進していた。逃げる奴は掴んでぶん回し、攻撃しようとしている奴にはそのまま体当たり…そして、そのカオスなド真ん中でボスが、雄叫びをあげていた。とても大変な事になっている。
…どうしよう。こうなったのは私のせいだろうか?いやいや、実際ほんと…何もしていないはず。私のせいじゃないと、声を大にして言いたい。
動く気になれずそのまま座り込み事の成り行きを見守っていれば、遠くからたくさんの人が駆けてくるのを発見する。あの大きい図体はっ…!
「団長っ……!」
「うおっ?!新種の魔獣か?!」
「………」
よりによって新種の魔獣ときたか。そりゃ一目でわかってもらえないかもと思ってはいたが、あんまりである。
黙っている間に恐る恐る近付いてきた団長が、サシャか…?!と気付くも私の機嫌は物凄く悪い。この人は、思った事をすぐ口に出す癖を直した方がいいと思う。
「……どうしてそうなったのか、聞くのは後でいいか?」
「…後で、いいです」
そうか、と神妙な顔でうなづく団長。もしかしたら今なら一発殴れるかもと立ち上がれば、急に体の黒光りが解けていく。よく見れば周りのゴリラ達も…という事は、硬質化…解けた?!
私は勢いよく立ち上がり、空に向かってガッツポーズをする。あぁ、清々しい!心からの安堵とは、こんな気持ちだったのか…!
もしかしたらもう戻れないかもと思っていたから、本当に…本っ当に良かった…!
「おぉ!なんだそれ、かっこいいな!どうやったんだ?」
「ボスに聞いてください。私は関与してません」
「なに……っとと、今はそれどころじゃなかった。こっちは無事全て終わったからな。加勢に来たんだが…いらなかったなぁ」
ははは、と笑う団長に今度は私が食いついた。なんだって?……終わったの?本当に?
さっき団長の後ろを走っていた見覚えのある兵士達が、次々とそのへんで転がっている敵を捕縛している。
更に城の方から見知った顔が何人も走ってくるのを見て、涙腺が爆発しそうになった。泣かないけど。絶対、今は泣かないけどっ…!
「サシャっ…!あんた…!」
「うぅ……ミ、ミアさぁあん!」
「無事で良かった…!ルルガドルルの群れといるって聞いた時は、どうなる事かと思ったよ!」
「あんなに溺愛してたモモと引き離されたって聞いて、サシャちゃんが何するか…もう、気が気じゃなかったっスよ」
「檻はもう壊してあるぞ。あっちで解放した魔獣達に異常がないか診てる。……行ってこい」
ミアさんに、オッド。ベルさんとジルコットさんまで…全員集合じゃないか。急速に私のメンタルが癒されていく。
そして、ジルコットさんが指差した方には既に団長が向かっていて。慌てて駆け寄り追いつくも、その表情は険しい。…そうだった。
従魔契約、強制解除されていたんだった。
チャトラもモモも、どうなっているかわからない。怖い。けれど、モモに会いたい。こんなにモモと離れた事なんてなかったもん…寂しい。
たとえモモが私なんてもういいと言っても、近づくなと威嚇されても、抱きつきたかった。
最初に檻を発見した場所に近付くにつれ、ガヤガヤと騒がしさが増す。ユナイシアムルの人達が魔獣に避けられているのを横目で見つつ、モモを探すもなかなか見つからない。
あんなに大きな体がどうしていないのだろうと首を傾げていれば、ふいに大きな影が降ってくる。…え?
「サシャっ!」
「ぐぇっ」
ま、また首根っこ掴まれた…!
涙目で咳き込んでいれば、今度は頭上から強い風が吹き込む。
「もう、一体なに…………………モモ、」
会いたくて会いたくて仕方なかった愛しいモモが、そこに、いた。危うく潰されるところだったのは、やっぱり怒っているからだろうか…
会えたらまず謝ろうとか、抱きつこうとか…いろいろ思っていたのに、いざモモを目の前にすると言葉が出ないし足がすくんで動かない。
どうしよう。お前なんかもう知らないって言われたら、
(…おい)
「は、はいっ!」
モモの声は低い。いや、元々低かったか…?もう長い事声を聞いていない気がする。あんなに毎日一緒にいたのに、今のモモの感情がわからない。
それでも数日ぶりに見た黒くつぶらな瞳、つい触りたくなるマロ眉、ふわふわで肉厚の耳は…超絶可愛かった。
(何勝手に俺の前からいなくなってんだ)
「うっ…ご、ごめんなさい……?」
何か違う気がしたが…まぁ、森でモモから離れたのは私だ。間違ってはいない。
(俺がどんだけ心配したと思ってやがる。それにあの忌々しい檻は壊れないわ、飯はマズいわチャトラはうるさいわ…散々だったぞ)
「ほんと…本当に、ごめんね、モモ」
(…早く帰って美味い飯食いたい。ほら、さっさとしろ)
え、ちょっと、待って…
引き止めれば不機嫌そうに睨まれたけど、お願いだから待ってほしい。
「ま、まだ一緒にいても、いいの…?!怒ってないの…?!」
(あ?怒られたいのか?)
「それは絶対嫌だけど、でも…すぐ助けに行けなかったし…モモを、守れなかったから…」
(めでたい頭だな。いいか、よく聞けよ)
ぶっちゃけ連れ去られたのは、ジャーキーに夢中になってた俺が悪い。助けと言ったが、弱いお前に期待はこれっぽっちもしてなかった。むしろ俺がいないと、簡単に死ぬとすら思ってた。
(だから今後、心配させるなよ。俺の目の届く場所にいろ。楓は、俺がいないとダメだからな)
「うん……うんっ…!絶対、離れないから…!嫌がっても離れないからね!」
わざわざ伏せてくれたモモの顔に飛び込めば、前足で抱えるようにギュッとしてくれた。そしてボソッと、悪かった…なんて呟く。
(解けた従魔契約も、楓がしたいなら…またすればいい。まぁそんなもんなくてもずっと一緒にいたんだし、今更だがな)
もっとぎゅうぎゅう抱き着いた。モモ…前々から思ってたけど、なんでこんなに男前なんだろう…!かっこ良すぎる!
ふわふわの毛並みを全身で愛で、深く何度も息を吸い込む。これこれ、この…お日様の匂いが、モモの匂いだ。はぁ〜、落ち着く…
戦争はまだ終わっていないし、団長とチャトラも気になるし、鉱石もどうなったのか聞かなければ。名残惜しいがモモから離れ、ムキムキを探しているとー…
違うムキムキが、建物の陰からこちらを見ていた。
…ボスの事忘れてたっ!




