爆誕
…ボスがね!
とは、心の中でだけ呟いておく。さすがにかっこ悪くて言えたもんじゃない。
だけど自らの手で一発くらいはやり返さないと気が済まないので、腰が引けたままではあるが男達を睨む。が、鼻で笑われただけだった。
「何を意味のわからない事を。ルルガドルルに乗っているからと強気になりやがって…調子に乗るなよ、小娘が」
顔は強気でも膝が笑っている男に言われたところで私はなんとも思わないのだが、ボスが唸り、それに連動して他のゴリラ達まで騒ぎ出す。怒ってくれるのは嬉しいけれどこのままやっつけてしまっては、モモを吹っ飛ばした犯人がわからない。
焦りながらみんなを落ち着けようとまずはボスを宥めていれば、さっきまで喋っていたリーダーっぽい男がお前…と呟いた。
「なんなんだ………お前は、ルルガドルル達の、なんなんだ…?!」
なんなんだと聞かれても、…仲間としか言いようがない。けれどきっと求めてる答えではないんだろうなと言い淀んでいると、ふいにボスが頬が合わせてきた。
それを見て、何かを察した表情をした男に嫌な予感がした。遮らなければ、そう思い口を開いたのだがー…
遅かった。
「まさか、お前…!群れのボスと、そ…そういう関係かっ…?!」
「どういう関係だよっ!」
…はっ!つい突っ込んでしまった…!
どよめく敵に、喜ぶボス。そして後ろから突き刺さる無数の視線に泣きそうになる。なんで初めて会った敵にまでそう思われなきゃいけないんだ。大体そういう関係ってなんだよ。ハッキリ言ってみ、…いや、やっぱりやめてほしい。現実になりそうというか、なりかけちゃってる気がする。
ボスを嫌いなわけではないけれど、私は恋愛するならちゃんと同じ種族がいい。人間がいい。
どうしてこうなるんだとより一層頬をくっつけてくるボスをグイグイ押し返していれば、何かが髪を掠り焦げ付いた匂いを感じる。
火球だった。
「会話で油断させるとは、卑怯な…!」
「大量にルルガドルル連れてる良心のない女には言われたくない!」
いやゴリラどんだけだよ!
そう叫びたかったが次々と飛んでくる火球をボスが華麗なステップで避けるので、揺れが半端なく舌を噛みそうで喋れない。
仲間のゴリラ達も攻撃されているのが見えたが、上手く同じ魔法で相殺している。なるほど、そう対処すれば良いのか…!
見様見真似で火球に火球をぶつければ、パァンと小気味良い音と共に二つが弾けた。
「チッ、小癪な…!お前さえ落とせば勝てそうなのに!」
痛いところを突かれギクリとする。
確かに…私がやられればゴリラの群れはどうなるかわからないし、作戦は失敗してしまうかもしれない。
絶対に一撃も食らうもんかと集中しても、敵の方が手数が多く当たらないのは無理だった。体は団服の効果で無傷だが、首から上はそうもいかない。髪が焦げ、頬には矢が掠り血が垂れる。
下手すれば死んでしまう。
ボスもみんなも反撃してはいるが、やはり数が多いし敵も増えてきている気がする。だって全然減らないんだもん。
私も防ぐばかりじゃなく攻撃しなければといろいろ魔法を放ってはいるが、同じように相殺され当たらない。それどころか剣や斧を持った奴等まで出てきて、冷や汗が背を流れる。
こっちは武器なんて持ってな、………あ。
「ボス…!短剣ならあるけど使える…?!」
「ウホッ!」
返事をしたので急ぎ渡せば、受け取った短剣をクルクルと回し構えたボス。おぉっ…なんか、手慣れてる…!
やがて真下でギィン!と響く金属音。防げはしたが、あちらは長剣。さすがのボスも苦しそうで、何か打つ手はないかと観察しー…気付く。
真下に見える後頭部。
あれ…これ、チャンスなんじゃ…?
そっと背から弓を外し、狙いを定めて一気に上から振り下ろす。
ゴチィイン!
「ぁだっ?!」
見事に当たりよろけた敵は、すぐにボスに鳩尾を殴られ吹っ飛んだ。そして動かなくなった。…あ、あれー?
強くぶつけすぎたかもしれないと片手で口を覆えば、敵がざわめき先程よりも距離があく。…殺しては、いないよね…?!
「気をつけろ…!近付けばあいつが殴ってくるぞ!」
「な、殴ってはいない!」
「同じ事だろうが!地味にエグい攻撃しやがって…!」
そう言われても…仕方ないじゃないか、魔法だとボスが近過ぎて危ないんだから。
しかし牽制にはなったようで、再び魔法の撃ち合いに。私もボスも防ぐのに必死で…周りが、見えていなかった。
「ぅぐっ?!」
「ウホッ?!」
いきなり後ろから襟を掴まれ、ボスから落とされる。打ちつけた尻の痛みに悶絶すると同時に、首筋に当たるひんやりとした感触。
それが刃物だとわかった瞬間、体が、動かなくなった。
「へへっ…命懸けで近付いた甲斐があったぜ…!」
敵が背後にいた事に気付かなかった、私とボスの落ち度である。
情け無くも人質となってしまい、悔しさが込み上げるも本当に動けない。動いた瞬間きっと、この刃は私の首に突き刺さる。
それにしてもどうやって近付いたのだろう。仲間の目もあったのに、……隠蔽魔法だろうか。
見るからにひょろひょろした男なのがまたムカつくが、状況が変わるわけではない。ボスもさぞや呆れているだろうなと恐る恐る見上げ、
…驚きすぎて、目が点になった。
「な、なんだ…お前…!」
「……」
静かに黒々と輝くボス。え、何が起こってるの…?!
黒く、光沢のできた体にビビっているのは私だけではない。首筋に当たっていたものがなくなったと思えば、あろう事か私の背に隠れ盾にしはじめた敵に呆れを通り越して何も言えなかった。こいつ…
ボスの変化はそれだけじゃ止まらず、バチバチと電気を纏いはじめる。そしておもむろに腕を掲げたかと思えば、他のゴリラ達も同じように黒く輝き電気を纏っていく。
誰かが硬質化、と呟いた。
「こ、硬質化……?!」
「お前、アレの飼い主なのに知らねーのか…?!いいか、硬質化ってのはなぁ…!」
体を金属のように硬く、変化させる魔法だそうだ。ルルガドルル特有の魔法であり、たとえ魔力量が膨大な竜人族でも真似する事は出来ない。
その体は並の剣じゃ傷すらつかず、魔法も通りが悪いので撃つだけ無駄だという。
代々ボスに受け継がれていく、群れを守る為の魔法。そこにルルガドルルの仲間に分け与えるという能力が加わり、鉄壁の群れが出来上がる。
本来ルルガドルルは、大人しい魔獣だ。そして魔獣の中でも強い部類に入る為、ピンチに陥る事もそうそうない。なので硬質化なんて滅多に使う事がなく、残された記録も僅か。
ただその僅かな記録では、硬質化を解くにはひたすらヒビが入るまで攻撃し続ければ良いとの事。…近付ければ、の話だが。
「あいつ、雷魔法も併用してやがる…!なんつー魔力量だよ…!」
バチバチ音がなり、見るからに近寄れたもんじゃない。しかしあまりにも堂々としたゴリラ達の佇まいに、最初こそ恐怖を感じたが神々しい何かにも見えてくる。
何が起こっているか教えてくれた男には感謝するが、盾にされているし見知らぬ男にひっつかれてなんだか気持ち悪いし寒気もする。でもボス達の感情がわからないので、不用意に動けない。
どうしたら良いのかわからず途方に暮れていれば、急に男は悲鳴をあげながら地面を這いつくばり、慌てて私から離れていく。一体どうし、
「……嘘でしょ、」
私の手も、黒く輝き始めたではないか。
状況が飲み込めず呆然としている間にもどんどん体は黒くなり、試しに突っついてみればコン…と、到底人体から聞こえないはずの音が聞こえ。
更にバチバチと電気を纏い始めたのを見て、私は自分がメタリックゴリラの仲間入りを果たしてしまったのだと、悟った。
いや…電気付きだし、エレクトリックメタルゴリラだろうか?やばい、頭が混乱している。そんな事どうでもいいんだ。
どちらにせよ人として終わった瞬間だった。
「ル、ルルガドルルに魂売りやがったな…!」
その言葉に、思わず両手で顔を覆ったのは言うまでもない。




