団長は団長だった
アイーダさんが他の部隊と伝達魔法で連絡を取ってくれたので、私達は爆破された残骸を片付けさっさと敵地へ向かう事にした。他の部隊も隠蔽魔法を使う敵に気をつけつつ進むとの事だ。
「隠蔽魔法はな、姿と声を消せるんだ。発動している奴が触れた物も隠せる」
ただし気配は消せないし、魔獣相手なら匂いですぐにバレてしまう。なので優れた使い手じゃないと全く意味がない魔法なのだと、兵士に教えてもらった。竜人族が魔法に詳しいのは有難いなぁ…私はまだまだ、無知なのだと思い知らされるけど。
森は広く、普通に走っても抜けるのに三日はかかるそうだ。ならば魔法を駆使しさっさと抜けてしまおうと、したのだが……
「団長!これっ、ひどくないですか?!」
「チャトラとモモがいないからな、普通はこんなもんだ!」
「マジですか!」
二匹がいないだけで、こんなに魔獣に襲われるとは思ってもみなかった。
猿の群れに荷物を取られそうになり。
猪の群れに突進されかけ。
馬の群れに轢かれそうに、なった。
そして今は鴉の群れに突っつかれている。どうしてみんな群れなんだ…!そして容赦がない!魔法攻撃もしてくるからめっちゃ怖いし普通に痛い…!
私が知っている姿で変わりはないのに、知恵は人間並。魔法攻撃もうまく、これが本来の魔獣なんだと痛感する。たまにちょっと当たりつつも避けるのが精一杯なのに、ユナイシアムルの彼等は器用に遠ざけている。はぁ、私だけ無駄に体力持ってかれる…!
「全然進めない…魔獣避けとかないんですか?」
「奴等は皆火が苦手だから、全員が炎でも纏えば寄って来ないとは思うが…森だからな。諦めろ」
さすがのアイーダさんも疲れてきているようで、休憩するぞと木に寄りかかった。しかし魔獣は待ってなんてくれない。
「ウホッ」
「…アイーダさん。今何か言いました?」
「馬鹿を言うな。お前こそふざけた喋り方をしただろう」
この人こそふざけてるんじゃないだろうか。私がウホッとか言うわけないだろう。
ならばと周りを見れば、みんな私とアイーダさんの上をガン見していた。…上って、木の枝しかないけど。
見るのが怖いけど確認しなければ。意を決し顔を上げた瞬間、
「ウッホ!」
「……………」
ゴリラが、降ってきた。
それも一頭だけじゃない。数えきれない程の、黒い塊達。あまりに驚いて声が出なかったのは言うまでもない。
「なんだ、ルルガドルルじゃないか」
嬉しそうに近寄っていく団長を見て、血の気が引いた。ゴリラみたいな団長ではあるけど、さすがに危険なんじゃ…?!
しかし私の心配は杞憂に終わる。何故なら、
ゴリラと団長が、ガッチリと固い握手をかわした……から。…え?この人何してんの?
「こいつらは見かけによらず大人しいんだぞ!人も好きだしな!ほら、来てみろサシャ」
「いや、……無理じゃないですかね…?!」
「大丈夫大丈夫!俺がボスと仲良くなったからな!」
あ、団長が握手してるの、ボスなんだ。
さすがとしか言いようがないが、なんで竜人族には中指立ててるのかな…?!それが怖くて近寄れないんだけど…!
「我々は魔力が高い分、魔獣には嫌われるんだ。気にするな、慣れている」
それもどうかと思いつつ、団長と仲良くしてくれているボスを見る。でかい。それにムキムキだし、とっても強そうだ。
…あれ?私、ゴリラを見てるんだよね?団長を見てるんじゃないよね?
あまりにも似ているので訳がわからなくなってきた。…こんな時は、とりあえず餌付けだろう。私まで中指立てられたくはない。
チャトラ用にと持ってきていた長いジャーキーをポケットから出せば、急に団長がわたわたし始めた。一体どうした。
「…あ。団長もお腹減ったんですか?これ、従魔用ですけど人間も食べれますよ。友好の証に二人で食べたらどうですか?」
「!ま、待てサシャ!ボスに食べ物を差し出すな!」
団長の制止は遅かった。
既にはい、と渡してしまったし、ボスもわざわざ両手で受け取ってしまっていた。
結果。
「ウホ…ウホッ!ウッホホ!」
「どぇっ?!」
急にボスに突進され、ギリギリでかわす。と、私の後ろにいた兵士がガッチリ抱き締められ、すぐにポイっと捨てられた。…え、何が起きたの?
「だっ、団長ーっ?!なんで私ボスに狙われっ、ひぃ!危ないっ!」
「………はぁー。いいか、サシャ。そいつらはな、」
団長が語るこちらのゴリラの習性に、涙が出かけた。
群れのボスに食べ物を渡す事は、求婚を意味する。
…私は、知らずにボスに求婚してしまったわけで。しかもボスが受け取ったもんだから、成立してしまったわけで。
それで、ボスは私を抱き締めようと必死なようだった。
「……マジかっ!ちょ、団長!これどうにかなりません?!私そんなつもり全くなくてっ!てか早く言ってくださいよ!」
「すまん!そして俺は無理だな!本来大人しいが、実際戦うとすごく強いんだ、そいつら。諦めてみたらどうだ?」
「それ私に嫁になれって言ってますぅ?!団長がなってみたらどうですか?!」
「群れのボスはオスだぞ?俺は嫁にはなれんだろう?」
「もーやだこの団長っ!だからモテないんですよっ!」
なにぃ?!と食い気味な団長はアテにならないので無視し、何度もダイビングしてくるボスとジリジリ向かい合う。くっ、強そうだ…!私無理かもしれない!
…こうなったら説得するだけしてみようか。無駄かもしれないが、しないよりはマシなはずだ。
ちなみに竜人族達は離れた場所で飲み食いしつつこちらを見学していた。…あ、イラっとする。
改めて少しずつこちらに寄ってくるボスに向かい合い、勢いよく頭を下げた。ええぃ、なるようになれだ!早くモモを助けに行かなきゃいけないんだから!ゴリラにだって頭下げてやる!
「ご、ごめんなさい…!さっきの求婚は間違いですっ!」
「……ウホ?」
「あの、その……今、悪い奴等に捕まった従魔を、助けに行かなきゃいけなくて。急いでるんです!間違って求婚してごめんなさいっ!」
とりあえず正面から誤解を解いてみた。…伝わった、だろうか…?
「ウッホ!ウホホ!」
…やっばい、モモいないからなんて言ってるかわかんない。
戸惑う私、何やらウホウホ喋っているボス。それを見守るゴリラの群れと竜人族。何これどうしたら。
困り果てた私を助けてくれたのは、やはり我らが団長だった。一歩前に出たその後ろ姿につい感動するも、何故か同時に不安になる。そして、読みは当たってしまった。
「うん、時間が勿体ないな!いいかボス!俺達は急ぎ仲間を救わねばならん!それだけじゃない!その仲間を…サシャを、苦しめる敵を倒しに行く!」
「ウホ?」
…んん?
「お前も男ならば、惚れた女を助けてみせろ!惚れさせてみろ!」
「ちょ、団長ちょっと待っ」
「その気があるならサシャについてこいっ!」
「ウホホッ…!」
やりやがった。その、一言しか出てこない。
団長の間違った説得により何やらやる気が出てしまったボスに、一瞬で腕を取られた私。
抵抗する間もなく素早く額同士が合わさり、そして抱き締められる。…え?
早すぎて反応出来なかったんだけど、今、何が起きた…?!




