予想外の、
事前に他の隊と襲撃時間を打ち合わせているので、うちだけ先に進むわけにも行かず。かなり早く着いてしまったが、本来の予定通り野営である。
気持ち悪いと言われたショックを引きずりつつも、下っ端なのでユナイシアムルの人達と一緒に準備をしているのだが…たまにヒソヒソ聞こえるのが気になるんですけど。
「…よし。団長ー!野営準備完了でーす!」
と言ってもまだまだ太陽が元気な時間だ。チャトラとモモも二匹で遊んでいるし、……うん。葉っぱがすごく舞ってテントに積もっているけど見なかった事にしよう。楽しそうで何よりだ。
何をするにもまずは腹ごしらえだと、携帯食をいただく。何があるかわからないから節約しないとな。干し肉とパンだけにしておこう。
「モモ、ジャーキー食べる?鶏肉も持ってきてるけど」
(ジャーキーがいい。二本くれ)
良かった、モモの食料多めにしといて…!
遠出用にと長めに作ったジャーキーをポケットからスルスルと出せば、周りの兵士達に凝視される。ちょ、またか…!今度は変な事してないはずだけど?!
「な、長すぎないか…?!」
「そんな事ないですよ?ポケットの幅分しか入らないので、モモの満足度を考えたら普通です」
最初はあまり使えないと思ったが、幅は限られるけど長いだけならいくらでも入れられる魔法のポケット。今ではかなり重宝している。
大事そうにジャーキーを抱えはぐはぐと噛むモモに、癒されると同時にキュンキュンする。可愛すぎるじゃないか…!細まった目がまたなんとも言えない。
微妙な視線を寄越す兵士達を無視し、自分も干し肉をもちゃもちゃしていれば食べ終えた団長から声がかかる。
「サシャ、敵がいないとも限らんから一応見回りに行こうと思うんだが、行くか?」
「あ、行きたいです!…でもまだモモがジャーキーを、」
「チャトラもだ。なぁに、二匹がいれば襲ってくる魔獣もいないし、大丈夫だろう。それに見回りと言ってもちょっとだけだ」
団長のちょっとはちょっとじゃないんだよなぁと思いつつも、仕事はしなければいけない。それに確かにチャトラとモモがいれば大抵の魔獣は逃げ出すくらいなので、むしろこの場は何よりも安全だろう。
「モモ、私団長と見回りに行ってきて大丈夫?モモも行く?チャトラはいるらしいけど」
(まだジャーキー食ってんだろうが!)
くわっ!と牙を剥かれたが、いつもの事だ。たまたま近くにいた兵士は飛び上がっていたが。うちの子がごめんなさいね。
「じゃあ行ってくるからね。ちょっとだけだから、いい子でジャーキー食べて待っててね」
(おう。怪我すんなよ)
基本は私といつも一緒にいてくれるモモだが、オヤツが絡むとそうでもない。寂しさは感じるけれどオヤツに夢中なモモも可愛いので仕方がないと割り切っていた。
アイーダさんも数人の兵士を連れ逆方向を見回るらしく、二手に別れる。来た事のない森だが特に変わった様子はない。…魔獣も、いないなぁ。
「団長、こんなに何もいないって…不思議じゃないですか?」
「そうなんだよなぁ…チャトラ達もいないから、なんだかんだ出てくるとは思っていたんだが…」
静かすぎて不気味なのだ。小鳥すら飛んでいないのはいくらなんでもおかしい。
「…妙だな。嫌な予感がする。サシャ、一度戻るぞ」
「了解で、」
ドオォォオンッ!
「「!!!」」
突如響く爆音に、体が強張る。なに…今のっ……!爆発?!こんな森の中で?!
足に風を纏わせつつも周囲を見渡せば、一部が赤い。火だ。しかしあのあたりは、…!
「…急げ!」
飛び出した団長に慌てて続く。見通しが良いからと結構離れてしまっていたが、今燃えているのは私達が野営している場所だった。
ただの事故なら、いい。誰かの魔法の暴発でもまだ許せる。モモが…怪我してなければねっ…!
「モモっ…!」
「何事だ!……チャトラ!いるか?!」
草木やテントが燃え、数人の兵士が倒れている。恐らく爆発に巻き込まれたのだろう。生きてはいるから今はいい…それよりも、
あの、大きな。決して見失わないはずのモモの姿が、見えない。
それどころかチャトラまでいないのはどういう事だ。巨体二匹がいなくなるなんて、……そんな事…!
「モモー!…………………っ、モモ!どこ?!モモーっ!」
声が、聞こえない。
「っ…ジャーキーまだたくさんあるよーっ!ふりかけも持ってきてる!お散歩しよう!……………モモーーっ!」
モモが喜ぶワードを叫びながら辺りを走り回るも、炎しか見えない。水魔法を使える兵士達が消化しているが火は一向に消えないし、モモの声も聞こえない。
なんでっ……どこに行っちゃったの、モモ…!
「サシャ!こっちに来い!」
「でも団長!モモがいなくてっ」
「いいから来いと言ってる!」
「っ…はい……!」
いつも優しい団長に怒鳴られた事なんてなかった。
だがそのおかげで少し周りが見え、思っていた以上に大きい被害に今更ながら冷や汗をかく。アイーダさん達も戻って来ていたようだ。なんにも、気付かなかった…
「……ブロッグモーリアか、ムルスタブルグか…どちらの仕業かはわからん。だが奴等の襲撃に間違いない」
「何があった」
アイーダさんが兵士から聞き込みをしてくれたおかげで、モモとチャトラがいなくなった理由がわかった。
まず私達が離れて少したった後、ジャーキーを食べていた二匹がいきなり吹っ飛んだ。そして吹っ飛んだ先には、例の檻と複数の男達。
すぐに隠蔽魔法だと気付き攻撃しようとしたらしいのだが、再び檻ごと姿を隠されどうしようも出来ず。更にテントを爆破され、一瞬で混乱に陥った、と。
「痕跡も消されていた。…食事の匂いが充満していたし、従魔二匹も注意が散漫だったからな。あいつらが入る大きさの檻を持ってきているのもそうだが、私達が離れた時に行動したあたり…かなり計画的だ。尾けられていたのかもしれん」
「隠蔽魔法解除出来る奴いるって言ってただろ。どこにいた」
「私と行動していたんだ。隠れているかもしれないからと、捜索しながら探していたんだが…まさか直接あの戦力が襲われるとは……すまん、私の読みが甘かった」
腕を組み、厳しい表情の団長がお前は悪くないと言う。
そうだ。悪いのは、私だ。モモなら大丈夫だと目を離してしまった。あんなに大事だと言っておきながら、ちょっとだからと…モモを一人にしてしまった。
あぁ、モモ…!今怖いだろうな……不安だろうなっ………!知らない人に捕まって、檻は魔法きかないっていうし、自分じゃ出られないはずだ。側にいなかった私に怒っているかもしれない。
「………助けなきゃ」
モモを、助けなきゃ。一度破ってしまったけれど、モモを守ると決めたんだから。これ以上モモが傷つく前に…早く助けて、なんとかお腹いっぱいのジャーキーで許してもらわなきゃっ…!
「助けると言っても、もう手遅れだろう。あの檻に囚われた時点で従魔契約も解除されているはずだ。再会しても、もうお前の従魔ではないんだぞ?」
「……それでも、助けます」
アイーダさんの言う通り、モモと繋がっていた糸は見えない。その事実がより悲しみを助長させるが、契約の問題ではないのだ。
「モモは私の家族です。…従魔じゃなくても、家族に変わりはないんです。絶対に見捨てない。例えモモに見捨てられようが、私はモモを愛し続けます!」
愛する家族。大事な大事な、宝物のモモ。
楽しい時も、辛い時も…悲しい時も、勿論イライラしている時だって、ずーっとモモは一緒だった。
…もしかしたらモモはもう私の事が嫌いかもしれないけれど、まずはモモを助ける。それ以外を考えるのは後でいい。
何より、得体の知れない奴等にあの可愛いモモが連れ去られたのかと思うとっ…怒りでどうにかなりそうだ…!絶対に許せない!
そもそもモモは檻が大っ嫌いだし、今頃すごく怒っているはずだ。何故なら…食べかけのジャーキーが、ここにあるから。オヤツの恨みは恐ろしいんだぞ…!
「そうだな。俺も同じ気持ちだ。例えチャトラに拒絶されようと、俺は必ず助ける。そして再び認めて貰えるよう誠意を尽くすだけだ」
「………二人の覚悟が決まっているなら、いい。檻は我々竜人族が壊せるからな、必ず助けてやろうじゃないか」




