予期せぬ事件
私とモモが従魔騎士団に入団し、早いもので一ヶ月以上がたった。
毎日団長と森へ入り、たまに敵と出会うがチャトラとモモを見て逃げ出してしまうので戦闘にはならず。良い事なんだけど…モモを見て逃げるのがショックである。こんなにチャーミングなのに。
森から帰ったら、時間の許す限り弓と魔法の訓練。少しでも精度を上げていかないと全く使い物にならないので、とにかく毎日練習を欠かさないようにしている。足を引っ張るのは御免だ。
その訓練の成果が出たのか、先日ついに団長に遅れず着いていく事が出来た。連発のタイミングが難しいのと着地の衝撃が強いので、なかなか大変だった…!何度地面とこんにちはしたかわからない。
ちなみに私はアレを、瞬発ブーストと勝手に呼んでいたりする。そのまんまだけどわかりやすいだろう。
そして今日は、初めてなんにも予定がない休日である。今までは休日でも、モモと遊びつつ訓練をしたり本を読もうと努力したり、誰かにいろいろ話を聞いたりしていたのだが…きちんと休めと怒られてしまったのだ。私は好きな事をしていたつもりだったんだけど。
そんなわけで今日は、待ちに待たせたモモのビーフ缶詰…………と思ったのだが。
大問題が起きた。
「モモ、ごめんね…缶詰には出来ないんだ。缶を作ってもらえなかったから…」
以前お世話になったヤグネスさんに、缶を作ってもらえないか頼んだのだが断られたのだ。必要性を感じない、と。確かにと納得してしまいそれ以上お願い出来なかった。私とモモしか必要としていないもんね…。
中身も、缶詰の材料も作り方も知らないわけで。ならばと似たものを詰めようにも肝心の缶がなければどうにもならず。今は、泣く泣く諦めるしかなかった。
従魔は個々で食べ物が違い、うちのモモは毎日鶏肉のミンチを茹でてあげている。二日に一回くらいトッピングで果物や野菜も盛っているが、味が薄すぎると苦情がきていたのだ。私としてはモモの健康を考えていたのだが…味気なさすぎたようだ。
仕事でほぼ毎日森へ行くのを散歩代わりにしているので、運動量は充分。ならば少しくらいカロリーが高くても良いだろうと、今日はいろいろ試すつもりである。
(楓が作るもんならなんでも食うぞ)
「またそうやってキュンキュンさせる…!もうっ、わかったよ!とびきり美味しいの作るからねっ!」
庭で伏せて待つらしいモモだが、その尻尾はブンブンである。あー…後ろに回って見たい…!凝視しすぎだって怒られるからなかなか後ろには行けないんだよなぁ…
だって可愛すぎるのが悪いのだ、柴犬のお尻。みんなに良さが伝わらないのがちょっと悲しい。
厨房では肉を一度に大量購入し費用を抑えているので、今使う牛肉はジルコットさんからお得に買わせてもらったものだ。
あとは多数の野菜に魚と調味料を少々。
缶詰は、諦めない。すぐには無理だがいつか絶対に作ろうと思う。だから今はとりあえず、それに代わるものー…ふりかけを、作るのだ。
モモはビーフ味の缶詰の次にふりかけが好きだった。カリカリに混ぜてもほじくって先に食べる程に。
それにふりかけなら日持ちするし、いろんな味を比較的簡単に作れるはずだ。あと大きめのジャーキー。モモのオヤツだが、多分チャトラとリンリン…カトリーヌも食べるだろう。喜ぶ様子を思い浮かべるだけでニマニマする。
まずはいろいろほぐしてー、味をつけてー、炒めてー…っと。
モモに味見をしてもらいながら何種類か作成していたのだが、なかなか良い出来だと思う。これなら満足してもらえるんじゃないだろうか。
早速今夜からふりかけてあげようとご機嫌で片付けをしていれば、ふいに外が騒がしいのに気付く。
「モモ?誰か来たの?」
(全員帰って来たぞ。ベルとリンリンが赤いが)
「赤い…?……………ちょ、それって…!」
鍋を放り出し庭へ出る。するとそこには、確かに全員がいた。ただしー…
ベルさんとリンリンが、負傷していた。
遠目でもわかる。団服が、赤い。リンリンは動いているがベルさんは団長に背負われており、目も閉じている。一気に冷や汗が出た。
「ベルさん…!リンリンっ!」
「!サシャ!良かった、いたのね…!綺麗な布!なんでもいいから持ってきてちょうだい!」
いつも冷静なミアさんが叫んでいるだけで、どれだけ緊急事態なのかがわかる。
平和ボケしていた。一ヶ月何もなかったからと、安心してしまっていた。どこかで、自分達は、大丈夫だとー…!
戦わなきゃ死んじゃう世界なのに…!ちょっとの油断が誰かを危険にさらすのに!自分の馬鹿っ!どうして大丈夫だなんてっ…!
「布持ってきましたっ…!」
「貸してくれ。…んな泣きそうな顔すんな、大丈夫だ。俺が治すんだからな」
横たわったベルさんの腕に手をあてるベルコットさん。彼は唯一うちで聖属性を持っていて、治療魔法が使えるのだ。普通は魔法師団へ行って使える人を呼んで来なきゃいけないから、こういう時にはかなり頼りになるし助かる。
それにしてもひどい。腕だけではなく胸に脇腹、足にも傷が見える。…正直見たくない。見たく、ないけどー…
見なきゃいけない、現実を。いつか自分やモモがこうなってしまうかもしれない。その時に、目を逸らさない為に。
「サシャ、足の方抑えといてくれ。リンリンは大丈夫だからな、返り血だ」
「っ…はい!」
返り血というワードに鳥肌が立つも、今は止血だ。渡された布で傷口を抑えようとしたのだが、
「うっ…!」
ー…肉が見えただけで、吐き気を催した。
無理すんなと言われたが、今無理しないでどうする。散々ベルさんにはお世話になってきたんだ。ベルさんが大変な時くらい、私が根性見せないと…!
奥歯を噛み締め布を押し当てる。リンリンも心配なのか、ウロウロしていて落ち着きがない。
上から順に綺麗に塞がっていく不思議な光景を眺めていれば、離れた場所で何やら話し合っていた三人が戻ってきた。
「お、早いな。さすがジル!この様子だとすぐに意識は戻りそうだな」
「サシャ。あんたもよく聞いといてよ……今回ベルが怪我した、理由。私達従魔騎士団は特に…危ないから」
どういう事か聞き返す前にリンリンが大きな声で鳴き、ついビクッとする。と。
「…………あー……ご迷惑おかけしたっス」
「っ…!ベルさん!良かっ、ぶ?!」
「グルァァアッ!」
「おーよしよし。リンリンも悪かったっスね」
「ちょ、私を無視しないで…!くるしっ…!」
あろう事かリンリンは間にいた私ごとベルさんを抱き締めた。嬉しいのはわかるけど、ちょっと…!血塗れ二人に挟まれてもれなく私も血塗れだよ!
でもベルさん……生きてて良かったぁ…!




