天国と地獄
「モモ…こんな姿を見せて、ごめんね…」
(何言ってんだ。日曜日はよくそうしてただろ)
「あっ、それは言わないで…!」
今、私はー…
宿舎と従魔小屋の中間、広い広ーいふっかふかの芝の上で情けなくも四肢を投げ出し空を見ている。こんな庭欲しかったんだぁ……あ、そうだ!今日からこの芝ゾーンは庭と呼ぼう!
「サシャちゃん、大丈夫っスか?」
「大丈夫に見えますか?」
「喋ってる感じは」
「……………」
空を見てるなんてカッコよく言ったが、なんの事はない。魔力切れで動けないだけである。
まさか本当に動けなくなるとは思わなかった。全く、体に力が入らない。首すら動かせず、なのに目玉と口は動く不思議。なんだかとても気持ちも悪いし、怖い。
だってこうなってしまったら無抵抗じゃないか。自己責任だしさっくりざっくりやられても文句は言えない、私が悪い。
よし決めた。今後魔力は絶対に枯渇させない…ように気をつけよう。
「サシャ!ご飯出来たけど、食べれる?」
特訓に付き合ってもらってる間にオッドとは呼び捨てあう事になった。同い年なのもあるが、ちゃん付けしようとして三連続で噛んだから。うん…サシャちゃんって、言いづらいもんね…私も噛みそうだ。
ちなみに私とオッドが一番年下だそうだ。それでも同い年は友達ができたみたいでなんとなく気持ちが楽になった。
「口に入れてくれれば」
「…ナポリタン作っちゃった。うーん、いけるかな?」
「ナポッ……いけないと思うから後でいただくよ!」
「でもお腹減るでしょ?上からそっと下ろせば口に入ると、」
「絶対私の顔面真っ赤になるからやめよう。お願いだから」
そう?なんて小首を傾げるオッドは、あざと可愛い。女の子みたいな顔にクリーム色の髪がまた、なんとも。背もあまり高くないしなぁ。
天然っぽいところも面白いとは思うが、要注意だ。顔面ナポリタンにされちゃたまらない。
「じゃ、俺は食べてくるっスね。大体一時間くらいで立てるようにはなるはずっスから。弓を引けるかは別として」
「ベルさんひどっ…!いろいろひどっ!私何か気に触る事しました?!」
「いやぁ、サシャちゃんわりとツッコんでくれるんで、つい」
ヘラヘラと笑いながらオッドと共に宿舎へ向かうベルさんの後ろ姿を横目で睨みつけた。なんなんだあの人、愉快犯か?………ちょっと、ぽいな。
金髪だし目鼻立ちくっきりだし瞳は青いし、モテそうなのに…軽そうな口調で損してる絶対。ポニーテールは似合うけど。こっちの人って男で髪長くても似合っちゃってるから不思議だ。羨ましい。
芝に散らかった自分の黒髪を見て溜め息を吐く。
「会社厳しかったからなぁ…」
髪を染めるのは禁止だったのだ。せめてものオシャレと伸ばしてはいたが、染めた事は一度もない。今時珍しいと母も言っていたけど、…………そういえば、みんなどうしてるかな…
いきなりモモと行方不明になってしまったから。実家にいたし、お父さんもお母さんもすごく心配してるだろう…警察にも探されているかもしれない。
でももうどうしようもない。連絡する術はないし、来た方法がわからない以上帰る方法もわからないわけで。
生きて、生き続けて…いつか帰れる方法を探すしか出来る事はない。
「でもなんか悲しくなってきちゃった…モモがいるからまだ良かったけど…」
「グゥ?」
ぐすんと鼻をすすれば、近くで寝転がっていたリンリンと目が合う。あぁごめんねリンリン、慌てなくて良いよ。何もないから大丈夫だよ。
はぁ、と一息つく。と。
「………モモー?なーにどしたの、いきなり甘えたなの?」
(俺は楓がいるから悲しくないからな)
なんか…いきなりデレ来た……!
投げ出していた手の平に顎を乗せ、真っ直ぐに見つめてくるモモにキュンキュンする。ちょっと、いやかなり顎重いけど。いくらでも我慢しようじゃないか。
(ところで缶詰はいつくれるんだ?まさか忘れてないよな…?)
「わ、忘れてない…!忘れてないから!いきなり牙出さないで至近距離すぎて怖い…!」
「ガゥ?………ガルァ!」
「えっ……チャトラ…?!」
なんてこった…!何故か反対の手にもチャトラの顎が!違うんだよ…?!こういう遊びじゃあないんだよ…!
「キキッ!」
「ぶわっ!なんだこの毛玉…ってトトまで?!く、くすぐったい…!」
顔面から足の先まで往復して走り回るトト。私アトラクション化してないか。てか顔蹴られて普通に痛い。我慢するけど。…そもそも今抵抗が、出来ないのも、ある。
両手に華。前面に元気という名の癒しをもらい、心がじんわりと暖かくなる。私が悲しんでいたからだろうか?やはり動物達は人間の感情に敏感なんだな。
これからは出来るだけ怒りや悲しみは出さないようにしようと決心しかけ、気付く。
「………なんか……え、誰か頭触ってる…?髪の毛引っ張られてる感じが、」
「グァッ!」
元気よく返事をしたのはリンリンだろう。その声は頭上から聞こえ、まだ動けないので起き上がって見る事も出来ない。てかたまにリンリンの頭は見えるんだけど。トトの往復が早くて一瞬しか、
(良かったな楓、リンリンがリボンを分けてくれるそうだぞ)
察した。
きっとリンリンは、お気に入りのリボンを私の髪に結んでくれているのだろう。あの大きな手で頑張ってくれているのだ、爪が当たらないように。
嬉しさとキュンが物凄い反面、とてつもない恐怖も感じる。勿論リンリンにではなく、自分の頭がどうなっているのか見えないからだ。
何回もいろんなところが引っ張られるのがわかるもんだから、余計に怖い。う、動け私の体…!今動かないでいつ動くっていうんだ!きっと寝転がったまんまなのも勘違いさせてる気がする!もう悲しくないのに!これっぽっちも!
しかし私の願いは通じず、食事を終え戻ってきた三人に大爆笑されるハメになった。オッド曰く頭にはたくさんのリボンが無造作につけられており、髪があちこちを向いている、と。更には体を囲むようにバナナが置かれているらしい。
トト…途中でいなくなったと思ったら、非常食くれてたのね…。仲間認定されて嬉しいけど笑われすぎて素直に喜べない。
それに団長とベルさんは笑いすぎだし、私は一体いつ動けるようになるの…?もう一時間たったよね?
そろそろ両手が痺れて違う理由で動けなくなりそうなんですけど。




