うきうきショッピング②
大股で近寄ってくる男二人に、自然と体に力が入る。冷や汗やばいし心臓もバクバクする。どうしよう、喧嘩だろうか。従魔騎士団と騎士団は仲が悪いのかもしれない。
もしもベルさんが殴られたら、買ったばかりだけどこの弓を盾にしよう。時間稼ぎくらいは出来るはずだ。
そう決心し腕に力をこめたのだが、なんともまぁ、…杞憂…だった。
「……………なぁーんてなっ!お疲れベル!今日は非番か?」
「噂の新人だろう?悪かったないきなり」
「…、……………へっ…?」
はぁー…と長い溜め息を吐くベルさんと、男二人を交互に見る。え、あれっ?何これ?何この空気?………もしかして、遊ばれた…?!
「チンピラの真似して何のつもりっスか?暇なんスか?」
「暇じゃねぇよ、見回り中だって言っただろ?今日も冷たいなぁ」
「ベルいんなぁと思ったら、隣に見慣れないのいたから。新人だろうなってんで、ちょっとやってみたかった悪役やってみた」
「タチが悪いっスわ」
確かに、悪ノリが過ぎる気がする。まぁめちゃくちゃビビったから成功はしたけど。怖かったよ。
「サシャちゃん、一応紹介するっス。騎士団のギリクとメルダ。騎士団はお調子者が多くてこんなのは日常茶飯事っスから、気にしないように」
「失礼だしベルに言われたくねぇが…まぁ改めまして、ギリクだ。今後よろしく!」
「メルダだ。街の事で何かわからなかったり、異変があったら騎士団に言ってくれ。君の事はもう全員に通達済みだから」
「あ、サシャです。こちらこそよろしくお願いしま、……通達済み、ですか?もう?」
聞けば女性の団員は珍しいそうで、昨夜団長によって所属届が出されてからすぐに広まったそうだ。なるほど、納得。
そして仲が悪いどころかめちゃくちゃフレンドリーで安心した。
「従魔騎士団に入団したって事は、契約した従魔がいるんだろ?すげぇし羨ましい」
「契約するにはそこそこ魔力が必要だからな。それに、魔獣に認められるのが難しい……よく頑張ったな」
羨ましがられてるし褒められてるが、どうにも複雑だった。だって私の場合はモモと出会ったのペットショップだし、モモに拒否権はなく一方的に家族の仲間入りだったし。
こっちに来てモモが大きくなって、契約済みだと言われただけでなんの苦労もしていないのだ。なんかごめんなさい。
しかしこうなってくると自分の魔力量が気になるところである。平均ってどれくらいなんだろう…数値化して見たいなぁ。
気さくな騎士団の二人は見回りの途中だからと挨拶もそこそこに別れ、ベルさんに教えてもらった洋服屋さんへ。気を遣って外で待っててくれるベルさんはモテると思う。綺麗な顔してるし。
ざっと見た感じ、一般女性が着る服はワンピースが多かった。それかただのスカート。どちらもとてもヒラヒラしており、そこにカーディガンのような上着やちょっと装飾のついたコルセットを合わせるようだ。ぶっちゃけ可愛い。
…可愛いが、残念ながらスカートなんて高校の制服以来で恥ずかしくて着こなす自信がなく、下着だけを購入し男性の服屋へ連れていってもらう。
ちなみにパンツは見慣れた形だったが、上の下着は形は似ていたがワイヤーの入っていないものだった。ちょっと不安だがないよりはマシだ。
「ズボンがいいなんて変わってるっスね。ガサツなミアですら普段はヒラヒラしてるっスよ、レースこそ最強の武装だとか言って」
「あはは、確かにミアさんなら似合いますね!私はいいんです、むしろズボンじゃないとモモと全力で遊べないので」
スカートの中に顔を突っ込まれるのは言わないでおこう。昔何度やられたか…でも他の犬もやっていたから、習性なのだろうか?今度聞いてみよう。
無事目当ての服を数着とついでに靴を購入出来たので、いよいよ今日のメインであるお布団だ。大きな寝具屋さんがあるらしくそこで全て揃うとの事で、真っ直ぐ向かっ…
ていたのだが途中で二人して誘惑に負けた。
「考えたらとっくに昼過ぎてたっスね。腹も減るわけだ」
「ですね。ベルさん、これすごく美味しいです」
三十センチ程に切ったフランスパンを軽く焼き、こんがりパリパリに焼いた鶏肉とレタスを挟み、さっぱりとした玉ねぎのソースがかかっているサンドイッチ。
簡単に作れそうだがソースに何が入っているかわからない。すり下ろした玉ねぎなのはわかるんだけど、…なんだろうこの味の深みは。わからないから真似出来ないじゃないか。
そしてベルさんが露店でサンドイッチを買ってくれている間に周りをざっと見たが、なんとも不思議な世界だと改めて思った。
野菜や料理の名前は知っている通りなのになぁ…なんで、動物の名前だけあんなにぐちゃぐちゃしてるんだろう。
あと、言語の次に問題視していた文字。
なんと英語表記だった。知ってる文字を見てひどく安心したが、同時に物凄い不安も。
ー…ワタシ、エイゴ、ワカラナイ。
簡単な単語なら覚えているが会話文とかもうすっかり忘れてしまった。しかも喋っているのは日本語だから、永遠に覚えれなさそう。
願わくば…文字を書く機会が訪れない事を、祈る。
「さ、ここが寝具を揃えてる店っスよ。一店舗しかないんで品揃えは抜群っス!」
「わぁ………!」
抜群とは、まさに言葉通りだ。
布団がいっぱい。枕がいっぱい。お店の中ぎゅうぎゅうに詰め込まれた寝具に、胸が高鳴る。
「え、しかも安っ…!なんでこんなに安いんですか?!」
「王妃様の出身国の特産品なんスよ。大量に仕入れるとかなり割引されるみたいっス」
なるほど…納得。独自の技術と聞いていたから、きっと寝具もそうなのだろう。いいなぁいつか行ってみたい!
「じゃあ、この布団五つと枕も…五つ!あとあのふわふわした毛布を六枚と、シーツも十枚ください!」
ベルさんの顎が外れるんじゃないかという程落ちた。
「ちょ、ちょっと待って…!そんなに買ってどうするんスか?!何するんスか?!」
「え、……モモとの愛の巣作りに、必要なんですよ…?」
「何言ってるかわかんないって顔しないでもらえます…?!大体、そんなに買ったら給料の半分は飛ぶじゃないっスか!魔獣は元々外で生きてるんで寒さには強いし、地面の上でも問題ないはずっスよ?」
ダメなんです、うちの子室内飼いだったので。
そうハッキリと伝えれば、ベルさんは無言で布団の搬入、更にはセッティングまで手伝っていってくれた。よその子の面倒まで見てくれるなんて、本当ベルさんは優しいなぁ。




