うきうきショッピング
翌日、私は約束通りベルさんと初めての街へ来ていた。王都と言うだけあって人が多く賑わっているし、外国風の街並みも美しい。
石畳で舗装された道は歩きやすくて久々に膝が楽な気がする。土や草は好きだけれど、コンクリートに慣れちゃってるからなぁ…
木造や石造り、レンガなど様々な造りの店が並ぶ中、たまに何かわからない物に目を惹かれる。こんな状況じゃなければ観光するのに。
「んじゃ、まずは服から買いに行きましょっか!サシャちゃん普段着はどんなっスか?もしくはこんな服がいい!とかあったら遠慮なく!」
「動きやすい服がいいですね。あと、出来たら安ければ安い程嬉しいです」
「………あれー。騎士団の給料、そこそこ高かったはずなんスけど」
足りないっスか?と聞かれ、苦笑しながら首を横に振った。
「モモの布団がいくらかかるかわからないので…あまり質の悪いもので妥協したくもないですし」
「…ちょっとわかるっス。リンリンも気に入らないリボンだと噛みちぎるんで」
あれはショックっスよ、と項垂れるベルさんに同情する。すごくわかる。いくら私が気に入っても、モモが気に入らなかったらアウトなのだ。
かつて骨型のぷーぷー鳴るおもちゃが一度も手をつけられず、一週間同じ場所にあったのを見つけた時は三度見した。きっとよっぽど気に入らなかったんだろう…私のセンスよ…
「まぁモモの布団は意外と安く手に入るっスよ」
「あ、なら量欲しいです!ふかふかに仕上げたいので!」
「了解っス!じゃあそれは荷物になるんで最後にしてー…」
武器、見に行きましょっか!
いい笑顔のベルさんに引き攣り笑いをしてしまった。そうだった、団長に武器を選んでこいと言われてたんだった。だから今日はミアさんではなくツテがあるらしいベルさんなのだ。
安い武器で種類を揃えてもいいし、これを絶対に使いこなす!と決めて一つ良いのを買ってもいい。そう言われている。そして武器は騎士団の経費で買ってもらえる。………正直とても助かります。これ以上借金はしたくない。
普段ベルさんがお世話になっているという武器屋へ行けば、そこには筋骨隆々にしてひげもじゃの大男…ではなく。私より小さなおじさんがいた。おぉ、すっごい笑顔だ。
「よぉベル!昨日は珍しくラミア亭に来なかったと思ったら…そういう事だったのか!水臭いじゃねぇか!みんなで祝ったってのによぉ!」
「ちょ、何を勘違いしてるんスかヤグネスさん!新人っスよ新人!従魔騎士団の!」
ヤグネスと呼ばれたおじさんは一瞬キョトンとした後、そうか!それでもめでてぇじゃねぇか!と豪快に笑った。なんて気持ちの良い人なんだ、ヤグネスさん。
「はじめまして、昨日入団したサシャといいます」
「おうおうこいつぁご丁寧に。俺はヤグネス、武器屋をやってる。まぁ本業は鍛治師なんだが」
「国が平和なんであまり売れないから、鍛治師は休業してたんスよ。最近また作ってくれるようになったっス」
「ドワーフだからな、鉄をいじるのは好きなんだ。あと酒もだな!こいつとは飲み仲間ってやつよ!」
ガッハッハ!と大口あけて笑うヤグネスさんはベルさんと肩を組みご機嫌のようだ。それにしても、ドワーフか…
一気にファンタジー感が強くなったと冷や汗をかく。
竜人族や魔人族がいるのもわかってる。今回はたまたまドワーフという私でも知ってる有名な種族で、特徴も知ってるままだったから良い。
けれど他の種族についてはまだまだ無知だ。勉強する事がたくさんあって大変だなぁ…!少しずつみんなに聞いて覚えていかなければ、生きるために。
「で、今日は何しに来たんだ?めでてぇ報告だけか?それとも今夜飲むのか?………そういや、ラミア亭に新メニューが出来たそうだが」
「ラミア亭って…?」
「街で一番でけぇ酒場だよ。昼は飯屋で、うめぇぞ〜!…にしても嬢ちゃん、どこ出身だ?ラミア亭を知らねぇなんて珍しいな」
「あー…ははは……ちょっと、山奥に住んでたのが長くて………」
ヤグネスさんは、そうか!たまにいるんだよなそういう奴、と大して気にしてもおらず再びベルさんに何しに来たんだと聞いている。
しかしベルさんはあちゃー…と額に手をあてていた。どうしたんだろう?ラミア亭とやらの新メニューが気になるのだろうか。
「…ま、過ぎた事は仕方ないっス。ヤグネスさん、サシャちゃんの武器が欲しいんスよ」
「こいつの武器だぁ?てっきり事務かと思ってたが、違うのか」
そりゃ誰から見てもそうだろうな。ベルさんは勿論、ミアさんやオッド君ですら引き締まった体をしている。それに比べて私は、普通。肉はありすぎずなさすぎず。体力と筋力はほぼないだろう。
こんな事ならジムにでも通ってれば良かった、と内心で溜め息を吐けばヤグネスさんが壁を指差す。うわ、いろんな武器が飾ってある!これはすごい…!
「一通り揃ってる。だがお前さん、見たところ剣も握った事ないだろう?」
「はい。見るのも初めてです!」
「楽しそうな顔しやがって…オモチャじゃないんだがなぁ…」
ハッとした。
そうだ、これは武器。自分の身を守り、同時に命を奪える凶器だ。初めて見たからといって喜んではいけないものだ。不謹慎だった、反省しなければ…それになんだか子どものようですごく恥ずかしい。
「ま、女ならそんなもんか。刃物っていやぁ包丁くらいだろう。責めはしねぇさ」
「すみません…自覚が足りませんでした」
「んなもんこれからだろう。で、どれにする?身の丈に合わないもん選んだって意味ないからな、よーく考えろよ」
剣だけでも種類がある。長いのと短いの。刃の厚みと幅も違うようだ。持ち手が長い斧みたいなのもあるし、槍もある。
弓に盾に、長いハンマーに。グローブのようなものもあるが甲部分が金属だし、なんかトゲトゲついてるのもある。…当たり前だが想像したらエグいな。私には無理そうだ。
「サシャちゃん、力なさそうだし遠距離の方がいいんじゃないスかね」
「私もそう思います。…甘いのかもしれないですけど、直接攻撃はまだ抵抗がありますし……」
「正直で大変よろしい。実際、長剣に憧れて使い出す奴は多いんスけど、いざ本番となったら尻込みする奴も多いんスよ」
覚悟ない奴が武器を握るからそうなる。
一瞬真顔になったベルさんを、怖く感じた。
そしてドキッとする。恐らく私もそうだ。まだ、覚悟がない。戦わなきゃいけないから、そういう仕事についたからー…流れで手にしようとしているだけ。
現代で殺人は犯罪だし、たとえ正当防衛でも過剰という事もある。それに誰かと本気で命をかけて戦うなんて事、なかった。偶然傷をつけてしまうだけで怖かったし悲しくなったし、申し訳なく思った。
ー…けど。私は私が生きていく為に、モモを守る為に戦わなきゃいけない。何も出来ずにモモを失いたくはない、………絶対に。
強くならなきゃ、あの可愛くて愛しくてたまらないモモが死んでしまう。
「……………なるべく早く、強く、なります」
モモと共に生きる為に。私は、誰かを傷つける覚悟を決めなきゃいけない。
って言っても今はまだ手が震えるんですけど!なんなら足も震えてますけどー!こちとら平和な時代で生きてきた現代っ子である、かっこいい事は考えれるけどすぐに行動には移せない。
「…少しずつでいいっスよ、俺達もいるんで。まだ先輩を頼ってくれればいいんス」
「嬢ちゃん、魔法は?何か使える攻撃魔法はねぇのか?」
「魔法はこれからなんです。まずは武器を見繕ってこいと、団長が」
「ガイリスは脳筋だからな…そうなるか…」
なら最初は弓にしとけ、と比較的小さな弓を渡される。小さいと言っても一メートルはあるし、ちょっと重たい。
「弓なら接近戦は避けられる。それにオッドがいただろ、あいつはあぁ見えて国内で五本の指に入る程腕がいい。教えてもらえ」
「え、オッド君そんなにすごいんだ…?!わ、わかりました!」
「合わなけりゃまた考えてやる。まずは使ってみろ、魔法との兼ね合いもあるだろうしな」
価格は入団したお祝いにと半額にしてもらえた。私よりベルさんの方が喜んでいたが、有難い事だ。これはよりいっそう国の為に働かなければ。
「武器は買えたし、あとは生活用品っスね!女性ものの服はあっちの方に、」
「おいおい、なんでこんなところに従魔騎士団の奴がいるんだ?しかも女連れでよぉ」
「サボりか?感心しねぇな、俺達はこうして昼夜問わず見回ってるってのに」
「……騎士団っスか」
騎士団。
ベルさんが呟くその視線の先には、ガッチリと鎧を着込んだ男性が二人。ニマニマとこちらを見ていた。
何やら不穏な雰囲気である。
せっかく気持ちよく武器を買えたのに、揉め事は勘弁して…!




