お布団の悲劇
ジルコットさんのご飯は、絶品だった…!
どうやらこちらは洋食がメインのようで、見慣れない食べ物もなく食べ慣れない味ということもなく、高級ホテル並の美味しさのせいで綺麗に完食してしまった。食いしん坊ではないですよ。
モモも肉が好きだと言ったら大量のミンチを茹でてもらい、ビーフではないと不満気に呟いてはいたけど今や満腹でモモ小屋で転がっている。ぽっこりしたお腹が眼福で大変よろしいのだが、あれはなんの肉なんだろう…?
「あ?ペアズールマも知らないのか?」
「…どんな見た目でしたっけ?」
「どんなって、白い羽生えてて頭に赤いのついてる奴」
それ以上は聞くのをやめた。鶏だ、鶏だった。なんでこう…すごい名前がついてるんだろうな、この世界は。先に見た目を聞くのは正解だったようだ。今後はそうしよう。
「そうだ、サシャ。ほれ」
「わっ、と。なんの塊ですか、これ…?」
いきなり団長から投げ渡された黒い塊にビビり心臓がバクバクする。なんだろうコレ。そこそこ大きいし、なんか…あれ、布…?ぐちゃってしてるけど布?
「だ、団長!それ僕がさっき貰ってきたサシャちゃんの団服じゃないですか?!なんでそんなグチャグチャに…!ちゃんと畳んで渡したのにっ…!」
「ん?気付いた時にはこうだったぞ?」
「それ団長が握ったんでしょぉぉお!」
何やらオッド君がプンスカしている。そうか、このぐちゃってる布は私の団服なのか……一度も着てないのにめっちゃ皺ついてる…。
それでもみんなとお揃いの制服は嬉しい。急な勧誘だったけれど、ちゃんと仲間になれている気がして。あと気も引き締まる。
「ありがとうございます。大事にしますね!」
「別にそんなに大事にしなくても、替えはたくさんあるからな!」
「だーかーらー、そういうデリカシーのないところが女性にモテないんですよ…って何回言わせるんです?私疲れましたよもう…」
「ミア、俺を見捨てないでくれ。モテたいんだ」
「台詞だけは一丁前っスね」
「台詞だけはな」
コントを見せられている気分である。
皆の仲の良さが伺える会話だが、決して疎外感があるわけではない。なんだろうな、この懐かしい気持ちは。うーん…上司と部下というより、部活の先輩後輩に似てるのかも。良いのか悪いのか。
複雑な気持ちで団服を綺麗に畳み直していれば、台所を片付け終えたジルコットさんが2階へ案内してくれた。
主に団長とオッド君が整えてくれたらしい形だけの自室は、白を基調に必要最低限の物が揃っていて素敵だった。モモが小さかったらこの部屋で良かったんだけれど…まぁいいのだ、さっき作った寝床も小屋というより家のようになったし。いつか稼いでシャワーとトイレもつけたい。
その後タオルを借りシャワーに入れたのでようやくさっぱりする事ができホッとする。汗もかいたし気にしていたのだ。従魔達に匂いなんか嗅がれた日にはもう、……言葉も出ない。
そして下着までは借りれないと言ったら、明日は非番だというベルさんに付き合ってもらい街へ生活用品を買いに行ける事になった。なんとお金は経費で!
ー…なんて事はなく、普通に前借りである。うぅっ…就職も住む場所も決まったと思ったら、いきなり借金…!情け無い…!
もう、とりあえず今日は!寝るっ!
昨晩は野宿だったし今も体がちょっと痛い。明日は出かける予定だし、少しずつ疲れを取っていかないと訓練も何もないだろう。だから布だろうがなんだろうが柔らかい物の上で寝れるのは幸せなのだ。
みんなにおやすみをしてモモの待つ小屋…ううん、モモハウスへ向かう。もう寝てるかなぁ、それとも待っててくれてるかなぁ…
「って、ひどくない…?!」
(いや…このへんが、もうちょっとこう……………気に食わなくてな…)
ミアさんとセッティングした布達が、見事にぶち撒かれていた。あぁ…すっごい一生懸命掘り掘りしている……全身で掘り掘りしているぅう……!!
モモの寝る前の癖を忘れてた!
「も、モモ!ちょっと待ってよ!地面見えてるから!せっかくふかふかにしたのに!」
(もっかい整えてくれ)
「やるけどっ!また掘らないでよ…?!いい感じに頑張るから!」
(ちょっと枕になる部分もな)
わかってますよこんちくしょう!
散らばった布達をかき集め、再びふんわりもっこりさせる。よし出来た。あとは一緒に寝転がるだけだ。
万が一潰されては笑えない為先にモモがポジションにつき、後に私が転がる。布団とは言えない布だがないよりはマシだ。ちゃんと肩までかけ、モモのもっふもふなお尻に擦り寄る。
「ん〜っ…ふわふわでもふもふ…あったかぁい…離れたくなぁい…」
これはとてつもなくいい夢が見れそうだと目を閉じたが、ふいにもぞもぞと動き出すお尻。え、ちょっとなになに?なんか向き変わって、
「…モモさんや。何してるの…?」
(寒い。入れてくれ)
「あ、ちょっ!無理!無理だよそれは!」
体の向きを変え無理矢理頭を突っ込んできたモモ。けど鼻の頭しか入っておらず、まだだと言わんばかりにグイグイ進軍してくる。いや本当ちょっと待って。
「あのね聞いてモモ。この布ね、小さいからね。私も体全部入らな、」
(入れてくれ…)
副音声でキュウン、と聞こえた。いやどっちが副音声なんだって話だけど…聞こえたもんは聞こえたのだ。キュウンて…かわっ……!
実際本当に無理なんだが、こんな可愛い子にハッキリ無理とは言いたくない。てか言えない。無理矢理来るのも頭隠して尻隠さずなのもぶっちゃけ超可愛いキュンキュンする。
これは……………私が、譲るしかない。その一択である。
「わかったよモモ…!そんなに入りたいのね、よしよし。明日大きい布買ってくるからね、今日はこれで我慢してね〜」
私はバスタオルくらいの布を、そっとモモの顔にかけた。彼はそれで満足したようでやがてすぴすぴと寝息をたてている。
明日…なんとしてでも、モモと私が入れる大きさの布を買おう。幸せとキュンの為に。




