国と騎士団
従魔達を纏めて紹介してもらった後、モモは彼等とお昼寝すると言うので私は再びミアさんによる案内を受けていた。そういえば途中だったもんね。
「ー…こんなところかしら。あとは、そうね…仕事内容はその都度教えた方がいいと思うの。覚えきれないでしょ?マニュアルでもあれば良かったんだけど、私達は日が浅いからそんなもの作ってなくて…」
「え、そうなんですか?てっきり昔からあるのかと思ってました」
「えぇ、実は編成されて一年もたっていないのよ。…部屋は片付いてないみたいだし、食事の時間もまだだから、ちょうどいいし騎士団についてお勉強しましょうか?」
貴女には教える事がたくさんありそうだしね、とウインクされる。本当お手数おかけしてすみません…でも是非お願いします!せめて最低限の常識は覚えたいです!
話を聞くついでに同時進行でモモと私の寝床を整えてくれる事になり、改めてミアさんに感謝する。やっぱり女性だなぁ…気がきくし優しいし、この世界に来て同性は初めてだからとても安心出来る。
他の人が集めたけれど使わなかったという板やロープ、布に木箱にとなんだかいろいろ頂いてしまった。モモが好きなふかふかした物はないから、それだけ揃えなきゃいけないだろう。お給料貰ってからだけど。
殺風景な木の壁にクリーム色の布をかけながらミアさんは言う。
「今後ずっと一緒なんだし、サシャって呼んでもいい?」
「勿論です!あ、この黒い布丸めて使ってもいいですか?」
「全部好きに使っていいわよ、倉庫に入ってた物だし。サシャは…とんでもない山奥に住んでたのよね?エルイットさんが何も知らないって言ってたんだけど」
うっ、と言葉に詰まる。
「えーと…………はい。自給自足だったので、」
「あぁいいわ、わかった。違う世界から来たとでも思って話すわ。といっても私にとっては当たり前だから、何から話せばいいか…」
今度はギクリとする。例えなのかもしれないがドンピシャすぎた。…落ち着いたら、他にも同じような人がいないか調べてみよう。
何から話せばいいかとは言ったが、そこからミアさんの口は止まらなかった。勿論手もだけど。
まずこの国で一番偉いのは国王であるリングラングリン・ジル・ダーマネスメギアル・ジョア陛下。続いてクラリスコアルル王妃と、リュゼミレリアン王女。
名の長さが高貴さの象徴らしく、貴族もそこそこ長い名を持っているらしい。平民の最長は五文字だそうだ。
ダーマネスメギアル国王は、優しすぎる…その一言に尽きるらしい。事前にエルイットさんから聞いていた通り争い事が嫌いで、戦争などしたくない。国民全員が毎日笑って平和に暮らしていけたら良い。何かある度にそう発言しているそうだ。…優しさの神か。
心配していた貴族と平民の確執もなし。何故かといえば、土地が豊かだから。地で育つ物は国内で収穫出来る。海の物は嫁いで来た王妃様の国が海に囲まれており、同盟国なのでそちらから。
つまりどことも争わず暮らしていけるそうで、元々そういった方針の国で育った貴族も温厚な性格な為平民を見下したり無理を言ったりする事もないんだとか。
しかし、最近になってそれが問題になってきた。
自然豊かで大人しい住民が多いこの国を手に入れようと、あれやこれやとちょっかいをかけてくる国がいるそうなのだ。
この世界には五つの国がある。
まず我らがリングラングリン王国。天候や地に恵まれ作物の実りもよく、人種差別なく様々な種族が暮らしている。
そして王妃様の出身国であるウールデリヒ王国は魔人族の国だ。魔力の保有量が非常に多い種族らしい。海に囲まれた陸の孤島だが独自の技術で発展しており、貝で造られた街並みが美しい。この国も人種差別はなし。
中立を保っているのがユナイシアムル王国。竜人族の国であり、主に鉱山が収入源。物々交換で他国から食料を仕入れている。舌の肥えた者が多く美食の国としても有名。中立にいれるのは、軍事力に優れているからである。ちなみに美男美女が多い。
問題なのはブロッグモーリア王国…ここは人間至上主義で、他人種は入国すら拒否するという。森に囲まれた美しい国だったそうだが、数年前何を思ったかユナイシアムルに戦争を仕掛け大敗北し、砂漠に囲まれた国となった。その為常に食料不足。住民も国外逃亡する者が増え、手っ取り早くリングラングリンを丸ごと手に入れようと企んでいるらしい。
更にそこへムルスタブルグ王国も賛同している。リングラングリン程ではないが豊かな国で人種差別もない。ただし国王が強欲で嫉妬深いらしく、自分の国より他国が栄えているのが許せないという理由でブロッグモーリアと組んだ。
………らしい。
「え……ブロッグモーリアとムルスタブルグはどうしちゃったんですか?」
「ほんと、そう思うわよね。こっちが大人しいのをいいことに」
いくら戦争が嫌だと言っても黙っていればやられてしまうので、泣く泣くダーマネスメギアル国王は戦う準備をしだしたらしい。
といってもハッキリ戦争だ!と言われたわけではなく小さい嫌がらせやちょっかいがあるだけなので、ゆっくりだそうだが。
「うちの国には騎士団と魔法師団、そして私達従魔騎士団がいるの。元々騎士団と魔法師団だけだったんだけど…」
従魔騎士団が出来た理由を聞いて、あぁ…と納得してしまった。
まず騎士団は魔法がからっきしである。使えても生活補助程度で、従魔契約する程の魔力もない。代わりに身体能力が高く武に秀でた者達で構成されている。
反対に魔法師団は魔力が非常に高く、様々な魔法が使える。だが魔法に頼りきった生活をしているので筋力もなく動きもどこかのっそりしている。
そこで、騎士団と魔法師団を合体させた従魔騎士団が生まれたそうだ。機動力と破壊力を上げる為従魔の力も借りると決めたらしい。ちなみに…
魔法師団員は従魔を持たない。何故なら僅かでも従魔に流れる魔力を魔法に使いたいから……うわぁ、根っからの魔法馬鹿集団だ!
「なるほど…従魔と協力しつつ自分も動いて戦うのが、従魔騎士団なんですね」
「そうよ。だからサシャは剣でも弓でも魔法でも、とにかくなんでもいいの。戦う術を身につけてくれれば」
自然と腕に力が入る。そうなんだよね、今聞いた話は他人事じゃないんだ。私が戦わないとモモが危ない。かといってあんなに可愛いモモを戦わせるなんて論外だ。…もしかしたら私より強いかもだけどっ!
でも、モモと契約出来ているし魔力量は低くはないんじゃないだろうか?確認する方法ないのかな…。
「ところで、寝る場所はこんな感じでいいのかしら?出来るだけふかふかにしたつもりだけど」
「!はいっ!いい感じです!これなら一緒に寝れそう…まぁ私はモモがいればどこでもいいんですけど、モモには可哀想な思いさせたくないので!」
「…サシャ、あんた随分モモに甘いわね。私が言うのもなんだけど、あくまで主導は人間にあった方がいいわよ?」
え、主導ですか?
「モモは私と同じだと思ってるので…あ、勿論食べ物は別ですけど。ずっと、一緒に行ける場所は絶対一緒だし、寝る時も一緒だし…本当はご飯食べる時間も一緒なんですよね。そうだ、どうにかおやつと缶詰入手しなきゃ…!」
「………モモの事となるとよく喋るわね。私より従魔に甘い人間を初めて見たわ」
「え、そんなことないですよ?普通です、普通」
ペットなんて絶対に言わない。従魔とも言わない。モモは、家族だ。いなくてはならない相棒。そんなモモと話せるようになって天にも昇ってしまいそうな程嬉しい。
よく、モモがもし喋れたらこう言ってるんじゃない?こう思ってそう、なんて勝手にアテレコして勝手に幸せになってたし。本当の気持ちを知れて、会話出来るなんて思ってもみなかった。
けどー………
モモの知能が上がったんじゃないか疑惑、が、ある。
最初に別世界じゃないかと指摘してくれたのはモモだ。そこが不思議だった。だってモモ、右と左わからなかったよね?お月見してて綺麗な満月だよ!って言っても指差した先端見てたよね?あれは確実に私の指だった。
我が子ながらに可愛いなぁ賢いなぁと思っていたけど、賢さが格段に上がったようなのだ。おじさんボイスと口調はまぁ、七歳だし…年相応と思える。十歩くらい譲って。
…魔獣になってしまった影響だろうか。
他の従魔もしっかりしてたしなぁ。魔力が体に宿った影響なのかもしれない。
ちなみにモモにはこっそりトイレ事情は確認してあったりする。あ、したい。と思った瞬間ふわぁ…と消えるんだそうだ。したいとは思うのか。可愛いな。
不思議といえば、犬だけヘルハウンドと微妙にわかる名前なのもなんなのだろうか。薄っすら記憶を辿れば、なんか…どっかの国の怖い何かだった気がするんだけど。ダメだ全然わからない、気にしない方が良さそうだ。
あの可愛いふわ耳とお尻を思い浮かべながら改めてモモと一緒にいれて良かったな、と豪華になったモモ小屋から出れば、さっき見た巨体がぽすんぽすんとスキップでこちらへ向かってきていた。か、かわっ…!
「チチッ」
「あら、ムムスケが呼びに来たわね。ご飯よサシャ。離れてる人はムムスケが呼びに来てくれるの」
「なんて幸せなんですか。最高」
「チッ」
「え、………うわぁぁああ!ミアさん!見て!ムムスケが!ムムスケがっ……手を繋いでくれてるぅぅう…!」
「……………………良かったわねぇ」
ドン引かれたが可愛すぎてやばい。はあぁ、やばい。ほんとにやばい。お腹に抱きついてスリスリしたい。膨らんだ頬袋も突っつきたいし短くぴこぴこしてる尻尾もキュンすぎる…!
「従魔に嫉妬という感情がなくて良かったわね…彼等、仲間は仲間という認識らしいから」
「あ、そこは大丈夫です。妬いてほしくても一度も妬いてくれた事ないので…」
「…なんか、ごめんなさいね……?」
(腹減った。早く飯寄越せ。あとビーフ缶)
「笑顔と台詞のギャップがすごいよモモ…!」
うん、でも、好きっ………!




