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4-7 開演

「何か仕掛けてくるつもりです。用心を」

「とっくに待ってるぜこっちは」


 こういうときばかりは素戔嗚が味方でいることが心強い、玲仁は思った。


「行け!」


 以外にも仕掛けたのは金山ではなかった。掛け声と共に毒島の前に現れたのは、顔と手足があり、どちらかというと小鬼、と形容した方が相応しい生き物だった。肩や肘から鋭利な骨が突き出て、長い爪も際立つ。あれで引っ掻かれたらひとたまりもなさそうだ。


「あれは……荒神あらがみ?」


 実は玲仁も『ガラッ』を試し続けた過程で入手したことがあったため、心当たりがあった。一度召喚を試みたところ、あまりの暴れっぷりに手がつけられず、自身のデッキで扱うことはやめていた。玲仁にはまだ付喪神や狛犬の方がよっぽど自分の性に合っている、と感じたことを覚えている。

 だが、もし暴力性を求める人間であれば……飼いならすメリットは十分にあるだろう。まさに目の前に立っている、毒島のように。


 毒島の号令によって現れた荒神は全部で五体いた。


「編成の上限数を越えていませんか?」

「いや、こいつは複数体が1キャラとしてカウントされる、付喪神と似たようなタイプだ。確か、使い手の怒りの感情が強い場ほど、多く召喚できる」

「良く勉強しているな、少年。おれや金山と……相性がいい。そういうことだ」


 毒島がにやりと微笑む。一体だけなら素戔嗚の敵ではないが、十分に狂暴なのは間違いない。この数を対処できるのか? 玲仁も一抹の不安にかられた。

 毒島が手を振りかざし、号令をかけると、荒神はいっせいに散り散りに飛んだ。天井や床、壁に張り付きながら、徐々に距離を詰めていく。


「キイィィィッ!」


 一匹が、爪を突き出してながら、素戔嗚のもとに飛びかかった。示し合わせたように、立て続けに二体、三体と連続して飛びかかってくる。

 だが狭い厨房の中にもかかわらず、素戔嗚はギリギリの距離で次々と華麗に攻撃をかわす。

 やがて一匹の荒神が再び素戔嗚に飛びかかった。顔面を捉えたかと思ったその瞬間、素戔嗚は相手の手首を素早くつかんだ。そのまま投げ飛ばすと、ダーツの矢のごとく爪がそばの壁に突き刺さった。


 残りの四体は一瞬動揺したそぶりを見せたが、毒島がぎろりと睨むと、すぐさま続けざまに素戔嗚に飛びかかる。


「遅い」


 素戔嗚は今度は一匹の手首をつかむと、もう一方の荒神にその爪を突き刺す。そして目にとまらぬ速さで荒神の攻撃を次々とさばいていく。気づくとまるで荒神が同士討ちしたかのように攻撃を受け、その場に横たわっていた。


「す、すごい……」

「こういうときばかりは……さすに頼りになりますね」


 ほっとしたのもつかの間、なんと脇に生き残っていた一匹が、ターゲットを変え、玲仁の目の前に襲い掛かってきた。鬼のような形相で、至近距離に迫る。

寸前のところで天照が荒神に体当たりを喰らわせる。一度は吹き飛んで倒れるが、再び立ち上がり、性懲り無く今度は天照に迫る。


 天照が身構えた瞬間、荒神の眉間から鋭利な金属が突き出た。


「グ、グギイッ!」


 そのまま荒神は倒れ、消滅する。カラン、とフォークが床に転げ落ちた。素戔嗚がいつのまに間にか投げ放っていたようだ。


「なるほど……口だけの男ではないらしい。金山、心してかかれ」

「はい。わざわざ相手の力を測るために、兄貴の手をわずらせてスミマセン」

「相手の強さがわかることに越したことはない。『ヤオヨロズ』の世界においては、特にな」

「おいチビ、さっさとこいよ」


 素戔嗚が待ちきれず、金山を挑発した。金山が毒島に目線で尋ねる。毒島がうなずく。やれ、という合図だ。金山が前に出て、ふところからバタフライナイフを取り出した。


「そんなもんでおれを倒せるとでも? チビガキが」

「……てめえは殺すだけじゃ飽きたらねえ。ずたずたに切り刻んでやるよォ!」


 ついに、金山がそのナイフをかざして真っすぐ素戔嗚に突っ込んでいった。素戔嗚は先ほどと同じように、突き出したナイフを紙一重で難なくかわす。相変わらず身のこなしは天下一品だ。金山は攻撃の手を緩めず、斬りつけようとする。が、何度振りかぶっても、素戔嗚の身のこなしの前では空を切るばかりだ。


「貴様も所詮、口だけか」

「……どうかな?」


 にやり、と金山が笑みを浮かべ、続けてナイフを繰り出す。


「――!?」


 素戔嗚の頬に、一筋の傷が刻まれる。金山の攻撃がかすったようだ。一度素戔嗚は後ろに飛びのき、頬を確かめた。深紅の血が垂れる。

今度は自信満々な表情で金山がつぶやく。



「なぜだ、って顔だな? ふふ、いい気味だぜ」

「チビが……」

「素戔嗚が間合いを見誤るなんて珍しいですね」

「何かしらの特殊技能スキルか……裏にからくりがあるかもしれない。素戔嗚、気をつけて!」

「うるせえ! 俺に指図するな」


 金山がナイフを舌でなめながら、嬉しそうにつぶやく。


「ひひひ……次は心臓にサクッと突き立ててやるよ!」


 再び金山が攻撃を仕掛ける。素戔嗚は間合を広めにとりながらステップを踏み続けるが、さすがに狭い厨房では思う通り動きづらいようだ。再び、攻撃が素戔嗚の太ももをかすめた。


「おい、ぼーっとしてると次はえぐるぜ?」


 自信満々に金山がカチャカチャとバタフライナイフをいじくり回す。玲仁の目からは、どうして攻撃が届いたのか原因がさっぱりわからなかった、だが、素戔嗚は何かを勘付いたようだ。


「…振りかぶった瞬間、刀身が一寸ほど伸びやがった」

「二度目で良く気づいたな」


 金山が既に勝ち誇ったように笑う。


「当てたごほうびに自己紹介してやるよ。おれのフルネームは金山屋子神かなやまやこのかみだ。そしておれの発動技能アクティブスキルは、金属を自在に変形させること」

「わざわざ自分から種明かしするとはな。後から泣いても知らんぞ」

「へへ、わかっていても、対応できるとは限らないんだぜえ」


 毒島が口をはさみ、金山をたしなめる。


「金山、余計な話をするな。さっさと終わりにしろ」

「すみません。今すぐにあいつをズタズタにしてやりますよ!」


 金山が再び素早く踏み込むと、まっすぐナイフで突いた。あらためて言われてみれば、斬りつける瞬間、玲仁の目からも刀身が瞬時に1メートルほど伸びているようにもみえる。


「手口がわかってりゃ、どうってことねえ」


 素戔嗚はとっさに動きを変え、あえて前へと踏み込む。すかさず左手を振りかざし、金山の顔面に手刀を突き出した。 


「もらった――」


 だが金山が首からぶらさげていた銀製のネックレスが、素戔嗚の左手を絡めとり、動きを封じた。


「なにっ」


 続けて、金山が身に着けていシルバーの指輪が、突然平たく変形し拳を包み込む。


「おらヨオォォォ!」


 その鉄の塊と化した拳を、めいいっぱい無防備な素戔嗚の顔面に叩きつけた。素戔嗚は豪快に吹き飛び、奥に立っていた天照と玲仁の間をすり抜け、壁へと叩き付けられた。


「素戔嗚!」


 金山は、ただナイフを伸ばすだけでなく、ネックレスも指輪も変形し、攻撃と防御それぞれに利用したのだ。彼が今身につけているアクセサリは、全て彼にとって武器だったのだ。

 だがまともに攻撃を受けた素戔嗚は、怯むどころか、額から血を流しながら笑っている。


「ククク……これだぜ……こうこなくっちゃな」


 素戔嗚の目の奥に闘志の炎が再び灯っていた。これこそが彼が待ちわびていた時。血湧き肉躍る戦いの場だからだろう。


「おい玲仁」

「えっ?」


 このタイミングで声をかけられることに驚き、声が上ずる。


「貴様、ただそこでぼうっと突っ立って観戦しているだけのつもりか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「前回みたいに、こいつの倒し方をさっさと考えろ。俺に倒せねえことはないが……やり方がまどろっこしいんだよ。さっきの一撃のせいで頭もなんだかぼんやりするしな」

「おい、いつまでゴタゴタやってんだ! ライブは勢いが大事なんだよ」


 金山がしびれを切らせて叫んでいる。


「うるせえな。てめえをぶっ殺す方法を今決めてたところだ」


 どうすればいいんだ。何か利用できるものはないか、と考えてあたりを見回す。ただただステンレスにうめつくされたこざっぱりとした厨房――のカウンターの上に目をやる。調理に使われ出したままになっていた包丁がある。

 そうだ。素戔嗚は素手より、剣術の方が得意なはず。


「素戔嗚。あれを使うんだ」

「あ?」


 玲仁が慌てて指をさす。素戔嗚が言われるがままに、包丁を手にとる。刃を眺めながら、うんうんとうなずく。


「少々短い気もするが……よく研いである。まあいいだろう」


 そして金山屋子神に目をむける。


「仕切り直しだ。三枚におろしてやる」


 そういうと素戔嗚自ら、飛びかかっていった。獰猛な獣のように一直線にむかっていく。その姿は迫力があり、さすがの金山も反応が一歩遅れる。

 素戔嗚が繰り出す斬撃を、何度か受け止めるが、力負けしてしまうのか、バランスを崩しかけた。後ろに飛んで距離をとろうとする。が、素戔嗚は機を逃すまいと距離を詰めていく。

 玲仁の読み通りだ。先の戦いでも、素戔嗚は傘を剣のように使いこなすことで、真価を発揮していたようだった。これならまともに戦えるはず。


「金山、こっちへ来るな!」

「えっ?」


 金山の背後に毒島がいたため、それ以上は金山は下がれなくなった。絶好のチャンスだ。素戔嗚が容赦なく、包丁を金山の額に目がけ、振り下ろす。


「!?」


 ガキーンという硬い音と共に、金山屋子神はかろうじてナイフを二本交差し、斬撃を受け止めた。

 だが、ギリギリと素戔嗚が押し込む。


「力比べじゃ負けねえぜ?」

「ギギ……てめえ……」


 このまま押し切れる、と素戔嗚が確信した瞬間、刃が突然固定されたように、一切食い込めなくなった。

 よくみると、なんと包丁の刃が金山屋子神のナイフに絡みついている。


「言っただろ? おれは金属を自由に変形できると。こんな使い方もできる」

「貴様……!」


 素戔嗚は包丁を引いたが、まるで外れる気配がない。すると、金山はそのままぶらさがるような姿勢で体を浮かせ、両足で素戔嗚の胴体に巻き付いた。今度は彼のブーツについていた金属のアクセサリが素戔嗚の体に牙のように噛みつく。


「くそっ――離れやがれ」

「ふふ、とれるもんならとってみろよ」


 耐え切れず素戔嗚は包丁の柄を手放し、金山の両脚を両手でつかんだ。力づくでひきはがそうとする。


「おい、こっちを見なくていいのか?」

「あ?」


 いつのまにか金山が体中にまとっていたアクセサリが、生き物のように彼の体を這い上がっていき、みるみる頭部を覆っていく。それはやがて、金山のツンツンヘアを金属の針山のようにコーティングし、おぞましい凶器と化していた。


「天国へ行きなベイビー! 『頭部ヘッド鈑銀バンギン』!」


 掛け声と共に、金山は自身の頭部を素戔嗚に勢いよく打ちつけた。

 すさまじい衝撃で、素戔嗚の体がふっとぶ。


「イェアーーー!!! おれの衝撃のライブパフォーマンス、楽しんでくれたかあ!?」


 まるでステージ上で自らのパフォーマンスに酔いしれているかのように、拳を天に突き上げながら、興奮して叫んでいた。一方の素戔嗚はそのまま床に倒れ込んでいる。


「素戔嗚!」


 玲仁と天照が駆け寄り、素戔嗚に必死で呼びかける。あの強い素戔嗚が……顔面が流血で赤く染まったまま、まるで起きる気配がない。玲仁はヤオヨロズで素戔嗚の状態を確認した。HPはまだある。


「ん、これは……?」


 キャラアイコンのそばに今までみたことのないマークがついている。黄色い星がくるくると回るようなアニメーション。玲仁はこれまでのゲームプレイの経験から、このマークが示す意味を予測できた。


「まさか……気絶スタン?」


 素戔嗚は口を開けたまま、仰向けのままぴくりと動く気配がない。

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