五話 始動
水族館に行った翌週——
「今日、学校が終わってから、三人だけで話せないかな?」
休み時間に蓮が葵と美咲に声をかけた。
「私はいいけど。葵ちゃんは?」
「うん、私も大丈夫だよ」
「じゃあ、放課後、また私の家で話そうよ」
美咲がそう言うと、二人も頷いた。
学校が終わると、三人は美咲の家に向かった。
「お邪魔します」
美咲が玄関のドアを閉め、三人は靴を脱いだ。
「先に私の部屋に行ってて。飲み物、取ってくるから」
美咲はそう言うと、キッチンへ向かった。
葵と蓮は階段を上がり、美咲の部屋へ入った。
二人が部屋で待っていると、美咲が飲み物を持って戻ってきた。
「はい、どーぞ。それで、蓮が話したいことって?」
美咲は飲み物をテーブルに置くと蓮に尋ねた。
「……水族館に行った日から、考えていたんだけど、……葵の過去について、オレたちで調べてみないか?」
蓮は膝の上に置いた手に力を込めながら、二人の反応を待った。
「えっ……、調べるって何を?」
突然の話に驚いた美咲が、葵よりも先に質問をした。
「……交通事故のこととか検索すれば、何か分かるかもって思って。事故が起こった時期が分かれば、新聞の記事とか出てくるかもしれないし」
蓮は自分の考えを打ち明けた。
葵は黙ったまま、膝の上で両手を握りしめていた。
「葵ちゃんは、どうしたい?」
美咲が葵の方を向いて声をかけた。
「……私は、……知りたい。何か分かれば、思い出せることがあるかもしれないし」
葵の言葉を聞いて蓮はほっとした顔で頷いた。
「私も葵ちゃんの力になりたい。三人で一緒に調べようよ。あっ、下から家のノートパソコン取ってくるね」
そう言うと、美咲は二人を残して部屋を出ていった。
「……ごめん、急に調べようなんて言っちゃって」
美咲が部屋を出ると、蓮は気まずそうに言った。
「ううん、私も自分の過去のこと知りたいってずっと思ってたんだ。……でも一人で調べるのが恐くて……だから、ありがとう」
葵はニコッと微笑んだ。
「おまたせー」
美咲がノートパソコンを抱えて部屋に戻ってきた。テーブルの上に置き、蓋を開く。電源ボタンを押すと、画面がゆっくりと明るくなった。
「葵ちゃんが事故に遭ったのって何月のこと?」
「それが……分からないの。うちの親、交通事故のことは聞いても、ほとんど教えてくれなくて。思い出させたくないからって」
葵は首を横に振った。
「そうなんだ……」
「あ、でも前に中学三年の冬って言ってなかった?」
二人の話を聞いていた蓮が、ふと思い出した。
「……うん」
葵は自信なさそうに、小さな声で答えた。
美咲がパソコンに視線を戻すと、パスワードの入力画面が表示されていた。
「あ、ログインパスワード分からないや……」
美咲は顔の前で手を合わせて二人に謝った。
「パスワードが分からないんじゃ仕方ないか。……オレ、家に帰ってから調べてみるよ。冬だったら、十二月〜二月くらいだよな」
蓮は気を取り直して言った。
「じゃあ、私も親が帰って来たらパスワードを聞いて、調べてみるね」
「……私も自分で調べたいんだけど、パソコンはお父さんが仕事に持って行ってて使えないんだ」
葵はそう言って、膝の上に置いた手を見つめた。
「大丈夫。オレと美咲で分担するから。オレは十二月と一月を調べるから、美咲は二月お願いできる?」
「OK」
手でサインを作りながら美咲が答えた。
「ごめんね、二人とも。でも、ありがとう……」
葵は申し訳なさそうに言った。
そのあと、葵と蓮は美咲の家を後にした。
——蓮の家——
「ただいま。 母さんパソコン貸して」
蓮は帰宅すると、母親のいるリビングへ向かった。
「おかえり。 パソコン? 何に使うの?」
「えーっと、勉強のことで調べたいことがあって……」
蓮はとっさに嘘をついた。
「いいけど、壊さないでね」
「うん、分かった。ありがとう」
蓮はノートパソコンを借りると、自分の部屋に向かった。
蓮は部屋に入ると、机にパソコンを置き、電源を入れてから椅子に座った。
「…よし」
パソコンが起動すると、パスワードを入力し、検索画面を開いた。
『二〇一一年十二月 東京都◯◯区 交通事故』
蓮は、そこに分かっている情報を入力した。
検索結果が表示された。
画面をスクロールしながら、一つひとつ記事の見出しを確認していった。
しかし、それらしい記事は見つからなかった。
さらにページを進めていくが、葵の事故につながりそうな情報は出てこなかった。
「蓮、夜ごはんできたわよー」
リビングから母の呼ぶ声がした。
「んんーーっ。もうこんな時間か」
蓮は大きく伸びをしたあと、部屋の時計を見ながら呟いた。
夕飯を済ませると、蓮は足早に自分の部屋へと戻った。
部屋に入ると、机に置いたままだった携帯のランプが点滅していた。
蓮は椅子に座り、携帯を手に取ると、画面を確認した。美咲からメールが届いていた。
[二月の記事調べたけど、何も見つからなかったよ。]
蓮はメールを読み終えると、すぐに返信を打ち始めた。
[オレの方も十二月は何も見つからなかった。これから一月を探してみる。あと、明日の放課後また美咲の家に集まれるかな?]
少しして、美咲から返信が届いた。
[いいよ。 葵ちゃんにも声かけとくね]
内容を確認すると、蓮は携帯を閉じた。
そして、パソコンの画面に視線を移した。
「一月の記事を調べるか……」
静かな部屋に、マウスを操作する音がまた聞こえ始めた。




