十二話 追求
——進藤の部屋——
水沢みどりから話を聞いている間、進藤の頭には、今年三月に起こったある火事のことが浮かんでいた。
家に着くと、進藤はすぐにパソコンを起動し、その火事について調べ始めた。
検索すると、⬜︎⬜︎区◯◯にある高台の一軒家で起こった火事の記事が見つかった。
火災現場からは、神谷 悟(四十九歳)、妻のさやか(四十二歳)、長男で中学二年生の朔(十四歳)の三人の遺体が発見された。
そして、一人だけ生存者がいた。長女で中学三年生の葵(十五歳)だった。
「やっぱり……この火事に葵さんが巻き込まれていたんだ」
進藤は画面を見つめたまま呟いた。
更に調べていくと、別の記事が見つかった。
そこには、司法解剖の結果、死亡した夫婦の遺体から睡眠薬の成分が検出されたこと。
警察は母親が一家心中を図った可能性が高いとみて調べていることが書かれていた。
しばらく、画面を見続けていたあと、進藤はパソコンから目を離した。
「一家心中……だから水沢夫妻は彼女に本当のことを隠していたのか。……事件現場は⬜︎⬜︎区か」
そう呟き、天井を見つめていた進藤の頭に、一人の男の顔が浮かんだ。
慌てて携帯を手に取ると、電話帳から相馬 直人を探し電話を掛けた。
相馬直人は、大学時代の後輩だった。
進藤が新聞社時代、事件の取材先で、捜査に来ていた相馬と偶然再会した。それ以来、時々連絡を取り合っている。
「進藤先輩? お久しぶりです」
数回の呼び出し音のあと、相馬の声がした。
進藤は久しぶりと軽くあいさつをしたあと、本題を話し出した。
「実は今、三月にそっちの管内であった一家心中事件を調べているんだけど……知ってることがあったら教えてほしい」
「……それなら僕が担当してましたけど、捜査内容の詳しいこととかは話せません」
電話の向こうで、相馬が小さく息を吐いた。
「そこをなんとか、頼むよ。その事件で助かった少女から依頼を受けたんだよ」
「えっ、助かった少女って神谷 葵さんから? ……彼女の記憶戻ったんですか?」
相馬が少し言葉を詰まらせた。
「いや、記憶の方はまだ……、だから頼むよ、相馬」
「ダメです。部外者に捜査情報は、詳しく話せません」
進藤は携帯を耳に当てたまま、しばらく黙っていた。
「……分かった。捜査の詳しいことじゃなくていい。母親の動機それだけでも教えてくれないか?」
相馬は少し間を置いてから、声を落とした。
「……先輩だから、少しだけですよ。ただし、聞いたことは内密にしてくださいよ。……実は母親の動機の方ははっきりとは分かっていないんです」
「じゃあ、何で母親がやったと?」
「新聞にも出ていたと思いますが、両親の遺体から睡眠薬の成分が検出されたんです。事件の可能性も考慮して捜査したんですが、これといった手掛かりはなく、状況証拠から母親による一家心中と判断されたんです」
慎重に言葉を選びながら、相馬は答えた。
「状況証拠って?」
「これ以上は捜査上のことなので……」
「……」
進藤は黙ったまま、相馬の言葉を考えていた。
「あ、今の話、絶対に内緒ですからね!」
「分かってるよ。ありがとう」
そう言うと進藤は電話を切った。
相馬との電話のあと、進藤はしばらく天井を見つめていた。
「……葵さんの母親が起こした一家心中、か……明日現場に行ってみるか」
進藤は携帯を開くと、今日みどりから教えてもらった番号に電話をかけた。
みどりが電話に出ると、進藤はまず、今日突然家を訪ねたことを詫びた。
「それで明日、火事のあった高台のほうへ行ってみたいんですが、よろしいですか?」
「えっ、高台……ですか?」
「ええ。葵さんの過去について、もう少し調べてみたいんです」
みどりは言葉を詰まらせた。
「……新聞記事を読まれたんですね」
「はい。先ほどお話を聞いて、以前あった火事のことを思い出したんです。それで、さっき改めて調べてみました」
「そうですか。……そこまで調べられたんですね」
進藤は少し間を置いてから、答えた。
「はい。それで、明日、高台のほうへ行ってみようと思ってお電話したんです」
「……分かりました」
みどりはそれ以上、何も言わなかった。
進藤はお礼を言ったあと、電話を切った。




