十一話 告白
葵の父はソファに戻ると、葵の母と顔を見合わせ、静かに頷いた。
「……あなたは、交通事故じゃなくて、火事に遭ったの。
それで、……あなたの家族はみんな亡くなってしまったのよ」
葵の母がゆっくりと話し始めた。
「火事……? 家族みんなって……じゃあ、お母さんたちは私の本当の親じゃないってこと……」
葵は呆然と呟いた。
葵の母は席を外すと、一枚の写真を持って部屋に戻ってきた。
「これはあなたがまだ小学生の頃の写真よ。そこに写っているのがあなたの本当の家族。あなたを生んだお母さん 、神谷 さやかは私の妹なの。あなたは、本当は神谷 葵という名前なのよ」
そう言って渡された写真には、幼い頃の葵と本当の両親、そしてその隣に細身でどこか大人しそうな男の子が一人写っていた。
葵は写真をじっと見つめていた。
写っている三人が、自分の本当の家族なのだと思うと、不思議な感覚が胸に広がった。
そして葵はなぜか、そこに写る男の子から目を離すことができなかった。幼い頃の写真だけれど、葵の夢に出てきた男の子とどこか雰囲気が似ていた。
「……この子は?」
「朔ちゃん。あなたの弟よ」
「朔……」
葵は、その名前をどこかで呼んだことがあるような気がした。
「家族みんな亡くなったってことは……この子も亡くなったの? じゃあ、私にはもう、本当の家族はいないってこと?」
そう言った葵の声は少し震えていた。
「……一人だけいるわ。あなたのおじいちゃん。でも、今は京都の病院に入院しているの。だから火事のあと、警察から私たちに連絡が来たのよ」
「……火事なのにどうして私には、事故だって話したの……」
葵はうっすらと目に涙を浮かべながら聞いた。
「連絡をもらってすぐ、私たちはあなたが入院している病院に駆けつけたの。目を覚ましたあなたは、過去のことを何も覚えていなかったの」
「お医者さんから、心因性健忘症だと言われたわ。強いストレスやショックが原因で、過去の記憶を思い出せなくなることがあるって……」
水沢 みどりは言葉を詰まらせ、葵を見つめた。
「……だから、真実を話すことで、あなたがまた強いショックを受けるんじゃないかと思ったの。それで、私たちは火事のことを隠して、事故だったと伝えることにしたの」
目に涙を浮かべながら、みどりが話してくれた。
「今まで隠していて、すまない」
水沢 洋介が言った。
「……じゃあ、事故のあとにこの家へ引っ越してきたっていうのも……嘘だったの?」
みどりはしばらく黙っていた。
「……ええ。あなたに『私って本当にここに住んでいたの?』と聞かれて……咄嗟に、そう答えたの」
葵の目から涙がこぼれ落ちた。
これまで自分が信じていたことが、次々と覆されていく。
「……じゃあ、私が何も覚えていないのは、火事が原因なの?」
「……それは、私たちにも分からないの」
みどりは静かにそう答えた。




