第8話-アリウープ
皆さん、こんにちは!
最新話を更新しました!
今回はまだ最終話ではありません。思いのほか長くなってしまったので、おそらく次回が完結編になると思います。
それでは、どうぞお楽しみください!
「うっ……」
ゆっくりと目を開けたビリーは、自分がどれほど長い間気を失っていたのかもわからなかった。
まだ鈍い痛みの残る頭を片手で押さえながら、ゆっくりと上半身を起こす。辺りを見回すと、そこは相変わらず脳内世界のリビングだった。
それどころか、家の損傷は以前よりもさらにひどくなっているように見えた。
「……目が覚めたか」
声のする方を見ると、マックスが壊れた椅子にもたれかかるようにして座っていた。彼もつい先ほど目を覚ましたばかりなのか、疲労の色を隠す気力すらないようだった。
反対側に目を向けると、ジェットがひび割れた壁にもたれかかり、半ば横たわるようにして座っていた。
彼もひどく疲れているようだったが、それ以上に、うつむいたまま黙り込む姿からは深い落胆が感じられた。
「な、何があったんだ……? 確か俺たちは……」
ビリーは必死に記憶をたどろうとした。
「……負けたんだよ、俺たちは」
マックスは彼の方を見ることもなく、うつむいたまま冷たく答えた。
「……そっか」
ビリーはあっさりとその事実を受け入れた。
「でも、お前らが二人ともここにいるってことは、外は今どうなってんだ……?」
「さっき俺たちも試してみたんだが、なぜか外に出られなくなってるんだよ……」
マックスがそう言いかけた、その時だった。
突然、家全体が地震のように激しく揺れ始めた。壁も床も天井も、今にも崩れ落ちそうなほど軋みを上げている。
「……それと、さっきからずっとこんな調子だ」
「なんだよそれ……? つまり、俺たちは外に出られず、ここに閉じ込められてて、おまけに家まで崩れそうってことか……? っていうか、俺たちってもう死んでんのか?」
「さあな……」
マックスはどうでもよさそうに答えると、椅子の背もたれに頭を預け、ひび割れが広がっていく天井をぼんやりと見上げた。
やがて彼も口を閉ざし、それ以上何も言わなくなった。
ビリーは痛めた首を片手で押さえながら、ゆっくりと反対側のジェットに顔を向けた。
「そういや……アリスの奴、俺たちを裏切ったのか? やっぱりあいつ、何か裏があったってことか?」
「そんなの俺が知るかよ……」
ジェットはゆっくりと顔を上げ、力なく吐き捨てた。
「知らないって、お前……」
ビリーはさらに問い詰めようとした。
しかし、今のジェットの様子を見て、それ以上何も言えなくなった。
そもそも、自分にも今さら喧嘩をするような気力など残っていない。
それに、先ほど三人が仲間割れを起こしたせいで、この脳内世界の家だけでなく、外の世界にまで深刻な影響を与えてしまった可能性がある。
そう考えると、ビリーもそれ以上追及する気にはなれなかった。
彼は黙り込むと、そのままボロボロになった床の上に仰向けに寝転がった。
それからしばらくの間、三人の間には完全な沈黙が流れた。
時折、外の世界からぼんやりとした声や物音が聞こえてくる。
そして、家は相変わらず原因不明の地震に何度も襲われ、そのたびにあちこちが軋みを上げていた。
そんな中、天井から崩れ落ちた瓦礫の一つが、マックスの頭に直撃した。
「いてっ……」
それをきっかけに、彼が最初に沈黙を破った。
「そういやさ……俺たち、死ぬかもしれない最後の日まで、男三人で一緒にいるんだな……。ある意味、結構悲惨な人生だよな……」
突然の意味不明な発言に、残りの二人も思わず彼の方を見た。
しかし、マックスはそのまま言葉を続けた。
「……悪かったな」
「……は? 何を謝ってんだよ?」
突然の謝罪に、二人は驚いた。
「いや、どうせ俺たちが死ぬんなら、言わずに後悔しそうなことくらい、今のうちに言っといた方がいいかなってさ。あの時、カッとなって先に手を出したのは悪かった。……よし、謝罪終了。お前らが許すかどうかなんて、俺は気にしねえけどな」
こんな状況でも相変わらずのマックスに、二人の緊張も少しだけ和らいだ。
「先に言っとくけど……俺はお前の謝罪を受け入れるつもりもないし、お前らに謝るつもりもないからな」
ビリーは床に寝転がったまま、そう言い放った。
すると、ビリーとマックスは示し合わせたかのように、ゆっくりとジェットの方へ顔を向けた。
ジェットは最初、二人を無視するつもりだったのかもしれない。
しかし、結局は観念したように口を開いた。
「俺……正直に言うよ……」
ジェットはうつむいたまま、小さな声で話し始めた。
「実はずっと考えてたんだ……俺たち三人を、本当の意味で別々の人間にする方法はないのかなって……」
そんなことを口にする自分が恥ずかしいのか、ジェットは相変わらず顔を上げようとしなかった。
しかし、意外にも残りの二人はそれほど驚いていないようだった。
「ああ、そんなの誰だって考えたことあるだろ。俺なんか、とっくの昔からお前らとおさらばしたいと思ってたぜ」
「俺はいつか、そのことで俺たちが殺し合いになって、最後には一人しか生き残らないんじゃないかって、ずっと思ってたよ」
「まあ、俺たちみたいな性格の悪い面倒くさい奴らなら……ありえなくもないよな?」
あまりにも救いようのない自虐ネタに、三人は思わず苦笑した。
「なあ……いつか本当に、俺たちが別々になれる日が来ると思うか?」
「超能力も科学技術も何でもありの時代だぜ? 少なくとも俺は、ちょっと期待してみたいけどな」
「いや……余計な希望を持たせないでくれ……」
「そういや、もし本当に別々になれたら、初対面の奴にはどう説明すりゃいいんだ? 生き別れの三つ子とか?」
「もし……いつか本当に別々になれたらさ……」
ジェットがふと口を開いた。
「俺たち、その時も今みたいによく会ったりするのかな……?」
その問いかけに、三人はしばらく黙り込んだ。
「……さあな。会うたびに喧嘩するくらいなら、もう会わない方がいいんじゃねえの?」
「まあ、そんなことどうでもいいだろ。まずは今日を生き延びてからだ」
「……それもそうだね」
相変わらず救いのない冗談ばかりだったが、不思議と三人の気分がさらに沈むことはなかった。
むしろ、ボロボロの姿のまま、彼らは何となく会話を続けていた。
「なあ、もし今日が人生最後の日だとしたら、お前ら何がしたい? 世界征服? それとも世界滅亡?」
ビリーが退屈そうに尋ねた。
「いや……俺はただセックスがしたい。童貞のまま死ぬなんて絶対に嫌だ」
「一日中セックス」
「俺なら……まずは好きなもんを腹いっぱい食って、それから死ぬほどセックスかな」
珍しく三人の意見が一致した。
あまりにもくだらない答えに、三人は思わず吹き出した。
そして、ようやく互いの顔を見合わせるようになった。
「もし誰とでもセックスできるとしたら、お前ら誰を選ぶ?」
「いい質問だな……俺は今、特に好きな奴もいないし、好きなAV女優かグラビアアイドルあたりかな?」
「マックス、お前って本当につまんねえ奴だな。別に性癖を聞いてるわけじゃねえんだぞ? せめて身近な知り合いから選べよ」
「そういうことなら……葵の友達に何人かいい感じの子がいたよな。白石さんとか、他にも何人か……」
「おっ? なかなかいいじゃねえか」
「そういうビリーは、やっぱり部長が好きなんだろ? やっぱあのデカい胸が目当てか?」
「友達としても本当にいい奴だと思ってるぜ。でも、あの体がめちゃくちゃエロいと思ってるのも事実だな。だから、俺なら部長を選ぶかな。もし一人限定じゃないなら、清水さんも呼んで3Pしたいね」
「そういや、三井はもういいのか?」
「んー……まあ、それもアリだな。じゃあ三井も混ぜて一緒に楽しむか。で、ジェットは?」
「俺か……うーん……」
ジェットは少し考え込んだ。
「別にアリスって正直に言ってもいいんだぜ? それとも、裏切られたショックで勃たなくなっちまったか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……。確かにあいつはすごく綺麗だよ。でも、なんていうか……俺みたいな奴とは住む世界が違いすぎて、逆にあんまりいやらしい目で見られないんだよな。わかる?」
「ああ~、俺が女神みたいな美人芸能人と付き合う妄想なんてしないのと同じ感じか」
「でも、それじゃ結局答えになってねえぞ?」
「まあ……もし本当に人生最後の日だっていうなら、やっぱり俺はアリスとセックスしたいかな」
「それでいいんだよ。最初からそう言えっての。何をごちゃごちゃ言ってんだか」
そう言って、三人は揃って何とも間抜けな笑みを浮かべた。
「そういや……こんだけ時間が経っても、まだ死なねえのか? 外は一体どうなってんだよ?」
今のところ、三人の体にはこれといった変化は起きていなかった。
ただ、家だけが相変わらず少しずつ壊れ続けている。
それからしばらくして、突然、どこからか物音が聞こえてきた。
今まで一度も聞いたことのないその音に、三人は思わず顔を見合わせた。
「……お前ら、今の聞こえたか?」
「俺の聞き間違いじゃなければ、あれって……」
「……ノックの音?」
三人は一斉に家の玄関へ目を向けた。
しばらくすると、再び同じ音が聞こえてきた。
コン、コン、コン……。
「何だよ……? なんでこんなところのドアをノックする奴がいるんだ?」
「それより……外に誰かいるってことなのか……?」
そもそも、三人はこれまでほとんど家の外に出たことがなかった。
理由は単純だ。
この家の外には、本来ならほとんど何も存在しないはずだからだ。
しかし、だからこそ、未知の存在に対する恐怖もあった。
三人はどうすればいいのかわからず、かといって不用意にドアを開ける勇気もなかった。
それでも、ノックの音は止まらない。
コン、コン、コン……。
まるでその音に呼応するかのように、家の崩壊もますます激しくなっていった。
やがて、マックスが大きく息を吸い込み、真っ先に立ち上がった。
そして、ゆっくりと玄関へ向かって歩き始めた。
「お、おい! まさか開けるつもりか? 誰がノックしてるのか知ってんのかよ?」
「知るかよ。でも、もううんざりなんだ。どうせ今の俺たちは、生きてるんだか死んでるんだかわかんねえ状態だろ? これ以上、失うもんなんてあるか?」
マックスは振り返り、二人を見た。
「それとも……お前ら、ビビってんのか?」
「はあ? 何を怖がるってんだよ……。俺が人生で怖いのは数学と彼女ができないことくらいだぜ。上等だ、俺も行く!」
「実は……俺、ちょっと怖いんだけど……」
「うるせえぞ、ジェット。ほら、立て。手ぇ貸してやるから」
ビリーはジェットに手を差し伸べ、その体を引っ張り起こした。
三人は揃って緊張した面持ちで、ゆっくりと玄関へ近づいていく。
それにつれて、ノックの音もますます大きく聞こえるようになった。
マックスは、これまでほとんど触れたことのないドアノブへ、そっと手を伸ばした。
ゴクリと唾を飲み込む。
そして、ゆっくりと、本当にゆっくりとドアノブを回した。
扉が少しずつ開き、その隙間から家の外の世界が姿を現し始める。
その時、三人は扉の向こうに、一人の人影が立っていることに気づいた。
三人が一斉に飛びかかろうとした、その瞬間――
「きゃあっ!」
相手は怯えた声を上げ、その場にしゃがみ込んで身を縮めた。
そこでようやく、三人は目の前の人物が見知った相手であることに気づいた。
「ア、アリス……? どういうことだ……?」
そう。
目の前で怯えながらしゃがみ込み、小刻みに震えている少女は、間違いなくアリスだった。
ただし、普段の理知的で聡明、何事にもてきぱきと対応する彼女とはまるで違っていた。
今のアリスは、どこかひどくか弱く、不安に押し潰されそうな様子だった。
同時に、三人はある異変に気づいた。
本来なら何も存在しないはずの家の外に、なぜかありとあらゆるものが広がっていたのだ。
ごくありふれた日常の風景もあれば、理解に苦しむような奇妙なものまである。
それらが入り乱れた光景は、まるでおかしなテーマパークのようだった。
まず目に飛び込んできたのは、どんよりとした雨模様の空。
コンビニと何本かのお茶のペットボトル。電柱と、その上に止まっている数羽のカラス。電車が通過する踏切。自転車に乗った学生たち。
二階建てバス、赤い郵便ポスト、ずらりと並ぶレンガ造りの家々。
アフタヌーンティーを楽しむ人々や、フィッシュ・アンド・チップスを食べている人々。
学校、怪しげな研究室、以前遭遇した巨大なクモ、通りでサッカーをしている子供たち、以前とは少し違う恐竜たち。
さらには、ありとあらゆる形のアルファベットや数式が、そこら中にあふれていた。
どれもこれも、まるで関連性のないものばかりだった。
それなのに、それらはなぜか当たり前のように同じ場所に存在し、互いの存在を不思議に思う様子すらない。
まるで、夢の中の世界だった。
「お、お前……アリスなのか? どうやってここに入ってきたんだ? それに、こ、この世界は一体……?」
「ま、まずは話を聞いてください……」
そうして、目の前のアリスはこれまでの経緯を三人に説明し始めた。
そこには、彼女自身の能力や、彼女と父親が行ってきたことについての話も含まれていた。
「ちょっと整理させてくれ……。つまり、お前は本物のアリスじゃないんだな? かといって、あいつの別人格ってわけでもない?」
「厳密に言えば、私は脳の実験装置によって、彼女の潜在意識の一部が具現化した際に生まれた副産物のような存在で……」
「日本語で頼む」
「か、簡単に言うと……私は彼女の中にある、『小野寺を傷つけたくない』という気持ちが形になった存在なんです」
「じゃあ、ここは……アリスの頭の中の世界ってことか?」
「そう考えてもらって構いません。だから、皆さんが見ているものは、普段彼女が考えていることや、彼女にとって馴染みのあるものなんだと思います」
「……ちょっと待て。あそこにいるの、BTSじゃね?」
「そ、そこまで一つ一つ気にしなくてもいいですから……!」
「つまり、お前は本当に超能力者で、しかも俺たちの正体まで自分で突き止めてたってことか?」
「えっ……た、多分、そういうことになります……」
「クソッ、だから言っただろ。この女、絶対何かあるって」
「お前はちょっと黙ってろ。……つまり、アリスの問題を治すために、お前の親父が人を雇って俺たちを捕まえ、実験台にしたってことか?」
「え、ええ……そうです……」
「ほら見ろ! やっぱりこのクソ女、俺たちを裏切ってやがったじゃねえか……!」
「だからちょっと静かにしろって! ……で、今の俺たちは、お前の親父が用意した外の研究室にいて、あいつは妙な装置を使って俺たち二人の体を調べてるってことか?」
「ってことは、今は俺たちとアリスの脳みそがごちゃ混ぜになってるってことか? これ以上に気持ち悪くて意味不明なことなんて思いつかねえぞ……。いや、お前にとっては、俺たちなんかと混ざってる方がよっぽど気持ち悪いだろうけどさ」
「と、とにかく、皆さんはまだ死んでいません。でも、これから何が起こるかまでは保証できません……」
アリスは不安そうに三人を見つめた。
「もうあまり時間がないと思います。でも、まだここから抜け出すチャンスはあります。私はそのために皆さんを助けに来たんです」
「……で、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
「方法は、おそらく一つしかありません……。本物のアリスを見つけて、彼女自身にこの実験を止めてもらうんです」
「理論上、彼女が皆さんの潜在意識をこれ以上壊さないことに同意すれば、実験は停止して、二人とも目を覚ますはずです」
「じゃあ、本物のアリスはどこにいるんだ?」
「……あそこだ」
それまで黙って話を聞いていたジェットが、突然遠くを指さした。
他の三人がその方向へ目を向けると、遥か彼方の平原に、一軒の住宅らしき建物がぽつんと建っているのが見えた。
不思議なことに、そこまでの距離は途方もなく遠く感じられるのに、建物の外観だけは妙にはっきりと見えていた。
まるで、眼科の検査で覗き込む機械の中に映し出される、あの家の絵のようだった。
「で、どうやってあそこまで行くんだ?」
「まずは、アリスの中にある『小野寺を傷つけないことよりも、自分を治すことを優先したい』という気持ちが形になった、もう一人のアリスを探さなければなりません。残念ながら、今この世界を支配しているのは彼女なんです」
そう説明している最中にも、ジェットたちの背後にある家が再び激しく揺れ始めた。
まるで再開発のために取り壊されているかのように、今にも家そのものが跡形もなくなりそうだった。
「もう何でもいいから、とにかくさっさと案内してくれ!」
自分たちの家がいよいよ崩壊寸前になっているのを見て、三人は急いでアリスについていくことにした。
こうして一行は、さらに深い潜在意識の世界へと足を踏み入れた。
しばらく歩いていると、屋外のバスケットボールコートが見えてきた。
一行がコートに入ると、そこには一人でバスケットボールをしている人物がいた。
そのプレーを見る限り、どうやらただ者ではないらしい。
しかし、こちらに背を向けているため、まだ顔までは確認できなかった。
そして、その近くにはもう一人のアリスが座っており、黙って彼の練習を眺めていた。
彼女の表情や雰囲気は、普段のアリスにずっと近かった。
ただし、どこか普段以上に陰鬱な空気をまとっている。
「一度に二人のアリスを見ることになるなんて……頭が痛くなってきたぜ……」
「アリス!」
案内役のアリスが、もう一人の自分に呼びかけた。
「……自分の名前を呼ぶのって、なんだか変な感じですね。皆さんがそれぞれ違うあだ名を使っている理由が、少しわかった気がします」
「……あなたたちは?」
もう一人のアリスは、ゆっくりと振り返った。
三人の姿を目にすると、少し驚いたような表情を見せた。
しかし同時に、こうなることをどこかで覚悟していたかのようでもあった。
彼女は浮かない顔のまま、無表情に近い様子で問いかけた。
「……何をしに来たの?」
「お願いです。彼らをアリスの家まで行かせて、彼女と話をさせてあげてください」
「……今さら何を言っても無駄よ。実験はもう始まっているんだから」
「それでも、まだ止められる可能性はあるはずです!」
「……そんなことをして、何の意味があるの?」
もう一人のアリスは冷たく言い放った。
「ここまで来たのに、最後まで実験を続けて結果を確かめなかったら、今までのことが全部無駄になるじゃない……」
そう言い終えると、彼女はそれ以上相手にするつもりもないように、背を向けて立ち去ろうとした。
「で、でも……小野寺がどうなっても、本当に構わないんですか? 彼らはあなたの友達じゃないんですか?」
その言葉を聞いたアリスは、ぴたりと足を止めた。
同時に、コートでバスケットボールをしていた人物も突然動きを止めた。
手から離れたボールが地面に落ち、何度か弾んだ後、ゆっくりと転がっていく。
その人物もまた、静かに振り返り、アリスの方を見つめた。
そこでようやく、ジェットたちは気づいた。
なんと、その人物は自分たちとまったく同じ顔をしていたのだ。
つまり、彼はアリスの潜在意識の中に存在する小野寺だったのである。
「何だよ、あれ……? あいつの目には、俺たちがあんなふうに映ってんのか?」
「でも……なんか俺たちとは微妙に違う気がするな……」
「今日はマジでわけわかんねえことばっかりだ……。誰か俺を撃って目を覚まさせてくれよ……」
全員がアリスの方を見つめていた。
しかし、彼女は誰とも目を合わせようとせず、ただその場に立ち尽くしていた。
やがて、アリスが軽く片手を振った。
すると、まるで魔法をかけられたかのように、小野寺は再びバスケットボールの練習へと戻っていった。
アリスもそのまま立ち去ろうとする。
三人が慌てて後を追おうとした、その時だった。
突然、小野寺が彼らの前に立ちはだかった。
「どけよ! この偽物野郎!」
ビリーは強引に押しのけようとした。
しかし、小野寺は表情一つ変えることなく、凄まじい力でビリーを押し返した。
「うわっ!」
ビリーはそのまま地面に倒れ込んだ。
「上等じゃねえか……。こいつは俺が相手する。お前らはあいつを追え!」
「待て、まだ手を出すな!」
ジェットはそう制止すると、アリスに向かって大声で叫んだ。
「待ってくれ、アリス!」
その声に聞き覚えがあったのか、アリスは再び足を止めた。
「アリス……せめて俺たちに、一度だけチャンスをくれないか?」
ジェットは必死に言葉を続けた。
「もし俺たちが失敗したら、その時は諦めるよ。そうすれば、君だって少しは納得できるんじゃないかな?」
「……それで、何をするつもりなの?」
少しは興味を引かれたのか、アリスは再び振り返って尋ねた。
「えっと……それは……」
もちろん、ジェットに具体的な考えなどなかった。
とにかくアリスを引き止めたくて、咄嗟に口から出た言葉だったのだ。
「……じゃあ、ここでバスケの試合をするってのはどうだ?」
突然、ビリーが提案した。
しかし、その提案にはマックスとジェットだけでなく、味方のアリスまで驚いてしまった。
「ちょっと待てよ。なんでバスケなんだよ!?」
「いや、あいつを引き止めるために、とにかく何か言わなきゃと思ってさ。ちょうどここにバスケのコートがあったから、思いついただけなんだけど……」
ビリーは少し考えてから、言葉を続けた。
「でもまあ、俺たちってバスケはそれなりに得意だろ? あいつとテストの点数なんかで勝負したって、勝てるわけねえし」
「それはそうだけど……本当にそれでいいのか? ここはあいつが支配してる世界なんだぞ?」
「まあ……実を言うと、もう一つ理由があってさ……」
ビリーはそう言いながら、片手の指を軽く伸ばした。
すると、その指先に小さな電流が走った。
「どうやら、この世界に来てから俺の能力が少しずつ戻ってきてるみたいなんだよな……」
三人は互いの顔を見合わせた。
そして、ひとまず納得したように頷き合った。
「どうだ、アリス? 三対三のバスケで勝負しようぜ。先に21点取るか、制限時間内に得点の多かったチームの勝ちだ」
ビリーはアリスに向かって提案した。
「俺たちが勝ったら、本物のアリスのところまで行かせてもらう。そっちが勝ったら、俺たちはお前の好きにしていいぜ。今と同じようにな」
そして、挑発するような笑みを浮かべた。
「お前の世界で、お前のルールで勝負するんだ。まさか断ったりしねえよな?」
半ば誘い、半ば挑発するような言葉に、アリスは少し考え込んだ。
「……いいわ。ただし、バスケで勝負すると言い出したのはあなたたちなんだから、こちらからも二つ条件を出させてもらう」
アリスは淡々と話し始めた。
「一つ目。最初の攻撃権は、必ずこちらに渡すこと」
「二つ目。どちらかのチームが15点に到達した時点で、私自身が四人目の選手として試合に参加できること」
「……わかった。それでいい。じゃあ、試合の準備を始めようぜ」
アリスが何を考えているのかはわからなかった。
しかし、今は何としてでも勝負を成立させる必要がある。
三人はひとまず、その条件を受け入れることにした。
双方が条件に同意すると、アリスはまるでサーバーの最高管理者権限でも持っているかのような魔法を使い始めた。
まずはバスケットボールコートを試合用に整え、続いて自分の世界に存在する小野寺を三人に増やした。
さらに、三人にはジェットたちのスーパーヒーロー姿を思わせる、黒を基調とした衣装を着せた。
細部にはいくつもの違いがあったものの、それぞれを見分けるには十分だった。
それどころか、そんな格好をした自分自身と対峙するだけで、妙な威圧感すら覚えてしまう。
「アリスが想像した俺たち自身と戦うってわけか……面白えじゃねえか……」
すると、味方のアリスも軽く手を動かし、ジェットたち三人にお揃いのバスケットボールのユニフォームを着せた。
三人は手早くウォーミングアップを済ませると、それぞれコートに立った。
両チームの選手が所定の位置につく。
審判はアークの頂点付近で、相手チームにボールを渡した。
一方、二人のアリスは、まるで格闘技の試合前に向かい合う選手同士のように、緊張感に満ちた視線を無言で交わした。
そして、それぞれ観客席に腰を下ろした。
「ピーッ!!」
審判の笛が鳴り響いた。
ついに試合開始だ。
相手チームはさっそく味方にボールをパスし、攻撃を仕掛けようとした。
(さて……どう攻めてくるか、見せてもらおうじゃねえか……)
マックスも決して油断せず、すぐさま相手の前に出て、マークについた。
その瞬間、相手はドライブを選択した。
予想を上回るスピードで、一気にインサイドへ切り込んでくる。
マックスも少し驚いたものの、すぐに足を動かして追いつき、相手を見失うことなく守り続けた。
相手がレイアップを狙って跳び上がった瞬間――
マックスは横から追いつき、強烈なブロックショットを叩き込んだ。
弾かれたボールは、そのままコートの外へ転がっていこうとする。
普段のマックスなら、わざわざそこまで追いかけてボールを拾おうとはしなかっただろう。
しかし、今日の彼は違った。
必死にボールを追いかけ、なんとかアウト・オブ・バウンズになる前に拾い上げる。
そして、すぐさまアークの外にいるジェットへ鋭いパスを送った。
今度は彼らの攻撃だ。
ボールを受け取ったジェットは、凄まじい速さのファーストステップでディフェンダーを抜き去った。
あっという間にゴール下へ到達し、そのままレイアップを狙って踏み切る。
しかし、ヘルプディフェンスに入った相手もすぐさま進路に現れ、同時に跳び上がってきた。
正面からのフィジカル勝負では、必ずしも自分が有利とは限らない。
そう判断したジェットは、軽く息を吸い込み、体幹に力を込めた。
そして、空中でボールを持ち替えるように腕を大きく動かし、ダブルクラッチで相手のブロックをかわした。
放たれたボールは空中で回転しながら、美しい弧を描いてリングへと吸い込まれていった。
1対0。
なんと、先制点を奪ったのはジェットたちだった。
「ナイスシュート!」
味方のアリスが嬉しそうに声援を送った。
しかし、もう一人のアリスには、焦りも不安もまったく見られなかった。
ただ無表情のまま、静かに試合を見つめ続けていた。
続いて、相手チームはゴール下からボールを出した。
アークの外にいる味方を見つけると、すぐさまパスを送る。
その選手にはビリーがマークについた。
相手はまずシュートフェイクを仕掛けた。
しかし、本当の狙いはそこからドリブルを始め、一気に切り込むことだった。
ビリーはその意図を正確に見抜いていた。
相手がボールを床につこうとした瞬間、素早く手を伸ばし、狙いすましたようにボールを弾き飛ばす。
そして、そのままボールを奪い取った。
今度はビリーがアークの外でボールを持ち、攻撃を仕掛ける番だ。
目の前のディフェンダーを相手にしても、彼はまったく慌てなかった。
素早いクロスオーバーを何度も繰り返し、相手の重心と動きを巧みに揺さぶっていく。
そして突然――
股下を通すレッグスルーから、一気にステップバック。
ボールを保持すると、間髪入れずにシュートを放った。
相手は慌ててブロックに跳ぼうとしたが、もう間に合わない。
放たれたボールは高い弧を描きながら飛んでいき――
シュパッ!
乾いた音とともに、綺麗にネットを通り抜けた。
3対0。
その後も、三人はそれぞれ絶好調のオフェンスを披露していった。
マックスは力強いポストプレーで相手を押し込み、激しいリバウンド争いからセカンドチャンスをものにする。
ビリーは相手のディフェンスをかわすため、巧みなフローターシュートを決める。
ジェットもまた、流れるような動きから鮮やかなリバースレイアップを成功させた。
試合開始早々、三人はこれまで以上に強い得点への執念を見せていた。
そのプレースタイルも、攻撃的で、相手に強烈なプレッシャーを与えるものだった。
それぞれが申し分のない個人技を発揮し、次々と得点を重ねていく。
しかし、相手もただの素人ではなかった。
何しろ、彼らはアリスが想像する『バスケの上手い小野寺』なのだ。
相手チームも優れた攻撃技術とシンプルながら効果的な連携プレーで着実に点を取り返し、点差を常に二、三ポゼッション以内に保っていた。
ビリーたちも、なかなかリードを広げることができない。
試合はそのまま続いていった。
次の攻撃では、相手がアークの頂点付近でボールを持ち、ジェットがディフェンスについた。
相手はまずトリプルスレットの姿勢から、細かいステップやフェイクを繰り返し、ジェットの重心と反応を探っていく。
しかし、仮に一瞬フェイクに引っかかって先に抜かれたとしても、ジェットには圧倒的なスピードがある。
すぐに追いついて守り直すことなど、彼にとっては難しくなかった。
ここまで、両チームとも基本的には一対一のアイソレーションとマンツーマンディフェンスを中心に戦っていた。
ところが、この場面では少し様子が違った。
マックスがマークしていた相手が、突然素早く動き出したのだ。
その予想外の動きに、マックスの反応がほんの一瞬遅れた。
「しまった! 左からスクリーンが来るぞ!」
「なっ……!?」
しかし、マックスの声はわずかに遅かった。
ボールを持った相手が左へドライブを仕掛ける。
ジェットもそれに合わせて左へ動いたが、そこに待ち構えていたスクリーンに気づかず、相手選手とまともにぶつかってしまった。
その直後、二人の相手選手が同時にゴール下へ向かって走り込んでいく。
ジェットもすぐに追いかけて守ろうとした。
しかし、ここで一瞬の迷いが生じた。
(……スイッチするべきか!?)
その判断の遅れが、相手に決定的なスペースを与えてしまった。
ボールを持った選手は、その隙を逃さず、高く浮かせるようなパスを放った。
もう一人の選手が、そのパスに合わせて高々と跳び上がった。
そして、ジェットの目の前で豪快なアリウープダンクを叩き込んだ。
それだけではない。
着地した相手は、わざと筋肉を見せつけるようなポーズを取り、ジェットの体に軽くぶつかってきた。
まるで普段の自分たちがやりそうな、あからさまな挑発行為だった。
「クソッ……次からはもっと早く言ってくれよ……!」
「悪い、俺のミスだ……。でも、お前もすぐにスイッチしてくれた方がよかったと思うぞ……」
「ああ……わかってるよ……!」
ジェットは歯を食いしばりながら答えた。
どうやら、少しずつ冷静さを失い始めているらしい。
次の攻撃では、ジェット自身がボールを持った。
その表情からは、何としてでも一対一でやり返してやるという気迫が伝わってくる。
フェイクを仕掛けた後、後ろ足で地面を力強く蹴り、爆発的な加速を生み出した。
ジェットは凄まじい勢いで前方へ切り込んでいく。
しかし、目の前のディフェンダーを抜くことばかりに集中していたせいで、周囲の選手たちの動きを見落としていた。
「なっ……!?」
まるで、ジェットが最初のディフェンダーを抜くことなど、最初から計算に入っていたかのようだった。
残りの二人が、突然ジェットの進路に立ちはだかったのだ。
二人はすでに待ち構えており、そのままジェットをダブルチームで挟み込もうとしていた。
このまま無理やり突っ込めば、間違いなくオフェンスファウルを取られてしまう。
「こっちだ!」
その時、ジェットは反対側のアウトサイドでビリーがフリーになっていることに気づいた。
体勢を崩しながらも、どうにかボールをそちらへ投げる。
しかし、最初にジェットを守っていた相手は、すでにそのパスコースを読んでいたようだった。
素早く飛び出し、ボールを奪おうとする。
完全なスティールには至らなかったものの、その手がわずかにボールに触れた。
ボールは軌道を変え、そのままコートの外へ向かって転がっていった。
ボールがこのままコートの外へ出ようとしているのを見て、ビリーは追いかけようとしなかった。
最後に触ったのは相手なのだから、どうせ自分たちのボールになるはずだ。
ところが、相手はそれでもボールを追い続けた。
ボールがサイドラインを越えた瞬間、相手も同時にコートの外へ飛び出し、空中でボールをキャッチしたのだ。
もちろん、このまま着地すればアウト・オブ・バウンズになる。
しかし、相手は空中で無理やり体をひねり、いかにも苦しそうな、それでいて力強い姿勢で振り返った。
その視線の先にいたのは――ビリーだった。
「おい……マジかよ……!」
一瞬、相手と目が合った。
その瞬間、ビリーは相手の狙いを悟った。
だが、もう遅かった。
相手はボールをビリーの足めがけて、思い切り投げつけたのだ。
ボールはビリーの足に直撃し、そのままコートの外へ転がっていった。
ピーッ!
審判の笛が鳴る。
判定は、相手チームのボール。
かつて自分が好んで使っていた卑怯な小技を、まさか自分の偽物にやり返される日が来るとは。
「クソがっ!!」
ビリーは思わず悪態をついた。
しかし、そのせいで審判から注意まで受けてしまい、ますます腹が立ってきた。
次のポゼッション。
相手はアウトサイドでボールを持ち、マックスがディフェンスについた。
すると、ビリーがマークしていた選手が突然動き出し、ボール保持者に向かって素早く走り込んできた。
またスクリーンを仕掛けてくるつもりなのかもしれない。
「気をつけろ! 右からスクリーンが来るぞ!」
「了解! スイッチだ!」
今度は連絡が間に合った。
マックスもすぐにスイッチする準備を整えた。
しかし、相手の狙いはスクリーンではなかった。
走り込んできた選手は、そのままボール保持者の背後を回り込み、ハンドオフでボールを受け取ったのだ。
そして、すぐさまシュートを狙う。
「しまった!」
マックスは慌ててシュートチェックに向かおうとした。
しかし、先ほどまで自分がマークしていた選手が、ちょうど二人の間に立ちはだかっていた。
結果的に、その選手がスクリーンの役割を果たし、マックスの進路を完全に塞いでしまったのだ。
相手はその隙を逃さずシュートを放った。
シュパッ!
ボールは綺麗にネットを揺らした。
「おい、審判! 今の見ただろ!? あいつ、こっそり体を使って邪魔してきたぞ!」
マックスは、相手の際どい接触プレーについて審判に抗議した。
しかし、相手も相当な手練れだった。
どこまでならファウルを取られないのか、その境界線をよく理解しているらしい。
審判はただ首を横に振り、問題なしという判定を示した。
これにはマックスも、さすがに苛立ちを隠せなくなってきた。
相手との点差は、少しずつ縮まっていく。
それに伴い、三人は過度な緊張、苛立ち、そして疲労という悪循環に陥り始めていた。
ミスが増え、連携もうまく噛み合わなくなっていく。
一方、相手チームはどうだろうか。
すべてアリスの指示によって動いているからなのか、その連携はほとんど完璧と言っていいほどだった。
再び相手チームの攻撃が始まった。
これ以上、簡単に点を取られるわけにはいかない。
ジェットも神経を研ぎ澄ませ、目の前でボールを持つ相手を必死にマークしていた。
(はぁ……ドライブか……? パスか? それとも、またスクリーンを仕掛けてくるのか……?)
ここまで何度も相手に翻弄されてきたジェットは、知らず知らずのうちに、普段よりも周囲の選手の動きを気にするようになっていた。
そのせいで、ディフェンスの立ち位置も、いつもよりほんの一歩だけ後ろに下がってしまっていた。
しかし、相手はそのわずかな違いさえ見逃さなかった。
まずドライブを仕掛けるようなフェイクで、ジェットの重心をわずかに揺さぶる。
そして、すぐさま後ろへ下がってボールを保持すると、一連の動作から素早く跳び上がり、シュートを放った。
「Shit……! まずい!!!」
ジェットは慌てて前へ飛び出し、シュートをブロックしようとした。
しかし、ボールはすでに相手の手を離れ、空中に弧を描いていた。
焦りから加速しすぎたジェットは、その勢いをうまく制御できなかった。
結果として、シュートを放った相手に、無視できないほど強く接触してしまったのだ。
ピーッ!!
審判の笛が鳴り響く。
そして、まるでその音に追い打ちをかけるかのように、ボールはリングに触れることすらなく、綺麗にネットを通り抜けた。
最悪の事態だった。
「ディフェンスファウル! バスケットカウント! ワンスロー!」
その宣告は、まさに青天の霹靂だった。
ジェットは信じられないという表情で、その場に呆然と立ち尽くした。
ビリーは彼を責めこそしなかったものの、ただ俯いて荒い息をついていた。
マックスは、このタイミングでタイムアウトを取るべきか迷った。
しかし、一チームにつき使えるのは、たった一度の30秒タイムアウトだけだ。
そう考え、結局その考えを取り下げた。
チームの士気は、ますます下がっていく。
一方、完全に勢いに乗っている相手チームが、自分たちからタイムアウトを要求するはずもなかった。
試合時間は、すでに半分を切っていた。
9対11。
ついに、相手チームに逆転を許してしまったのだ。
もちろん、三人はまだ諦めたわけではなかった。
しかし、その代わりに、もっと危険な考えが芽生え始めていたのかもしれない。
それは、彼らが超能力を使った戦いで強敵に遭遇した時、いつも陥りがちなものだった。
(((……こうなったら、俺が何とかするしかねえな……)))
三人の頭に、同時にまったく同じ考えが浮かんだ。
しかし、三人が揃ってそんな強い思いを抱いてしまうと、前回と同じように、ろくな結果にならないことが多い。
とはいえ、ここまで追い詰められてしまった以上、もう他に方法はないのかもしれなかった……。
「ねえ! 大丈夫よ!」
その時、観客席から味方のアリスが突然大声で呼びかけてきた。
三人は思わず、彼女の方へ目を向けた。
「一人で何とかしようとしないで! あなたたちは同じチームなんでしょ!」
アリスは必死に声を張り上げた。
「いい? 私はバスケのことなんて全然わからないけど、あいつらがやってることを、あなたたちもやればいいじゃない!」
そして、さらに力強く言い放った。
「あいつらは所詮、あなたたちの偽物でしかないんだから! 本物のあなたたちに勝てるわけないでしょ!」
どうやらアリスも、三人が抱えている問題に気づいていたらしい。
その必死の激励を聞いた三人は、何かを考え込むような表情を浮かべた。
「……あいつらがやってることを、俺たちもやる……」
「クソッ……わかったよ。やってやろうじゃねえか」
三人は互いの顔を見合わせ、視線を交わした。
そして、何とか気持ちを立て直し、再び試合へと戻っていった。
「そうよ! 頑張って!」
試合に戻り、何度か攻防を繰り返した後、再び相手チームの攻撃となった。
相手はトリプルスレットの姿勢から、そのままシュートを放った。
しかし、今度のジェットは落ち着いて対応した。
ブロックこそできなかったものの、十分なプレッシャーをかけ、シュートを妨害することには成功した。
ガコンッ!
ボールはリングに当たり、大きく弾かれた。
ゴール下では、マックスが相手とリバウンドを争おうとしていた。
しかし、ポジション取りでは相手に一歩遅れを取っている。
そんな中、マックスはちらりと審判の位置を確認した。
そして、口元に小さな笑みを浮かべた。
「心配すんなよ、アリス。バスケに関しちゃ、まだお前に説教されるほど落ちぶれちゃいねえからな」
そう呟くと、マックスは背後からこっそり相手のユニフォームを引っ張った。
一瞬だけ相手の注意が逸れる。
その隙を逃さず、今度は腕を絡ませるような細かい駆け引きで相手を押しのけ、より有利なポジションへ入り込んだ。
そして、力強く跳び上がり、リバウンドを奪い取った。
だが、マックスはボールを確保しても、すぐには着地しなかった。
空中にいるうちに、アークの外で待っていたジェットへ、力強く鋭いパスを送ったのだ。
ボールを受け取ったジェットも、ほとんど手元に留めることなく、すぐさま反対側のアウトサイドにいるビリーへとパスをつないだ。
ビリーはボールを受け取ると、両手で素早く頭上へ掲げた。
シュートを打つと勘違いしたディフェンダーが、慌てて前へ飛び出してくる。
しかし、ビリーは確かにボールを高く放り投げたものの、その動きはどう見てもシュートフォームとは違っていた。
ゴール下にいたマックスは、その瞬間を見逃さなかった。
タイミングを合わせて力強く跳び上がり、空中でビリーのパスをキャッチする。
そして、そのまま体をひねり、リングへと向き直った。
相手もすぐさま跳び上がり、必死にブロックしようとする。
しかし、マックスはそんな抵抗などまるで気にも留めなかった。
目の前の相手を力ずくでねじ伏せるように、ボールを豪快にリングへ叩き込んだ。
アリウープからの、強烈なポスターダンク!!
「うおおおおおおっ!!!!!」
着地したマックスは、筋肉を誇示するようなポーズを取りながら、興奮の雄叫びを上げた。
「ナイス!!」
ジェットとビリー、そして味方のアリスも、思わず歓声を上げた。
続いて相手チームの攻撃。
相手はさらに複雑なローテーションを取り入れ、攻撃を組み立てようとしていた。
マックスたちの判断をかき乱しながら、より有利な攻撃の形を作ろうというわけだ。
「左からスクリーン!」
「よし! スイッチ!」
「右にももう一枚来たぞ!」
「考えすぎんな! もう一回スイッチだ!」
ビリーは次々とマークを受け渡しながら、ゴール下へ走り込む相手にぴったりと食らいついた。
執拗なプレッシャーをかけ続け、相手に無理なシュートを打たせる。
結果、そのシュートはリングを捉えることができなかった。
彼らが変えたのは、オフェンスだけではなかった。
ディフェンスの戦術も、大きく見直していたのだ。
相手がスクリーンを仕掛けてくるたびに、スイッチするべきかどうかを考えていては、ただでさえ余裕のない頭がますます混乱してしまう。
そして、その一瞬の判断の遅れが、守備の穴につながってしまう。
だったら、いっそのこと全部スイッチしてしまえばいい。
そもそも、オフェンス側がディフェンスにスイッチを強いる理由は、大きく分けて二つある。
一つは、相手の判断や連携を乱し、ミスを誘うこと。
そしてもう一つは、ミスマッチを作り出し、自分より不利な相手との一対一に持ち込むことだ。
しかし、今回の相手は三人とも能力がほとんど同じだった。
それなら、誰が誰を守ろうが、大した違いはない。
三人は以前NBAの試合で見た戦術を思い出し、ひたすらスイッチを繰り返す、いわゆる「スイッチオール」を実践し始めた。
それによって、ディフェンスの効率を高めようというわけだ。
そして次の相手の攻撃でも、その戦術は効果を発揮した。
三人はまるで獲物を執拗に追い回すゾンビのような執念で、相手に食らいついていく。
ビリーの激しいプレッシャーに追い詰められたボール保持者は、とうとうドリブルを止めてしまった。
するとビリーは、まるで痴漢のようにしつこく体を密着させ、強引かついやらしい手つきで何度もボールを奪おうとする。
時にはこっそり尻を押しつけ、相手のバランスを崩してトラベリングを誘おうとする始末だった。
このままヘルドボールに持ち込めば、ルール上、ボールの所有権はディフェンス側へ移る。
何としてでもボールを失いたくない相手は、必死に味方を探し、どうにかパスを出そうとした。
しかし、その時――
「……もらった!!」
その瞬間、ジェットが突然飛び出してきた。
徐々に高まっていく能力と、ますます加速するスピードを生かし、相手のパスを鮮やかにスティールしたのだ。
ジェットはすぐさまアウトサイドのマックスへボールを預けた。
そして次の瞬間、驚異的なスピードでディフェンダーを振り切り、一気にゴール下へ走り込んでいく。
マックスも即座に反応した。
鋭いバウンズパスをインサイドへ送り込む。
ジェットはそのパスを受け取ると、流れるような動作でそのままレイアップを決めた。
次の攻撃では、マックスがボールを持った。
今度はビリーがスクリーンをかけに向かう。
しっかりとしたスクリーンをセットすると、マックスはすかさずドリブルで切り込んだ。
相手の二人もすぐにスイッチし、マックスを追いかける。
しかし、マックスのインサイドでの圧倒的な脅威を警戒するあまり、彼らはビリーの動きを見落としていた。
ビリーは一度、ゴール下へ向かうような素振りを見せた。
だが、実際にはこっそりとサイドのアウトサイドへ下がっていたのだ。
その狙いに気づいた相手が、慌ててカバーに向かう。
ところが、その瞬間――
ジェットが素早く現れ、ビリーのためにオフボールスクリーンを仕掛けた。
おかげで、ビリーには一瞬のフリーなスペースが生まれた。
そしてマックスは、まるで背中にも目がついているかのように、振り返ることすらせず、ノールックパスを放った。
背後へ送り出されたボールは、寸分の狂いもなくビリーの手元へ届いた。
ビリーはキャッチすると同時に、迷わずシュートを放った。
ボールはまだ空中に弧を描いている。
しかし、ビリーはすでに片手を高く掲げ、三本の指を立てていた。
シュパッ!
ボールは綺麗にネットを通り抜けた。
まるで入ることなど最初からわかっていたかのように、ビリーは熱くなった指先にふっと息を吹きかけ、余裕たっぷりのセレブレーションを披露した。
「ナイスシュート!!!」
チームの勢いは、完全に戻ってきた。
15対14。
ついに、今度は彼らが逆転に成功したのだ。
ところが、その時だった。
ピーッ!
突然、審判の笛が鳴り響いた。
三人は最初、誰かがファウルをしたのか、あるいは今の得点が取り消されたのかと思った。
しかし、観客席にいたアリスが無表情のまま立ち上がり、ゆっくりとコートへ向かって歩き出したのを見て、ようやく思い出した。
彼女は歩きながら魔法を使い、その服装をスポーツウェアへと変えていく。
そうだ。
彼女は最初から、一つのチームが15点に到達した時点で、自分も四人目の選手として試合に参加すると宣言していたのだ。
試合は一時中断され、アリスの確認が済むまで再開されないことになった。
「なあ、そもそもアリスってバスケできるのか?」
「俺も知らねえよ……でも、たぶんできないんじゃねえか?」
アリスが一体何を企んでいるのか、三人にはまだわからなかった。
しかし、その未知の存在と突然の中断によって、せっかく取り戻した勢いが少し削がれてしまったのも事実だった。
そんな中、アリスはジェットの目の前まで歩いてきた。
まるで彼とマッチアップするつもりでいるかのように。
そして、わざわざ髪を軽くかき上げてみせた。
「いっ……痛ってえ!」
ジェットが思わず敵である彼女に見とれてしまった、その瞬間。
マックスが彼の足を思い切り踏みつけたのだ。
「お前、もしあいつに手加減なんかしてみろ。俺たちが死ぬ前に、俺がお前をぶっ殺してやるからな」
「わ、わかってるって……!」
それでも、すぐそばにアリスがいるのを見ると、ジェットはどうしても話しかけずにはいられなかった。
「なあ、アリス。お前、バスケできるのか?」
「ほんの少し触ったことがあるだけよ。たまに父と一緒に試合を見るくらい」
「へえ? そういや、お前の親父さん、俺たちのことが相当気に入らないらしいな?」
その言葉を聞いたアリスは、思わず俯き、黙り込んでしまった。
「……私のこと、恨んでる?」
「うーん……正直、ちょっとがっかりしたかな……」
ジェットは少し考えるような素振りを見せた。
「俺の彼女になりたくないって女の子なら、もう珍しくもないけどさ。わざわざ人を雇って俺をぶちのめそうとした女の子は、さすがに初めてかもしれないな」
そして、こんな状況にもかかわらず、半分冗談めかして話を続けた。
「でも、今ここから俺たちを出してくれて、ついでに俺の彼女になってくれるなら、今回のことは大目に見てやってもいいぜ……」
「……いや、デートを何回かしてくれるだけでもいいし……」
「電話を何回かするだけでも……」
「……せめて写真を何枚か送ってくれるだけでもいいんだけどな……」
「今さらそんなことを言って、何になるの? 本当に自分たちが勝てると思ってるわけ?」
アリスは冷たい声で言い放った。
「悪いな。でも、少なくとも今の俺たちは、絶対に負けたくないんだよ」
ジェットの表情が、再び試合中の真剣なものへと戻った。
そして、自らアリスのそばを離れ、所定の位置へと向かっていった。
アリスはその後ろ姿を見つめながら、ただ強く拳を握りしめていた。
「さて……そろそろ頃合いね……」
アリスはスコアボードをちらりと見た。
まるで、ここまでの展開がすべて彼女の計算どおりだったかのように、静かにそう呟いた。
「一気に試合を終わらせましょう……」
審判の笛が鳴り、試合が再開された。
このポゼッションは、アリスたちのチームがアークの頂点付近からボールを入れて攻撃を始める。
しかし、アリス自身はあまり攻撃に参加するつもりがないようだった。
ただウィークサイドのアウトサイド付近に立ち、コート全体へ視線を巡らせている。
一方、相手選手は今回、スクリーンや連携プレーを使うつもりはないらしい。
どうやら、マックスを相手に真っ向から一対一を仕掛けるつもりのようだ。
相手は凄まじい勢いでインサイドへ切り込んでいく。
マックスも何とか足を動かし、必死についていった。
そして、相手が高々と跳び上がった。
どうやら、真正面からフィジカル勝負を挑むつもりらしい。
当然、マックスも黙ってはいない。
負けじと跳び上がり、力ずくで迎え撃とうとした。
しかし、その瞬間――
相手の体が、突然巨大化したのだ。
「なっ……!?」
相手の身長は、いつの間にか二メートルを超えていた。
プロのバスケットボールチームにいても、立派なビッグマンとして通用するほどの巨体。
マックスより二回りも三回りも大きくなったその体から繰り出されるパワーも、当然のように増幅されていた。
さすがのマックスも、その圧倒的な力を受け止めきれなかった。
相手はそのまま、マックスの頭上から豪快なダンクを叩き込んだ。
マックスは激しい衝撃に押し負け、尻もちをつくようにコートへ叩き落とされた。
「何だよ、今の……!? ファウルどころの話じゃねえだろ!?」
「……でかくなった? まさか、お前が……?」
何かに気づいたジェットが、すぐさまアリスへ視線を向けた。
「何よ? 私の世界では、私のルールに従うって言ったのは、あなたたちじゃなかった?」
アリスは平然と言い返した。
「それに、私は直接あなたたちを傷つけたわけじゃないわ。あなたたちが超能力を使ってバスケをしてもいいのに、私だけはダメだっていうの?」
「このクソアマが……!」
「待て、マックス! 誰か一人でも退場になったら、もう試合どころじゃなくなるぞ!」
ジェットは怒りに任せて飛びかかりそうなマックスを、何とか引き止めた。
結局、彼らにはこの理不尽な状況を受け入れ、試合を続ける以外に選択肢はなかった。
続いて、ジェットたちの攻撃となった。
三人は先ほどと同じように、連携プレーを中心に攻撃を組み立てるつもりだった。
ジェットはボールを持つと、素早くドライブを仕掛けた。
ところが――
突然、足元が異様に重くなった。
どれだけ必死に走っても、ほとんど前へ進めない。
「……何だ、これ!?」
ジェットが足元に目を向けると、床がまるでランニングマシンのベルトのように、延々と後ろへ動き続けていた。
これでは、せっかくのスピードも大幅に殺されてしまう。
ジェットはさらに力を込め、全速力で走り始めた。
すると、確かに少しずつ床の抵抗を上回り、前へ進めるようになった。
しかし、その瞬間。
今度は床が突然、逆方向へ動き始めたのだ。
しかも、ジェットを前方へ運ぶような方向に。
「うおっ!?」
一瞬にして、ジェットの体はさらに凄まじい速度で前へ押し出された。
だが、急激な速度の変化によってバランスと距離感を失った彼は、自分の動きを制御できなかった。
そのまま、目の前で守っていた相手に真正面から激突してしまった。
ピーッ!
「オフェンスファウル!」
審判の笛が鳴り、ボールの所有権は相手チームへ移った。
ジェットは尻もちをついたまま、痛む尻を押さえながら、近くに立っているアリスを見上げた。
「……これもお前の仕業だろ……?」
「マックスは、自分より体が大きくて力の強い相手に出会えば、最大の強みを失う。あなたも同じよ。走れなくなれば、それまででしょ?」
アリスは実に単純明快な方法で、二人の長所をあっさりと封じてみせた。
「……だったら、テクニックで勝負するビリーはどうするんだよ? あいつ、コートの上で電撃をぶっ放すわけじゃないぞ」
「彼についてはね……私の推測だけど、手に発生する静電気や電磁気的な相互作用を細かく制御することで、いわゆるボールの感覚やシュートタッチを、常に自分にとって最適な状態に保っているんじゃないかしら」
アリスは淡々と説明を続けた。
「つまり、バスケットボールそのものに、彼とは正反対の電場を発生させればいいだけの話よ」
「えっ……ど、どういう意味だ? それで、あいつはどうなるんだ?」
「別に、大したことにはならないわよ……」
二人は近くにいるビリーへ目を向けた。
すると、なぜか相手のディフェンダーがわざと少し距離を取り、ビリーにシュートを打てるスペースを与えていた。
ビリーも特に疑うことなく、素早くシュートを放った。
しかし――
ガコンッ!
「なっ……!?」
ボールはリングに弾かれた。
完全にフリーだったにもかかわらず、先ほどまで絶好調だったビリーがシュートを外したのだ。
それだけではなかった。
ジェットがその動きをスローモーションのように一コマずつ観察してみると、ビリーはシュートフォームだけでなく、ドリブルの動作まで普段と微妙に違っていることに気づいた。
「別に、大したことにはならないわ……」
アリスは何でもないことのように言った。
「ただ、今までの技術が全部使い物にならなくなって、普通の人間に戻るだけよ」
さらにミスを重ね、シュートを外したビリー自身も、すぐに異変を感じ取った。
体全体の動きが、どうにも噛み合わない。
その違和感に、彼も次第に苛立ち始めていた。
こうして、三人が持つ最大の武器は、ことごとく封じられてしまった。
ミスは増え、焦りや苛立ちといった負の感情も膨らんでいく。
試合の主導権は、あっという間に相手チームへと移ってしまった。
15、16、17、18……。
相手チームの得点は、刻一刻と21点に近づいていった。
残された時間も、どんどん少なくなっていく。
本来なら、そう簡単に疲れるはずのない三人だった。
しかし、緊張や焦燥といった精神的なプレッシャーによって、次第に疲労の色が濃くなっていた。
荒い呼吸。
ユニフォームを噛みしめる仕草。
前かがみになった姿勢。
額から流れ落ちる大量の汗。
両手を膝について息を整える姿。
そして、何度もスコアボードへ向けられる視線。
そうした一つ一つの行動が、彼らの精神状態に影響を与え、さらに悪循環を生み出していた。
この危機的状況に、味方のアリスもすっかり緊張してしまい、審判にタイムアウトを要求した。
しかし、実際にタイムアウトが認められるのは、次にボールの所有権が切り替わるタイミングだった。
それまでに、もし相手にもう一点でも取られれば、その影響は計り知れない。
何とか相手の得点を食い止め、タイムアウト中に逆転の方法を見つけ出さなければ、敗北はほぼ確実だった。
(……何としてでも、せめて一点は取らないと……)
このポゼッションで、三人は何としてでも得点を奪いたかった。
しかし、今の彼らは、自分たちの能力に対する自信さえ揺らぎ始めていた。
この攻撃では、マックスがボールを持っていた。
当然、彼をマークする選手はアリスの能力によって巨大化させられていた。
相手はその巨体を生かして距離を詰め、長い手足を伸ばして、何度もマックスのパスコースを塞ごうとする。
それでもマックスは、何とかバウンズパスを通し、ジェットへボールを預けた。
ジェットはボールを抱え、目の前のディフェンダーを見つめながら、どう攻めるべきか考えていた。
しかし、ここでドライブを仕掛ければ、アリスはすぐに床へ能力を使い、彼の動きを封じてくるだろう。
つまり、ドライブ以外の方法で攻めるか、味方へパスを出すしかない。
だが、ショットクロックの残り時間は刻一刻と減っている。
今さらパスを回しても、余計に時間を浪費するだけかもしれなかった。
そこでジェットは、相手に背中を向けた。
マックスのようなポストプレーを真似し、体を押しつけながら少しずつゴール下へ進もうとしたのだ。
ジェットも下半身の力は決して弱くない。
実際、少しずつではあるが、相手を押し込みながら前進できていた。
しかし、やはり経験と技術の成熟度では、マックスに及ばない。
その時だった。
ジェットは素早く連続フェイントを繰り出すと、一瞬で体を反転させ、ドライブを仕掛けた。
アリスはすぐさま能力を使おうとした。
しかし、ジェットは突然動きを止め、ボールを構えてシュートを打つような動作を見せた。
それを見たアリスは、とっさに作戦を切り替えた。
ディフェンダーの体を巨大化させ、その長い腕でシュートをブロックさせようとしたのだ。
巨大化した相手が勢いよく跳び上がり、ジェットへ襲いかかる。
しかし、それを見たジェットは――
密かに、にやりと笑った。
「なっ……!? フェイク!?」
そう。
今の動きは、ただのシュートフェイクだったのだ。
ジェットはまだボールを完全には保持しておらず、ドリブルを終えていなかった。
相手が空中に跳び上がった隙を突き、ジェットは再び一気に加速した。
そして、アリスが能力を発動するよりも早く、ゴール下の空いたスペースへ飛び込んだ。
今度こそ、ジェットはボールをしっかりと保持した。
膝を曲げ、そのままゴール下からシュートを放とうとする。
しかし、すぐさま別のディフェンダーがカバーに入り、勢いよく跳び上がってブロックを狙ってきた。
その瞬間、ジェットは再び笑みを浮かべた。
(アリス。確かにお前は、いろんなことをよく知ってるよ)
(でもな……バスケに関しては、俺のほうが詳しいんだぜ)
「えっ……!? またフェイク……!?」
ジェットは巧みなフェイントを連続で繰り出し、相手を完全に翻弄していた。
目の前には、すでに空中へ跳び上がってしまったディフェンダー。
ジェットはその相手を見据えると、自ら跳び上がり、わざと体を接触させてからシュートを放った。
ピーッ!
審判の笛が鳴り響く。
そして、放たれたボールはバックボードに当たり、そのままリングへ吸い込まれた。
「ディフェンスファウル! バスケットカウント! ワンスロー!」
「IN YOUR FACE!!!」
見事に相手の裏をかき、今度は自分がファウルを誘ってやったジェットは、興奮した様子で雄叫びを上げた。
続くフリースローも、ジェットはきっちりと決めた。
これでスコアは18対20。
土壇場で何とか相手の連続得点を食い止めたことで、ほかの仲間たちもようやく胸をなで下ろし、ジェットへ歓声を送った。
そして試合は、そのままタイムアウトに入った。
「ナイスプレー! この後もあんな感じで攻めるか?」
「いや、さっきのはただの苦し紛れだよ。次はたぶん通用しない。やっぱり新しい作戦を考えないとな」
「そういえば、お前もアリスなんだろ? 俺たちを助けるために、何かできないのか?」
「ご、ごめんなさい……でも、今の私の能力じゃ、せいぜいみんなの服を着替えさせるくらいしか……」
「……待てよ! 思いついた!」
突然、ビリーが声を上げた。
「覚えてるか? 俺たちが子供の頃によくやってた、あの技! 葵や叔父さんたちを騙すのに使ってたやつだよ!」
ビリーは指先から電光を放ち、頭上に電球の形を作り出した。
まるで昔のアニメに出てくるキャラクターが、名案を思いついた瞬間のようだった。
そしてビリーは、自分の考えた作戦を詳しく説明し始めた。
その内容を聞いた一同は、思わず目を丸くした。
「……マジかよ? 本当にそんなのが通用するのか?」
「ほかに方法も思いつかねえんだ。もう、やるしかないだろ!」
気づけば、彼らは思わず笑い出していた。
「そろそろコートに戻ってください!」
タイムアウトが終了し、審判が選手たちを呼び始めた。
「よし、マックス。最後に何か一言、締めてくれよ」
「何で俺なんだよ? ……まあ、いいけどよ」
マックスは少し言葉を探すように口ごもった。
「えーっと……俺たち、別にそこまで仲がいいわけじゃねえし、正直、お前らの顔を見るだけでうんざりする時だってある……」
「でもよ……」
「こんなところで負けるくらいなら、俺はまだお前らみたいな連中と一緒に、くだらねえことをやっていたいんだよ……」
そう言いながら、マックスは片手を前へ差し出した。
それを見たほかの仲間たちも、次々と手を伸ばす。
全員が腕を上げ、拳を中央で突き合わせた。
「だからよ……ここから脱出するために! 大学に行くために! 彼女を作ってセックスするために!」
「俺たちは、絶対にここで負けねえ!!」
マックスは勢いよく叫んだ。
「デカいチンコがついてるなら、根性見せて勃ち上がれ!!」
「いくぞ! ワン! ツー! スリー!」
「デカチンは誰だァァァ!!」
「「「俺たちだァァァ!!!」」」
三人の熱い掛け声が、コート全体に響き渡った。
その声に、敵側のアリスまで思わず彼らのほうへ視線を向けた。
「うおおおっ!!! Let's go!!!!」
「ラストダンスだぜ! 兄弟たちよ!!」
「アリスをぶっ倒すぞ!!!」
「みんな、頑張って!!!」
味方のアリスは、さすがに先ほどの下品すぎる円陣には加われなかった。
それでも今は、心の底から三人を応援していた。
三人のテンションと士気は、最高潮に達していた。
先ほどまでの落ち込みも、疲労も、まるで嘘だったかのように吹き飛んでいた。
彼らは戦士のように、再びコートへと足を踏み入れた。
その瞳には、もはや恐怖の色など微塵もない。
あるのはただ、勝利への決意と渇望だけだった。
試合時間は、もうほとんど残されていない。
スコアは18対20。
あと一、二本のシュートで決着がつく可能性はある。
しかし、相手チームが先にマッチポイントを迎えているという事実は、決して変わらなかった。
次のポゼッションも、相手チームの攻撃から始まる。
つまり、何が何でもこの一本を守り切らなければならない。
チェックボールが済むと同時に、三人は全力でタイトなマンツーマンディフェンスを仕掛けた。
相手に自由なパスも、キャッチも許さない。
するとアリスも、すかさず相手選手全員の体を一気に巨大化させ、パスを受けやすくした。
相手はビリーがマークしている選手へ向かって、高いパスを放った。
ところが――
ビリーは素早く相手の前へ回り込むと、予想外の高さまで跳び上がり、腕を伸ばしてパスをカットしたのだ。
「えっ!? そんなに高く跳べるはずが……!」
アリスが驚いている、その瞬間。
今度はマックスが、信じられないほどのスピードでインサイドへ走り込んだ。
ビリーは即座に、力強いパスをゴール下へ送り込む。
それを受け取ったマックスは、凄まじい勢いでリングへ襲いかかろうとした。
アリスはマックスの突然のスピードの変化にも驚いたが、すぐに対応した。
ペイントエリア付近の床全体に能力をかけ、彼の前進を阻止しようとしたのだ。
しかし、マックスは構わず力強く跳び上がった。
そのまま空中からレイアップを狙うつもりらしい。
そこへ、巨大化した相手選手がすぐさまヘルプに入り、跳び上がって迎え撃とうとする。
だが、マックスは真正面からぶつかることを選ばなかった。
空中で体をひねると、そのままアウトサイドへ向かって強烈なパスを放ったのだ。
しかも、ボールが向かった先には誰もいない。
……いや。
そこには確かに、一人の選手が立っていた。
アリスは、ボールがものすごい勢いで自分の顔めがけて飛んでくるのを見て、反射的に身をかわそうとした。
その瞬間――
彼女のすぐ横から、一つの人影が飛び出した。
その人物は素早く腕を伸ばし、ボールをキャッチする。
アリスが顔を上げると、そこにいたのはジェットだった。
なんと彼は、アリス自身の体を小さなスクリーン代わりに利用し、ほかのディフェンダーのヘルプをかわしていたのだ。
「俺が恋しかったかい、ベイビー?」
ジェットはふざけてキスをするような仕草を見せると、すぐさまドライブを仕掛けようとした。
アリスはとっさに周囲の床をすべて後方へ動かし、彼の突破を阻止しようとする。
それどころか、自分まで前へ飛び出してディフェンスに加わった。
しかし、予想外のことが起きた。
ジェットはまったく抵抗せず、床の動きに身を任せて、そのままスリーポイントラインの外側まで運ばれていったのだ。
アリスがようやくその意味を理解した時には、もう遅かった。
ジェット――
いや。
ビリーは、笑みを浮かべながらリズミカルに体を揺らし、左右へ連続でクロスオーバーを繰り出していた。
「えっ……?」
そのリズムに翻弄され、アリスは思わずバランスを崩し、足元から倒れ込んでしまった。
さらにビリーは、倒れたアリスの体を再びスクリーン代わりに利用し、ヘルプに来た別のディフェンダーの進路をわずかに塞いだ。
そして――
迷いなく、シュートを放つ。
シュパッ!
ボールは鮮やかにネットを通り抜けた。
20対20。
ついに同点。
両チームが、同時にマッチポイントへと到達した。
「イエェェェイ!!!!」
ビリーは興奮した様子で両腕を振り回し、歓声を上げた。
「な、何よ……!? あなたたち、人格を入れ替えたの!?」
「いや、髪型を変えただけなんだけど?」
ビリーはあっけらかんと答えた。
「それでも見分けられるっていうなら、俺も素直に認めるよ」
しかし、当然ながら試合はまだ終わっていない。
しかも、次のボールの所有権は相手チームにあった。
相手がゴール下からボールを入れようとした、その時だった。
なんと三人は一斉に駆け寄り、ボールを持った選手を取り囲んだのだ。
簡単にはパスを出させないつもりらしい。
普通なら、こんな戦術はあまりにも危険だった。
一度でも包囲網を突破され、外へパスを通されてしまえば、ほぼ万事休すだからだ。
つまり、彼らはこの土壇場で、文字どおり背水の陣を敷いたのである。
相手選手も、初めて目にするその狂気じみた戦術に驚きを隠せなかった。
必死に外側の味方を探すものの、三人はゴール下で執拗にプレッシャーをかけ続ける。
まるで、今にも自分を生きたまま食いちぎろうとする怪物たちのようだった。
その時。
相手は、一瞬だけ開いたパスコースを見つけた。
すぐさま、そこへボールを送り出す。
しかし――
突然、凄まじいスピードの人影が飛び込んできた。
そして、放たれたパスを一瞬で奪い取ったのだ。
そう。
先ほどのわずかな隙は、三人がわざと作り出したものだった。
相手がそのコースへパスを出すように仕向けるための罠。
そして、その先にはすでに――
俊足のジェットが、待ち構えていたのだ。
いよいよ、最後の攻撃。
ボールを奪ったジェットは、もはや余計なことなど考えなかった。
レーシングカーのような勢いで、一気にドライブを仕掛ける。
しかし、すぐさまアリスの能力が彼を襲った。
足元の床が絶えず後方へ動き、ジェットの体を強引に引き戻そうとする。
まるで目の前に、決して突破できない透明な壁が立ちはだかり、別の道へ進むよう強制しているかのようだった。
「もう終わりよ! あなたたち!!」
アリスも興奮した様子で叫んだ。
だが、ジェットはパスを選ばなかった。
進路を変えることもしなかった。
それどころか、歯を食いしばり、さらに全力で前へ走り続けた。
残りの攻撃時間は、刻一刻と減っていく。
しかし、彼のスピードは――
さらに速く。
もっと速く。
どこまでも、加速していく。
その周囲には激しい気流が巻き起こり、摩擦によって火花すら散り始めた。
もはや相手選手たちも、簡単には近づけない。
「アリス……知ってるか……?」
ジェットは歯を食いしばったまま、わずかに顔を向けて彼女に話しかけた。
「実はさ……お前の言うこと、正しいのかもしれないな……」
アリスは、その言葉の意味がわからず戸惑った。
しかし、ジェットはただ笑みを浮かべた。
「お前の能力なんて……」
「俺たちには、通用しないんだよ……!」
次の瞬間――
まるで目の前にそびえ立つ次元の壁を、粉々に打ち砕くかのように。
ジェットはついに、アリスの能力による妨害を完全に突破した。
一瞬でゴール下へ到達すると、そのまま高々と跳び上がる。
この一撃で、試合を終わらせるつもりだった。
しかし、空中では彼のスピード能力も十分には発揮できない。
そこへ、ヘルプに入ったディフェンダーが絶妙なタイミングと角度で跳び上がり、シュートコースを塞いだ。
ジェットは、まともにシュートを打てない位置へ追い込まれてしまった。
だが、彼は再び笑った。
そして、まるでストリートバスケの達人のように、空中で体をひねる。
そのまま、常識では考えられない角度から、リングへ向かってボールを高々と放り投げたのだ。
「そんな……まさか……?」
いくら今のジェットが絶好調とはいえ、あんな無茶苦茶な角度からシュートを決められるはずがない。
しかし、その時だった。
「うおおおおおおっ!!!!!」
突然、反対側からマックスが雄叫びを上げながら飛び出してきた。
そして、凄まじい勢いで跳び上がる。
その踏み切りの衝撃で、地面に渦巻くような気流すら生まれたように感じられた。
マックスは空中でジェットのパスをキャッチした。
そのまま、アリウープダンクを叩き込むつもりだ。
「させない!! これで終わりよ!!!」
アリスの能力によって、二人のディフェンダーが同時に巨大化した。
そして、高々と跳び上がり、マックスの目の前に立ちはだかる。
これでは、たとえ万全の状態のマックスでも、力ずくで突破するのは難しい。
しかし――
マックスは、にやりと笑った。
そして、ボールを再び後方へ向かって高々と放り投げたのだ。
「なっ……!? 今度は何を……?」
アリスが困惑した、その瞬間。
眩い紫色の稲妻が、幾筋も走った。
続いて、耳をつんざくような雷鳴が響き渡る。
ビリーだった。
全身に凄まじい電流をまといながら、コートを駆け抜けていく。
そして、フリースローラインから力強く跳び上がった。
その瞳からも、髪からも、尽きることのない雷光がほとばしっている。
まるで、雷神ソーが空へ飛び立つかのようだった。
「いつから俺がダンクできないと錯覚していた……?」
「くたばりやがれェェェェ!!!!」
ビリーは空中でマックスのパスを受け取った。
その手にあるバスケットボールまでもが、まるで地上へ墜落する流星のように見えた。
ビリーは空中で咆哮した。
すでにジェットとマックスが、相手のディフェンダーを全員引きつけている。
今、この瞬間。
彼のディフェンダーは、誰一人としていなかった。
「「いっけええええええ!!!!!!」」
仲間たちも、声の限りに叫んだ。
アリスは再び手を伸ばし、何かをしようとした。
しかし、三人の姿を見つめた彼女は――
今度は、何もせず。
ただ静かに、その手を下ろした。
ドガァァァン!!!
凄まじい音とともに、ボールがリングへ叩き込まれた。
21対20。
試合終了。
バスケットコートは、一瞬にして静寂に包まれた。
ビリーは轟音とともに着地した。
全身を覆っていた電流が、少しずつ消えていく。
彼は何も言わず、ただ肩で息をしていた。
そこへ、ジェットとマックスもゆっくりと歩み寄ってきた。
三人は互いの顔を見つめた。
一秒。
二秒。
数秒間の沈黙の後――
パァァン!!!
三人が勢いよく手を叩き合わせた。
その瞬間に響いた音と弾ける電光は、まるでこの世界全体にまで轟いたかのようだった。
「イエェェェイ!!!」
「俺たちの勝ちだァァァ!!!!」
三人は興奮のあまり抱き合い、声を張り上げて喜びを爆発させた。
まるで全国大会の優勝を勝ち取ったかのような騒ぎだった。
味方のアリスも興奮した様子で駆け寄り、一緒に勝利を祝った。
ジェットは彼女に向かって両手でハートマークを作ると、そのまま勢いよく抱きついた。
「アリス!!! 愛してるぜェェェ!!!!」
「ちょ、ちょっと……!」
アリスは困ったような、呆れたような表情を浮かべた。
試合を終えたばかりの彼らは汗だくで、おまけに汗臭い。
正直、少し嫌そうな顔までしていた。
それでも、彼女は嬉しそうに笑いながら、ジェットを突き放そうとはしなかった。
すると、もう一人のアリスも彼らのもとへ歩いてきた。
「アリス。彼らの勝ちよ。約束どおり、本物のアリスがいる場所へ行かせてあげて」
「……好きにすれば」
もう一人のアリスは、素直に約束を受け入れた。
彼女が軽く手を振ると、周囲の世界が再び変化し始めた。
突然、目の前に一本の道が現れたのだ。
その道は、遠くに見える一軒の家へと続いているようだった。
おそらく、そこに本物のアリスがいるのだろう。
そして、もう一人のアリスはそのまま一人で立ち去ろうとした。
「待って! アリス!」
ジェットは彼女を呼び止め、小走りでそばへ駆け寄った。
「ありがとう。それと……いい試合だったぜ。ははっ」
ジェットは飾り気のない笑顔で、素直に礼を言った。
それを聞いたアリスも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「さっさと行きなさいよ。外の世界でどれだけ時間が経ってるか、わからないんだから」
「……ハグでもする?」
「しないわよ。調子に乗らないで」
「ほら、ジェット! 早く行ってこいよ!」
ほかの仲間たちも、彼を急かし始めた。
「行くけどさ……お前らは一緒に来ないのか?」
「いや、俺たちがついていっても、お前のスピードの邪魔になるだけだろ。それに、もう疲れたしな」
「さっさと行ってこいよ。外でまた会おうぜ。これ以上ぐずぐずしてたら、そのまま向こうまで投げ飛ばすぞ」
「そっか……わかった! じゃあ、俺は一足先に行くぜ!」
ジェットは、もう少しみんなと一緒にいたい気持ちもあった。
しかし、彼にはまだ、やらなければならないことが残っていた。
ジェットは笑顔で仲間たちに別れを告げると、軽く足を動かしてウォーミングアップをした。
そして次の瞬間、家へと続く道を勢いよく駆け出していった。
残された仲間たちは、ようやく疲労を感じ始めたのか、その場で休憩することにした。
味方のアリスも、引き続き彼らと一緒に残っていた。
「お疲れさま! 二人とも大丈夫?」
「ふぅ……まあ、何とかな……。膝枕でもしてくれたら、もっと元気になれるんだけどな」
「そういえばさ、アリス。ほかに可愛い女の子の友達とかいないの?」
「…………」
一方、その頃。
ジェットは、目の前に伸びる道をひたすら駆け抜けていた。
走っている間、彼はこの世界そのものから、何かを感じ取っているような気がした。
アリスにまつわる記憶。
彼女の好きなもの、嫌いなもの。
そして、彼女が思い描いてきた、さまざまな想像。
それらが、道を進むたびに少しずつ伝わってくるようだった。
ジェットはさらに速度を上げた。
どんどん速く。
そして、ほどなくして――
彼はついに、あの家の前へたどり着いた。
そこにあったのは、西洋風の芸術的な意匠を少し取り入れた、ごく普通の住宅だった。
その玄関先には、一人の小さな女の子が座っていた。
まだ幼稚園児くらいにしか見えない、金髪の少女。
彼女はひどく落ち込んでいるようで、うつむいたまま、何も話そうとしなかった。
ジェットは、ゆっくりと少女のもとへ歩み寄った。
すると、またしても、この家の何らかの影響を受けたのだろうか。
近づけば近づくほど、彼の体は少しずつ幼くなっていった。
そして、玄関の前までたどり着いた頃には――
ジェット自身も、目の前の少女とほとんど変わらない年齢の子供になっていた。
「……アリス?」
ジェットが優しく声をかけると、少女はゆっくりと顔を上げた。
「お、小野寺……」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけたなら嬉しいです!
いやぁ……今回もまさかの長編になってしまいましたね。(これでもできるだけ短くまとめようとしたんですけどね……)
今回の彼らの異世界冒険のような展開についてですが、実は最初、いくつかのステージを攻略していくような冒険を通して、三人が少しずつ協力できるようになる、という展開も考えていました。
でも、よくよく考えてみると、やっぱり彼らを一番象徴するものといえば、バスケなんじゃないかと思ったんですよね。
ちなみに、自分自身は卒業してからほとんどバスケをしていませんし、試合を観ることすらめっきり減ってしまいました。
なので、今回のバスケの試合描写が、あまり読みにくいものになっていなければいいのですが……。
とにかく、次回こそは早くこの物語を完結させたいですね!
気づけば、これまで自分が書いてきた中でも、最も長い物語になってしまいました。
というわけで、次回はいよいよ完結編……のはずです!(希望)
ぜひ皆さんも、最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
それでは、最近の健康診断で太っていたことが発覚したNoah Novaでした!
皆さん、どうぞ素敵な一日を!




