第2話-学校は楽しい?
皆さん、こんにちは!
なんと第2話を更新しました!
ぜひ読んでみてください!
「なあ、小野寺。宿題はちゃんと提出したのか?テスト勉強は?この前の奉仕活動はどうなった?」
「全部終わってます、先生。」
授業前の休み時間、ジェットは先生に呼び出され、職員室へ来ていた。
先生は相変わらず彼の扱いに頭を悩ませている様子だったが、当のジェットはというと、どこか苛立ったような、不機嫌そうな表情で横に立っていた。
「じゃあ、昨日の小テストはなんであんな点数だったんだ?」
先生は少し呆れたように、小テストの答案用紙を一枚取り出した。
「え……B? それなら悪くなくない? ていうか、いつからアルファベット評価になったんだ?」
「ああ、悪い。字が汚かったな。Bじゃない、13点だ! 物理の小テストで十三点!」
(待てよ……このテスト、俺が受けたやつじゃなかったよな? 誰だっけ……)
(あー、ごめん……たぶん俺だ……)
ビリーは気まずそうに視線を逸らした。
(ふざけんな! なんでお前のバカのせいで俺が怒られなきゃいけねぇんだ! 自分で出てこい!)
三人がまた言い争いを始めると、その場で体はぴたりと動きを止めてしまった。
「おい! ちゃんと聞いてるのか? ……っ!? いてっ!」
小野寺の様子がおかしいことに気づいた先生は、目の前で手を振ってみる。そして肩に触れようとした瞬間――
「っ!」
パチッ、と静電気のような衝撃が走り、思わず手を引っ込めた。
次の瞬間、小野寺は我に返り、髪型もいつの間にかツンツン頭へと変わっていた。
「あっ……す、すみません! ちゃんと聞いてました!」
ビリーは慌てた様子でそう答えた。
「だから授業くらいちゃんと聞け! ノート貸してみろ!」
先生はノートを受け取ると、パラパラとページをめくり、適当なページを開いてビリーへ見せた。
「この絵は何だ? 説明してみろ。」
「えっと……ボールが二つぶつかって……片方が転がって……あれ? これ俺が描いた絵じゃなくない? 誰が描いたんだ?」
ビリーは小さな声でぼそっと呟いた。
「お前が描いたんじゃないなら、俺が描いたっていうのか!?」
先生は今にも堪忍袋の緒が切れそうだった。
「いやぁ……これ全部俺のせいってわけでもないですし……。ていうか、なんで物理なんて勉強しなきゃいけないんですか? 空飛ぶヒーローだって物理法則なんか無視してるじゃないですか。」
「じゃあ、お前に超能力はあるのか?」
「えっ……い、いや、ないですけど……。」
「だったら勉強しろ! お前、『学園七大神人』の一人なんだろ? そんなにすごいなら、まずは赤点じゃなくて合格点を取ってこい!」
「えっ? そんな噂あったんですか? ていうか、あと六人は誰なんです?」
「……出ていけ。」
ビリーは気まずそうに小さく頭を下げると、そのまま黙って職員室を後にした。
職員室を出ると、ビリーは疲れ切ったように大きくため息をついた。
顔を上げると、廊下には田中と葵が立っていた。どうやら説教が終わるのを待っていたらしい。
「どうだった?」
「はぁ……いつも通り怒られたよ。俺、バカだからさ……。もういいや、トイレ行って、そのあと教室戻ってスマホでもいじってダラダラする。」
「あっ……そういえば……アリスさんは……」
田中に言われて初めて、ビリーは少し離れた場所で静かに立っているアリスの存在に気づいた。
(あっ! 学校を案内するって約束したんだった。ここは俺が――)
ジェットが表に出ようとしたその瞬間、ビリーがそれを制した。
(いや、ふざけんな。今は俺の時間なんだから、勝手に出てくんな。)
(でも、さっき約束しちゃったんだって……。せめて代わりに頼むよ……)
ビリーは気のない様子でアリスへ視線を向け、ほんの一瞬だけ目が合った。
さっき先生に怒られたせいで機嫌が悪かったのか。
それとも単純に好みのタイプじゃなかったのか。
あるいはジェットが残した面倒事を押し付けられたことに腹が立っていたのか。
理由は本人にもよく分からなかったが、ビリーはアリスにあまり興味を示さず、その感情はわずかに表情にも表れていた。
数秒考え込んだあと、ビリーは隣にいた葵の腕をぐいっと掴んだ。
「ちょっ!? な、何!?」
「はい、というわけで葵。あとはよろしく。クラスメイト愛ってやつを発揮して、新入生……じゃなかった、転校生を案内してあげて。」
「えっ? それ言い出したの、あんたでしょ?」
「何言ってるの? それは『俺』じゃないから。とにかく、よろしく~。俺はもう帰るわ。」
ビリーはアリスの方を向くと、軽くウインクして笑ってみせた。
「じゃあ、よろしく。」
そう言い残すと、ビリーは不良のように両手をポケットへ突っ込み、堂々と歩き去っていく。
その場には、どこか複雑そうな表情を浮かべるアリスだけが残された。
その場には、葵とアリスの二人だけが残った。
「お、おい! 待ちなさいって! ビ……じゃなかった、小野寺ー! ……もう!」
葵とアリスは、どこか気まずそうに顔を見合わせた。
なぜだろう。アリスと目を合わせていると、どこか得体の知れない圧を感じる。
葵はぎこちなく笑顔を作り、軽く会釈した。
「ご、ごめんね……。あのバカ、何考えてるのか分かんないから、気にしなくていいよ。」
「でも、中村さんは……小野寺君とずいぶん仲が良さそうですね。」
「ああ、私たち親戚なの。もう昔からの付き合いなんだ。」
「それに、学校って言っても案内するほど大したものはないしね。数日もすれば自然と覚えちゃうと思うよ。」
「分からないことがあったら、私でも他のみんなでもいいから遠慮なく聞いてね。」
「じゃ、とりあえず教室戻ろっか。私はあのバカを一発殴ってこなきゃだから。」
アリスは小さくうなずくと、葵と並んで教室へ戻っていった。
ビリーが教室へ戻ると、空気の抜けた風船のように椅子へぐったりと倒れ込んだ。
「はぁ~~、疲れたぁ~~。」
そう言いながらスマホを取り出し、残りわずかな休み時間を潰すようにSNSやショート動画をぼんやり眺め始める。
とくに胸の大きい女の子が踊っている動画には、迷わず「いいね」を押していた。
「で、お前これからどうするんだ?」
「ん? 何が?」
「出席日数も内申も成績も、結構ヤバそうだけどさ。このままだと留年したりしないのか?」
「まあ、何とかなるって。そんな先のことは、未来の俺に任せとけばいいんだよ。」
「先に言っとくけど、俺を当てにしても成績は全然ダメだからな。中村さんも別に飛び抜けていいわけじゃないし。」
「え? なんで俺の周り、こんなバカばっかなんだ?」
「類は友を呼ぶってやつだよ、この野郎。」
「よーし、じゃあ今日から本気で勉強するか!
(犯罪者を相手にできる俺が、授業を真面目に受けるくらいできないわけないだろ。)
チャイムが鳴ると、ビリーは教科書やノートを机に並べ、珍しく真面目そうな顔で授業の準備を始めた。
「おい、小野寺! 起きろ! 小野寺!」
「んぁ……あ? もう昼飯っすか?」
――しかし、それから十五分ほど後。
ビリーは机に突っ伏して眠ってしまい、先生に叩き起こされていた。
「まだ十時過ぎだ! ほら、この問題に答えてみろ!」
(くっそ……おい、お前ら、この問題分かる奴いるか!?)
(俺が分かるわけないだろ。ジェットの奴も爆睡してるぞ。)
「くそっ……えっと……C?」
「この問題、選択肢なんてない! しっかりしろ!」
先生にそう怒鳴られると、教室のあちこちから笑い声が漏れた。
ビリーはさすがに気まずそうに視線を伏せる。
「……なんだよ。こんなのができるからって、何が偉いんだよ。」
ビリーは誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「俺、お前らの命を助けたことだってあるかもしれないのに……それなのに、こんな扱いかよ。」
ビリーは思わず奥歯を噛み締める。
その瞬間――教室の照明がチカチカと激しく点滅し始め、机の上のスマホや電子機器からも「ジジッ」とノイズが鳴り響いた。
「えっ!? 何これ!?」
突然の異変に教室中がざわめく。
葵も驚いた表情で、思わずビリーの方へ視線を向けた。
(おい! 落ち着け!)
マックスが慌てて制止すると、教室は何事もなかったかのように静けさを取り戻した。
ビリーも自分が感情を抑えきれなかったことに気づき、小さく首を振って深呼吸する。
(悪い……俺……。)
(気にするな。少し休んでろ。ここからは俺が出る。)
マックスへ交代すると、さっきのように感情が暴走することはなかった。
だが、授業に集中できないのは彼も同じだった。
ぼんやり天井を眺めたり、教室を見回したり、机の上の消しゴムを指先で転がしたり――どうにも落ち着かず、じっと座っていることができない。
そんな時だった。
スマホに事件発生の通知が表示される。
規模はそれほど大きくなさそうだが、現場はこの近くだった。
マックスは反射的に手を挙げた。
「トイレに行きます」とでも言って教室を抜け出し、そのまま変身して向かうつもりだった。
しかし、その瞬間――以前DSAの職員に言われた言葉が頭をよぎる。
マックスは少しだけ迷ったあと、静かに手を下ろした。
……しかし、不運なことに先生はその様子をしっかり見ていた。
「どうした、小野寺? 何か質問か?」
「あっ……えっと……さっきのところ、もう一度説明してもらってもいいですか? まだちょっと理解できてなくて……。」
「おっ、いい心がけだな。じゃあ、もう一度説明しよう。」
「熱力学第二法則というのは、熱は自然には低温から高温へ移動せず、孤立系ではエントロピーは増加するか、一定に保たれるという法則で――」
先生は先ほどの内容を最初から説明し直し、さらに黒板へ補足まで書き加え始めた。
そのせいで、教室のあちこちからため息が漏れ、露骨に白い目を向ける生徒や、小声で文句を言い始める生徒まで現れた。
マックスは諦めたようにノートを開き、黒板いっぱいに並ぶ長い説明を書き写していく。
ペンを走らせながらも、頭の中では別のことを考えていた。
(今の生活の方が、楽になったはずなのに……どうして前より自由じゃない気がするんだろう……。)
(放っておいてもいいって言われたけど……本当にそれでいいのか……? もし何かあったら……。)
考え込むうちに、ペンを握る手へ少しずつ力が入っていく。
――パキッ。
乾いた音とともに、ペンは真っ二つに折れてしまった。
折れたペンを見つめたまま、マックスはしばらく動けなかった。
息を吐くことすら忘れたように、その場で固まってしまう。
視界は折れたペンだけに吸い寄せられ、周囲の音は次第に遠ざかっていく。
耳に残るのは、かすかな高周波の耳鳴りだけだった。
「……大丈夫?」
不意に隣から聞こえたその一言が、マックスの意識を現実へ引き戻した。
マックスはようやく息を吐き出すと、ゆっくりと声のした方へ顔を向けた。
そこにいたのは、アリスだった。
「だ、大丈夫……。
というか、なんで君がここに?」
「視力が悪い人がいたみたいで、先生に相談して席替えを少ししたんです。
小野寺君、その時は寝ていましたよ。」
「あ、ああ……そうだったんだ。」
マックスは小さくうなずくと、少しだけ迷ってからもう一度アリスの方を向いた。
「そういえば……朝のことだけど、ごめん。
その……。」
(……待てよ。
俺、あのバカ二人の代わりに謝る必要あるか?
というか、この後なんて言えばいいんだ……。)
「い、いえ……。
忙しかったなら、気にしなくて大丈夫です。」
「いや、そういうわけじゃなくて……。
その……何て言えばいいかな……。
と、とにかく、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。
その……できることなら手伝うから。」
マックスは照れくさそうに肩をすくめる。
不器用ではあったが、それなりの精一杯の好意だった。
「……はい。」
アリスも静かにうなずいた。
「あ、それと……
ペン、一本貸してもらってもいい?」
折れたペンを見て、ようやくそのことを思い出した。
「もちろんです。」
アリスがペンを差し出す。
マックスが片手で受け取ろうとした、その瞬間――
もう片方の手まで勝手に伸びてきた。
まるで二本欲しいと言っているような、何とも気まずく間の抜けた格好になってしまう。
「えっと……二本必要ですか?」
アリスは首をかしげる。
マックスは苦笑しながら自分の手を引っ込め、もう片方の勝手に伸びた手でペンを受け取った。
……すると、その手はなぜか親指を立てて「グッ」とサムズアップまでしてみせた。
「ありがとう。」
マックスはあくびを一つこぼしながら、再び黒板のノートを書き写し始めた。
「ふぅ~、やっと昼休みだ~。」
ようやく昼休みになると、マックスは大きく伸びをして安堵の息をついた。
「小野寺、飯行く?」
田中も気の抜けた様子で近づいてきた。
「うん、いいよ。」
(ちぇっ、本当はアリスさんを昼飯に誘おうと思ってたのに……。
……いや、待てよ?
これなら田中たちと一緒って流れで自然に誘えるんじゃないか?
お前ら、異論ないよな? ビリー、お前もいいか?)
(ん? 俺は別にいいけど。)
(お前さ……アリスさんのこと嫌いなのか?
朝のあれ見てるとさ……。)
(いや、嫌いってわけじゃない。
ただ……。)
ビリーは少し言いづらそうに口を閉ざした。
しかし、二人の真剣な視線に押されるように、ゆっくりと言葉を続ける。
(高校生になった途端、
「普通の高校生として生きろ」なんて言われてもさ……。
正直、何をすれば"普通"なのか分かんねぇんだよ。)
(こんなこと言うのも変だけど……
悪党をぶっ飛ばしに行く方が、よっぽど気楽で自然にできる気がするんだ。)
(……俺も同じだ。
真面目に授業受けて、赤点取らないようにする方がずっと難しいよな。)
(超能力があるのに、わざわざ普通の人間になろうなんて思うか?
俺たちは生まれつき頂点に立つ側なんだよ。
まずはこの学校を支配しようぜ。
先生全員に満点を付けさせて、可愛い子は全員ハーレム入りだ。)
(おいおい……俺たち、今ちょっとヴィランの思想に共感しかけてないか?)
ビリーが呆れたようにツッコミを入れると、三人は顔を見合わせ、小さく苦笑した。
(まあ、あのマグルどものことは置いといて、とりあえず飯だ、飯!)
ジェットがふとアリスの方を見ると、いつの間にか彼女の席の周りには何人もの女子が集まっていた。
どうやら、そのまま昼食へ誘うつもりらしい。
ジェットは少し残念そうにため息をつく。
それでも、アリスを見つめる表情はどこか優しく、少しだけ見惚れているような笑みを浮かべていた。
「おーい、小野寺。聞いてるか?
今日、食堂で限定メニューが出るらしいぞ。早く行かないとなくなるかも。」
「マジか!? じゃあ行くぞぉぉぉっ!!」
ジェットは田中の腕を掴むと、そのまま物凄い勢いで食堂へ向かって走り出した。
「おい、小野寺! 廊下を走るなー!」
「捕まえられるもんなら捕まえてみろー! 先生ーっ! はははっ!」
アリスは、笑いながら走り去っていく小野寺の背中を静かに見送っていた。
あっという間に食堂へ到着すると、二人は列の最後尾へ並び、順番を待った。
「さてさて、今日は何食べようかな~。
よし、ラーメンにしよう。」
(俺はチャーハン。大盛り。)
(じゃあ俺はカレー。あと餃子も追加で。)
「えーっと……
限定ラーメン一つ、
チャーハン大盛り、
カレーライス一つ、
餃子一人前、
あと唐揚げ二つ追加で。
あ、それ全部大盛りでお願いします!」
「どう見ても三人前じゃん!
しかも朝もおにぎりめちゃくちゃ食べてたよな!?」
山盛りになったトレーを見て、田中は思わず目を丸くした。
しかも、小野寺は食堂ではもはや伝説級の常連だ。
店のおばちゃんたちは「はい、おまけね」と言いながら、小鉢や飲み物まで次々とサービスしてくれる。
二人は重そうなトレーを抱えながら席を見つけ、ようやく昼食を食べ始めた。
すると、小野寺の姿を見つけた生徒たちが次々と席へ集まってくる。
「小野寺くん! 陸上部に入らない!?」
「いやいや! 柔道部に来てくれ! 一緒に全国を目指そう!」
「サッカー部なら今入部するとAmazonギフト券がもらえるよ! おやつも毎日あるよ!」
「野球部なんて部室にWi-Fi完備! エアコンあり! コンセントあり!
月六日休み! 入部三か月で祝い金まで――」
「うるせぇ、全員帰れ!
汗だくの男どもと体ぶつけ合う趣味はねぇんだよ!」
ジェットはしばらく追い払うのに苦労したものの、ようやく全員を帰らせることに成功した。
「お前さ、運動部入ったら絶対エースになれるだろ。
有名選手になれるかもしれないし、それがきっかけで彼女だってできるかもしれないぞ。」
「……マジで?
将来は年収一億、豪邸、高級車、それに世界中のスーパーモデルと付き合える人生……。」
「本気でその気になってるじゃん!
しかも話が飛躍しすぎだろ!」
「そういえば田中って、何か部活入ってなかったっけ?」
「よく覚えてたな。映研部だよ。」
「えーけん……? AV研究部?」
「映・研。映画研究部。
AV研究部なら、お前が作ればいいだろ。」
「ああ、映画研究部か。
映画を観たり、感想を話し合ったりする感じ?」
「まあ、そんな感じ。
あとはイベントがある時に、部員みんなで短編映画を撮ったりするかな。」
「マジ? お前が演技するの?」
「いや、俺はどっちかっていうと編集とか裏方が多いよ。
たまに通行人役くらいで映ることはあるけど。」
「へぇ~、なんかちゃんとしてる部活なんだな。」
「どう? 興味あるなら見学しに来る?」
「見学?」
(見に行くだけならいいんじゃないか?
俺もちょっと部活ってやつに興味あるし。)
(俺は別にいいぞ。
損するわけでもないし。
……それより、お前もうちょっと早く食えよ。
俺たちも昼飯食いたいんだけど。)
「いいの?」
「もちろん。
一応、部員は十人ちょっといるけど、新入部員はいつでも大歓迎だよ。」
「よし、じゃあ今日は放課後、いろいろ部活を見て回ってみるか。」
「でも急だな。
お前って今まで放課後はほとんど真っすぐ帰ってたじゃん。
いつも『用事がある』って言ってたけど、最近はもう忙しくないのか?」
「あー……
まあ、前よりは……かな。」
「まあいいや。
……ところでさ、お前、アリスさん狙ってるだろ?」
田中のその一言に、ジェットは盛大にラーメンを吹き出した。……しかし次の瞬間、超高速で全部吸い込み直したため、周囲から見れば何も起こっていないようにしか見えなかった。
「ああ、そうだけど?」
ジェットは何事もなかったかのように水を一口飲んだ。しかし、その手はわずかに震えていた。
「やっぱりな……。じゃなきゃ、転校生相手にあんな積極的になるわけないもんな。どうせ顔だろ?」
「当たり前だろ。相手の見た目なんて気にしないって言う男、俺は信じてないからな。」
「確かに可愛いけどさ……でも、お前には無理じゃないか? ああいうレベルは俺たちとは住む世界が違うって。声をかけたい奴なんて行列になるぞ。俺だったら、隣の席になれただけでも十分ラッキーって思うけどな。」
「おいおい、始まる前から諦めてどうするんだよ。それで敵に勝てるのか? っていうかさ、俺ってこんなに才能があって、性格も良くて、そのうえイケメンなのに、なんで彼女がいないんだ? そっちのほうがよっぽど不思議だろ。」
「うわ、自分で言うかそれ。まあ、何かするつもりなら早めに動いたほうがいいぞ。」
「速さ? その勝負だけは、この俺が負けたことないけどな。」
わずか数分で料理を平らげたジェットは、食堂の反対側にいるアリスと、彼女を囲む女子たちへと視線を向けた。
(はいはい童貞、飯はもう交代だ。何カッコつけてんだよ。)
ジェットがマックスと交代した途端、容赦ないツッコミを浴びせられた。
(そういや、中学のとき後輩にフラれたの覚えてる? あれマジ笑ったわ。)
(うるせぇ! 今度こそ絶対うまくいく! あと、あの後輩のことは今でも恨んでるからな! 絶対後悔させてやる!)
「とにかく田中、放課後はお前の部活を見学しに行くからな。」
「おう、了解。」
そしてあっという間に放課後。
田中とマックスは映画研究部の部室へやって来た。田中が扉を開け、二人で中へ入ると、部室にはすでに何人かの部員が集まっていた。
快適な空調、机の上に広げられた企画書や資料、そこそこ予算がありそうな機材。そして部員たちも和気あいあいとしている。
どうやら、ちゃんとした部活らしい。
「部長~。見学希望者、連れてきましたよ~。」
二人が軽く挨拶すると、部長がこちらへ駆け寄ってきた。
しかし、二人の顔を見るなり、なぜか少し気まずそうな表情を浮かべた。
「あー、その……田中。急で悪いんだけど……お前、クビになった。」
「……は?」
「実はさ、この前いくつかの部活の部長同士で賭けをしててな。俺が負けちゃって、その罰ゲームで部員を一人、向こうの部に譲ることになったんだ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 情報量が多すぎるって! 賭け!? しかも俺を賭けの景品みたいに扱ったのか!?」
「しょうがないだろ。今はどこの部活も部員集めが大変なんだよ。本当に悪いとは思ってる。」
「な、な、なんで俺なんだよ!?」
「お前、俺にでかい借りがあるだろ? 覚えてるか? この前みんなで遠くまでロケに行ったとき、新しく買ったカメラをなくしたよな。そのあと買い直したカメラも領収書をもらい忘れて、学校に経費申請できなかったじゃないか。」
「覚えてるけど……つまり賭けなんて建前で、俺に借りを返させたいだけじゃないか!?」
「その通り。まあ、賭けも本当なんだけどな。というわけで、今までありがとう。向こうでも頑張れよ。」
部長は田中の私物が入った小さな箱を彼の胸に押しつけ、そのまま追い出そうとした。その姿は、まるで会社を突然クビになったサラリーマンそのものだった。
「お、おい! ちょっと待てって! おかしいだろ、それ!」
「おっ、でもちょうど新入部希望者を連れてきてくれたじゃないか! 助かった! これで穴埋めもできるな! 小野寺くんだよね? さあさあ、部活見学はこちらへどうぞ!」
「よろしくお願いします。」
「おい、小野寺! お前まで俺を見捨てる気か!」
結局、田中はマックスの腕を無理やり引っ張り、そのまま自分の新しい所属先へと連れて行った。
二人がたどり着いたのは、校舎の隅にある人気の少ない場所だった。
日当たりも悪く、部室はかなり年季が入っている。扉には立派な看板すらなく、一枚の紙が貼られているだけだった。
『考古学研究同好会 見学大歓迎!』
その横には、小さな文字でこう付け加えられていた。
(お願いします……)
「……つまり、俺が売られた先ってここなのか?」
田中は呆然としたまま部室の前に立ち尽くし、なかなか中へ入れずにいた。
さっきの映画研究部とは対照的に、ここには人を惹きつける要素がほとんどない。むしろ、「気軽に入るな」と言わんばかりの空気が漂っていた。
「考古学……うちの学校にこんな部活あったんだ?」
「いや……俺も初めて聞いた……。」
「じゃあ……俺は帰るわ。頑張れ。」
「おい、小野寺! 一人で逃げようとするな! 頼むから一緒に来てくれ!」
田中は再びマックスの腕をがっちり掴み、絶対に離そうとしない。
二人が部室の前でもみ合っていると、その騒ぎに気づいたのか、しばらくして扉が開いた。
「あの……部活見学の方ですか?」
一人のどこにでもいそうな女子生徒が、そっと扉を開けて顔を覗かせた。
「あの、俺は田中です。映画研究部から来ました。えっと……事情は聞いてますよね? こっちは小野寺で、その……」
「俺は付き添いで来ただけなんで。それじゃ、用事がありますので失礼しま――」
「逃がすか!」
結局、マックスも半ば強引に部室の中へ連れ込まれることになった。
さっきの映画研究部のような大きな部活と比べると、正直かなり質素だった。
部屋は狭く、全体的に年季が入っている。
設備といえば教室備え付けらしいパソコンとプロジェクター、小さなホワイトボード、机が一つに椅子が数脚だけ。
スペースが足りないのか、資料や本は机の上に雑然と積み上げられ、カバンなどの荷物も床へ置くしかないようだった。
エアコンもWi-Fiもなく、救いと言えばコンセントがいくつかあるくらいだった。
教室には、彼女のほかにも男女一人ずつ、合わせて二人の部員がいた。
二人は田中とマックスに軽く挨拶すると、半分好奇心、半分戸惑いといった表情で二人を見つめた。
どうやら、新しい人が来るとは本人たちも思っていなかったらしい。
少女はまず椅子を二脚運んできて二人に座るよう勧めると、散らかった机を軽く片付けた。
そしてお茶を出してくれた――いや、お茶ではない。外の洗面台でくんできた水道水を紙コップに注いで持ってきてくれたのだった。
「ど、どうも……。」
紙コップに入ったただの水道水を見つめながら、マックスは一瞬、本気で嫌味でも言われているのかと思ってしまった。
「では……簡単に自己紹介しますね。私は石井春香、この考古学研究同好会の代表です。まあ、人数が少なすぎて、もう部活と呼べるのかも怪しいんですけど……。歴史と考古学が好きです。よろしくお願いします。」
石井は照れくさそうに苦笑しながらそう締めくくった。
気がつけば、拍手をしていたのはマックス一人だけだった。
「清水真由です。私は春香に付き合って、人数合わせで入っただけです。」
「佐藤悠太。一か月前、賭けに負けてここへ売られてきました。」
(お前もかよ!?)
田中は思わず口に含んでいた水を吹き出した。
一方のマックスは座り直そうと少し腰を動かしただけだったが、手で軽く体を支えた瞬間、椅子に小さな穴が開いてしまった。
次から次へと起こる出来事に、この場所が決して恵まれた環境ではないことだけは嫌でも伝わってくる。
そんな中、ビリーへと人格が入れ替わる。
彼は何気なく机の上に置かれていた本を何冊か手に取り、興味深そうにページをめくり始めた。
「えっと……ここが私たちの部室です。部室には…えーと…
まぁ、活動内容なんですけど……普段は週に一、二回くらい集まって、資料を読んだり研究内容について話し合ったりしています。
あとは、たまに史跡や博物館などを見学しに行くこともあります。
よかったら、ぜひ遊びに来てください。以上です。」
(……終わり? 見学説明、それだけ?)
田中はもはや観念したのか、少しずつ自分の運命を受け入れようとしているようだった。
そしてビリーの方へ視線を向ける。
せめて彼も入ってくれれば、一人ぼっちにはならずに済む――そんな期待がその目には浮かんでいた。
ビリーは本を読み進めながら、頭の中で残る二人と会話を始めた。
(正直、俺は別に入ってもいいけどな。)
(マジかよ、ビリー? 本気で興味あるのか?)
(まあ、昔ゲームをやってるうちに、この手の知識は多少かじってるからな。俺は別にいいけど、お前らは?)
(うーん……ちゃんと活動はしてるみたいだし、田中もいるし、悪くはなさそうだけど……。でも、もう少し他の部も見てから決めてもいいんじゃない? もっといい所があるかもしれないし。)
(……待てよ、一つ思いついた。部長、たまに校外へ見学に行くって言ってたよな? つまり、堂々と学校の外へ出られるってことだ。もしその時に事件に遭遇したら……俺たち、合法的にヒーロー活動できるんじゃないか?)
(おっ!?)
(マジかよ!?)
(おっ、それは一理あるな。……というか、危うく自分がヒーローだってこと忘れるところだった。)
(はぁ……でもアリスさんがいないのがなぁ……こっちの女子はちょっと……。)
(あとで誘えばいいじゃねぇか。それを口実に話しかけられるし。)
(そんな都合よく女の子が――)
「ふぅ……暑いですね……。」
エアコンがないせいか、社長はそう言いながら上着を脱いだ。
しかし、その小柄な体格とは対照的に、そこには思わず目を奪われるほど豊かな胸元があった。
三人は示し合わせたわけでもないのに、ぴたりと同じ場所へ視線を向け、ごくりと息をのむ。
ビリーに至っては、思わず指先から電気を漏らしてしまい、手にしていた本のページが少しだけしわになってしまった。
(でっっっっか……。)
(俺が悪かった。全然普通じゃねぇ……女神だ。)
(Mommy……。)
「では、田中くんは入部決定ということで……小野寺くんはどうしますか?」
「俺も入ります!」
「えっ!? 本当ですか?」
「実は考古学には前から少し興味があったんです! これからいろいろ教えてください!」
小野寺は軽く頭を下げた。
……もっとも、その角度が深くなった理由は、別に礼儀正しさだけではなかったのかもしれない。
「おお!よろしくお願いします!やった!今日で二人も仲間が増えました!これでようやく胸を張って"部活"って名乗れます!とりあえず今日は歓迎会兼お祝いパーティーにしましょう!」
「「「おおーーーっ!!!」」」
ジェットはあっという間にお菓子やジュースを買って戻ってきた。
そのまま簡単なお祝いパーティーが始まり、みんなでお菓子を食べたり、飲み物を飲んだり、パソコンで音楽を流したり、お笑い動画を観たりと、部室は思っていた以上に賑やかな空気に包まれていた。
そして三人はというと、なぜか示し合わせたように部長の近くへ近くへと陣取っていた。
(へぇ~、これが部活か。案外楽しいじゃん。)
(アリスさんも入ってくれたらいいのにな。あとで誘ってみよう。)
楽しい時間を過ごしていた三人だったが、ふと窓の外へ目を向けると、遠くの街のあちこちから、うっすらと黒い煙が立ち上っているのが見えた。
ここまで被害が及ぶような距離ではない。
それでも三人は同時に言葉を失い、手を止めて、その煙をじっと見つめる。
そして無意識のうちに、胸元のネックレスへと手を添えていた。
「どうかしましたか、小野寺くん?」
「……ん? ああ、大丈夫です。」
無理やり笑顔を作って首を横に振ると、彼らは再びみんなの方へ向き直り、そのまま何事もなかったかのように輪の中へ戻っていった。
(……大丈夫だよな。きっとそんなに大した事件じゃない。)
(……たぶん。他のヒーローに任せよう。)
(……俺たちが動かなくても、いいんだよな……?)
(……そうだ。俺たちは、ただの未成年なんだから。)
(……何もしない。それが一番なんだ……。)
ご覧いただきありがとうございます!
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
今回は、以前から一度書いてみたかった「高校生活」をテーマにしてみました。
大きな事件はあまり起こらず、わりとのんびり読める一話……だったと思います?
果たして、この高校生活はこのまま順調に進んでいくのでしょうか?
彼らは赤点を回避できるのでしょうか?
そして、部長の胸はいったいどれくらい大きいのでしょうか?
(作者なんだから、このくらいのセクハラ発言は許されますよね?)
ちなみに、この先どうなるのかは実は僕自身もまだ分かりません(笑)。
ぜひ皆さんも一緒に、次回の更新を楽しみにしていただけたら嬉しいです!
それでは、Noah Novaでした。
皆さん、良い一日を!




