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第30話

戦いは始まった



巨大な水の槍は龍の輝く鱗をバキバキと砕きながら突き進む

しかし圧力は少しずつ弱まり、やがて水飛沫へと形を変えて消えていく


全ての水が飛び散り霧散しても、龍の硬質のたてがみを破壊しきれてはいない


周囲の星核結晶と同じ淡く発光していた龍の身体だったが

俺の攻撃を受けゆっくりと動き始めると同時に、その光が消える


……充電を途中で止めたような状態と考えられるか


鎌首を持ち上げるように上体を起こすと、龍の胴体は結晶同士が擦れあう轟音を立てながら這い寄ってきた


俺はまだもう少し距離がある間に、カオスドラゴンを『調べる』


星龍アメノミカヅチ 


『その強さは計り知れない』


と表示されている


ステータスや体力ゲージなどはどこにも見えない


……今のでどれくらいダメージを与えたのかも分からないな


時間制限のある絶対防御を最初から使ってしまうと相手の攻撃の威力が判断できないし

長期戦の戦略が組めないのでマズいことになる


「俺がダメージをもらった時は回復任せる」

「わかった」


俺は威嚇のための閃光魔法を放った


そこか

とでも言うように、龍がこちらを向いた


その動きは龍ではない。蛇だ


というか、この龍は元々蛇なのだ

強大に成長したことで龍に成ったのだ


アメノ(天に棲まう)ミカ(門を制する)ヅチ(蛇)なのだ


何処にあるかわからなかった口が裂けるように開いた

その姿も蛇をほうふつとさせる


ヴァッ


無数の小さな何かを飛ばしてくるその動きは、さながら毒を吐きかけるが如くだ


高速で飛んでくるその何かを、俺は身幅の広い両手剣で受け止める


「結晶の欠片か…!」 


それは細かく砕かれたような無数の結晶の破片だ

全てが尖った鋭利な構造をしており、単純に刺さると痛そうである


この巨大な敵と戦うのに、小細工は必要ないだろう


俺は剣を振りかぶると、思い切りよく胴体に切りつけた


ガギッ


うん。まあダメージは入るな


「無双連斬」


一回の威力は通常の攻撃と変わらないが、25回攻撃する


ドガガガガガガガガガガッガガッガッガ


モーションが長すぎる

途中で巨大な尾による薙ぎ払い攻撃が飛んできた


攻撃をキャンセルして剣で受ける


ドガッッ


100メートルぐらい飛ばされた


「とっとと……」


なかなか豪快な音がしたが、身体に不調は感じない

どこかが取れたり折れたりした様子もないようだ

すぐさまカオスドラゴンの方に向かって走りだす


俺が遠くにいる間に狙いが日枝さんに移ることが一番危惧される

が、その心配はよくも悪くも杞憂であった


龍の虚ろな相貌はまっすぐにこちらを向いているように見える


ドシュ


眼からレーザーが出た


「あ、ブレスじゃなくてそこから出るんや?」


誰に聞こえるでもないだろうが、俺は状況を確認するように独り言をつぶやく


二本の平行のラインは地面をエグりながらこっちに向かってくる


あとわずか顔が上に向いたら当たる…!


そのタイミングで受ける


シバババババババ…!!!!


無属性の破壊光線!どれぐらいのダメージなのかは分からないがわざと受ける余裕はない


星核の大剣は敵の光線をしっかりと受け止めている


…が、これ光線じゃないな!!

もしかしてなんか液体とか出てる?


普通に押されているのだ。つまり質量がしっかりあるので何かを飛ばしている


俺は剣で受けながら体を横にずらし、レーザーの横に抜け出して走りこんだ

もちろん標的を外れたら、龍は首を動かして俺を狙ってくる


俺の動きを追いかけてレーザーが縦横無尽に奔る


「日枝さん!!常に俺と反対の位置にいるように動いて!」

「はい!」

「さっき切ったとこはどうなってる!」


日枝薫は距離をとって走りながら、横目で龍の傷を観察する


「傷は大きいよ!でも、少しずつ結晶が生えてきてるように見える」


ああ、これは勝てそうだ


おそらく再生能力はあるのだろう

だがしかし、攻撃に特化していない今の状態でも傷つけられるのであれば、時間をかけさえすれば倒しきることは可能だろう


俺は走る速度を上げながら、剣を戻した


クラス切り替え。『ソードマスター』


今までのナイト系クラスと違い、ソードマスターはおもいっきり攻撃に寄せたクラスだ


「よし、喰らえ。無双……え?」


今まで執拗に俺を狙っていた両眼のレーザーが、急にくるっとあらぬ方向へと向かった


まずい…


ヘイトリセットだ……!!


通常の敵なら俺の攻撃に強い殺意を向け、他のメンバーを攻撃することなどない

だが時折こういう珍しい挙動をとるモンスターがいる


それはすなわち、特定の相手に向けていた敵対心を定期的にリセットし

知覚範囲内の敵を手当たり次第に攻撃するモンスターが……!


「日枝さん後ろ……!」


ドスッ


日本のレーザーが日枝さんの背中を貫いた


「……!!」


日枝薫は攻撃を受けて前につんのめる、そしてガクッと膝をついた


よしまだ生きてる…!防御魔法をかけまくってたのが役に立った!


だがおかしい、自分で回復もできるはずの彼女がそれをしようとしない


「…状態異常…!いっぱいあるんですけどー!!」


『しらべる』→ヒエ カオル


HPは…25%を切ってる、が、問題はそれよりも、毒!麻痺!呪い!


くっ…!


いったん武器をしまって、白い魔導書を出す

「状態全解除魔法……からの全快癒魔法!」


降下範囲ぎりぎりから魔法を飛ばしながら走りこむ


引き付けるための閃光魔法


シュドドドッド


地面を抉りながらレーザーがこっちに回ってくる


おっと、今はナイトではない、ソードマスターだ

攻撃を受けるワケにはいかない


「見切り」

一度だけだが攻撃を完全に回避することができる


「ありがとう……!」

「あいつを引き付け続けることは出来ない!日枝さんは回避に専念して!」

「わかった…!足手まといになってゴメン!!」


なるほど確かに戦いの中で気づかわなくてはならない要素は増えた

でも、こんなところで一人で戦うのはさすがに寂しいからな


「いや、いてくれるだけで心強いよ!」


そう。ここはコンピューターゲームの中じゃない

性能や能力で判断できることだけではないのだ


攻撃を引き付け続けられないなら速攻以外に戦略はあり得ない


再び俺は剣を抜いた

ソードマスターは二刀持ちで、両手とも攻撃力の制約を受けない


右手に『星核剣』スターセイバー(名前はダサい

左手にエクスカリバー


「神薙五十連斬」


レーザーを掻い潜って頭部を攻める


ガギガギガギガギガギガガガガッガガッガ


全身に生えている結晶の鱗が砕け散っていく

龍はそれをさほど意にも介さないように身をよじらせて光線を放ってきた


あまりにも無表情

あまりにも無頓着


「効いてるのか…?」


全弾ヒットはしている

今まで攻撃した部分は明らかに結晶が削れ、場合によっては下の鱗が見えている

だが、血のようなものは見えないし、傷という傷があるわけではない


ピタっと光線が止まる


ズルズルと龍が移動を始めた


そして…


さほど大きくない、カギ爪のついた両の手を持ち上げる

向かい合った二つの手の間にチリチリと黒いイカズチのような閃光が現れた


バチバチバチバチ…!


「え?」

「あれって!!!」


どこかで見たような黒い渦のようなものがだんだんと大きくなっていく


ズズズズズ


こちらへの攻撃を止めた龍の様子を冷静に見て取り、日枝さんがこっちに走ってくる


あれはマズい


「日枝さんあいつの手を攻撃しよう」

「う、うん!!」


落雷、火炎弾、カマイタチ、巨岩石

俺たちは持ちうる限りの魔法を飛ばす


しかし、それらは表面の結晶を少し砕く程度にしかダメージを与えられない


やがて


キィイィィイィィン


龍の胴体が通れるぐらいの巨大なそれが完成した


「転移魔法だ……!」


ズルリ


星龍アメノミカヅチは渦に飲み込まれた


ブォォォオン


何度も聞いた重低音


「……!!やられた……!」


「追うしかない!」

「私たちは転移できる?!」

「分からない!俺たちはマリチの家からしか異世界を出たことがない!」


俺は転移呪符を取り出し、マリチの家の庭をイメージした


ブオオオオン


咄嗟に伸ばしてきた日枝さんの手を取って、飛んだ

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